それでは、どうぞ!
真たちが前線から下がった頃、一夏は雪片を振るいながら相手の様子を伺っていた。
一夏は気付いたのだ。無人機の攻撃が単調すぎる事に。爪を振りかざしたり体当たりをしてくるだけで、ビームを撃ってきたりだとか炎を吐いてくるだとか、そのような攻撃が全く見られないのだ。
「特殊能力を捨てて、数で押しきろうって作戦か……?」
そう疑い始めた、その時だった。
―――――ギッ、ギギギッ
「っ!?」
つい先ほど倒したはずの無人機が、一機、また一機と起き上がったのだ。その様子はまるでゾンビのようだ。
「まさか、そんな……! いや、でも……!」
嫌な予感がした。真たちから聞いた話に出てくるモンスターは、どれも常識では考えられない存在ばかりだった。モンスターは規格外、そういう認識だった。
だが、目の前の無人機たちは、いかにモンスターの力が付与されてるとはいえ、規格外を通り越している。
「死んでも蘇るってのかよ!」
全身から黒いオーラを漂わせ、より激しく攻撃してきた。そこに連携などあったものではない。同時に襲い掛かったせいで衝突するような機体もいる。だが一つだけ言えるのは、先ほどよりも凶暴になって自分を狙ってるということだ。
「っ! そうだ、箒!」
飛びかかってきた無人機を切り捨てて、校舎へ向かう。すぐにシェルターに逃げ込めるよう、箒は校舎付近で戦っていたはずだ。だが、相手がこうして凶暴化した以上、彼女の身が危ない。
「くそっ! どけ! どけよ!」
ようやく好きだと自覚できた少女のもとへ向かおうとしているのに、目の前の無人機たちはそれを許さない。斬っても斬っても起き上がっては突撃してくる。両腕を切られたというのに体当たりしてくる機体までいる始末だ。
「箒! 箒ぃぃぃぃぃぃぃ!!!」
愛する人の名前を叫びながら、一夏は無人機の群れに飲み込まれていった…………。
セシリアがその異変に気付いたのは、空の敵をあらかた殲滅してからだった。簪からの小型ミサイルによる援護のおかげもあって数を多く減らしたのだが、そこから増援が来る様子はなかった。圧倒的な数の暴力を仕掛けてきたにしてはやけに空が大人しいと思って地面を見たときに、それは起こった。
倒れていた無人機たちが、ゆっくりと起き上がったのだ。
当然、奴らは無傷ではない。頭が吹き飛ばされたもの、腕が片方だけ無いものもいる。それなのに起き上がったのだ。しかも様子がおかしい。立ち上がる瞬間、カタカタと痙攣するように起き上がる姿は恐ろしい。おまけに黒いオーラが立ち上ってるように見える。
「まさか、これが能力ですの……!?」
ただ数で押してくるだけでも脅威だというのに、復活した挙句、凶暴化してるのだ。嫌な汗がダラダラと流れる。
すると、ハイパーセンサーがあるものを捉えた。先ほど撃墜したはずの虫の姿をした無人機が、地面を這って移動してるのだ。
「冗談じゃありませんわ! このままでは一夏さん達が!」
何より、自分が仕留めたはずの獲物がまだ生きていたという事実が、セシリアの体を突き動かした。BITのレーザーを乱射しながら、無人機の群れへと突っ込んでいった。
「いい加減、鉄くずになりなさいな!」
二度と移動が出来ないように、足を狙いながらセシリアは叫んだ。
「あ、あぁ……あぁぁ…………!」
「ちょっとラウラ! しっかしなさいよ!」
無人機が豹変し始めた途端、ラウラの顔が青ざめ、ガタガタと震えた。赤い瞳がグラグラと揺れる。
「あ、あいつらは……まさか、まさか!」
「何よ、知ってるの!?」
自分たちより前で戦っているシャルロットを援護するように衝撃砲を放ちながら、鈴はラウラに大声で尋ねる。
「あの時と同じだ! タッグトーナメントの時に、私が凶暴化して豹変した時と!」
「はぁ!? つまり、あいつ等は狂竜化ってやつになってるの!?」
「このおぞましい感じ……間違いない!」
かつて自分自身がそうなってしまったからこそ分かる、相手の異変の正体。だが、それはこの状況を打破できるものではなかった。
「シャル、聞こえた!? 相手は狂竜化してるわ! 攻撃を食らったらマズイわよ!」
「分かってるよ! こっちは避けるのに精いっぱいだよ!」
「ラウラもしっかりしなさいよ! こいつらを倒さないといけない事ぐらい分かってるでしょ!?」
「す、すまん! だが、狂竜化してるならば……!」
ワイヤーブレードを射出し、無人機を貫通する。ワイヤーを引き抜くと無人機は倒れ、動かなくなった。
「やはり、コアを狙えば……! だが……」
右も左も囲まれてるこの状況に、ラウラは歯をギリッと鳴らした。
「はぁ、はぁ……」
「倒しても復活するって、ゲームじゃないんだから……」
