遊戯王 就活生の現実逃避録(物理)   作:〇坊主

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 ひらがなだったレモンの名前を漢字にしました。


13ターン目『男は頭があがらない』

琰魔竜(えんまりゅう) レッド・デーモン》

 

 

 それは漫画のキングことジャック・アトラスが用いる決闘竜。

 漫画での効果はこのカード以外のフィールド上の攻撃表示モンスターを全て破壊するという強力な効果だ。メインフェイズ2でも発動でき、デメリットは自身の効果でモンスターを破壊できなければこのカードは攻撃できなくなるというものだった。

 しかしOCGではメインフェイズ1でのみ発動でき、破壊効果を使用したターンはこのカードしか攻撃が出来ないという効果になり扱いやすくなったと言えるだろう。

 

 

 彼女がこのカードを使ったのはデュエルを教えながらやっていたときのことだった。

 シンクロ召喚になれてきた彼女は漫画レモンを突然シンクロ召喚してきたのだ。

 

「私は《琰魔竜 レッド・デーモン》をシンクロ召喚します!」

「はい!?」

 

 そんな声を出してしまったのは仕方のないことだと思う。なにせ師事をしてきたときに使ってみたいカードの中にこのカードは入っておらず、フィール世界の決闘竜はこちらに存在しないと思っていたから尚更だ。

 だがそうではないらしい。

 値は張るが存在するのだろう。そう思っていたのだが・・・

 

「・・・あら?私、こんなカード持っていましたっけ・・・?」

 

 どうやら無意識にデュエリスト特有の力で創ったようだ。カード作製に苦戦している赤馬 零児涙目の出来事である。

 

「まぁいいです。《琰魔竜 レッド・デーモン》の効果を発動!“真紅の地獄炎(バーニングラァァァブ)”!!」

「MA☆TTE!」

 

 その後、ミラーフォースであっけなく退場してもらったが彼女の可能性がすごく広がった日であった。

 

 

 

 

 

  ◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 彼女が生み出した決闘竜は雄たけびを上げた後、主人を護るように幽香の前に姿を納める。

 その光景はまさに絵になるものだった。

 畏怖を与える姿でありながら見とれてしまうモノを持ち合わせていたのだ。大型モンスターを召喚したというのに司会も含めて一瞬だけ無音になり、その後歓声が上がったのはこれが理由だろう。

 

「《琰魔竜 レッド・デーモン》のモンスター効果!このカード以外のフィールドに存在する攻撃表示モンスターを全て破壊します。“真紅の地獄炎(クリムゾン・ヘル・バーン)”!!そしてレッド・デーモンでダイレクトアタックです。“極獄の裁き(アブソリュート・ヘル・ジャッジ)”!!」

「なんだとぉ!?」

 

阿導:LP1300→0

 

 邪魔するものは全て真正面からぶち抜くと言わんばかりの効果によりカタストルは消滅。

 防ぐものが無くなった相手はアクションカードを取る暇もなく獄炎に飲み込まれたのだった。

 

 

『お見事です!勝者、藤原 幽香選手!!』

 

 

 進行役の言葉を背に受けながら幽香がこちらに歩いてくるのを確認し、声をかける。

 

「試合お疲れ様。大丈夫そうだな」

「はい。こちらの無茶を通してもらっているからには結果を残さなければいけませんからね」

「幽香お姉ちゃんかっこよかったよ!」

「痺れるくらいかっこいいデュエルだぜ!」

「ふふっ。ありがとうございます」

 

 周りに気づかれないように幽香に目配せをする。彼女はわずかに頷く。

 試合終了後に零児の元に向かうように指示されているためだ。

 ある程度の実力は示したので加入は問題ないであろうが、融合次元に強制送還された素良の件を考えると近いうちにアカデミアからの尖兵が送られてだろうと零児は読んでいる。

 大方、今から侵略に対して防衛線を張れる人の選定でも行なうのだろう。

 

