敵との決戦を終え、千冬たち大人組は学園の修復に努めていた。千冬の目の前では、戦いに協力してくれた護たちが、突如現れた謎の女性―――確か八雲 紫と呼ばれていた―――と共に、何か話し合っている。
「では、ウイルスの心配はしなくて良いんだな」
「えぇ。戦ってる間にナナシを送り込んで世界中を調べさせたけど、ウイルスの反応があったのはここだけ。だけどそれも、白亜という男が倒れたことで消えてなくなったわ」
「ただ純粋に、真とミツルだけを狙ってたってことか。ウイルスさえ使えば世界支配なんぞ簡単だったろうに。……舐めプかよ」
「そう言えば、戦ってくれた戦士たちはどうしてるの?」
「今は、戦いの傷を癒しています。特に真くんとミツルは、治るのに時間がかかるそうです」
「そう……。じゃあ、お邪魔しちゃ悪いわね」
どうやら、世界へのウイルスの飛散は心配しなくて良いようだ。すると、珍しく協力してくれた友人がやって来た。
「ちーちゃん」
「束か。どうした?」
「……暮桜は、どうするの?」
「……聞くと思ってたさ」
千冬は、手にある専用機の待機形態を見る。コア人格とも話し合って、決めたこと。それは……
「封印はしない。だが、練習機と同等のリミッターはかけるつもりだ」
「やっぱり、世界中のおバカな連中が狙ってくるから?」
「そうだ。ただ狙ってくるだけなら、封印すればいいだろう。しかし……」
千冬は校舎を見る。あの建物の一室で、自分よりも格段に若い教え子が、そして弟が傷を癒しているのだ。
「今の私は、教師としての織斑 千冬だからな。専用機を持つということはどういうことなのかも、教えてやる必要がある」
「……そっか。分かったよ」
「そういうお前はどうするつもりだ。途中から協力してくれたあの三人……いや、ラウラに似た少女を除いて二人は、今は壊滅したとはいえ元はテロリストだぞ」
「相も変わらず、逃避行を続けるさ~。それにあの二人、中々に役立つし」
「……相変わらず、いや、人と接する辺りは変わったか」
苦笑する千冬。笑う束。二人の目の前では、話を終えた護たちが瓦礫の撤去をやっていた。
「束。マドカのことなんだが……」
「今度の休みにでも、ちーちゃんの家に行かせるつもりだよ。その時はいっくんも……ね?」
「あぁ、分かってる。マドカのことで一番傷付いてたのは、あいつだったからな」
「その時までにお部屋も片付けておくんだよ~?」
「最後の一言は余計だ!」
「ぬにゃあぁぁぁ!」
ニヤニヤと笑う束に、千冬はアイアンクローをかけた。事務処理に追われる真耶とクロエは、そんな二人に手伝いを求めるのだった。
新学期。多くの生徒が学園へやってくる中、校門へ向けて歩く二人組が居た。本音と真だ。
「すっかり元通りになってるね~」
「俺たちが傷を治してる間に、父さんたちが修復を手伝っていたらしいぜ」
「感謝感謝~」
大量の無人機による攻撃の跡はすっかり無くなり、アリーナや校舎といった建物も元通りになっていた。これも、戦闘を終えた後でも体力の残っていた大人組や、束たちの力があってこそだろう。
「おはようございます、真さん、本音さん」
「おう、相棒」
「ラウラん、おはよ~」
「おはよう。二人とも元気そうで何よりだ」
そこへ、ミツルとラウラの二人が現れた。その二人は……恋人のように腕を絡ませて歩いている。
戦いを終えてから倒れたミツル。目を覚ました時に目に入ったのは、心配そうに見つめるラウラだった。そしてミツル自身も、彼女の無事に安堵した。
『私と、恋人としてお付き合いしていただけないでしょうか』
真摯な顔で告白され、ラウラが断るはずもなかった。そこからである。二人がバカップルのようになり始めたのは。
「ふふっ、とても仲睦まじいですわね」
「おう、セシリア。おはようさん」
「真さん、ごきげんよう」
カップルらしい姿を見せつける二人に苦笑を浮かべるセシリア。その後ろから、見慣れたメンバーがやってきた。
「何よ何よ、見せつけてくれるじゃない~」
「どうりで他の人たちも騒いでるはずだよ」
「おや、鈴さんにシャルロットさんまで」
「この流れだと……」
