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ロックマンが扉をくぐると、そこには真っ暗な空間が広がっていた。その暗さ
『なんだ、ここ?』
「たぶん、ここは奴が逃げ込んだ電波世界への連絡路みたいな場所なんじゃないかな」
『なんだよ、扉通ったらもう別世界、とはいかねぇのか?』
通路の奥を見つめながらロックマンが意見する。ロックマンはウォーロックの不満を聞きながらその通路を進み始めた。
「さっきの扉もファイアーウォールみたいなものだって推測を立てたし、同じことでこの通路も説明がつくんじゃないかな? 侵入者とか攻撃者を排除するためのプログラムが施された通路とか」
『ずいぶんと面倒なことするな、その電波世界の管理者とやらは』
「それだけ大事なものが隠された場所とか……」
『それか、アイツが逃げ込むために用意しておいた場所とかな』
ウォーロックの言葉に頭をめぐらすロックマン。奴の行動には計画性があるように感じるため、ウォーロックの考えも間違ったものではないかもしれない。でも、そうなると困った事がある。
「その場合、どんな罠が待ってるか分かったもんじゃないね」
『だろうな……でも、それでもアイツを追ってブン殴らないと気が済まねぇ! だろ?』
ウォーロックらしいアグレッシブな言葉に、ロックマンは苦笑した。
「ブン殴るかどうかは別にしても……そうだね、あんなことしてきた奴を逃がしちゃいけない」
ロックマンは士気を高めるように言った。会話が終って気がついてみれば、ロックマンとウォーロックはすでに通路を渡りきり、先ほどとは別の扉の前にいた。これがこの通路の出口であり、「別の電波世界」の入り口だろう。
『……これでさらに通路があったりしてな』
「緊張感ないこと言わないでよ……いくよ」
ロックマンとは再び扉を開いて、2人はその向こうの世界へと踏み入れた。
「へ……?」
『あれ……?』
その世界の踏み入れた瞬間に、2人が声をそろえた。2人は扉の向こうに広がっていた世界を、唖然とした表情で見まわしている。それも当然、その世界は2人が「罠が待っているかもしれない」という考察から想像していたような、おぞましい世界とはとてもかけ離れた、
「なんで……コダマタウンに来てるんだボクら!?」
ロックマンが誰に問うでもなく叫ぶ。彼の言うとおり、目の前の世界、それは何のことはないスバルたちが暮らす町、コダマタウンだったのだ。
『コダマタウンに、今みたいな扉から入れるノイズウェーブへのルートってあったけか?』
「ない……と思うけど……」
ロックマンは仮にも、ほぼ唯一ノイズウェーブへと入って行ける存在だ。ミスターキングの技術の恩恵を受ける事の出来たディーラーのメンバーや、ついにノイズを制御する
「ノイズウェーブだし、いきなり新しい入口が出来るのは分かるけど……」
問題は、ここがコダマタウン、スバルの住む町である点だ。ここがヤシブシティやアマケンなど、普段は行かない場所ならまだ分かる。毎日をそこで過ごしているコダマタウンでそんな異常が起きれば、気付くはずだ。電波変換していなくとも、スバルはハンターVGを使ってノイズウェーブの入り口の在り処は感知できるし、ウォーロックならもっと敏感だろう。
『……いや待て、ここ電波世界だぞ、スバル』
「えっ? …………あ、本当だ……」
ウォーロックに言われて初めて、ロックマンは気付く。今2人がいる世界は現実世界ではない、電波世界だった。それも、
「このコダマタウン自体が……電波で出来てる……?」
“コダマタウンという現実世界の別位相に存在する電波世界”ではなく、
『とりあえず言えることは……ここはオレたちの知るコダマタウンとは別モンみてぇだな……』
「うん……でも、そうだとしたら、ここは一体……?」
辺りを見回しながら、ロックマンは歩きだした。頭は混乱し、状況を掴むための情報を欲している。今までも奇異な経験はしてきたが、ここまで奇抜な状況が今まであっただろうか。自分の住む町なのに、自分の町でない。その矛盾が、2人を混乱させていた。
『おい、スバル、あぶねぇぞ!』
「え? あ、おっと!」
ロックマンが振り向くと、杖をついたお爺さんがロックマンの横を、ほぼゼロ距離で通ろうをしていたため、ロックマンは思わず立ち退いた。下手をすれば、お爺さんを突き飛ばしてしまっていたかもしれない。
