◇◆◇◆
暗い場所に居た。
旅人は理解出来なかった。
何故こんな場所にいるのか理解出来なかった。
何故慕ってくれた友が激変したのか理解出来なかった。
なぜ彼等が豹変したのか理解できなかった。
なぜ彼があれを自分に託したのかわからなかった。
ナゼあのとき自分は止められなかったのかわからなかった。
ナゼ自分に力が無いのかワカラナカッタ。
何故?なぜ?ナゼ?
疑問が浮んでは闇に解けて消えていく。
その様子を眺めながらも彼は何も思わない。
手元にある眼で見ても何もわからない。
タビビトはこのまま闇に溶け込んでも何も思わないぐらい気だるかった。
ただただ暗闇を眺め続け、たびびとはしばらくして歩けることに気づく。
目を凝らせば本当に小さな光が目線の先に灯っている。
軽い風に曝されても消えてしまいそうな小さな光。
その光に導かれるように歩き始める。
光に向かって歩き続け、初めは小さかった光も段々と大きくなってきた。
光を直視しても眩しいとは感じなかった。
そのまま歩き続けて光を放つモノまでたどり着く。
扉だ。真っ暗な空間とは対称的な真っ白な扉。
旅人が近づくにつれて純白の扉が開き、光が差す。
安心する――。
光に包まれ、旅人にその感情が支配した。
自然と力が抜け、そのまま意識が浮上していく・・・
◇◆◇◆
目が覚めると見知った顔がこちらを見ていた。
一人は己の母親。生まれてからずっと面倒を見つづけ、支えてくれた母親だ。
もう一人は幼馴染。いつも気遣ってくれる同じ塾の少女。
「おはよう、遊矢」
「母さん・・・柚子・・・」
自分が目覚めたことで二人共安心した様子だった。
「二日も?」
「えぇ、もうぐっすりと。ジュニアユースに出るための4連戦からずっとデュエルし続けてきたんだから無理もないけど」
あの出来事から二日も寝てしまっていたことに対しては水が染み込むようにすんなりと受け入れられた。
理由はわからないがなんの疑問も生まれない。それよりも聞きたいことがあったからだ。
「大会は!?大会のほうはどうなってる!?」
「ジュニアユースは今日で一回戦が終わるわ。今ちょうど占い塾の方中 ミエルが・・・あれ?」
万能デュエルディスクから生中継が行なわれている。
柚子はそれを確認すると疑問の声を上げた。
「どうしたの?」
「ミエルの試合が・・・終わってる・・・」
「えっ?」
画面では確かにミエルのデュエルは終わっており、志島 北斗が入場している場面だった。
柚子は画面を操作し、前の試合結果を確認する。
「風魔デュエル塾の月影って人にワンターンキルで負けちゃったようだわ・・・」
「ミエルが?やっぱりレベルが高いな、舞網チャンピオンシップは。俺達が知らない実力者もたくさん出てくるんだ・・・」
顔見知りが初戦敗退という結果に少なからず残念な表情になる遊矢だが、すぐにユースも2回戦に突入する。
それを考えると彼女の敗退を引っ張るわけにはいかない。
逆にこれを糧に勝ち上がらなければいけないと奮起させる。
洋子も折角目覚めたのだからと言って何かを作りに部屋から出て行った。
「ジュニアクラスはもう2回戦に入ってて、昨日フトシがLDSの零羅君と戦ったんだけど・・・」
「零羅ってあのアユに勝った?」
「そう。あのときは融合召喚を使ったんだけど、今度はシンクロ召喚を使ったの」
「シンクロを?」
「うん。ジュニアでもあの子は赤馬 零児の弟。赤馬 零児みたいに融合もシンクロもエクシーズも使えるのかも」
遊勝塾の生徒であるアユとフトシに対し、異なる召喚方法で対抗した赤馬 零羅。
多くの召喚方法を扱う者として他のデュエリストよりも一線を越えているのかもしれない。
最近塾にやってきた九条 聡もその一人の中に遊矢は考えていた。
塾の中でもLDSのような特定の場所でないと教えられず、扱うこともできない召喚方法を彼は「何回か動かせば自然と理解できるさ」と笑いながら言っていたことは印象によく残っていた。
