というわけで、どうぞ!
真たちがファイナルバトルへ突入しているころ、ラウラはひたすら防戦に徹していた。ワイヤーブレードで複数の無人機を貫き、レールカノンで別の群れを吹き飛ばす。
だが、それも限界が近づいていた。わらわらと湧き出てくる無人機に、ひたすらエネルギーや弾薬、そして体力と精神力が削られていく。
「(シャルロットも、限界が近い……! どうすれば……!)」
武器のバリエーションが豊富なシャルロットのラファールも、足元に散らばる薬莢の数から相当長い時間撃ち続けていることがわかる。それほど敵の数が尋常ではないのだ。
「くっ……! シャルロット、下がれ! このままでは突破される!」
「でも、ラウラが一人になったらどうするのさ!?」
「そんな事知るか! だが、お前も限界だろう!」
怒鳴るような声になりつつも、プラズマ手刀で敵を溶断する。
「私はまだ大丈夫だ! お前の方が補給を優先したほうが良い!」
「でも、ラウラだってカノン砲の弾少ないでしょ!?」
「それでもなぁ!」
押し問答と化している間にも、無人機は次々と葬られていく。そしてそれ以上に湧いて出てくる。中には壊れた部分を、既に事切れた機体からちぎり取って修繕してくる個体までいる始末だ。
「本当にゾンビみたいな奴らだ!」
「こういうのは映画だけで良いのに!」
すると、上空から弾丸の雨が降り注ぎ、それに続いて影が敵を次々と斬りつけていった。
「っ!?」
「あれは……学園の量産機?」
シャルロットとラウラの目の前に立つのは、学園が保有している量産機、ラファール・リヴァイブと打鉄。だが操縦者は頭をすっぽりと覆うようなヘルメットを着けているため、素顔がわからない。
「あー、お前ら。とっとと補給行ってきな」
「(変声機か……。何者なんだ?)」
「今からマップデータを送るから、そのルートを進みなさい。特にドイツの子。貴女に渡したいものがあるって、篠ノ之博士が言っていたわよ」
「篠ノ之束だと!?」
「ほら、とっとと行った! 出来るだけ早く戻って来いよな!」
何が何だか分からないままに進むラウラとシャルロット。その様子を見届けた量産機の操縦者は、敵の方へ向き直る。
「なぁ、スコール。学園のもんパクッておまけにリミッター解除して参戦してるけどさ……。いけると思うか、これ?」
打鉄を纏っているオータムが、ラファールを纏っていたスコールに話しかける。
「あいつらは、私たちを海上に落とした上に、組織も潰した敵よ? いけるじゃなくて、行くの」
「へっ! だと思ったよ。そんじゃあ暴れるとすっかぁ!」
二人は一気に駆けだした――――!
二人が急いで飛んできた先に、目的の人物はいた。アリスのような恰好を思わせるドレス、機械的なウサ耳。間違いようがない。
「ラウラ、シャルロット!」
「箒! 無事だったのか!」
「何とかな……。山田先生も、この通りだ」
「あれは、博士の手助けがあったからです。お二人も無事で何よりでした」
束の側にいた箒と真耶も、疲労してるのか少し汗をかいているが、目立った外傷はなかった。安堵していると、束が苦笑しながらラウラたちのもとへ来る。
「はいはい、感動の再会と言いたいところだけど、今は無人機の群れを何とかするのが先だよ~。ってことで、まずはそこの金髪ちゃんから!」
「僕のこと!?」
「時間もないし、一気に行くからね~」
「ちょ、ちょっと待って!? ひゃんっ!?」
束が背中から機械のチューブのような物を伸ばすと、装甲の隙間などからエネルギーを注入していく。さらにシャルロットの胸元の辺りにチューブを差し込むと、束は残像が見えるほどのスピードでキーボードのようなものを動かしていく。チューブが刺さったときに変な声が出たのはご愛敬だ。
「弾薬補充とエネルギー補充を同時に、しかもあんなスピードで……」
「姉さん、そこまで凄かったのか……」
「いや~ん! 箒ちゃんに褒められちゃった~! ってことで、ホイ完了!」
「あ、ありがとうございます……?」
「お次は銀髪ちゃんだけど、君にはパッケージを装備してもらうから、時間かかるよ」
「パッケージ、ですか!?」
「そう。もうまとめて吹き飛ばした方が良いだろうからね! というわけで、くーちゃーん!」
すると、束の掛け声とともに、ラウラと同じ銀髪の少女が現れた。目を閉じているだけでも不思議な感じが漂ううのに、ラウラにとっては懐かしさのようなものを感じた。
「お前は……」
「クロエ・クロニクルと申します。色々とお話ししたいでしょうが、時間がありません。エネルギー補充及びパッケージの換装を行ないます」
「あ、あぁ……」