楯無と簪は、倒しても倒してもキリがない無人機に、心身ともに疲れ始めていた。いかにロシア代表と日本代表候補性として鍛えてるとはいえ、こうも連戦となっては限界も来てしまう。
「簪ちゃん、武器の方は大丈夫?」
「ミサイルは残弾ゼロ、荷電粒子砲はまだエネルギーがあるけど、撃破できるかは……」
「こっちはガトリングの弾が無くなっちゃった。後はラスティ―・ネイルくらいね……」
「ナノマシンを使った水も、殆ど無くなりかけてるもんね……」
「つまり、私たちは近接武器で戦うしかない、か……」
絶望的だった。目の前の敵の後ろにも、無数の姿が見える。
だが、二人は逃げない。分かってるからだ。目の前の存在を放置したら、学園が、世界が崩壊するかもしれないのだ。
「世界の平和のためって言葉を使うとは思わなかったわね!」
「そうかな! ヒーロー番組にはよくある台詞だよ!」
二人は叫びながら、そして剣や薙刀を振るいながら突き進む。自分たちが移動すれば相手は追撃してくるだろうと読んでの行動だった。
「このまま無人機を引き付けて、校舎から引き離すわよ!」
「うん!」
姉妹は恐怖や疲労を無視して、ひたすら無人機の気を引き付けつつ戦い続けた。
「こんっっのぉぉぉぉ!!」
箒の手のひらから放つ炎が波となって、無人機を押し戻していく。
「いい加減に倒れてください!」
そこへ真耶がグレネードを撃ち込み、まとめて撃破していく。それでも、残骸を踏みつけてまで相手は侵攻してくる。
「箒さん、大丈夫ですか!?」
「はい! 先生は!?」
「私はまだ大丈夫ですが、このままでは……!」
表示されてる残弾のゲージが、赤く点滅していた。すぐにリロードする。これで何回目のリロードだろうか。
「(先輩、お願いします! 貴女の力が必要なんです!)」
真耶は、自身の専用機の封印を解きに行った先輩……千冬の応援を待つ。
戦闘が始まる前に、真耶は千冬からあることを頼まれていた。
『真耶。私は、パートナーの封印を解きに行ってくる。その間、箒を守ってやってくれ』
千冬の言うパートナー。それは、彼女の専用機である『暮桜』。その封印が解かれることは、ブリュンヒルデの復活を意味する。
だが真耶にとっては、千冬からの願いもそうだが、教師としての責任と山田真耶としての感情が入り混じっていた。その混ざり合った気持ちが、彼女を強くさせていた。
一方、箒は嫌な予感がしていた。胸の奥がザワザワするような感覚……。まるで身内に何かあったのではというような感覚があった。
「(一夏……。無事でいてくれ……)」
箒にはただ、祈ることと戦うことしかできなかった。
真とミツル、護と白斗と影夜の目の前にある男が立っていた。白い外套に身を包み、白金のような髪をしている。
「久しぶり、かな?」
「……何もんだテメェ」
男から放たれる気配に冷や汗を流しながらも、隙を見せないように真は振る舞う。目の前の男は穏やかな笑みを浮かべているが、その気配は殺気に近かった。
「私は、天廻龍と呼ばれている……。もっとも、これは人間からの呼び名だがね」
「やっぱりモンスターでしたか……!」
影夜とミツルはナイフを構え、真と護と白斗は拳を構える。
「変わらないなぁ、君たちは。そこのナルガクルガの人間も、ティガレックスの人間も」
「俺たちを知ってやがる!?」
「特にナルガクルガ君には、吸血鬼の子をさし向かせたからねぇ」
「っ! 昔の妹様の凶暴化……! 貴様かぁぁ!」
「よせ、影夜!」
「父さん!」
影夜が能力を発動し、ナイフを投げながら腕のブレードで切りつけようとする。だが男から放たれる黒い球によってナイフは防がれ、影夜自身は吹き飛ばされる。
「ぐうぅっ!」
「君たち大人三人組は、主の仇だ。たっぷり絶望させるためにも、今は退場してもらう」
男が指を鳴らすと、突然無人機が降りてきて護たちを羽交い絞めにする。
「うおっ!?」
「このっ! 離しやがれ!」
「ミツル! 真くん!」
無人機の手のひらに当たる部分から、クモの糸……正確にはネルスキュラの糸が放たれる。それが護たちの抵抗を弱くさせた。
「適当に場外に放り込んでおけ」
「ぐっ、クソォッ!」
無人機はそのまま上昇し、凶暴化した無人機の群れの中へ飛んで行った。男は真たちを見る。
「さぁ、私を倒さないと無人機は起き続けるぞ? 世界中でこいつらは戦い続けるぞ? それを防ぎたくば戦え、東風谷真! 十六夜ミツル!」
「言われなくてもそのつもりだぁ!」
「覚悟しやがれ!」
「私には、黒蛾という名があった。だが生まれ変わった今、新たに名乗ろう」
男が翼を広げると、辺りの空が黒一色に染まる。
「我が名は
最終決戦が、始まる……!
ついに、最終決戦に突入です! 果たして一夏たちはどうなるのか? 護たちは無事なのか? 真たちの勝負の行方は?
次回をお待ちください!