インフィニット・ストラトス~竜の血を継ぐ者~   作:G大佐

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ミツルとラウラの話です。


22話 力と目標

 ラウラは保健室で目を覚ました。夕日が窓から差込み、美しい雰囲気を醸し出していた。ラウラは視界がはっきりしていくのを感じながら、ポツリと呟く。

 

「私は・・・何をしていたんだ?」

 

 保健室のベッドで大人しくしていたが、フードを被った男から没収された専用機を受け取ってから、記憶が無い。身体がズキズキと痛んでいるのだが、何があったのだろうか?

 

「目を覚ましましたか?」

「っ! 十六夜・・・ミツル・・・・」

 

 声がしたほうへ顔を向けると、かつて自分の機体を斬りつけた細身の男、十六夜ミツルがいた。椅子に腰掛けて、リンゴの皮を剥いている。

 ラウラはミツルを睨みつけるが、気付いていないのかそれとも敢えて無視しているのか、気にしていない様子だった。

 

「・・・・なぜ貴様がここにいる」

「少々気になったのですよ。貴女がなぜ力に執着したのかを。あ、リンゴ食べます?」

「・・・・いらん」

 

 少しお腹が空いていたのだが、兎の形に剥かれているのを見た瞬間食べる気がなくなった。ミツルは「そうですか」と言うと、そのリンゴを食べ始めた。

 静かな保健室に、リンゴを租借する音が聞こえる。その空間に戸惑いながらも、ラウラの口が動き始めた。

 

「教えてくれ。私はこの数時間の間に何をしていたのだ?」

「・・・・・貴女は知らないといけませんからね。自分が何をしようとしていたのかを」

「・・・・・・?」

 

 そこから先の話は恐ろしい物だった。フード男が渡した結晶は、心身に影響を及ぼす危険な物であったこと。そしてそれを手にした者はとてつもない力を得る代償として、段々と狂気に飲み込まれてしまうという事を・・・。

 思えば、ここ最近の織斑一夏に対して抱いていた憎しみのような嫉妬のような感情は、殺意に変わっていたような気がする。あれは恐らく、狂気によって引き起こされたものだったのだろう。

 そして今回、その狂気の塊に飲み込まれて機体が変貌し、アリーナで大暴れしたという。

 ラウラは、自分が悪魔の取引に応じてしまったことを知った。顔を俯かせる。

 

「私は・・・何と言うことを・・・」

「さて、私は貴女の質問に答えました。今度は私の質問に答えてもらいますよ? なぜ、そこまでして強くなろうとするのです?」

「強くなければ認めてもらえない。私に光を与えてくれた教官に・・・・・」

 

 ラウラは己の過去を語った。自分の目に施された『越界の瞳(ヴォーダン・オージェ)』の事を。そしてそれが暴走状態に陥ったために、部隊内で『落ちこぼれ』の烙印を押されたことも。そんな自分を部隊内最強へ導いてくれたのが、一夏を救出してもらった借りを返すために教官としてやって来た織斑千冬だったことも話した。

 ミツルは黙って聞いていた。彼は理解していた。絶望の淵にいた人間が光を与えられた時、救ってくれた者に対してどのような感情を抱くかを・・・。

 

「貴女は、織斑先生に憧れを抱いていたのですね」

「私は分からなかった。なぜ教官が自らの栄光を捨ててまで弟を取ったのかを。世界最強という称号を投げ捨てるほどの価値があるのかと、思っていた」

「・・・・・貴女には、目標はありますか?」

「目標、だと?」

「私は持っています。『東風谷真を打ち負かす』。それが私の目標です」

「な!?」

 

 ラウラは驚いた。ミツルと真は周りから見ても良きパートナーだ。互いに支えあうこそ、パートナーではないのか?

 

「真さんも、私を倒すために強くなろうとしています。しかし、かつて私達は・・・・・・・・強さを求めるがあまりに道を踏み間違えそうになった事があるんですよ」

「なんだと?」

 

 ミツルは目を閉じて思い出す。あの時・・・・真と仲が悪かった頃、真を倒すがために『モンスターの宝玉』に手を出そうとしたことがあった。

 幻想郷を壊滅させる力を持つという言い伝えに惹かれたとき、それを父である影夜が引き止めた。その時に言われた言葉は今でも覚えている。

 

「『自分と言う存在をかなぐり捨ててまで、果たしたい目標なのか?』。私は、強くなろうとしていたはずが人間を止める道へと走っていたのです」

「・・・・・私は」

「ん?」

「じゃあ私はどうすればいいんだ! 私はもう、教官を失望させてしまった。クラスの皆だって私のことを軽蔑してるだろう。私はもう・・・・・独りだ」

 

 ラウラは俯いて涙を流す。肩は震え、ベッドの布団を握り締める力は強かった。

 怖かった。あの、落ちこぼれと呼ばれていた頃がまたやって来るのではないか。もう、あの時のように手を差し伸べてくれる人はもう居ないのだと分かっていれば、なおさらだ。

 

 その時だ。両頬をミツルが押さえ、こっちへ無理やり振り向かせた。突然の事に目を白黒させるラウラ。彼女の目の前に映るのは、自分よりも赤く、紅く目を光らせるミツルの顔だった。彼は真剣な表情で言った。

 

「良いですか? 人間と言うのは必ず何かの支えがあって生きていられるのです。自分の力のみで生きる事も、出来るには出来るでしょう。ですが・・・それはあまりにも脆すぎる。他の人たちの支えは、とても強力です。それを自ら捨て去るというのは、あまりにも浅はかだ」

「だが、私はもう・・・」

「他の者たちと関わらないようにすると? やれやれ・・・。ドイツ軍人が聞いて呆れますね。要するに、悪口を言われるのが怖くて逃げているだけじゃないですか! 聞けば貴女は隊長らしいですね。矢面に立つ立場の貴女が、そのような物から逃げてどうする!」

 

 その時ラウラは、千冬の後姿を思い出していた。何かしらのアドバイスを貰った後に去るその背中は、日本代表だった頃と比べて、とてもピンとしていた気がする。

 もしかして、弟・・・一夏のことを語るときの表情がどこか優しげだったのは、一夏という存在が居たのかもしれない。

 

「(私は教官と同じになりたいのではない・・・。私は・・・・・)」

 

 気付くと、ミツルは保健室から出て行こうとしていた。

 

「貴女と同じくらいしか生きていないのに、偉そうな事言ってすいません。ですが、これからどうするか。それは貴女次第だと思いますよ」

 

 ラウラのほうへ向ける彼の『黒目』は、どこか優しげだった。

 彼が出て行った後に食べた、いつの間に向いたのか半月形にカットされたリンゴは、甘酸っぱかった




ちなみに、この話の後に千冬が保健室に来ている感じです。

次回で二巻が終わって、三巻にに突入ですかね?
それでは次回も、お楽しみに!
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