すると、ラウラの予想した二人組がやって来た。
「おはよう、みんな」
「お、おはよう……」
「何だよ箒、いつまで恥ずかしがってんだ?」
「こ、このつなぎ方はまだ慣れない……」
一夏と箒の二人組である。しかも、手と手のつなぎ方は、俗にいう『恋人つなぎ』である。一夏が堂々としてるのに対して、箒は顔を赤くしている。その様子に他の生徒たちは大騒ぎだ。
「うそ、織斑くんと篠ノ之さんが!?」
「いや、でも織斑君が無意識でやってるんじゃ……」
「でも見て! 織斑くんも若干顔赤いよ!」
「て、事はもしかして、もしかしなくても……!?」
「「「キャアァァァァァァァァァァ!!」」」
周りから黄色い歓声が上がる。そのせいで更に顔を赤くする箒、
そう。あの戦いの後、一夏は彼女に告白した。最初こそ戸惑った箒だったが、返事は当然……
『ふ、不束者だが、よろしく頼む……』
そしてその告白シーンを、彼に惚れていた鈴とシャルロットは見ていた。当然二人は泣いた。部屋で大泣きし、風呂場でお互いに涙を流しあった。そしてそれ以上に、二人は闘志を燃やしたのだ。
「(箒。アタシは諦めるつもりはないからね!)」
「(卒業までが勝負! 初恋を諦めるつもりはないんだから!)」
「(ふ、望むところ! 私とて慢心するつもりなど毛頭ない!)」
「(絶対に俺のことか何かで、火花散らしてんだろうなぁ……)」
密かに火花を散らしてるつもりの三人だが、一夏を中心にバレバレだった。
「あらあら、とても賑やかね~」
「あんな公衆の面前でイチャイチャしてたら、目立つのも当然」
「みなさーん、あまり騒がないでくださーい」
今度は楯無に簪、虚がやってきた。あまりにも騒がしいため、虚が野次馬たちを散らせる。
「ここまで来たら、真くんもやるべき」
「か、かんちゃん!?」
「何言ってんだ!?」
思わず顔が赤くなる本音と真。それをからかうように、楯無と虚が追い打ちをかける。
「虚ちゃん、あの告白は凄かったわよね~」
「はい。とても大胆かつシンプルで、しかも私たちがいる前でという勇気が要る場所にも関わらず……」
「うわあぁぁぁ!? 解説するの止めてくださいよ!?」
「お、お姉ちゃん~!」
真はあの戦いのあと、蓄積したダメージが祟ったのか、倒れてしまった。それを付きっ切りで看病してくれたのが、本音である。
そして傷が治り、立ち上がることも出来るようになったときに、真は思い切って想いを伝えた。
『俺は、本音が好きだ!』
すごくシンプルな、しかし想いを伝えるには十分な言葉。それには本音も顔を赤くしながら「は、はい……」と小さな声で返事してしまうほどだった。
「嘘でしょ、男子三人にもう恋人出来てるなんて……」
「夏休みの間に何があったというの!?」
「これは、ぜひ聞いてみないと!」
大人しくなったはずの野次馬たちが、再び騒ぎ出す。真は冷や汗を流した。
「これはヤベェな……」
「ど、どうしよう~!」
「こうなったら……本音、掴まれ!」
「え? うひゃあ!?」
真の取った行動に、周りからは「おぉ~!」と歓声があふれる。
「おやおや、お姫様抱っことは」
「ふっ。真も案外やるな」
「どうする箒? 俺たちもいつかアレやるか?」
「ばっ、今やったら恥ずかしくて死んでしまうぞ!」
カップルたちはその行動に暖かい目をしたり、自分たちもやってみようかと考える。
「あらまぁ、大胆」
「恋人つなぎを通り越してるわね……」
「ワイルド~! ヒューヒュー!」
「本音ちゃん、幸せそうねぇ」
「ふふ、顔は真っ赤だけどね……」
「良かったわね、本音……」
他の仲間たちは、その行動に少しだけ顔を赤くしたり、本音へのエールを送ったりしていた。
「は、恥ずかしいよ~!」
「大丈夫だ! 教室に入っちまえば、あとは織斑先生と山田先生がなんとかしてくれる! 行くぞぉ!」
真は、愛しい人を抱きかかえると、風のように走るのだった。
竜の血を継ぐ者、完結です。ここまで読んでくださり、本当にありがとうございました!
この話を投稿後、活動報告にてあとがき等を書くつもりです。
本当に、ありがとうございました!