「塾長すいません。LDSの社長さんにお呼ばれしてるのですこし離れますね」

「赤馬 零児から?大丈夫なのか?」

 

 零児の名前を挙げると塾長が怪しむ表情になる。

 前回遊勝塾を取り込もうとしていたLDSのトップということもあるだろうが、彼から指名されていることに不信感を持っているのだろう。

 

「心配要りません。引き抜きとかでは無いですし、大会に推薦してもらった件もありますからね」

「・・・わかった。何かあったらすぐに連絡をしてくれよ?」

「勿論です。では失礼します」

 

 許可を貰ってその場から離れる。

 幽香も後から追いつき、そのまま社長がいるであろう一室に向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ですから納得がいかんと言っておるのです赤馬 零児殿」

 

 部屋に通されると厳格な顔立ちをした男が赤馬社長に直訴しているところだった。

 パッと見た感じだと60辺りと言った所だろうか。だがそれを感じさせないぐらいの勢いと活気に満ち溢れていた。

 素人目から見てもただの市民ではないのは確かなのだが、なぜ憤慨しているのかは当然だが全く理解できなかった。

 

「納得できないと言われましてもこの大会に出場するのは各個人の意思を尊重するものであると何度もご説明したはずだ」

「いくら各個人の意思を重視していようとそれを我々の関係者にも通してもらっては困るのですよ。こちらはこちらの事情というものがあるのです。それに「あの~」っ!?」

 

 このままだと口論をずっと続けそうだったので強引に割り込む。

 ようやくこちらに気づいたのか零児はそのままこちらに目線を移し、直訴していた老人はこちらを視野に入れるが否や掴みかかってきた。

 

「貴様か!我が娘に余計な知識を植えつけおった部外者は!?」

「は、はい!?話が全くわからないんですけど」

(とぼ)けるな!貴様が吹き込んでいることはすでに調べがついておるのだ!」

 

「・・・藤原 家勝(ふじわら いえかつ)殿。話を一旦まとめなければ何も知らなかった者に正しくは伝わらないと私は考えるが?」

「・・・ふん。そのぐらいわかっとる。じゃが理解してるのと納得するのは別であろう」

 

 零児に諭されるとしぶしぶ解放された。

 

「藤原・・・てことは幽香さんの」

 

 同じ苗字であることでふと彼女のほうを見る。

 彼女は静かに目の前の老人を見つめていた。まさに射殺さんばかりに。比喩ではなく、だ。

 

「お久しぶりですね、伯父様(おじさま)。私の目前で行動に移すなんてらしくありませんことよ?」

「う、うむ。久しぶりじゃな幽香よ。だからせめてその表情は止めて欲しいのだが・・・あ、笑顔はもっと止めてください。お願いします」

 

 幽香の表情が笑顔に変わったのを見て、幽香の伯父は態度がすごく低くなった。

 先程までのオーラは何処へやら。完全に尻に轢かれているようにしか見えなくなった。

 そんなことを思った聡には目もくれず、幽香は一層笑顔を強める。

 

「ふふふ。まさか藤原家当主とも在ろう御方が孫娘の恩人に失礼な態度を取るとは思いもしませんでしたわ。私が慕っている伯父様がまさかそこまで無礼な方であるとは生まれて初めて知りました。えぇ、ほんとに。先祖代々続く藤原家の現当主が恩を仇で返す様なだらしない存在に成り果てていると知ったらさぞかしお母様は悲しむでしょうね」

 

 うん。今すぐ止めてください。般若が俺でも見えます。

 ほら周りの人は見えてないけどサクラがすごく怖がってるから!

 伯父様も凄く絶望したような表情になっているから!

