メイドスキーな紳士にどうぞ。
ビルがないけど、お城がある。
科学はないけど、魔法がある。
そんな世界に来てから随分経った。突然女になって困っていたが、それも早々に割り切って、旅に出ることにした。
幸い、長い年月を過ごせるこの身。世界中を旅し、様々な出来事に巻き込まれた波瀾万丈な日々。今思い返すだけでもクスリと笑ってしまう。
「ユエ? 突然笑ってどうしたんです?」
思い出し笑いをしていたのをお嬢様――エレナ・ロッソお嬢様に見られてしまった。これはいけない。
「少し昔のことを思い出していたんです」
「昔というと、冒険者の時のことですか? どんなことでしょうか?」
普段はお淑やかなエレナお嬢様も、私の話を聞きたがる時はおてんばお嬢様になってしまう。そんなエレナお嬢様も魅力的なことには変わりないが、そろそろ時間である。
「その話はまたいたしましょう。そろそろ二人がいらっしゃる頃です」
「あら、もうそんな時間になっていたんですね」
朝食も終え、エレナお嬢様の姿は制服姿。これから学園だ。
と、噂をしていれば何とやら。近くから覚えのある気配。すると、お嬢様の部屋の扉がノックされる。
「お嬢様」
「えぇ。行ってきますわ」
お見送りするため、エレナお嬢様とともに門まで向かう。門の前ではエレナお嬢様と同じ制服に身を包んだ可憐な少女達が二人。
アリア・ルクス様とエル・ストレチア様。お二人ともエレナお嬢様のご学友である。
「おはようございます、エレナちゃん。それとユエさんもおはようございます」
「はい。おはようございます、アリア様、エル様。可愛らしい髪飾りですね。お似合いですよ」
いつも付けていらっしゃる花のものではなく、星と月がモチーフにされた髪飾りである・お淑やかなアリア様にはとてもよく似合っている。
「あ、ありがとうございます」
「ほら、だから言っただろう? ユエ様なら絶対に気が付いて下さると」
「? どういうことでしょうか?」
エル様の得意げなご様子に首を傾げる。女性の変化には敏感であれ、というのは前世の母の教えである。
「ふふっ、ユエさんはとても魅力的なお方、ということです」
「?」
ますます謎である。ともあれ、時間に余裕があるとは言っても、玄関先で何時までも話していては遅刻をしてしまう。
「皆様、そろそろ」
「あっ、そうですね。エレナちゃん、エルちゃん、行きましょうか」
「あぁ。おや、頬を膨らませてどうしたんだい?」
「……何でもありません」
何故か膨れてしまったエレナお嬢様。どうしたのだろうか。
「エレナお嬢様?」
「なんでもありません。二人とも、行きましょう?」
「あ、あぁ」
「それでは失礼いたします。あ、エレナちゃん、待って」
すたすたと行ってしまう三人を手を振って見送る。お嬢様方の姿が見えなくなってから、屋敷に戻る。いつもならば、そのままお買い物なのだが、今日は別に任せている。今日に関してはやらなければならないことがあるのである。
屋敷に戻って、キッチンに向かい、リンゴのすり下ろしを用意する。それを持ってとある部屋に向かう。
「ミアお嬢様、調子はいかがですか?」
部屋のベッドで起き上がっていらっしゃるのはミアお嬢様。エレナお嬢様の妹様で、三姉妹の末の妹様だ。まだ来年から学園に通うのだが、少し体が弱い。とはいえ、昔と比べて随分体も丈夫になられているので、学園に通う頃には元気になっているだろう。
「あ、ユエさん。はい、随分楽になりました」
昨夜は少し熱が出ていたのだが、顔色を見る限り言葉通り体調も戻っているみたいだ。おでこを合わせて熱を測ると、随分と熱が下がっていた。
「……ん、熱は下がっていますね。食欲はありますか?」
「その……あまり」
やはり食欲はあまりないみたいである。熱が出たときは食が細くなるので、いつもリンゴのすり下ろしである。
「ミアお嬢様、お口を開けて下さい」
「あ、あーん……」
小さなお口を開けるミアお嬢様に、リンゴを食べさせる。これならば、ミアお嬢様も食べられるのである。
少しずつ食べていただき、全部食べ終わってから、体を拭く。エレナお嬢様の妹ながら、ミアお嬢様のスタイルはエレナ様以上である。この歳にして魔性の女性の片鱗を覗かせている。
まぁ、つまりは汗が溜まりやすいので、丁寧に拭いて差し上げなければならないのだ。
