今回は海に到着するのと、束と再会する話です。
「真。もうすぐだぜ」
「いよいよか・・・。ワクワクするな」
ついにやって来た、臨海学校。俺たちはバスに揺られながら、今回泊まる宿へと向かっていた。目の前には木々の隙間から青い色が見えた。前を見ると、木が無くなっている。つまりもう少ししたら広い海が見える訳だ。
「3・・・2・・・あぁ! 見えるの早いって!」
海が見えるまでのカウントダウンをしていた相川が、悔しそうな声を上げる。一方、俺は、バスの窓から現れた光景に見惚れてしまっていた。
空の青と、海の蒼。その二つが挟むのは一本の線、水平線ってやつだ。そこには果てが見えなかった。今まで見て来た湖の景色では、空と湖面の間に森林の緑があった。それに比べたら色は一色だけ減ってるけど。目の前の景色はそれでも十分なほどの、なんて言うのかなぁ? 雄大さみたいなのがあった。
「おぉ・・・。すげぇ・・・」
「自由時間になったら泳げるから、まだお楽しみはこれからって感じだな」
「何だよ一夏。随分落ち着いてるんじゃないか?」
「いやいや、俺だってこう見えてテンションが上がってるぜ。でもほら・・・。もう少しで宿に着くぞ」
「え? ・・・あ、本当だ」
こうして、初めて見た海に感動しながらバスを降りると、僅かながら不思議な匂いがしてきた。これが潮の香りってやつか。本当は、この身体中を駆け巡るウキウキ感を発散させるために叫びたいところだが、そんなことをすると織斑先生の出席簿が炸裂するからな。大人しく整列する。
「ここが、今日から三日間お世話になる花月荘だ。全員、従業員の方々の迷惑とならないように心がけるように」
「「「よろしくおねがいしまーす!」」」
「はい、こちらこそ。今年の一年生も元気があってよろしいですね」
俺たちの気合の入った挨拶にも、朗らかな感じで答えてくれる女将さん。すると、俺たちと目があった。
「あら? そちらの方々が・・・?」
「はい。今年は異例の事となってしまい、浴槽の振り分けを難しくしてしまって申し訳ありません」
「そんな事はありませんよ。3人とも、しっかりしてるような雰囲気がして良いじゃないですか」
「あくまで雰囲気です。お前達、挨拶をしろ」
「お、織斑一夏です」
「東風谷真です」
「十六夜ミツルです。よろしくおねがいします」
織斑先生に促されて、俺たちは慌てて頭を下げて挨拶をする。そのようすが可笑しかったのか、少しだけクスクスと笑うと、女将さんも頭を下げた。
「はい、こちらもよろしくお願いしますね。やはり男子も元気が一杯でよろしいですねぇ」
「ありすぎて困るほどです」
織斑先生が額に手を当てて、やれやれといった感じで首を横に振る。え? 俺たちって何か迷惑な事してたか? う~む・・・。アリーナで相棒やセシリアたちと模擬戦やったときに砲撃で穴だらけにしたことか? 女子の集団に追われて廊下を走ったことか? 心当たりが多すぎて逆に分からないぜ。
「それでは、お部屋を案内しますね~」
「男子達は私が案内する。ついてこい」
そういえば、さすがに女子と同室はマズイってことで、俺たちは別の部屋なんだよな。俺たちは素直に頷いて織斑先生の後をついて行く。
そうしてついて行った先の部屋の扉には、大きく『教員室』とかかれた張り紙が。
「え? これは・・・」
「最初こそ男子のみの部屋にするべきという話だったんだが、お前達の注目度は尋常じゃない。就寝時間を無視する者たちが必ず出るだろうという話もあったので、こういう事になった」
「良かったな一夏。大好きなお姉ちゃんと一緒だぜ?」
「「茶化すんじゃない!!」」
「アデェッ!?」
本当のことを言ったのに、何故か姉弟に同時に叩かれた。解せぬ。
「おっしゃー! 泳ぐぜ!」
「早く行きましょう、一夏さん!」
「いやいや、お前らはしゃぎ過ぎだって・・・ん?」
俺たちは織斑先生と山田先生が出て行った後に着替えて、海へと向かっていた。遠くから聞こえる波の音が、俺と相棒を誘っているようだ。一夏も早く来るように誘うが・・・
「どうした?」
「いや、これ・・・」
「・・・ウサ耳?」
一夏の前には、大根の葉っぱのようにニョキっと生えているウサ耳があった。・・・なんだこれ? しかも看板みたいな物には、『引っ張ってください』と書かれている。
俺たちが戸惑っていると、箒がそばへやって来た。
「む? どうしたんだ?」
「あぁ、箒か。これ・・・」
「ん? ・・・あ~、これは姉さんだな。このウサ耳は間違いない」
「束さんが? なんでこんな所に?」
「・・・なぜだ? 凄く嫌な予感がする。先に行ってるぞ、みんな!」
箒は身体を一瞬だけブルリと震わせると、慌てた様子で海へと向かって行った。嫌な予感? 俺はそんなの感じなかったが・・・。
すると、遠くからキィィィン・・・と何かが飛んでくるような音が聞こえてきた。なんか、山田先生がラファールに乗って落ちてきたときのことを思い出すなぁ。っていうか、これヤバくね!?
