仁義ある暗殺   作:絹糸

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今回はヒカゲモノ6様の小説『暗殺教室 E組の本条弥人』に登場するオリキャラ、本条弥人くんと天木武宏くんにゲスト出演していただきました。
何分コラボレーション作品ということで、多少の矛盾や齟齬はご勘弁を。
まだカルマくんや有粋が2年生だった頃の話という設定です。



番外編
『暗殺教室 E組の本条弥人』×『仁義ある暗殺』~上~


 

 

 花槍組の縄張りで最近悪名を轟かせ始めた不良グループがいる――という噂が有粋の情報網に入ったのは、中学二年のゴールデンウィークでのことだ。

 

 なんでもそのグループというのは格闘技の経験者や有段者で構成されており、そうではないメンバーも体格の良い猛者揃い。

 同じ不良だけでなく一般人にも執拗に絡んでは好き勝手に暴力を振るい、そのはた迷惑な行動に歓楽街を行き来するサラリーマンや夜仕事のお姉さま方も悩んでいるという。

 

 いざ補導せんとおまわりさんが出張ろうにも、彼らはナイフや鉄パイプを片手にバイクを乗り回したりする危険極まりない集団。

 一度ならず二度までも負傷させられた頃には、交番のおじさん達もすっかりすくみ上がってしまい不良グループを野放しにする状態。

 

 気持ちは分かるとはいえ、正義の味方たる警察官の端くれのそんな姿を見せられてしまっては近隣住民も失望を隠せない。

 そして思うことだろう。

 警察官が頼りにならないならば自分達でどうにかするしかない、と。

 

 しかしそれは理想像。

 実際のところ一般人の自分達にあの極悪非道な集団をどうにかこうにかしてやれるだけの力はない。

 暴力という意味でも、権力という意味でも。

 だから彼らはそれが出来る人間に事態の解決を任せることにしたのだ。

 

 すなわちヤクザ。

 非合法の世界に活きる揉め事処理人たちへと。

 

 

 

 

 

 

      ◇      ◇      ◇

 

 

 

 

 

 

「……で、組に持ち込まれたその『お願い』が、何故か有粋一人に回ってきたってワケ?」

 

 

 あらかたの事情を説明し終えれば、目の前でイチゴ煮オレをすすっている親友は呆れ返って半笑いになった。

 無理もない、と自分で思いながら有粋は眉根の寄った渋い顔で頷く。そんな表情も相変わらず男前だ。

 

 

「ああ。本当は若い衆に持ち込まれた話だったんだが、聞きつけたじーさんが『われの通学路から近いじゃろう。ちぃと行ってさくっと片付けて来いよ』なんてアタシに言っちまったもんだからな……」

「相変わらず容赦ないお爺さんだね。有粋のこと、孫娘じゃなく孫息子だって思ってんじゃないの?」

 

 

 放任主義を通り越して荒場に孫を派遣していくそのスタイルに、さすがのカルマも口元を引きつらせた。

 憎しと思ってそうしているわけではない。むしろ信頼の証。この子ならば不良グループの一つや二つ懲らしめて戻って来られると、そう考えているからこそ彼女の祖父は有粋へとこの話を持ちかけたのだろう。

 それにしたって随分と豪気な男だ。さすが花槍有粋の祖父というべきか。普通は義務教育すら終えていない子供を悪漢妖婦のひしめく夜の歓楽街へと送り出そうとはしない。

 それがたとえ、自分の育て上げた息子の若い頃に瓜二つの男前な容姿をしていて、積んできたトレーニングの果てにコンクリートブロックを回し蹴りで粉砕するほどの猛者と化した子供でも。

 

 

「で、さっそく今夜行くつもり?」

 

 カルマは座布団の上にあぐらをかいたまま、上半身だけ前に傾けてちゃぶ台の煎餅へと手を伸ばす。その様子に他人の家にいることの緊張感など微塵も感じさせない。

 それもそのはず。3歳の頃から有粋と付き合いのあるカルマにとって、花槍邸は第二の家と変わらぬ慣れ親しんだ場所。

 泊まろうと思えば用意するまでもなく自分用の布団や歯ブラシが準備されているようなこの家で、緊張感を持つ瞬間といえばよそのヤクザが乗り込んできた時くらいだ。

 

 

「もちろん。無駄たァ思うが一応説得してみて、案の定こじれた場合にゃ実力行使だな」

「それいつものパターンじゃん。で、何時出発?」

「……テメェもついてくる気か」

「逆に聞くけど、その話しといて何で俺がついて行かないと思ったのさ」

 

 

 カラカラと笑いながら指先に付着した煎餅の破片を舐め取れば、有粋は「それもそうさなァ」と納得したように溜息を吐く。

 どちらにせよ、見回りには頻繁について行っているのだ。今さら彼女がカルマの同伴を認めぬ理由もあるまい。

 花槍有粋と赤羽業が出会ってはや10余り1年。二人で幾度となく死闘乱闘共闘をくぐり抜けてきたのだ。

 二人一緒につるんでいる時は、血に濡れようが泥に塗れようがいつだって楽しい。

 

 

 

 

 

 

      ◇      ◇      ◇

 

 

 

 

 

 

 その日、本条弥人と天木武宏が夜の歓楽街へと繰り出した理由は、なにも彼らが非行に走っているからではない。

 完全に走っていないかと聞かれればそうでもない生活をしている二人だが、今回ばかりは真っ当な訳がある。

 

 先日、天木武宏がお気に入りに認定しているダーツバーの店長が、最近この歓楽街を中心に暴れ回っているという不良グループに怪我を負わされたのだ。

 いわばその仇討ち――というほど大それたものではないと本人は言うかもしれないが、とにかくそういった要因があって彼らはこの歓楽街へと足を踏み入れることに決めた。

 何故ダーツバーの店長と親交のない本条弥人まで随伴しているのかと尋ねれば、多分「なんとなく」とでも答えるのだろう。

 親友にして悪友たる武宏が暴れる気でいるなら、それに付き合うのがつるむ相手としての筋というもの。

 

 それに今は歓楽街だけを拠点にしているからいいものの、そのうち不良グループが調子づいて規模を拡大してしまえば、両親やクラスメイトたちまで被害を喰う時がやって来るかもしれない。

 ならば今のうちに手を打ってしまうのが吉。

 

 そんな訳で馴染みの薄いネオン街へとやって来た彼らだが、さすがに一発で不良グループが引っかかるとは考えていなかった。

 それでも。たとえ今日だけで見つけることができなくても、明日も明後日も通っていればそのうち遭遇できるはず。

 そう意気込み、長期戦の覚悟を胸に、「まずは情報収集から」くらいの軽い気持ちで初めて声をかけたいかにも家出少女っぽいお姉さんが……。

 

 

「――ああ、そいつらなら今さっき向こうの路地裏でたむろってたよ。今日は通行人を手当たり次第にぶん殴ってくんだって」

 

 

 そんな証言をしてくれた時、あまりの運の良さに思わず二人して顔を見合わせたのも仕方のないことである。

 

 





ネタバレ:次回、弥人&武宏と有粋&カルマが勘違いから戦いに発展します。

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