インフィニット・ストラトス~竜の血を継ぐ者~   作:G大佐

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お待たせしました。IS学園防衛戦も、今回でラストです。
前作の「東方竜人帳」のキャラクターが登場します。

それでは、どうぞ!


50話 IS学園防衛戦(後編)

 ……体が動かねぇ。そして寒い。なんだかフワフワするような感じがする。俺、どうなったんだっけ? ティーレンって奴と戦って、一方的にやられて…………。

 

 ……そうだ、思い出した。そのまま奴のトドメの一撃を受けちまったんだ。ってことは俺、死んだのか?

 

 ふざけんなよ……。相棒との決着もまだ着いてねぇぞ。俺が勝てなかった人たちとのリベンジも果たしてない。

 

 そして何より……本音に告白してない。こんなんじゃあ、約束を守れてない! 戻らねぇと……! 俺が死んだら、本音たちまでやられちまう! そんな事させるかよ!

 

 体が一気に熱くなってきた。さっきまで感じていた痛みも無くなった気がする。凄い力だ。もっと、もっと放出すれば、ティーレンを倒せる! もっと、もっと……………………!

 

《お兄ちゃん、駄目ぇぇぇぇぇ!!!》

 

 

 

 

 

「ゴォォォォォアァァァァァァァァ!!!」

 

「ば、馬鹿な! お前、まだ動けるのか!?」

 

 アリーナに咆哮が響く。それは管制室にいる千冬たちも耳を塞ぐほどの声だった。

 

 ティーレンの目の前に立っているのは、確かに真だ。だが、顔つきが違う。

 一夏たちなら見慣れたであろう不敵な笑みは、今は獰猛な笑みを、それこそ獲物を前にした獣のような笑みを浮かべていた。目は血走り、血管は浮かび、体から湯気が出ているような雰囲気さえ感じられる。

 ティーレンを何よりも驚かせたのは、その殺気だった。彼の本能は察していた。「目の前の敵は本気で殺しに来るぞ!」と。

 

「フシュゥゥゥゥゥゥゥゥ…………」

 

 ビキビキビキと音を立てて、真の全身がバサルモスの甲殻に覆われる。その時、管制室にいた本音はその様子を見て、恐怖を抱いた。

 

「いつもの東風やんじゃない……。いつも東風やんは暖かい感じがしたのに、今は怖いよぉ……!」

 

 同じく管制室にいた箒も、その姿に恐怖を感じた。

 

「何だあれは……。まるで殺意の塊ではないか……!」

 

 顔まで甲殻に覆われた真だったが、その姿をミツルが見たら絶句するだろう。

 目は金色に光り、まるで狂竜ウイルスに感染したかのような赤黒いモヤがかかっている。

 

 これは、モンスター達のいた世界では『獰猛化』と呼ばれる現象だった。

 

「くっ! この気配、俺たちと同じようになってるのか!?」

「ゴァァァァァァ!」

 

 恐怖のようなものを本能で感じとったティーレンは、その場から離れようとする。しかし、その寸前に真が猛スピードで距離を詰めて、その硬い拳で殴りつけた。

 普段のバサルモスならば、あり得ない速度だった。そのスピードに混乱するティーレンだったが、管制室にいた真耶は、真が距離を詰める一瞬の間だけISのシールドエネルギーが発生していることに気付いた。

 

「まさか、ISとモンスターの力を同時に……?」

 

 そう。瞬時加速(イグニッション・ブースト)を利用して、動きが鈍いという弱点を補っているのだ。

 機械と能力の併用。それは、今の真にとって、鬼に金棒というレベルを超えていた。

 

「ガァッ! ゴアァッ! グガァァァァァ!!」

「ぐふっ! ぶぐっ! がぁっ!」

 

 ティーレンは殴られながらも、全身に粘菌を纏わせて真の拳にダメージを与えようとする。

 だが、たとえ殴った所が爆発しようとも、真はダメージを受けてる感じがしなかった。それどころか、より殺気が強くなっている気がする。赤黒い煙が両方の拳に移ると、バチバチと音が鳴る。

 

 

 その拳がティーレンの顔面に振り下ろされた瞬間、ボキンッ!という音が響いた。

 

 

「っ―――――――」

「コフー、コフー、コフー!」

 

 アリーナには、真の荒々しい呼吸が響く。断末魔を上げることもなく、ティーレンは絶命した。

 

 

 

 

 

 

 ミツルが彼の元へ到着したのは、ティーレンが死んでからだ。自身の相棒の恐ろしい姿に、目を見開く。

 

「真……。お前まさか、能力が暴走してるんじゃないだろうな!?」

「グルルルル…………」

「お前ってやつは……本当の本当にバカ野郎だ!!