「融合、シンクロ、エクシーズ・・・」
ふとあの晩の出来事を思い出す。
エクシーズの残党は狩りつくすと言った融合次元の素良
親友の妹、瑠璃を、仲間を助け出すために戦うエクシーズ次元のユート
大切なものを奪われたシンクロ次元のユーゴ
そしてユートが教えてくれた次元戦争のこと・・・
「どうしたの?」
「あの夜、ユートに会ったんだ。ユートが言ってたんだ・・・この世界は4つの次元に分かれているって」
「4つの次元?」
「ああ。融合、シンクロ、エクシーズ、そして俺達が住むスタンダード。素良は融合次元からやってきて、ユートと黒咲 隼はエクシーズからやってきた。融合次元とエクシーズ次元が戦争をしていて、素良はユート達を追いかけて戦って・・・強制的に融合次元に戻されたってユートが言っていた」
「そう言ったの?ユートが?」
「うん。あの時の素良は自分の意志で戻る様子じゃなかった。デュエルディスクが自動で何かをしたんだと思う。そして素良が消えたあとに現れた俺やユートにそっくりな男、ユーゴがバイクのようなものに乗って現れたんだ。そしてユーゴはシンクロ次元のデュエリスト」
「シンクロ次元の?でも戦っているのは融合とユートたちのエクシーズ次元じゃないの?融合に連れ去られた瑠璃を助けるために」
柚子が疑問に思っていることはごもっともなことだ。
融合とエクシーズが戦争をしているという今の話の流れでシンクロが出てきたことが理解できないからだ。
だが、ユートが言っていた。
「シンクロ次元には融合の手先がいるってユートが言ってた。ユートと黒咲は前にもユーゴと戦ったことがあるらしい」
瑠璃が連れ去られたのかもしれない。
だけどあのときの二人の会話は何かがおかしい気がする。
『だから俺は融合じゃねーって言ってんだろ!俺はユーゴだ!俺から大事なもん奪い取ったうえに名前を何度も間違えやがって!』
『奪い取ったのはお前らだ』
『うるせぇ!話はテメェをぶっ倒してからだ!』
あれだと互いに互いの大切なものを奪いとったようじゃないか。
ベットから起き上がり、机に置かれていたユートのカード《ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン》を手に取る。
『デュエルで、キミの力で、世界に・・・みんなの未来に笑顔を・・・』
その言葉と共にユートが俺に託したエクシーズモンスター。
「それは!どうしてユートのカードを遊矢が?」
「あいつは・・・俺を庇って・・・その後どうなったのか俺にはわからない・・・ユートだけじゃない。ユーゴってのも何者なんだ?なんであいつらは俺にそっくりな顔をしているんだ!?わからない・・・なんなんだよ、一体・・・」
考えても当然答えが出てこない。頭の中がよくわからなくなってきた。
自分と顔が同じの人間が何人もいる。
自分でも何を言っているかわからなくなってきているほどだ。柚子に伝わっているのかも遊矢にはわからなかった。
「遊矢だけじゃないわ」
「えっ?」
だからこそ、虚を突かれたような反応をしてしまった。
遊矢は知らなかった。ユートや黒咲が探している妹が誰に似ているかを。
同じ姿の人物がいるのは他にもいることを。
「私にもそっくりな人がいるの」
当然遊矢たちは知らない。
その柚子に瓜二つの少女がスタンダードへと乗り込んでいることに。
「うぉー!!遊矢ー!無事か!!」
二日もの間眠っていた遊矢を視界に入れるや否や権現坂は遊矢に抱きかかって男泣きをし始めた。
小さい頃からの親友であるゴンちゃんにとって遊矢は家族同然の存在なのだからこの喜びなのだろう。
「この男、権現坂。これほど嬉しいことはない。この二日間どんなに心配したことか!」
「そんな大げさな・・・」
「遊矢お兄ちゃ~ん!」
遊矢がゴンちゃんに抱きしめられているとちびっ子ジュニアーズが走ってやってくる。
