「お、おい!どういうことだよ!?」
「遊矢!この男権現坂。出場権を懸けてお前とのデュエルを申し込む!親友だからこそ、情けを捨てて全力でお前を倒す!覚悟するがいい、遊矢!」
ニコ・スマイリーに連れてこられた遊矢の前に立ちはだかるは彼にとっての唯一の親友。その場面は舞網チャンピオンシップの出場権が懸かっている重要な4戦目。互いに大会への出場権を懸けたこの戦いで唯一無二の親友とのデュエルが行なわれようとしていた。
この二人の様子を別室でその様子を見守っている者達が存在する。当日に榊 遊矢との接触を一切禁じられた遊勝塾の関係者達である。これはプロデュエリストを目指す榊 遊矢の成長を信じたニコ・スマイリーがアウェーの空間を作り出すためにあえて遊矢の応援団を排除したのだった。
プロたる者、例えアウェーの場所であっても自分の力を発揮しなければならない。
これがニコ・スマイリーが遊矢に伝えたいことであった。少々強引であるかも知れないが、まだ身内の関係者であることが救いであろう。これを乗り越えられなければプロを目指す者として、必要なものが欠けているに他ならない。
「二人とも初の真剣勝負だ。頑張れ!」
「お父さん、もう少し静かにして!」
「す、すまん」
「応援もいいんだけどさ、聡はどこにいったの?」
柊 修造が画面越しに応援しているのを見つつ、素良が柚子に問いかけた。
彼等の中に九条 聡の姿がいなかったためだ。今回は遊矢の応援団を全員排除している。その中には勿論彼も入っているのだ、例外はない。しかしこの場に彼の姿はどこにもいなかった。
「聡はみんなでここに来る前に美人な人から呼び止められていたわよ」
「美人な女性?」
「うん、私も詳しくは知らないんだけど・・・でも聡はユースに出場するからそれに関係する話じゃないかしら?ニコさんも彼女を見て驚いていたし・・・」
「聡兄ちゃんも大変なんだね」
ここにいる人々は例の美人な人と面識が無いため知らないが、その人は藤原 幽香である。
これから遊勝塾と彼女は関っていくことになるのだが、それを知る由も無い。
「聡はユースなのかぁ・・・残念。シュニアユースだったら僕が全力で倒そうと思っていたのに」
「文句言わないの。年齢の関係上ジュニアの年齢じゃないんだから仕方ないでしょ?」
「そうだけどさぁ」
不貞腐れた素良の態度に苦笑する柚子。それも素良と聡のデュエル後、素良は再戦を申し立てていた。聡にも事情があったのかは知らないがこの要求をのらりくらりとかわしていたのだ。
当の本人からすれば厄介事は避けたいという理由だけで逃げていたのは内緒である。
「さて、始まるよ」
柚子と素良の会話を遮るように言われた榊 洋子の呟きに、遊勝塾の関係者は液晶に映っている光景に視線を集中させる。
まさに今、親友同士の真剣勝負が行なわれようとしていた。
◇◆◇◆
「突然の訪問、申し訳ありません。今、お時間はありますでしょうか?」
時を少し遡ってみよう。
遊矢のためとニコ・スマイリーに連れられて権現坂道場へと向かおうとしていたとき、遊勝塾にやってきた幽香がそう自分に聞いてきた。
遊矢と権現坂のデュエルを邪魔しないために向かっていたのだが、彼女が何時にもなく真剣な表情をしていたのでニコ・スマイリーに理由を告げて彼等と別れたのだ。幽香を見たニコ・スマイリーは大変驚いた表情をしていたが何故なのだろうか・・・?
「ご迷惑になることは存じ上げております。それでもどうか、
「いいよー」
「無理は承知の上で・・・えっ?」
近くの店に入り、どんな用なのかを話すように促した。
彼女の口から出た言葉は自分に師事したいとのことであった。
そしてその用件を了承したら驚かれた。解せぬ。
「本当に...宜しいのですか?」
「うん。デュエルが出来るようになれば自分の身を護れるようになるからね。俺でいいのなら教えれることは教えるよ」
「ありがとうございます!」
心底うれしそうな笑顔で答えられ、こちらも照れくさくなる。
はっきり言うと彼女、藤原 幽香は聡にとって理想に近い女性である。そんな女性からの頼みごとを聞き入れないのは男が廃るというものだ。というのは建前で軽い下心があることは否定はしない。
しかし、この世界では彼女を助けたときのようにデュエルが基本のラインであり、デュエルが出来ないものは基本的に軽視される。
あの時彼女が絡まれていたときに追い返せなかったのも彼女自身、デュエルが出来ないから起こった状況である。裏を返せば彼女がプロにも劣らないレベルにまで昇華することが出来れば基本的に彼女の安全はある程度保障されるのだ。まぁ、リアリストを相手にするならば話は変わってくるのだが、こればかりは仕方の無いものだろう。
「教えるのは構わないんだけど、どの程度知っているのか教えてほしいんだけど・・・」
「ご心配要りません。ルールはある程度存じ上げております」
「あ、そうなんだ」
コンマイのルールをしっかりと理解できているならば話は早い。が、それ以外に一体何を教えろと・・・あぁ、そういえばこっちではシンクロやエクシーズはあまり広まっていないんだった。
「基本的なルールを知っているのならあとは簡単だな。ならどんな戦い方がしたいとかある?」
「どんな戦い方かはなんとも言えません・・・ですが私が持っているカードでしたらこちらに」