 

 ナイフを抜き、ナルガクルガの能力を使って真に接近する。右手のナイフを振るうと見せかけて、左足で蹴りつける。だが、真の纏っている甲殻を蹴ったところで、ビリビリとした痛みが走るだけだった。予想していたとはいえ、その硬さに顔をしかめる。

 そして、真を制止しようと思ってナイフを振るったのが、かえって彼を刺激してしまった。モンスターの本能に呑まれつつある彼にとって、もはやミツルですらも『排除するべき敵』と判断してしまったのだ。

 

「俺を蹴ったな……? ナラ、オ前モ敵ダ!」

「真、正気に戻れ! 敵を倒す代わりに自分を見失うなんて何考えてんだ!」

「ウオオオオオオオ!!」

 

 ナイフを振るう腕と、拳を振るう腕、そして攻撃を避けるために動く体。これらの残像が見えるレベルのスピードで、二人は戦っていた。ナイフを振るえば甲殻で折られ、投げつければ弾かれる。熱線を撃てば避けられ、炎の球を投げつければISのブレードでかき消される。時々互いの拳がぶつかり合うことで、周りの土が吹き飛ぶこともあった。

 

「ヤラセネエ、ヤラセネエゾ! 相棒モ本音モ、全員モンスター共ニ殺サレテタマルカ!」

「その敵はもういないんだっって! 早く正気に戻れ! お前このままじゃ、本当にモンスターになっちまうぞ!」

「ガアァァァァ!」

 

 ミツルの顔面に頭突きが炸裂する。鼻血が出るほどの威力で、目の前の景色がグラグラと揺れる。すぐに立て直し、腕のブレードで斬りつけた。

 

「ぶっ、ぐっ、この野郎!」

「ラァァ!」

「ガッハァ!」

 

 真のアッパーを受け、大きく吹き飛ばされる。二度目の頭部への攻撃で、ミツルは立ち上がるのも億劫だった。

 

「はぁ、はぁ、真…………」

「フシュゥゥゥゥ……」

「目ぇ覚ませ、真ぉ!!」

「グルァァ!」

 

 赤黒い拳がバチバチと鳴り、ミツルへと振り下ろされた!

 

 

「こうなったのは、俺のせいかもしれないな」

 

 

 突然、真の体が突き飛ばされた。千冬達からは、突然現れた裂け目から飛び出して、そのまま真にタックルする男の姿が見えただろう。ミツルは驚きのあまり、目の前の男の名前を叫んだ。

 

「ま、護さん!」

 

 男の正体は、真の父親である東風谷護だった。呼ばれた護はミツルに向けると、申し訳無さそうな顔で応える。

 

「やぁ、ミツル君。色々聞きたいだろうが、まずは息子を止めるのが先だ」

 

 すぐに真へ視線を戻すと、片手を出す。その瞬間、衝撃波と轟音が響いた。あまりの衝撃にアリーナにいたメンバーは目を閉じてしまう。

 目を開けると、真の拳を片手で受け止めている護の姿があった。手のひらがグラビモスの甲殻に覆われているところ以外は、何も変化がない。

 

「真。このままでは、お前の魂はモンスターの本能に呑まれるぞ。それで良いのか?」

「グガアァァ!」

 

 目の前に父親がいるのも分からないのか、もう片方の拳で殴る。顔に当たっているが、これも鎧化で防がれる。

 

「真。お前は昔言ったな。『誰も傷つけたくないから強くなりたい』と。『自分を守ることで傷ついてしまう人が出ないように、強くなる』と」

「グ…………」

 

 真の動きが鈍くなる。その姿は動揺してるようにも見える。

 

「だが今のお前には、守りたい者がいるんだな。学園でそれほどの仲間が出来たんだな」

「グ、ガ…………」

 

 突き出していた真の腕が震える。

 

「仲間を思うのは良い。だが、それでお前は守りたいものを傷つけ、悲しませるのか?」

「ア、ア、あぁ…………」

 

 ただのうなり声から、徐々に人間の言葉へ戻っていく。護から離れ自身の手を見つめる。己の姿に戸惑っているようだ。

 

「真。お前がかつて悲しく感じていたことを、今はお前の仲間が感じているんだぞ」

「あぁぁぁ…………!」

 

 赤黒い煙が薄くなり、人間の姿へ戻っていく。

 

「東風やんーーーーー!!」

 