「お、おじいさん、すみません!」
『――――』
ロックマンが謝るも、お爺さんはそれに反応する様子もなく、よぼよぼとした歩調で歩いて行ってしまった。まるで、ロックマンなどそこに存在していないように、全く認知していなかった。
「……?」
『失礼なじいさんだな! 仮にスバルが悪いにしても、無視はひどいと思うぜ!』
「…………」
『おい、スバル、あんなじいさんほっといて、この町を調べるぜ!』
「……うん」
ロックマンは、今しがた起きたことに違和感を覚えながらも、ウォーロックに従った。
「あれ、ここ空き地じゃなかったっけ?」
『あんなところにあんなモンあったか?』
「ここにあったブランコがない……」
『あそこにあった橋もねぇぞ……?』
――町を少し歩くだけで、違和感はさらに膨らむ。スバルたちの知るコダマタウンとは、パッとみた上ではそっくりであったが、細かい部分で相違点が多かった。あったはずのモノが無く、無いはずのモノがそこに存在している。その相違のほどは、違う町ではないのかと思いたくなるほどだが、町並みなどはまさしくコダマタウンそのものだ。
「展望台もない……ただの空き地になってる……」
2人は町を一通り見た後、学校裏の展望台……があったはずの空間に来ていた。しかし、そこに展望台はなく、手入れの行き届かない草むらが広がるのみだ。2人はここに来て、状況を整理することにしたようだ。
『とりあえず、ここは誰かが電波世界に作ったコダマタウンのコピー……ってことでいいか?』
「うん、今はそのくらいしか考えられない。でも、その割に……」
『なぜかオレたちの知ってるコダマタウンとは違いすぎる』
これだけ精巧にコダマタウンを作っておきながら、本物のコダマタウンとはかけ離れている。こんな場所を電波世界に作る行為も謎だが、なぜここまで差異が生まれるのか、疑問は尽きなかった。
「それに、ここにいる人たち、みんなボクたちのこと分かってないみたいだね……」
先ほどのお爺さんだけではない。このコダマタウンに存在する人間は皆、ロックマンやウォーロックが話しかけても一切反応をみせず、ロックマンの立ち位置を全く無視して移動するものだから、ロックマンはぶつからないように避けることを余儀なくされていた。正直、相手がこちらの存在を認知してくれず自主的に避けようとしてくれない状態で町を歩くという行為がここまで大変だとは思ってもみなかった。
話に応対してくれないので人から情報を聞くわけにもいかず、仕方なくここのコダマタウンの住人同士の会話を盗み聞きした。やはり、ここの町は「コダマタウン」という名前の町ではあるようだった。
「あるはずのモノが……ない……」
『どうした? スバル……』
「――ッ!」
ロックマンは少し考え込んだ末に何かを振り切るように駆けだした。
『おい! スバル、どうしたんだよッ!?』
「確認したいことがあるんだ!」
背後から声をかけたウォーロックに向かって、ロックマンは叫ぶ。その駆ける道をたどるうち、ウォーロックにもその確認したいものが分かってきた。横断歩道を渡り、空き地を通り過ぎ、知らない民家の脇を走り、公園の中央を駆け抜け、ロックマンはそこにたどり着いた。
「……っ」
ロックマンはわずかに息を飲む。後から彼を追ってきたウォーロックも、その現実に驚いた。そして目を細め、改めてロックマンを見つめた。
『……おい、スバル……』
ロックマンは歯をギリリと食いしばりながら、吐き捨てるように言った。
「ウチが…………ない」
ロックマンの目の前には、ただ空き地が広がっていた。それも、ちょうど一軒家が立ちそうなほどの空間が、ぽっかりと。そこは、スバルが住む家のあるはずの場所であった。
『……気持ちはわかるぜ。でもよ、ここは本物じゃない。偽物の世界だ! そんな気にすることじゃねぇよ』
「うん……でも、家があったはずの場所にそれがないって言うのを見せつけられると、これからそうなるんじゃないかとか……考えちゃうんだよ」
『縁起でもねぇ! ヘンな世界に連れて来られて気が滅入ってるんだよ! さっさとここに来た……目的……を……?』
「……目的……?」
ウォーロックの言葉で、2人の頭は同じ思考に達する。
……待て、今までこの電波のコダマタウンを見せつけられていたせいで、なんか忘れてなかったか……?
