真・転生無双 至高の武人伝   作:時語り

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今回は拠点フェイズです。
ここまでのヒロイン三名と……あの方です。


拠点フェイズ01

桔梗拠点 師弟追いかけっこ

 

二人の弟子をとってから、わしの周囲は賑やかになった。

 

一人目は親父殿の元部下の息子。

とてつもない才能を秘めており、どれほどの武人になるか見当がつかん。

今ではわし本来の武器、豪天砲を相手にしても僅かに劣る程度。

もうしばらくすれば、いよいよ追いつき追い抜かれる日がくるやもしれん。

そいつの名は呂迅、真名は一刀。

 

二人目は一刀が拾ってきた少女。

こやつもなかなかの才を持っており、特に力そのものは大の大人も敵わなん。

もっとも、その力を使いこなす技量と心がまだ足りんのじゃがな。

そいつの名は魏延、真名は焔耶。

 

若く才のあるものを潰すわけにはいかん。

かといって、蝶よ花よと甘やかすわけにもいかん。

人を育てるとは、これほど大変なのかと実感した。

親父殿から、最も大変で手間と金が掛かるのは、人を育てる事だと教わった。

その頃のわしはあまり理解しておらんかったが、今はそれを実感しておる。

何も知らない素人に時間を掛けて教え、給金などで金を浪費して一人前に育てる。

太守についてからはがむしゃらに仕事をしてきたが、ようやく落ち着いてそういう事を考えられるようになった。

 

「……で?」

「そんな日々の、数少ない潤いは好物の酒なんじゃ」

 

今、わしの目の前には鬼畜弟子が腕を組んで睨んでおる。

息抜きに一杯やろうかと蓋を開けた瞬間に姿を現し、酒壺を没収しおった。

 

「だからって、仕事の合間に飲むのはやめてください!」

「一杯だけ、一杯だけじゃ!」

「駄目です!」

 

懇願するわしを無視し、壺を手に走り去る鬼畜弟子こと一刀。

 

「待てぇい!」

 

奴とわしの追いかけっこは、今に始まった事ではない。

真面目な文官長が一刀に頼んで以来、こうして酒を巡る追いかけっこは始まった。

ここでも師匠としての面目を果たしたいところじゃが、そうもいかん。

向こうは膨大な基礎体力を持つのに対し、わしはここのところ机仕事中心で基礎体力が向上しておらん。

 

「くっ。走りにくいわ」

 

加えて走りにくい服装。

いや、走れんことはないが、あまり本気で走ると裾が捲くれすぎて中が見えてしまう。

わしとて花も恥らう年頃、そういうのは気にしてしまう。

だから毎回一刀には逃げ切られ、仕事をせねば酒を返してもらえずにいる。

 

「だったら、もうちょっと走りやすい服にすればどうですか?」

「うるさい! これがわしの拘りなんじゃ! というか、何で並走しておる焔耶!?」

 

いつの間にか並走しておった、二人目の弟子。

一刀に集中しておって気づかんかったわ。

 

「黄忠殿から、至急確認してほしいという書簡を預かっていまして。こちらになります」

 

そう言って、走りながら書簡を差し出す焔耶じゃが、正直空気を読め!

 

「こんな状況でそんな事、やっている場合か!」

「でしたら、酒ではなくこっちを優先で。明日の朝議で使うらしいので」

 

こやつも最近一刀の影響か、わしの酒に対する想いを平気で踏みにじってくれる。

 

「部屋に置いておけ! 酒を取り返したら、すぐに見る!」

「そういう訳にも……。それに毎回、一刀に逃げ切られているじゃないですか」

 

ぐはっ。

そういう事は言わんのがお約束じゃろう、脳筋弟子が!