「無事でよかった!」
「嬉しすぎて痺れるぜ!」
「心配かけてごめんな」
「これで素良が戻ってくればすっかり元通りだな!」
喜びを分かち合っている中、フトシがそんな言葉を発する。
事実を知らない彼等には仕方ないことなのだが、事実を知っている遊矢たちは気まずくなってしまった。
聡と幽香もどうなったのか知ってるので苦笑するしか出来なかったのだが・・・
「・・・本当は俺も浮かれている場合じゃないんだ。実は昨日負けちゃって・・・」
「聞いたよ。零羅って子にシンクロ召喚を決められたんだろ?」
「うん・・・まさかシンクロまで使うなんて。驚いてこっちが痺れちゃったよ」
フトシが落ち込みつつ、結果を話す。
負けた後、遊勝塾の面々でフォローはしているのだがやはり負けを深く受け止めているのだろう。
「だったら次はフトシが痺れさせろ!」
「えっ」
「次の大会まで1年ある。遊勝塾でエンタメデュエルをしっかり鍛えて・・・『次なんてない!』っ!?」
フトシをフォローしている間に素良が放った言葉を思い出し、遊矢は言葉を詰まらせる。
本当の戦いに次はない。
現に戦争をしている二つの次元は負けたものをカードに変えている。
負けることは即ち死と同義なのだ。
「・・・遊矢兄ちゃん?」
「どうした?遊矢?」
「い・・・いや・・・」
言葉を詰まらせた遊矢はうまく返答をできなかった。
負けたら事実上死のデュエルを行なって、自分は勝てるのかとそう思ってしまったから。
本当に自分のエンタメデュエルで戦えるのかと、思ってしまったから。
「ダーリン!」
そんな遊矢にミエルが声をかける。後ろにはLDSトリオがしっかりとついて来ている。
想い人が目覚めた喜びで抱きつきにかかるミエルを遊矢は流れるような身のこなしでかわし、LDSトリオへを歩を進める。
「なんだ、見に来ていたのか。どうだい?本当の「黒咲に会いたい」・・・あ、うん」
「あいつに話があるんだ」
「直接言いたいの」
「あっ、柚子・・・」
スルーキャラになっている北斗を他所に遊矢たちと真澄たちが話を進める。
結果的には彼等を通しても黒咲に会えないと言う答えが返ってくるだけに終わった。
聡や幽香は社長を通して黒咲にも会っているのだが、黒咲に関する余計な行動は慎めと社長から言われているために伝えることは出来ない。
残念そうにする遊矢たちには別の機会を待ってもらうしかなかった。
「ま、折角来たんだ。次の試合、見てけよ。それと・・・あの、藤原さん」
「ん?私ですか?」
話を振られると思っていなかった幽香だが、いつものように反応を返す。
「ユースの初戦、見させてもらいました。・・・同じシンクロを使う者として、エールを頂いてもいいですか」
「エール・・・ですか?私でよろしければ構いませんよ」
刃は初戦の映像を見て幽香がシンクロを用いることを知った。
LDSのシンクロコースのトップクラスに位置する刃にとって彼女の戦い・・・というよりも《
でなければ先行全ハンデスが可能な【X-セイバー】を用いる彼にとって初戦の幽香のデュエルは目に留まるほどのものではないだろうからだ。
「確か・・・貴方の対戦相手は前年度の準優勝者、梁山泊塾の
「はい。負ける気は当然ありませんが、簡単にいく相手でもないことも理解しています」
「おい、あの刃が敬語使っているぞ?」
「私、理事長や社長以外に使っているの見たの初めてよ。これは明日、天変地異が起こるわね」
「聞こえてるぞお前ら」
失礼極まりないことを話す北斗と真澄に刃が言葉を差し込む。
自分でも柄ではないことがわかっているためが少し気恥ずかしそうだ。
そんな彼も彼女の口から出た言葉をすぐに理解することが出来なかったことだろう。
「・・・相手の戦術などを教えるわけにはいきませんから・・・そうですね。次の試合、
【ジュニアユース一回戦 最終戦】
刀堂 刃 VS 勝鬨 勇雄
―――<決闘開始>
刃殿、生存フラグ・・・?