「そうだった! ボクたち、施設のみんなを襲ったアイツを探してここに来たんだった!」
『やっべーな……こんだけ時間が経っちまうと……どこにだって逃げられるぜ……?』
「くっ……今から探して見つけられるかなぁ……」
「キミたち、何か探してるの?」
声をかけられ、振り向くと、そこにはどこにでも居そうな、スバルと同じくらいの年齢の男の子が立っていた。
「あ、いや、人を探してて……」
「へー、どんな人?」
「いや、特徴は分からないんだけどさ……」
「……それじゃ、警察は呼べないね」
男の子のツッコミじみた反応に苦笑。確かに人を探すのに特徴が全く分からない、では探しようもない。
「ぼ、ボクたちを襲ってきたヤツが、この町に逃げ込んだはずなんだけど……たぶん、見れば一発で怪しい奴って分かると思うんだけど……」
電波人間が街中を歩いていれば、それだけで目立つだろうし、道行く人にはそれが印象に残るはずだ。探す人物の特徴を掴んでいない以上、それを頼りに探すしかない。
「う~ん、見てないかなぁ、そんな人」
「うん、そうだよね。ありがとう」
ロックマンは男の子に礼を言って“奴”の探索を始めようと駆けだしたが、何を思ったか再び男の子に向き直った。
「ねぇ、この空き地、ずーっと空き地だったの?」
「ずーっと? ……どうだろう、たぶんそうじゃない?」
「そ、そう……」
ロックマンは淡い期待を込めた質問に現実を突き付けられてまた少し落ち込んだ。
「あ、でも近々、家が建つって聞いたよ」
「え、本当?」
「うん」
それで気を良くしたのか、ロックマンはそのまま礼を言うと、駆けだして行った。
『……これから建つ家がオレらの家だとして……なんでまだ家が建ってねぇんだ?』
ロックマンの後に付いて行きながら、ウォーロックが問う。ロックマンは眉をひそめながら答えた。
「分からない……でも、完全に無いわけじゃなくて良かったよ……」
どうも腑に落ちないウォーロックであったが、あまりこの件に詮索をするとスバルをまた落ち込ませそうなので後回しにすることにした。
――それから数十分。ロックマンとウォーロックは必死に“奴”を探したものの、結局見つけることは叶わなかった。
「逃がした……か」
『まぁ、アイツはオレたちを狙ってるみてぇだし……もしかしたらまた捕まえるチャンスも来るかもしれないだろ』
「そうだね……」
……自分たちを狙って襲ってくるならそれでいい。返り討ちにすればいいだけだ。しかし、自分たちの推測がはずれて愉快犯だったり、狙いが別にあったら――もしかしたら施設の子供たちが再び襲われる可能性もあるし、他の誰かが襲われる可能性もある。それを考えると一刻も早く捕まえて倒したい。
『お前の心配はもっともだが……これ以上、手の打ちようがねぇよ……。キザマロが大人を呼びに行ったって言ってたし、もしかしたらサテラポリスも呼んでるかもしれないだろ。その時にあいつらが狙われてるかもしれないって報告すればいいじゃねーか』
「うん、そうだね。今、ボクにできることはそれくらいしかないや……」
やはり、不安はぬぐえない。しかし、ウォーロックの言うことも事実。これ以上の行動は無意味だ。このコダマタウンのことも気になるが、こちらも情報がこれ以上集まりそうもない。
「帰ろう、ウォーロック。今はみんなが無事だったのを喜ぼう」
『おう、気持ちの切り替えが早くて何よりだ』
ウォーロックも頷き、2人はそのコダマタウンからウェーブアウトした。
ロックマンとウォーロックがコダマタウンから離脱したあと――
「全く……お前は詰めが甘いんだよ」
スバルの家があるはずの空き地の前で憎々しげに呟く者が一人。それは、
「みんなを守る、と言って守り切れず子供のうちの2人を危険に晒し、見つけた犯人には逃げられる……あれでよく英雄だなんて呼ばれたもんだ」
先ほど、ロックマンとウォーロックが話しかけた少年だった。2人は、星河家が無いことのショックで失念していた。このコダマタウンの住民は、ロックマンたちの存在を確認することはできず、まして会話など不可能だったことに。2人は、あの会話そのものを疑問に思うべきだったのだ。
「アイツに――今のアイツに、地球の命運なんて任せられない……」
ロックマンたちが「奴」や「アイツ」と呼び続けた、先刻の襲撃事件を起こした張本人こそが、この少年だ。その少年の姿がぼやける。輪郭がぼやけて、髪も肌も服も光の粒子となり、その形と色を変えて行く。一度ぼやけた輪郭がはっきりとし、現わしたその少年の姿は――
――星河スバルそのものだった。
「やはりその現実を見せつける必要がありそうだな、アトラス?」
『…………』
スバルと似た少年が呼びかけると、背後に一体のウィザードが出現する。こちらは、ウォーロックそのものの姿。しかし、そのウィザードは問いかけに答えるどころか唸る事すらしない。彼も受け答えが返ってくるのを期待していたわけではないようで、その態度を当たり前のように受け流した。
「絆を信じて戦ってきた英雄の最後の敵が絆を求める者だとは、大層な皮肉だ。なぁ、星河スバル?」
その男はどこからともなくハンターVGを取り出し、腕に装着する。そのハンターVGに表示されたポップアップのうちの1つには使用者の名前が記されていた。
―― Gray・Solitude ――
「――電波変換! グレイ・サリチュード、オン・エア!」
刹那、その一帯は光に包まれる。そして、その光がおさまった時、そこには誰も居なかった。
清潔感のあったあの星河家は…… なんということでしょう。跡形も無くまったくの空き地になったではありませんか。そこには、匠のひそかなこだわりが――
いよいよグレイ登場。次の登場はたぶん7,8話くらい先です