 なぜかアキは同類を見つけたと言わんばかりのいい顔になってるから止めてください。

 

「こ、これはですね。いくら「誰がしゃべっていいと言いましたか?」申し訳ありませんでした!」

 

 第一印象は悪かったが今の姿を見ていると凄くかわいそうに見えてきた。

 零児もなんとも言えない顔になってしまっている。

 

「ゆ、幽香さん?そろそろ落ち着いてくれないと話が進まない・・・と思うのですけど・・・」

 

 助け舟を出すと家勝はとても嬉しそうな表情になり、笑顔のまま幽香がこちらを向く。

 本来笑顔とは攻撃的なものであるという話は何度か聞いたことはあったが、本当なのだと本能的に理解した。おっかねぇ・・・

 

「・・・わかりました」

 

 聡様がそういうならと呟きながらも超攻撃的な笑顔を止めてくれた。

 それに併せて部屋の雰囲気がとても和らぐ。

 その後伯父さんから感謝され、仲良くなったのは語る必要もない。

 

 

 

 

「うむ。出場の件はまだ良しとしよう」

 

 先程の状況から立ち直った家勝は愛娘の話を聞いてしぶしぶながら納得した。予め言ってほしかったなどと呟いていたが彼女の耳に届いたのかは定かではない。

 そして出場の件で揉めていたのではないのかと思ったのだがどうやらそれだけではないらしい。

 

「幽香よ。なぜ藤原家が代々受け継ぐデッキで出場しなかったのじゃ?無くしたというわけではあるまい」

 

 代々受け継がれるデッキ・・・つまる所はサイバー流道場やサイコ流のデッキのようなものだと考えてよいだろう。

 

「勿論無くしてなんておりませんわ」

「なら何故じゃ?」

 

 当然の疑問に家勝は言葉を発する。確かに代々伝わるデッキを持っているならば、聡と一からデッキを構築する必要性は特にないのではないだろうか。

 それに初めて出会ったあの日もモブ達を追い払えた可能性もあるのだ。しかしそのデッキの存在を彼女は話したことは一度も無かった。

 使用せず、言葉にすら出さなかったのには一体どんな理由があるのだろうか・・・

 

「・・・だってあのデッキは・・・シンクロできないじゃないですか!最近出たエクシーズだってないでしょう?私はエクストラを使用したデュエルがしたいんです!それなのにあのデッキときたら一体のモンスターで只々戦うだけ・・・私はもっと動いてみたいのです!」

「そうは言ってもポテンシャルは相当の物!それは幽香も理解しておろう!」

「ポテンシャルではないのです!私が言いたいのはモチベーションの問題なのです!」

 

 モチベーションは大事だよね、うん。

 確かにデッキを構築するに当たって彼女はシンクロやエクシーズを主眼に置いたデッキで戦いたいと言っていた。

 そしてその場にあったカードがブンボーグとジャンク系統だったというわけだ。

 

 まぁ、純ブンボーグにしてしまうとシンクロよりも脳筋で殴り倒すものになってしまうためにジャンクを混ぜ込んだのだが・・・

 シンクロの王道である通称ジャンドを組むとなると必要になってくるエクストラデッキのカードが凄く限定的になってしまう。

 彼女自身レッド・デーモンを生み出したとはいえ、決闘竜やシグナー竜はこちらには無い。

 ステータス至上主義であるこの世界で、ましては最近出始めたシンクロモンスターを集めるとなると多大な投資が必要であり、流石に一週間でそこまでする必要はないという考えに到ったのだった。

 

「先程から話しているデッキとは一体?」

「私が受け継いだデッキは自宅の金庫に保管しているので今手元にはないのです。それに実際に見ていただくほうが早いと思いますし・・・そうですね。聡さんを自宅に招待しましょう!」

「なんじゃと!?それはならn・・・ア、ハイ。わかりました」

 

 家に男を招待すると言い放った幽香にならぬと言いたかったのだろうが、幽香の笑顔の前にすぐに折れる家勝。

 完全に彼女の立場の方が上である。やはり男は女に逆らえないのだろう。

 

「善は急げと言いますし、今から参りましょう!」

「えっ、ちょ・・・」

 

 そのまま腕を引かれて連れて行かれる。

 その場に残ったのは崩れ落ちた家勝と、呼んだ張本人にも関らず一切触れられずに取り残された零児だけであった。

 

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