「どこか痒いところはありませんか?」
「大丈夫です。それに、ユエさんに体を拭いてもらうと、気持ちよくなっちゃいます」
一歩間違えれば腰砕けなセリフだが、ミアお嬢様は純粋なお方なので、そのような意図はない。
「ありがとうございます。……はい、拭き終わりました。失礼いたします」
体も拭き終わったので、服を再び着させてもらう。
「ありがとうございました」
「いえ。しかし、今日はごゆっくりなさっていて下さい。ぶり返してしまってはいけませんから」
「分かっています。ユエさんが持ってきてくれた本もありますから、退屈しないです」
ミア様にお渡ししたのは、私が書き起こしたものである。書き起こしたといっても、前世のお話をこちら風にアレンジしたものである。因みに、私の少なくない収入源でもある。
「また新しいものを書いているので、出来上がったら、一番にミアお嬢様に見ていただきますね」
「はいっ。楽しみにしています」
ミアお嬢様の素敵な笑顔に見送られながら部屋を出る。実を言うと、今日はこの後は非番なのである。私としては働いているだけでも楽しいのだが、後輩達に無理矢理休みを取らされたのである。それが奥様と共謀されたのではどうしようもない。
「…………久しぶりにギルドにでも行きましょうか」
そのまま自室に戻り、軽く準備をしてから屋敷を出る。服はそのままメイド服。長年愛用のもので、近衛軍隊長の鎧の何倍も高性能なチートメイド服改なので、最適なのである。
屋敷を出て、ギルドに向かっていると、何やら道の端でかがんでいる女の子。このまま放っておくわけにはいかないので、その子に声を掛ける。
「どうかしましたか?」
こういう泣いてしまっている小さな子どもに声を掛けるときには目線を同じ位置に下げることが大切である。メイド服というのが功を奏したのか、その子は顔を上げてくれた。
「お母さんとはぐれちゃったの……」
やはりというか、迷子のようだ。この時間帯の大通りは結構混んでいる。そのため、こういう迷子は後を耐えない。
さて、闇雲に探しても仕方がない。
「あなたのお名前は?」
「エレーナ……」
「あら、お嬢様と似たお名前ですね。私のお嬢様もエレナ様、というのですよ。それではエレーナさん、なにかお母さんの物とかお持ちではないですか?」
「えと……お母さんのハンカチ……」
そう言って差し出してくれたのは、今までギュッと握っていた一枚のハンカチである。これで涙を拭っていたのだろう、結構濡れている。
「ありがとうございます。……えぇ、これなら大丈夫です。見ていて下さいね。中々に綺麗だと評判何ですよ」
「へ?」
私の言葉に、エレーナさんは首を傾げる。詳しい説明をしていないので当然なのだが、これはお楽しみ、ということで。
「では……《ここ掘れワンワン》」
気の抜ける呪文とは裏腹に、私の足元の陣から光が溢れる。
「わぁ……」
この光景に、エレーナさんも瞳を輝かせる。普通よりも輝き多めで発動させたが、無事に泣き止んでくれたようだ。
そうしている内に、溢れていた光がハンカチに集まり始める。光が収まると、ハンカチからある方向に向かって光が流れていく。
「さぁ、行きましょう。お母様はお近くにいらっしゃるようです」
エレーナさんの手を握って、光が示している方向に向かう。
「エレーナさん、今日は何をに来たのですか?」
「今日はね、お母さんとお買い物に来たの! お父さんが帰ってくるから、今日はご馳走なの!」
先程までの泣き虫さんはどこへやら、エレーナさんはニコニコしている。
「それでしたら、私と一緒にプレゼントを見ませんか?」
「え? で、でも……」
お母様を探している最中なので、フラフラしていていいのか困っているようだ。
「大丈夫です。お母様もお近くにいらっしゃるようですし、折角エレーナさんと会えたのです。少し、エレーナさんと仲良くしたいのです。ダメ、ですか?」
「うぅ……いいの、かな?」
「はい。でも、あまり時間を掛けてしまってはお母様が心配なさるでしょうから、ここの近くで買いましょうね」
幸いこの辺りには露天はたくさんある。がらくたがたくさんあるが、その中にはオシャレなものも結構あるものだ。
露天の中からいいものを揃えている所を見つけて、商品を見繕う。
「エレーナさんのお父様は何をなさっているのですか?」