「た、退h・・・ギャアアアア!?」
「「相棒(ミツル)----!?」」
相棒は退避と言おうとしたが間に合わず、空から落ちてきたデカイ金属の塊に吹き飛ばされた。
ちなみに飛行物の正体は・・・人参だった。その人参から扉みたいなのが開かれ、そこから女の人が出てくる。
「呼ばれてないけどジャジャジャジャーン! いっくんに真君にミツル君、久しぶりー!」
「ど、どうも・・・」
「お久しぶりです・・・」
「あれれー? ミツル君は?」
「あそこッスよ」
「え? ・・・わぁぁぁ!? ミツル君ー!? 誰がこんなことを!」
「「アンタのせいだろうが」」
相棒は伊達に鍛えられてないおかげで、少し土で汚れた程度で済んだ。軽い漫才のようなものを終えると、束さんはここに来た理由を話し始めた。
「束さんはどうしてここに?」
「いやー、ちょっと箒ちゃんと話をしたくてね? 箒ちゃん見なかった?」
「え、さっき向こうに・・・」
「あ。でもこの束さん特製『箒ちゃん水着レーダー』があるから、大丈夫だよー。ぐへへへ。さぁ、箒ちゃんのおっぱいを堪能してやるじぇい! そんじゃ、バイビー!」
それが本音かい! 心の中でツッコむ内に、束さんは箒の後を追って行った。なるほど。箒の言っていた嫌な予感ってのは、束さんにイチャイチャされることだったのか。
嵐のように去っていった束さんを見送った後、再び海へ向かって走り出した。
~三人称sid~
「・・・行ったかな?」
真と離れた後、束は草むらに隠れて周りの様子を伺う。束がここに現れたのは、確かに箒に会うためである。しかし、それはただ箒とイチャイチャするだけではない。
束は紫からある条件を出されていた。それは、幻想郷に入れるようにするかわりに絶対に口外しないこと。もしもその条件を破ったならば、幻想郷の実力者たちが束を潰しに来るというもの。
束のほうが代償が大きいような気もするが、幻想郷側が白騎士事件の話を最後まで聞いてくれたこともある。彼女はその条件を受け入れた。そのため、自分のラボにいる者たちには話していない。当然、千冬にもだ。
しかし、真たちの様子を見せに幻想郷に来た日のこと、リオという男が束にあることを聞いた。
「確か、お前の家は神社だったな?」
「そうだよー。まあ私はISの開発と研究ばっかりだったから、神楽舞とかは箒ちゃんが上手だね」
「・・・もしかしたら、お前の妹は能力に目覚めている可能性があるな」
「・・・え?」
リオとその妻の一人である霊夢が言うには、信仰心を多く集めている神社は強い力を持つという。祀られている神は、信仰者には御利益と言うものを、神主や巫女の血縁者には力を与えるのだとか。
束の家である篠ノ之神社は元から近くの住民に信仰されていたが、ISの誕生によりそこへ参拝しに来る者たちが増えている。それによって起こる影響は、束だけではなく箒にも起こっているかもしれないというのだ。
「ましてや、その箒って子は神楽舞も担当してるんでしょ? 神楽舞ってのは読んで字の如く、神様を楽しませる舞だから、能力を持ち始めてもおかしくないわね」
「うむ。様子を見に行った方が良いかもしれないぞ?」
こうして、束は箒の様子を見に来たのだった。
「・・・誰もいないね。よし。マドちゃーん! 出てきて良いよ~!」
束は周りに誰もいないことを確認すると、未だに地面に突き刺さってる人参ロケットに声をかける。すると、そこから一人の少女が出てきた。
束がここに来た理由は、実はもう一つあった。それは、この少女を自分の友人に会わせることである。
「うぅ・・・・・。死ぬかと思った・・・」
疲労困憊な様子で出てきたその少女は・・・・・織斑千冬と瓜二つの顔をしていた。
次回は、真たちが海で泳ぐ話の予定です。
それでは、次回もお楽しみに!