 護が声のした方へ振り向くと、『打鉄』を身にまとった少女……本音が、真のもとへ向かっていた。すぐ近くまで来ると機体を解除し、真に抱きつく。

 

「もう、大丈夫だよぉ……。私も、織斑先生も、しののんも、お姉ちゃんにかんちゃんも、皆いるよ……。でも、東風やんが東風やんじゃなくなるのは嫌だよぉ!」

「う、あぁ……」

「東風やん……消えないでぇ……」

「う、ぐ、あぁ……!」

 

 

「うあぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 

 

 泣いている本音の声を聞いて、真は叫びながら元の姿に戻った。その光景を見ていた護は、優しく微笑んでいる。

 元の姿に戻った真は、抱きしめている本音を、同じようにギュッと抱きしめた。

 

「俺って本当に馬鹿だな……。俺が味わいたくない思いを、本音たちに思わせてたなんてよ」

「東風やんは、ちょっぴりお馬鹿さんだよ~」

「ははは、そうかもしれねぇ。……ごめんな、本音」

 

 少し頬を膨らませる本音に、真は自嘲気味な笑みで返す。すると突然、真の体の力が抜け、座り込んでしまった。

 

「こ、東風やん!? 大丈夫!?」

「強い力を一気に使い、反動が来たのだろう」

 

 護の声を聞いた真は、気まずそうな顔になった。

 

「父さん……俺…………」

「………………」

 

 護は、真を背負った。

 

「父、さん……?」

「ついこの間まで子供だと思っていたのになぁ。だが、この世界でも仲間が出来てホッとしたよ。そしてすまないな、ミツル君。君を大変な目に遭わせてしまって」

「いえ、そんな事ありませんよ。だって……私は真の相棒ですから」

「ふっ、そうか」

 

 護たちはアリーナを出る。

 しばらく歩くと、一夏たちの姿が見えた。

 

「あっ、真!」

「ミツル!? どうしたのよ、その傷!?」

「ていうか、そちらの方は誰ですの!?」

 

 一夏に鈴、セシリアが詰め寄ってくる。傷だらけな上に見知らぬ男までいるのだから、混乱するのも無理はない。だが、詰め寄られていた2人は、彼らの後ろにいる男に驚いていた。

 

「よぉ、護。何とか止められたか」

「まぁな。この子が真に声をかけていなければ、もっと危なかったかもしれんが」

「ほう? そいつはご苦労様だったな」

 

 不良っぽい口調で護と話しているその男は、真にとって兄貴とも言える人物だった。

 

「は、白斗さん!?」

「よぉ真。随分派手に暴れたらしいじゃねえか、えぇ?」

「うぅ……。面目ないっス」

「そう思ってんなら、とっとと傷治して全員に謝んな。俺はここにいる嬢ちゃんたちに、色々と説明しなきゃならないからよ」

「それなら、俺も加わった方が良いだろうか」

「ばか野郎。せっかくの再会なんだから息子と話でもしてこいや」

「……ありがとう。そうさせてもらう」

「白斗さん、お久しぶりです」

「おうミツル、久しぶりだな。そしてお疲れさん。暴走した真の相手をした後でも歩けるなんて、なかなかやるじゃん」

 

 白斗はミツルの頭をワシャワシャと豪快に撫でる。撫でられてる本人は少し顔を赤くして照れている。

 

「お前も休んできな。激しい戦いで休みたいだろ?」

「では、お言葉に甘えて」

 

 真たちは、保健室へ向かう。その道中、真はどこか懐かしい気持ちがした。

 

「(そういえば、久しぶりかもしれないな。父さんにこうやっておんぶされるの)」

 

 幼い頃は、よく夕方まで遊んでいた時に護が迎えに来て、帰り道は今のようにおんぶされていたのを思い出した。

 そして、同時に後悔も芽生えた。それは、今回の暴走。かつて力を求めて引き起こした大騒動も、護と早苗が止めた。

 

 また、迷惑をかけてしまった。それも今回は護にミツルに本音にグラビオスのISコアにと、どれだけの人に恐怖や悲しみを与えただろう。

 

「父さん」

「ん? どうした、真?」

「……ごめんなさい」

「……そうだな。だが、それで自分の過ちに気付けたのなら、これ以上怒ることは無いさ。また一つ、力の扱い方について学べたな、真」

「本当に……本当にごめんなさい…………!」

 

 護の背に顔を埋めているが、嗚咽がやけに大きく聞こえた。

 

 




次回は、少し短めになると思います。真たちの視点に戻す予定です。

それでは、次回もお楽しみに!
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