ふと思いついたシーンを書いたので、今回は短めです。それでは、どうぞ!
保健室で護と真たちが談笑していると、アリーナの方角から爆音が聞こえた。まさかもうモンスターが襲撃してきたのかと2人は身構えるが、護は笑った。
「おそらく、白斗だろう。誰かを鍛えてるんじゃないか?」
「うっわぁ、マジかよ……」
「あの人のは、ひたすら攻撃を避けて、痛みに慣れたり逃げ回る体力をつけたりする修行ですよね……」
誰が受けてるのか分からないが、2人は心の中で合掌した。白斗から直々に鍛えられた2人からすれば、彼の修行は「凄まじい」の一言に尽きるからだ。
「拳で殴られたりするだけでもとんでもないのに、パチンコ玉を磁力で撃ってきたりするんだもんなぁ」
「クレーターが出来るほどの威力というおまけ付きですよ……」
真たちは、どこの第三位だと言いたくなった。
「ふふっ。だが、何よりもお前たちは愚痴っていたじゃないか。『熱線やナイフが咆哮でかき消される~』ってな」
白斗の修行は、攻撃を当てることも可能だ。だが、それをティガレックスの咆哮でほとんど無効化される。熱線は勢いが弱まり、ナイフは粉々にされる。2人は初めて見た時の事を思い出したのか、ぐったりとしながらベッドに倒れ込んだ。
だが、何も白斗だけが強いわけではない。2人は目の前にいる護からも修行を受けたし、影夜にリオ、ナナシといったかつての英雄からも修行を受けている。いずれも、勝った事は無い。
「どれ、白斗がやり過ぎてないか見てくるよ。お前たちはゆっくり休みなさい」
「ありがとう、父さん」
「……あぁ。どういたしまして」
護が浮かべる微笑みは、真が幼い頃に見た笑みと同じものだった。
護が保健室から出て行くと、真は大きく息を吐いた。
「あ~っ! 何か、ベッドがめちゃくちゃ気持ち良く感じる!」
「それほど体が……んんっ! 疲れてたんでしょう……ふぅ~っ!」
ミツルも力が一気に抜けたのか、息を吐く。その時だった。グゥ~ッ!という凄まじい音が鳴った。ミツルがジト目で真を睨むと、当の本人は苦笑いしながらポリポリと頬を指で掻いていた。
「真さん……」
「悪い悪い。だけど力が抜けたとたんに腹が減ってよぉ」
「確かにお腹は空きましたが……」
真が空腹だと言ったとたん、自分も空腹を感じた。しかし体が痛むために、食堂へ行くことすら出来ない。
すると、保健室のドアが開いた。そこには本音とラウラがいる。
「東風やん~。ご飯持ってきたよ~」
「おぉ、本音! ナイスタイミング!」
「ミツル。持ってきたぞ。私の手作りだ」
「えっ! あ、ありがとうございます」
二人が持っているお盆には、おにぎりの山が出来ていた。普通の人間が見れば、食べきれるのかと疑問に思うだろう。だが、今まで非常識な光景を見て来た彼女たちからすれば、この量は普通の事だった。
「護殿から教えてもらったのだ。『二人は大食いだから』とな」
「私たちだけじゃなくて、かんちゃんにお姉ちゃん、セッシー(セシリア)にデュッチー(シャル)も手伝ってくれたんだ~」
「これは……。ありがとうございます」
「ふふん、どういたしましてだ」
確かに簪やシャルロット、セシリアも手伝った。だが、半分以上は本音とラウラが作ったのは秘密である。
なお、セシリアは鈴や楯無、虚に教えてもらいながら作ったのは余談である。
「そんじゃあ、いただきます!」
「めしあがれ~♪」
真が片手で1つ掴むと、その大きな口でおにぎりを食べる。てっきり塩を振ってるかと思ったが、塩の味はしなかった。その代わりに断面から緑色の何かが見えたので、また一口かじる。すると、ポリッという食感と共に僅かな塩味を感じた。
「(なるほどな! きゅうりの浅漬けを中に入れてんのか!)」
自然と笑顔になり、もう一つに手を伸ばそうとする。だがその手を本音が優しく止めて、お茶を渡す。
「一気に食べると、喉に詰まっちゃうよ? はいお茶」
「お、おう……。サンキュ」
ふと彼女と手が触れてることに気付いた真だったが、本音は気付いてないのかニコニコと笑顔のままだ。少し照れながらも湯呑に注がれた緑茶で一息つく。