「兵隊さんだよ。こっきょうのけいびをしてるの!」
国境の警備とあれば、長期任務だろう。久しぶりの再会となれば、楽しみだろう。
「兵隊さんならば、あまり大きな物はダメですね。小さめなネックレスなどがいいでしょうか。あら、これは……」
隅っこの方にひっそりと置かれている紅い宝石が収まっているネックレスに目が留まる。
「お爺さん、これは」
「おや、メイドさんはお目が高いですな。特別特化でお出ししているのですよ。1000ミストでどうです? 兵士であるその子のお父さんにならピッタリかと思いますが」
「それは……」
それはそうだろう。何せ、ここで売られているのが不思議なくらいの特上品。それほどの物が、ちょっと良いお肉1kgのお値段で買えるはずはないのだ。普通ならば呪いなどが掛かっているものだが、このネックレスにはそのような邪なものはない。それどころか、神聖な雰囲気まで感じる。
「わぁ……凄く綺麗」
エレーナさんもネックレスに目を奪われているようだ。このお爺さんからもイヤな気配は感じないし、まぁ、買っても問題ないだろう。
「では、このネックレスと、この髪飾りを」
そう言いながらミスト金貨をお爺さんに渡す。髪飾りが高くても、露天で売っている物の値段だ。まぁ、このネックレスが売っている時点で微妙と言えば微妙だが、何も言ってこないでお釣りの準備をしているのでそれでいいのだろう。
「それはせめてものお礼です。あなたにお会いできた記念に。……これでは全然足りませんし」
最後の言葉は小さく、エレーナさんに聞こえないように言ったのだが、お爺さんには聞こえていたようで、好々爺という言葉がしっくりくるような表情で笑っていた。
ネックレスの方はお洒落な箱に入れて、可愛らしい袋に入れてくれて、髪飾りの方はそのまま渡してくれた。
「ありがとうございます。エレーナさん、後ろを向いて下さい」
「え? うん」
エレーナさんは素直に後ろを向いてくれた。そのエレーナさんの綺麗な髪を丁寧に束ねると、今買った髪飾りで束ねてあげる。うん、とてもよく似合っている。
「可愛らしいですよ、エレーナさん」
「え? え?」
エレーナさん自身は頭の後ろを見られないので、エプロンのポケットから手鏡を取り出して、髪飾りを見てもらう。
「わぁっ、綺麗! あ、でも……」
お金のことが心配なのか、暗い顔をするエレーナさん。でも私はエレーナさんにそんな顔をして欲しくてこれを送ったのではない。
「これは、今日エレーナさんと出会うことが出来たお祝いとしてエレーナさんにプレゼントしたいと思った物です。ですから、笑って受け取ってくれませんか?」
エレーナさんは、少し悩んでいたようだが、私の言った通りに、ニコッと笑顔を浮かべてくれた。とても可愛らしいいい笑顔だ。
「ありがとう、お姉ちゃん!」
「ホッホッホ、いい笑顔じゃ。どれ、これもプレゼントしよう」
そういってお爺さんが渡してくれたのは、可愛いウサギのぬいぐるみ。両手に乗るくらいの丁度いい大きさだ。
「わぁ! ありがとうおじいちゃん!」
「いいんじゃよ。ワシは大体ここにいるから、いつでも遊びに来るといい。そちらのユエ嬢ちゃんもな」
どうやらこのお爺さんは私のことをご存じのようだ。
「はい。またお邪魔したいと思います。そろそろこの子のお母様も心配なさっていると思いますので、これで失礼いたします」
流石にこれ以上ここに留まっていては、お母様も心配してしまうだろう。お母様も近くまで来ているので、このまま案内することにする。
「バイバイ。ありがとうございました!」
礼儀正しくペコリとお辞儀をするエレーナさんと再び手を繋いで、お母様の元へ急ぐ。
「お姉ちゃん、ユエお姉ちゃんって言うの?」
「え? あぁ、そうです。そう言えば、私が自己紹介をしていなかったですね。ユエ、と申します。私もこちらによくお買い物に来ますので、またお会いしたときには、お声かけ下さいね?」
「うんっ!」
エレーナさんが少し大きな声で頷くと、その声に気付いた女性がこちらに駆け寄ってくる。あの女性がお母様なのだろう。
「エレーナ!」
「あ、お母さん!」
お母様の声を聞いたエレーナさんが、お母様の腕の中に飛び込んだ。
「あぁ、良かった……」
「お母さぁん……」
やはり不安だったのだろう。エレーナさんはお母様の腕の中で泣いてしまった。