幽香はそういうと机の上にカードを並べていく。
ふむ、個人的には結構揃っていると思う。元の世界の値段を知っていると全体的にこちら側の値段がぼったくりに見えるぐらいってか見えるレベルであるからこそ、これほど揃っているのは驚いた。エクシーズやシンクロのカードもある。なんでこんなに持っているのにデュエルをしていなかったのだろうか・・・
「結構揃ってるな・・・これならある程度のデッキは組めるかもしれない・・・。幽香さんはこの中でこれは使いたいってカードあります?見た目だけでもいいんで」
「使いたいカード・・・ですか?」
きょとんとした表情になった幽香は少しして机に並べたカードを見渡す。カードを手にとっては元の場所に戻しを何度か繰り返し、一枚のカードを取って納得したように頷いた。
そのカードを聡は確認し、彼女に話ながらデッキを構築し始める。そして少しして、出来上がったデッキを彼女に渡す。
「んじゃ、実際にデュエルしてみて慣れていこうか。うろ覚えだけど動きはわかると思うから、教えながらやるよ~」
「は、はい!よろしくお願いします!」
聡の呼びかけに幽香はしっかりと向き合い、返事をする。
藤原 幽香はこの日を持って一般人から、
◇◆◇◆
時刻はすでに17時を回っていた。
場面はLDSの一室に移る。
「社長。失礼します」
「中島か」
LDS社長である赤馬 零児はその側近の中島による報告を聞いていた。
その内容とは後1週間までに控えた舞網チャンピオンシップに関する重要な案件であった。
「ほう、では決まったか」
「はい。榊 遊矢のジュニアユース選手権出場が決まりました」
「そうか、これで私が見込んだデュエリストは全て集まったということか」
報告を受け、零児は手元にある資料を確認する。その内容は舞網チャンピオンシップの出場が決定している選手のデータが書かれていた。この中にジュニアユースへの出場が決定した榊 遊矢、紫雲院 素良、柊 柚子の名が書かれていると共に零児の推薦でユースへの出場が決まっている九条 聡の名も記載されていた。期限まで後6日あるが零児にとっては気にすることではなかった。
「あと1週間で私の計画が実行に移されるということか・・・」
「それと光津 真澄、刀堂 刃、志島 北斗の件ですが」
「・・・記憶の抹消は終わったのか?」
「はい。あの夜に黒咲 隼とデュエルしたことは勿論のこと、それまでの彼との経緯の抹消も完了しました」
「ご苦労」
側近の口から記憶を抹消したという恐ろしい発言が出るにも関わらず、零児は当然だと言うかのように静かである。そして最初に出た言葉は己の計画のために動いてくれる者達への労いの言葉であった。
「これで黒咲が大会に出場する環境が整ったというわけだ。あとは出場者の中でどれほどの者が実力を発揮し、世界のための槍となれるか・・・それが一番の問題だな」
この場で名前が挙がっている黒咲 隼という男。
この男は最近起こっていたLDS襲撃事件を引き起こしていた張本人であり、本来であるならば今回行なわれる大会に存在してはいけない男である。
しかし赤馬 零児は上に名が挙がっている3名の行動を利用し、彼との接触に成功した。そして自らの身柄を条件に黒咲に大会に出場するように促したのであった。
目的のためであるならば多少の犠牲は問わない考えを持つ彼にとってこの程度の行動は何も問題がなく、むしろ今後のための布石としての行動である。
「今後の予定は事前に決めていた通りにしてくれ。異常や問題が発生しないように厳正にこの事にあたれと伝えろ」
「了解しました」
中島が零児の指示を受けて部屋から出て行く。
零児は椅子から立ち上がり、ガラス越しに舞網市を見渡す。
少しずつ暗くなり始めたことでポツポツと街灯が点き始めていた。
アクションデュエルが盛んなこの舞網市。この平和な街は零児にとって大切な存在だ。
彼の予想が正しければもうずぐこの地に
このままいけば舞網市全域が混乱し、余計な被害まで発生してしまうだろう。
そんな最悪な事態を引き起こさないために考え、練り上げたのが今回の計画であり、決して失敗することは許されない。
「迫りくる脅威に対抗する。これを一体どれだけのデュエリストが出来るのか・・・こればかりは起こってみなければわからんな」
今決め付けていても何にもならない。
そう決定づけて零児も部屋を後にする。向かうは研究部署。彼が扱う【DD】の最終調整を行なうためだ。
榊 遊矢のペンデュラムを模倣し、九条 聡の安定した召喚エネルギーをこの目で確かめ、その情報を用いて己の命を預ける身体の一部を完璧に仕上げなければならない。
計画の実行日には何が起こるかは全く判っていないのだ。念には念を入れておいたほうがいい。
「・・・彼には私の計画を伝えても問題はないだろう」
そうして零児は一本の電話を入れた。
閲覧ありがとうございます。
フェイバリットデッキの安定感がブレッブレの〇坊主です。
ここからほんの少しだけ展開を早くしていきたいところです。
聡氏の残りの精霊二人も早く出してあげないと拗ねてしまいそうな気がします。
投稿の頻度は最低週1で挙げられるようにしていきたいですね。
継続は力なりってやつです。
それではまた次回お会いしましょう。
お楽しみは、これからだ!