束とクロエによって、淡々と換装が進められる。ラウラはどこか気まずさのようなものも感じながら、目の前のモニターに表示された装備を見た。
「これは……パンツァー・カノニーアではないか!」
それは、80口径レールカノン『ブリッツ』を両肩に装備し、4枚の物理シールドが左右と正面を防御するという、完全な砲撃装備であった。
「良いかい、銀髪ちゃん……いや、ラウラちゃん。君には重要な任務を与えるよ」
「え……?」
それは、まさに無人機と戦っている仲間を救えるかもしれない作戦だった。
IS学園にある複数の施設の内、損傷が少ない建物。その屋上にラウラは居た。側にはシャルロットが護衛についている。
《では、改めて作戦を説明します》
クロエの淡々とした声が聞こえる。
《あなたのレールカノンで発射する砲弾は、滅龍炭という物質を高密度に圧縮したものです》
「滅龍炭……。まさに、モンスターを討つための砲弾か」
《なんでも、開発者はミツル様の故郷の方だとか》
「なるほど、納得だ」
《内容は簡単です。モニターに、着弾予測地点が表示されてますね?》
「あぁ。私はそこに砲弾が着弾するように、射角を調整する」
《そして、学園生の退避が完了次第、私が合図します。それと同時に撃ってください》
「了解した」
《…………》
「どうした?」
《いえ、何でもありません。シャルロット・デュノアが護衛につきますので、貴女はどっしりと構えていてください、ラウラ・ボーデヴィッヒ》
「分かった。では、作戦を開始する」
通信は切れていないが、クロエは心の中で、静かに妹の無事を願う。
「(貴女には想い人がいるのです。死んだら、姉として許しませんよ)」
射角を調整し終えると、仲間たちから次々と通信が入ってきた。
《ちょっとラウラ!? 何かあんたがとんでもない砲撃するって聞いたんだけど!?》
《鈴さん、落ち着いてくださいまし! ラウラさん、私たちは避難完了ですわよ! 思いっきり撃ってくださいな!》
鈴とセシリアは、相変わらずだ。自分を相手にタッグを組んだ時以来、コンビ仲が良くなっている気がする。
《ボーデヴィッヒ。話は束から聞いた。頼りにしているぞ》」
《決めてやってくれ、ラウラ!》
憧れの教官と、仲間の一夏の声がする。彼女のおかげで挫折から抜け出せたし、彼のおかげで沢山の仲間と出会うことが出来た!
《ラウラちゃん、こっちもOKよ。護さん達が突破口を開いてくれたおかげね》
《頑張って、ラウラ!》
《嬢ちゃん。思いっきり決めてやりな!》
《ナナシが作った特殊な砲弾だ! ぶちかましてやれ!》
《お願いします、ラウラさん!》
出会ったばかりでまだ交流も少ない先輩に、同じ代表候補生の簪。そしてモンスターという脅威に対して責任をもって戦い続ける人たち。
《私たちも退避完了よ》
《ったく、人使いが荒いぜ博士~》
《うるさいな~! あっ、もうみんな退避してるよ~!》
《ラウラ! 私たちは信じているぞ!》
《頑張ってください、ボーデヴィッヒさん!》
《ラウラん、頑張れ~!》
《私たちサポート班も、信じています!》
裏から支えてくれる人たちえもが、自分を応援してくれている!
「いよいよだね、ラウラ」
「シャルロット」
「どうしたの?」
「私は……仲間というものを改めて実感できたよ」
「……そっか。ラウラ、本当に嬉しそうな顔してる」
「ミツルにも、伝えたい。きっと彼も頑張ってるだろうから……」
「じゃあ、そのためにも成功させないとね!」
「あぁ!」
すると、クロエから通信が入った。
《良かったですね、ラウラ。沢山の激励を貰えて》
「うむ。敵の状況は?」
《こちらの狙い通りに、着弾予想地点に集まっています。これより、カウントを開始します》
カウントが始まる。ラウラは唾をゴクリと飲み込んだ。
《3……2……1……! 発射!》
「いっけぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」
砲口にバチバチと赤黒い雷が集まる。黒い球が徐々に大きくなる様子に、ラウラは叫ぶ。
「シャルロット、耳を塞いで口開けろ! 鼓膜が破けても知らんぞ!」
「っ!」
言われた通りにする。その瞬間、二人を凄まじい衝撃波が襲った。
「うっ、ぐうっ!」
「うわぁぁっ!?」
衝撃波の原因は、先ほどの黒い球が発射されたからだった。砲弾は放物線を描き、予想地点へ綺麗に着弾する。
その瞬間、赤黒い雷が走るドーム状の爆風が発生した。
「うわぁ……」
「何て威力だ……!」
だが、この砲撃によって、専用機持ち達が苦戦していた無人機の殆どが、消滅した。
いよいよ、白亜を討つだけである……!
いよいよ、ラストです! 長かった……! ここまで来れた……!
次回もお楽しみに!