 

「それにもう、いませんし」

「なっ!?」

 

焔耶の相手をしているうちに、鬼畜弟子はとっくに姿を消しておった。

おのれ、またしても。

 

「そういう訳で、こちらの確認をお願いします」

 

見失ったので立ち止まったところへ、仕事を差し出す焔耶が恨めしく思ったわしは、大人気ないと分かりつつも八つ当たりすることにした。

 

「黙れ! わしの酒をどうしてくれるんじゃ、この脳筋弟子が!」

「あぶぁばばばばっ!?」

 

憂さ晴らしに焔耶の両頬を摘んで引っ張る。

前に紫苑と引っ張った時、割と伸びたので気に入ったおしおきじゃ。

結局、仕事を終わらせて酒を返してもらえたのは、夕飯時じゃった。

 

 

 

紫苑拠点 職場関係

 

元いた職場と実家を出て、友人の桔梗の下へ身を寄せた私の日々は充実していた。

以前に仕えていた劉璋様は、お世辞にも善政者とは言えなかった。

かといって、私ごときじゃ口出しできなかったのが、とても口惜しかった。

今でも劉璋様の配下という事には変わりないけど、職場の雰囲気はとても良いわね。

 

「黄忠様、本日もありがとうございました!」

『ありがとうございました!』

 

訓練をしていた兵士達が整列し、終了時の挨拶をする。

キビキビした動きで、見ていて気持ちがいいわ。

それに正直言って、兵士の錬度も行儀も向こうよりこっちの方が上ね。

数では劣るけど、質はずっといい。

何より、一人一人が向上心を持って励んでいる。

向こうでは、途中から投げやりだったり流して終わらせようって兵もいたものね。

挨拶も適当だし、整列時の隊列もぐちゃぐちゃだったわ。

 

「お疲れ様。部隊長は、本日の報告書を忘れずに提出するように」

『はっ!』

「では、解散!」

 

解散の合図で兵士達が散っていく。

それを見届けた私も、今日の調練の報告書作成のため自室へ向かった。

 

「はぁ、今日も忙しかったわね」

 

報告書も提出して、今日やるべき仕事は全部終了。

忙しい日々ではあるけど、充実感のある忙しさは気持ちがいいわ。

向こうでは同じ忙しさでも、怠慢と面倒くささによる苛立つ忙しさだったもの。

 

「それに比べると、ここは本当にいいわね」

「何がですか? 黄忠さん」

 

ふと掛けられた声に振り向くと、そこにいたのは私がここに移った最大の理由となった子。

 

「前の職場より、ずっといい環境って事よ。呂迅君」

 

情熱的な赤い髪と瞳、その情熱に焦がされたような褐色肌。

そして天然の女誑しな言動。

無自覚だと分かっていても、その言動に落とされてしまった私。

彼に心奪われたために、婚約を破棄して実家と仲違いしてでも巴郡に来たかった。

婚約相手とは元々お互い乗り気でなかったし、実家への未練も無い。

あえて惜しい事を言うなら、降格のために給金が少し下がったことくらいかしら。

最も、一人暮らしだから大した痛手ではないけどね。

 

「それは良かったです。ところで、今日の仕事はもう終わりですか?」

「えぇ、終わりだけど?」

 

何、この言い方は。

これは前の職場で私を飲みに誘おうとした、興味の無い男達と同じ言い回し。

ひょっとしてこれは。

 

「良ければ、一緒に夕食でもいかがですか? いい店を見つけたんです」

 

この瞬間、私はすぐにでも両手を挙げて歓喜の声を上げたかったわ。

理性を総動員して衝動を抑えなければ、一刀君に変な目で見られるほどに。

 

「いいわね。是非、ご一緒させていただくわ」

 

冷静を装って返事をすると、一刀君は待ち合わせ時間を伝えて去っていった。

私はそれを見送ると足早に自室へ向かい、扉を閉めると。

 

「実家も職場も捨ててきて良かったあぁぁぁぁぁぁっ!」

 

部屋の前の廊下を歩いていた兵や文官が驚くほど、声高に歓喜の声を上げた。

興奮した私は矢も盾もたまらず身だしなみを確認し、こういう日のために用意した秘密兵器を取り出す。

 

「まずは二人で食事して、ほろ酔い気分で一緒に部屋に戻る。足がもつれた振りをして押し倒すと、酔った一刀君の口から想いを告げられ、真名を交換。最後にこれと私の色香の組み合わせで……」

 

取り出した勝負下着を纏い、頭の中で妄想という名の計画を立てていく。

二年後に勝負だとか言う桔梗の言葉なんて関係無いわ。

だって私が誘ったんじゃない、一刀君から誘われたんだもの!

だから規定違反じゃない、私は悪くない!

一刀君を惚れさせてしまった私の魅力の勝ちよ!