やがて、涙も落ち着いた頃に、エレーナさんが私のことを呼んできた。
「良かったですね、エレーナさん」
「うん、ありがとうございましたユエお姉さん!」
満面の笑みを浮かべたエレーナさんを見ると、こうして良かったと思う。
「ユエさん、でしたね。エレーナのことを連れてきて下さって、本当にありがとうございました」
「いえ。勝手にしたことですから。それに、今日はお祝いだと聞きました。一緒にお買い物をして上げて下さい」
お母様にそう言ってから、もう一度腰を屈めてエレーナさんと目を合わせる。
「では今日はお別れです。……そう言えば、エレーナさんは料理のお手伝いをなさるのですか?」
「うん!」
「それではお父様に美味しい料理を作るための、メイドさんからのアドバイスです。お野菜を切るとき、お鍋をかき混ぜるとき、料理をお皿に盛りつけるとき、色々なときに、お父様のことを思いながら、心を込めて、しっかりと作ってみて下さい。そうすれば、とっても美味しい料理になりますよ」
「えー? 私、いつも心を込めて作ってるよ?」
「ふふふ、でしたらエレーナさんの作る料理はいつも美味しいのでしょうね。余計なお世話だったようです。では、メイドさんの名にかけて、とっておきのプレゼントです」
そういってエプロンから取り出したのは、一つの小瓶。私特性ブレンドのスパイスだ。
「私特性のスパイスです。お肉の料理に少しまぶして見て下さい。自信作ですので、エレーナさんの美味しい料理が、更に美味しくなると思いますよ」
「分かった! 今日は頑張る!」
やる気満々になったエレーナさんは、今すぐにでも食材を買いに行きたそうだ。
「ではお母様。私はこれで失礼いたします」
「あっ、本当にありがとうございました」
お母様は深々と頭を下げた後、エレーナさんとしっかりと手を繋いで、人混みの中に消えていった。
「さて、私もギルドに向かいましょうか」
何せほぼ丸一日の休暇である。日も昇りきっていないので、まだまだ時間がある。
ギルドは大通りの中程、露天エリアの奥にある。流石は王都のお膝元。大きな建物である。
「……そう言えば、ここに来るのは一月振りでしたか」
最近はお屋敷での仕事が色々あったので、こちらには買い物くらいでしか来ていなかった。
ともあれ、ここのような荒くれ者が集う場所に、挨拶という物は必要ない。普通に扉を開けると、視線が集まる。あぁ、久しぶりだからか。
特に気にする必要もないので、そのままカウンターに向かう。長年過ごしているので、顔見知りの受付嬢くらいいるのだ。
「久しぶり、アンナ」
「……本当に久しぶりね。ロッソ夫人にお休みを取らされたのかしら?」
「うん。やることもないから、何かやろうと思って。半日で終わるのとかない?」
小さくため息を吐きつつ、依頼を見繕ってくれるアンナは好きだ。前世の母曰く、感謝と好意ははっきり告げよとのこと。
ということで。
「そういう所が大好き。いつもありがと」
「……そういう所が苦手よ」
こういうとアンナは小麦色の肌に朱を浮かべる。褐色銀髪ダークエルフのアンナのこういう姿は、とってもセクシー。
「えっと……あぁ、そう言えば、今の季節でしたね。うん、これ受けます」
アンナから受け取った依頼は、とあるフルーツの採取。ランクはS。報酬は現物支給。
「それじゃ行ってくるね」
「えぇ。必要個数以上のものは持っていって構わないから。そうそう、明日まで来なかったら、王宮から呼び出し喰らってたわよ」
あらら。
「依頼受けなくても良いから、顔くらいは出しなさい。梳いてるときならお茶くらい付き合うわ」
「……ツンデレ?」
「ばっ、バカなこと言ってないで、さっさと行きなさい!」
「ふふっ、顔真っ赤。じゃ、またね」
からかいが成功したので、その場で、目的の場所に転移する。向かう先は天空の孤島。どの国の領土でもない浮島である。
Another side
Side エレナ
全く、ユエはどんな方にも優しいんだから……。
「エレナ、まだ怒っているのかい?」
「怒ってなんかいません!」
「いや、だからそれが怒っているんじゃないか」
誰のせいですか、誰の。わざとらしい言葉を使って……。まぁ、ユエ自身は鈍感なところがありますから、気付いていないみたいですが。
「もぅ……あまり、私の家の使用人をからかわないで下さい」
