間違ってたら、あぁ、間違えてやがると嘲笑っておいてください。
光が止み、目の前に綺麗な森が広がっている。浮遊大陸ルクス。名の通り、辺り一面キラキラしている。しかし、それとは反して、ここは魔境である。その理由とは。
「……お座り」
私の後ろから齧り付こうとしていたドラゴンさんのど頭に踵落とし(聖なる炎添加)を叩き込む。
「……ふぅ。取り敢えず牙と鱗を……あ、まだ幼竜でしたか。では、お肉も取っておきましょう」
幼竜のお肉は柔らかくてとっても美味しいのである。大人になると固くなってしまうので、干し肉くらいにしか使えない。まぁ、それはそれで美味しいのだけれど。しかもこの子は牝。絶品です。
「うん。解体完了」
解体したお肉や鱗などを袋分けして、エプロンのポケットに入れる。色々おかしいけれど、このポケットは異空間に繋げているので、たくさん入るのだ。
「さて、明日の夕飯はご馳走になるとして、お仕事をしましょうか」
あくまで今日は果物狩りである。勝手は知っているとはいえ、一年ぶりなので、もたもたしていては、日が暮れてしまう。
途中途中で出てくるドラゴンやら虎さん(っぽいもの)とかを返す刀で退けながら進んでいき、早々に目的の場所に到着する。
「ん、着いた」
一面に広がるエメラルド色の木々の森。ルクスの最奥地、聖樹ユリアの森である。
ここまで来ると危ない生き物はいない。いて小兎や小鳥さんくらいだ。
「あら、こんにちは。また来たのね」
動物たちと戯れていると、森の方から声を掛けられる。金髪で緑色の薄いドレスを来ている女性。そんな美人さんで一番目を引くのは、でっかいオッパい……長く伸びた耳である。
彼女は、私と同じ数少ないハイエルフ――ステラさん。この聖樹の森の守人である。彼女とはとても仲のよい友人である。
「うん。ちょうどユリアの実の季節だから。今年も分けてくれる?」
「えぇ、もちろんよ。今年の実はとても綺麗だから美味しいわ。どのくらい欲しいのかしら?」
「えーっと……30個みたい」
依頼書を取り出して依頼の個数を確認する。今年は随分控えめみたいだ。
「じゃあ50個くらい上げるわ。残りは貴女の家で食べて」
「いいの?」
「もちろんよ。中でもいいのを選んであげる」
そうしてステラさんと一緒にユリア狩りだ。後ろに動物たちが着いてくるので、随分賑やかだ。
あっという間にユリアの実50個を収穫する。その後は昼食もまだだったのでステラさんのお家にお邪魔する。
「あ、そうだ。忘れないうちに」
エプロンから、いくつかの宝玉を取り出し、机の上に置く。この宝玉には結界魔術が込められている。私特製の自信の逸品だ。
そもそもユリアの実が殆ど取られない理由は、この場所が空にあるということの他に、私の結界がある。正直、お城の物よりも強力なので、入れないのである。私やステラさんはフリーパスだけど。
「あ、それと、はい。リンゴパイとパンプキンパイ。ステラさん、好きだから作ってきたよ」
ステラさんは甘い物が好きだ。ステラさんはお肉はあまり好きではないのでここに来るときは野菜たっぷりのキッシュや甘いパイを持って来ているのである。
「ありがとう。昼食はこれにしてもいいかしら?」
そういいながら、ステラさんは耳をピコピコ動かしていた。可愛い。
「もちろん」
「じゃあ、お礼にお茶を淹れてくるわ。ちょっと待ってて」
ステラさんのお茶は絶品なのだ。これには私も耳を動かしてしまう。
部屋の中にいい香りが溢れ、幸せな気分になっていると、ステラさんがお茶を持ってきてくれた。私もパイをいくつか切り分ける。
「じゃあ、食べよっか」
「えぇ。いただきます……あぁ、やっぱり美味しいわ。いつもありがとう」
「ステラさんのお茶も美味しい。ユリアの花のハーブティーは絶品だね」
「これも持っていって。今年はたくさん採れたから、いっぱい持っていってちょうだい」
「うん、ありがとう。お礼と言っては何だけど、今度来たとき何でも作ってくるよ?」