この後、集合場所に桔梗や焔耶ちゃんもいて、皆で一緒にという意味だったと知ることになるとは、この時の私は考えても見なかった。

 

「どうかしましたか?」

「……別に」

 

何か悔しいから、真名だけは交換してもらったわ。

 

 

 

焔耶拠点 好き嫌い

 

私は今、最大の危機を迎えている。

命的には別に問題無い。

少なくとも命を落とすことは無いし、怪我をしても大したことはないだろう。

だが、精神的にはとても傷つく。

そんな私の天敵が、目の前で尻尾を振っていた。

 

「……」

「……くぅん」

「……」

「わぅ?」

 

ゆっくり後ずさりする私をじっと見つめ、鳴き声を挙げながら距離を詰めようとする一匹の犬。

 

「……」

 

私が一歩下がれば、向こうも一歩近づく。

二歩下がれば、二歩近づく。

 

「……とりゃ!」

「わぉん!」

 

背を向けて走り出すと、向こうも私を追いかけだした。

私も鍛えているから走るのには自信があるが、さすがは犬。

素早い駆け足で私の後をしっかり付いてくる。

 

「頼む! 付いて来ないでくれ!」

「わぅ!」

 

私の言っている事を理解していないのか、無視しているのか。

どっちだろうがこの際構わないが、私は犬に追いかけられている。

何故、早朝の走り込み中に遭遇してしまったんだ。

周りに人影がまばらなのは幸いだが、何故出会ってしまったんだ。

私は何故か犬に好かれやすい体質らしいが、お陰で私は犬嫌いになってしまった。

だって、気付けば大量の犬に埋もれていたんだぞ!

あっちこっち舐められて体中ベタベタになって、友達が皆引いていたんだぞ!

舐められ続けたせいで敏感肌になってしまったんだぞ!

だから私は犬が大嫌いなんだ!

 

「ぬおぉぉぉぉぉっ!」

「わん!」

「あぉん!」

「くぅん」

「って、何か増えてるだと!?」

 

気付けば、一匹だった犬が大量に増えていた。

このままではいずれ追いつかれ、アレが待っている。

犬に埋もれ、身動きできなくなり、舐められてベタベタ地獄。

ただし敏感肌のせいで気分は悪くない。

最悪だ!

 

「ぬおぉぉぉっ! なんとかして城まで!」

 

私は必死に走った。

城に着けば、誰かが助けてくれると信じていた。

地面の窪みに足をひっかけ、転ぶまでは。

 

「わあぁぁぁぁっ!」

 

勢い余って豪快に転んでしまった私に、犬の軍勢が迫る。

 

「やめろ、来るな、来るなあぁぁぁっ!」

 

通じないと分かっていながら、口に出てしまう拒絶の言葉。

しかし、犬達は楽しそうに接近してくる。

武器も振り回せる棒もないので、追い払う事もできない。

あの地獄が始まるのかと、目を閉じて待ち構える。

ところが、いくら待っても舐められる気配も埋もれる感覚も無い。

おそるおそる目を開けると、そこには私と犬の間に立っている一刀がいた。

 

「か、一刀!?」

 

一刀は犬に向けていた顔を私に向け、笑みを見せてくれる。

だが、犬の方を向くと戸惑った様子の犬達が、小刻みに震え始めた。

まるで一刀が発している雰囲気を、本能的に恐れているかのように。

 

「……ハウス」

 

一刀が何か分からない言葉を言うと、雲の子を散らしたように犬達が去っていく。

何はともあれ、私は一刀に助けられたということだ。

 

「ふぅ。大丈夫か、焔耶」

「た、助かったぁ」

「そんなに嫌いなの? 犬」

「うぅ。こればっかりはな。ともかく、肩を貸してくれ」

 

ほっとした私は脱力して腰が抜けてしまった。

一刀に肩を借り、城への道を歩き出す。

正直犬は嫌いだが、一刀とこうして寄り添って歩けるのなら、少しは良かったかなと思った。

でも、私は気付かなかった。

一刀の威嚇が無くなり、戻ってきた子犬がいたことに。

 

「くぅん」

 

鳴き声に気付いた時には、もう足を舐められていた。

直後に私はエロイ声を上げてしまい、しばらくの間一刀と気まずくなってしまった。

やっぱり犬は大嫌いだ!

 

 

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