その頃ミツルも、中の具が一つ一つ違うおにぎりを美味そうに食べていた。
「んっ、酸っぱい!」
「お? 梅干しに当たったな? 私も食べてみたが、不思議な酸っぱさだな」
「ですが……むしろ食欲が湧きます!」
ラウラからお茶を手渡されて一息ついてから、どれに手を伸ばそうか考える。そして「これだ!」と思った瞬間に真に横から取られた。
「あ、それは!」
「へっへっへ。相棒も狙ってたのか? 悪いが先に取ったモン勝ちさ」
「くぅぅ!」
「ふ、ふふっ……」
「くっ、くくっ……!」
「「ん?」」
子供っぽい一面に、本音とラウラは思わず笑ってしまう。それに気づいた男二人は首を傾げた。
おにぎりの取り合いという一悶着もあったが、部屋が壊されるというような大きな被害もなく、完食した。
「あ~、食った食った! ごちそうさん!」
「お粗末さまでした~」
「ご馳走様、ラウラさん」
「うむ、お粗末様だ!」
窓を見ると、もう暗い。かなり時間が経っていたようだ。
「それじゃあ、私たちも部屋に戻るね……」
「おいおい、そんな寂しそうな顔すんなって。美味い飯も食ったし、あとはグッスリ寝れば明日には回復してるさ!」
「本当~?」
「あぁ。だからほれ……ニパーって笑ってみ?」
「……ニパー!」
「へへっ、やっぱり本音は笑顔が似合ってらぁ」
「あう~。恥ずかしいよ~」
「悪い悪い。……また明日な、本音」
「……うん。おやすみ、東風やん」
「私も戻らねば
「そうですね……。そういえば、今日は外でかなり戦っていたそうですが、大丈夫ですか?」
「明日辺りには、レーゲンの調子を見ないといけない。それと、ユカリとか言う人がモンスターの書物を持ってきてくれるらしいから、ちょっとした勉強会も予定されている」
「紫さんが……。あとでお礼しなければなりませんね」
「しっかりと勉強させてもらうぞ。ミツルたちがどのような生き物と戦ってきたのかを……」
「傷が治り次第、私たちもサポートに回りますから、無理はしないように」
「ふっ、分かってるさ。……おやすみ、ミツル」
「えぇ、おやすみなさい」
こうして二人が保健室から寮へと戻っていった。しばらくの間静寂が訪れる。
最初に喋り始めたのは真だった。
「相棒……。お前って、ラウラと仲良いよな」
「そう言う真さんだって、布仏さん……本音さんと仲良いですよね」
「なぁ、相棒」
「なんです?」
「……もしもさ、もしもの話だぜ? 俺たちがモンスター共に負けたら、どうなっちまうのかな?」
「そりゃあ、悲しむ人が出てくるでしょう。本音さんは大号泣間違いなしです」
「じゃあ俺もお返しするぜ。相棒が死んだら、ラウラが泣くだろうな。『馬鹿者が』って言われるかもしれないぜ?」
「それは勘弁ですね」
再び静かになる。だが、こうやって語り合うのは久しぶりだと、二人は偶然にも同じことを思っていた。
「白斗さんの修行受けた奴、どうしてるかな?」
「シャワー浴びてベッドに倒れこんでるんじゃないですかね?」
「俺たちも初めの頃はそうだったよなぁ」
「ご飯なんて喉を通りませんでしたねぇ」
「咆哮受けた時のお前、今でも覚えてるぜ? あまりの声のデカさに、気絶した上に漏らしたんだよな」
「ちょっ!? 何で覚えてるんですか!?」
「面白いからに決まってるだろ?」
真はカラカラと笑う。
「真さんだって、ナナシさんのモンスター講座聞いてるときに、睡魔に負けて突っ伏しそうになって、墨汁に額を突っ込みましたよね?」
「ちょっと!? それ一夏たちに言うなよ!?」
「さぁ、どうでしょう? 絶対にやるなと言われてやるというのが、外の世界のお約束らしいですからねぇ」
「絶対に言うんじゃねえぞ!?」
昔話に盛り上がるが、やはり疲労のためか大声で笑う程の賑わいは無い。二人ともしばらく黙るが、その日最後の締めくくりは、真の言葉で終わった。
「相棒」
「はい」
「……絶対に勝とうぜ」
「……あぁ!」
コツンと軽く拳をぶつけた。
次回には2人とも復活する予定です。再び戦闘にするか、それともつかの間の休息にするか……。
それでは、次回もお楽しみに!