ステラさんは私の料理を本当に美味しそうに食べてくれるから、ステラさんの為に料理を作るのは好きなのだ。
「そ、そう? じゃ、じゃあ、ユリアのタルトが食べたいわ。貴女の作ってくれたものが一番美味しいから」
これは張り切らない訳にはいかなかろう。とはいえ、ユリアのタルトに使うときは、採ったのを一晩シロップに漬けたものが一番美味しいから、今日作って明日食べるのがベストだ。ここまで期待されては、美味しいのを食べてもらいたい。
「ステラさん、今日明日って予定ある?」
「え? 特にないわ。貴女の結界もあと一月は保つし、新しいのももらえたしね」
「じゃあ、今日家に来ない? 私、明日も一日休暇だから、王都も一緒に回れるし」
ステラさんと一緒に行動するのはとても楽しい。決して騒ぐような人ではないけれど、一緒にいるとすごくリラックスできるのだ。一緒に楽しんでくれるというか、そんな感じなのだ。
「でも、侯爵家の方にも悪いわ」
「奥様たちなら喜んでくれると思う。ステラさん達のこと大好きだから」
奥様やお嬢様達は六英雄の大ファンだ。よく、その頃の話をせがまれる。だから、一言伝えておけば、オーケーすると思う。
そのことを伝えると、ステラさんは頷いてくれた。早速と言わんばかりに、お昼のお片付けをして、出掛ける準備をする。
流石にあの森のドレスでは行かないらしいので、ステラさんが着替え終わるのを待つ。
十分ほど待つと、着替え終わったステラさんが戻ってくる。
「わ、綺麗です」
ステラさんの服装は、清楚なワンピースだ。その上から薄いピンクのショールを羽織っており、露出は抑えられている。神秘的なステラさんの雰囲気にピッタリな服装だ。
「じゃあ、行こっか」
「えぇ、お願い」
ステラさんと手を繋いで転移魔術を発動する。閉じていた目を開けると、ギルドの一室に転移していた。
「それじゃあこれ、渡してくるね」
「私もいくわ。アンナに挨拶しておきたいしね」
「じゃ、一緒に」
ポケットから指定の量のユリアの実を取り出して、アンナの元へ向かう。
ホールに出ると、アンナさんが仕事をしていた。皆仕事に出ているのか、ホールに人は少ない。
「アンナ、採ってきた」
「あら、早かったのね。それに、久しぶりねステラ。まさか、貴女まで来るなんて思わなかったわ」
「ユエにデートに誘われちゃったから。断るわけにはいかないわ」
「ふふふ、そうね」
「?」
何を話しているのだろうか。ともかく、まずは依頼である。
「アンナさん、はい」
「あぁ、ありがとう。うん……確かに、ユリアの実20個、受け取りました。今年のは特に上物ね」
「えぇ。今年は特に出来がいいわ。ユエの魔力が良かったんでしょうね」
「うん、去年は光の魔力と土の魔力を濃いめにしたから」
ユリアの実は魔力でよく育つ。今回は上手くいったみたいだ。
「あ、そう言えば、二人とも今日の夜は予定あるかしら?」
……ユリアの実の仕込みはこの後やればいいし、屋敷の仕事も何にもない。奥様の仕込みは万全だ。エオスお嬢様の容態もいいし大丈夫だろう。
「うん、大丈夫。ステラさんは?」
「えぇ、何もないわ。何かあるの?」
「カミラさんが飲みに行くって、張り切っちゃって」
流石はカミラさんだ。でも、カミラさんの姿が見えないのはどうしてだろう。
「カミラさんは?」
私がそう聞くと、アンナさんの目がキラリと光る。
「お仕事中よ。しっかりと仕事を終わらせるまで出すつもりはないわ」
どうやら、カミラさんはアンナさんの逆鱗に触れてしまったようだ。これ以上つつくと、やぶ蛇になるから、この話題は止めておく。
「じゃあ、私達は屋敷に戻る。夜の鐘くらいでいい? あ、場所は?」
「シルさんのお店よ。直接来てちょうだい」
アンナさんはカルラさんに仕事をさせるのに忙しそうなので、私達はこれでお暇する。そして、そのまま屋敷へ戻った。
「只今戻りました。あ、ミラ。奥様はいらっしゃる?」
屋敷に戻ると、掃除をしていたミラがいたので、彼女に奥様の居場所を尋ねた。
「あ、お帰りなさい。奥様でしたらキッチンにいらっしゃいます。エオスお嬢様におやつを、と」