「いや、でもあれ、ユエさん全く気付いてないと思うんだ。何の反応も示してくれないし」
「一度くらい照れたお顔も見てみたいですね」
「……そんなの、私達でも殆ど見られないです」
ユエの無表情の程度には驚くほどのものがある。私やミア、お姉様にはよく笑顔を向けてくれるし、お母様にやり込められると少し不満げな顔をする。しかし、驚いたり、涙を浮かべたりしたところは見たことがない。照れて顔を赤くするする所なんて、想像も出来ない。
「うーん……ギルドのあの人なら知っているかも知れないな」
「あの人? どなたですか?」
「受付にいるダークエルフの女性だ。以前ギルドに行ったときに、ユエさんが来たのだが、随分仲が良さそうだった」
それは確か……。
「それはアンナさんですね。ユエの昔のパーティーメンバーだったはずです」
「ユエさんのパーティーメンバーというと……《精霊姫》かっ! 何と……身近に伝説のお方がいらっしゃったとは……」
《精霊姫》アンナ・ヴァレスタイン。世界の六英雄の一人。そんなお方がギルドの受付嬢をしているなんて、誰も信じてはくれないだろう。
「こ、今度お話をしに行こうか……いや、それは失礼かもしれないし……」
エルは六英雄の大ファンだ。六英雄に関わる本や、ユエがたまに書いている本を全て持っているくらいに。
「ははは……エルちゃんったら。でも、アンナさんのこともそうですが、ユエさんともちゃんとお話する機会もあまりありませんよね。一度ゆっくりお話ししたいです」
アリアの言葉に、エルがガバッと顔を上げる。……そんな目で見ないで欲しい。
「……分かりました。今度ユエに時間があるか聞いてみます。でも、ユエは仕事で忙しいから、時間が取れるかは分かりませんよ?」
「本当かっ! ありがとうエレナ!」
ピョンピョンと跳ねながら喜ぶエルに、私とアリアは顔を見合わせて苦笑いをしてしまった。
Side アンナ
「全く……」
ユエが転移していった名残の光を見つつ、私はため息を吐く。普段は完璧なメイドなのに、私達といるときは、途端に子どもっぽくなる。
「ははは、《精霊姫》が形無しじゃのぅ」
笑いながら来たのはギルド本部長――カミラ・ブラッド。本来ならもっと上にいるはずなのに、煩わしいと言う理由でギルド本部の責任者の椅子に座っている。
「……《血塗れの女帝》には言われたくありませんね。第一、溜まっていた仕事は終わったんですか?」
「ふふん、しっかり終わらせておるわい。そんなことより、ユエが来たみたいだが、あの依頼を受けてくれたみたいだな」
カミラさんは私の机から依頼書をひったくる。
「しかし、報酬が現物支給となると、アイツ、取り尽くしてくるんじゃないのか?」
今回の依頼《聖樹ユリアの実の採取》。ユリアの実といえば、一年に一度、今の時期に一斉に実を付ける世界で最も美味なフルーツである。しかし、場所が場所だ。安定して取りに行けるのはユエくらいなものだろう。
「しかし、ユリアの実の季節になったか。今度、ロッソの家にお邪魔しようかのぅ」
「たかりに行くのは止めて下さい」
いくら六英雄次席といえども、侯爵家にたかりに行くなんて有り得ない。失礼にも程がある。
「分かっておる。しっかり秘蔵の酒も持っていくに決まっておろう。手ぶらでなど行かん」
「そういう意味では……いや、もういいです」
まぁ、あの家の方々なら笑顔で歓迎して下さるとは思うが。
「おぉ、そうだ。今日の夜はヒマか?」
「え? 何ですいきなり」
まぁ、何も予定はないが。
「久しぶりにパスカルのヤツが来るらしくてな。折角だから飲もうと思ってな。ユエも誘うつもりじゃ!」
三度の飯と同じくらいお酒が好きなカミラさん。まぁ、パスカルが来るのならやぶさかでもない。
「分かりました、ご一緒させてもらいます」
「そうかそうか! では早速店に声を掛けて(ガシッ)」
「……本部長はさっさと仕事を終わらせて下さい。お店へは私が行ってきます。ちょうど休憩の時間ですから」
「い、いや、ワシが行くからいいんじゃぞ?」
「もし、仕事が終わっていないようでしたら、建物全体に結界を張って外に出しませんのでそのつもりで」
それだけ言うと、裏に下がる。まったく、子どもではないのだから、割り振られた仕事くらいしっかりこなしてもらいたいものだ。
Another side out