「ありがとう。ステラさん、一緒に来て」
「えぇ。お邪魔しますね」
「は、はい」
ミラの言うとおり、キッチンに向かう。数秒後、後ろから叫び声が聞こえたが、まぁ、今日の所は許してあげよう。
キッチンに入ると、奥様――ルナ・ロッソ様が副メイド長であるアスカとともに果物を切っていた。
「奥様」
「ユエ? もう帰ってきたの? あら? そちらの方は確か……」
奥様がステラさんに気が付くと、ステラさんが一歩前に出る。
「突然の訪問、申しわけございません。ユリアの森の守人、ステラでございます」
ステラさんの簡単な挨拶に、奥様は手を合わせて喜んだ。
「まぁっ! 《零》のステラ様!? まあまあまあ、どうしましょう、こんな服装でごめんなさい」
奥様はワタワタと、腕まくりしていた袖を直したりと慌ただしい。そんな奥様をアスカが止める。
「奥様、落ち着いて下さい」
「奥様、ステラさんは私の友達ですので、気にしなくて大丈夫ですよ。ね、ステラさん?」
「はい。こちらはお邪魔をしている身。そのように畏まらないで下さい。私としても寂しくなってしまいます」
ステラさんのイタズラっ気のある笑みに、奥様も落ち着いたみたいだった。
「こほん。失礼いたしました。改めてとなりますが、ようこそお越し下さいました。ロッソ家はステラ様を歓迎いたします」
先程までの狼狽っぷりはどこへやら、とても優雅に挨拶をした。
「奥様、ステラさんを明日までお屋敷にいていただいても宜しいでしょうか。もし無理でしたら、外の私の部屋に泊まっていただきますが……」
「もちろんよ! ユエ……は今日はお休みだし、ステラ、急いでお部屋の準備をしてちょうだい。ここは私だけで大丈夫だから」
奥様がアスカに仕事を申しつけようとしたが、そんなに急がなくても大丈夫である。なにせ、この後は私とステラさんはでぇとなので。
「奥様、そんなに急がなくて大丈夫です。実はカミラさんが食事に誘って下さったので、今日は夜まで外にいるので」
「あら、そうなの? でも、貴女たちのお話も聞きたかったから、ちょっと残念だわ」
「それでしたら、明日でしたら大丈夫です。お嬢様方も学園はお休みですし、カミラさん達も明日は休みを取っているはずですから」
カミラさんとアンナさんは恐ろしく呑む。そして、アンナさんはともかく、カミラさんは翌日働くのは無理になるので、大概休みを取っているのである。恐らく、アンナさんがカミラさんを缶詰にしていたのも、明日の分の仕事も終わらせるためだろう。
「それなら、今日は明日を楽しみに待っているわね。明日はセレネも帰ってくるから、あの子も喜ぶわ」
明日は魔術院に勤めているセレネお嬢様もいるはずである。セレネお嬢様は《精霊姫》と呼ばれるアンナの大ファンだ。魔術のスタイルもアンナとそっくりで、それで弱冠19歳にして、世界でも有数のこの国の魔術院へと推薦された才女である。
「では、私も失礼いたします。ステラさん、行こっか」
「えぇ。それではルナ様、失礼いたします」
許可ももらったので部屋を後にしようとしたが、奥様がエオスお嬢様のためにフルーツを切っているのを思い出す。シロップの材料などは揃っているし、シロップ漬けの用意は帰ってきてからで大丈夫だ。
「奥様。エオス様にこちらを食べていただきたいのですが」
そういって、ユリアの実を二つテーブルの上に置く。採れたて新鮮なので、とても美味しいはずだ。
「まぁ、ユリアの実ね! もしかして、今日行ってきたのって、ルクスの地だったの? あぁ、だからステラ様がいらっしゃったのね。ありがとう、ぜひありがたく頂くわ」
奥様にもう一度挨拶して、屋敷を出る。さて、何をしようか。
エルフが長い耳をピコピコ動かすのは、至高だと思う。
因みに、ケモミミが耳をピクピクさせたり、尻尾を振るのと同じように、エルフは耳を動かします。
エルフ →ピコピコ
ケモミミ→ピクピク
このような差がありますので、ご注意を。
因みに登場確定なケモミミは、狐っ娘です。