流星のロックマン プレアデスの絆   作:UMA_SS

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 今の僕にゴールデンウィークなんてなかった。
 「はじめに」と題して、にじファン時代のこの小説を読んでくださった方へのちょっとした報告事項を書いたので、良かったら読んでください。にじファン時代との違いが書いてあり、その内容が人によっては受け入れがたいかもしれないので。


(5313文字)


9、ヒーローの災難

 ロックマンが謎のコダマタウンからウェーブアウトして帰ってくると、真っ先にルナが詰めよってきた。遅れてゴン太とキザマロ、施設の子供たちも集まってくる。

 

「スバルくん、無事!?」

 

 切羽つまった顔で問い詰めるルナに、スバルは驚きと戸惑いと、女の子に接近される気恥ずかしさで、わずかに後退りをする。それだけで彼女が心配していてくれた事実を知るには十分だった。

 

「だ、大丈夫だから落ち着いて、委員長」

「ほ、ほんとに……?」

 

 ルナの問いに一生懸命に首を縦に振るスバル。スバルの方も、ルナとは別の意味で必死だ。主に急接近による緊張で。

 

「よ、よかった……ロックマンさまは無敵だって信じてるけど、もしもってことがあったらって思うと……」

「ロックマンがノイズウェーブに入ってからずっとその調子なんです」

「ずっとそわそわしてたもんな、委員長」

 

 ルナの背後からキザマロとゴン太が伝えた。そんな二人にも少し疲労が見えた。恐らく、ずっと心配で落ち着かないルナを落ち着かせようと頑張っていたのだろう。

 

「う、うるさいわよ、二人とも! 仕方ないじゃない、今回はロックマンさまが追った敵の素性も分からなかったんだもの! やっとロックマンさまが戦わなくて済むようになったと思ったらこれじゃ、落ち着いてなんていられないわよ!」

「い、委員長、もう大丈夫だから落ち着いて……。あと、離れて……」

「え!?」

 

 スバルの言葉で、ようやく自分がどれだけ彼に近づいているのかを気づいたようだ。状況理解のため固まること、数秒。直後に彼女の瞳に驚きの色が浮かび、同時に腕が降り上がった。

 

「……きゃああっ!?」

「べぶっ!?」

 

 べちん! と、とびっきり痛そうな音が彼らのいる林に鳴り響き、音に驚いた鳥が一斉に留まっていた木々から飛び立った。それまでルナお姉ちゃんの気持ちを察して黙っていた子供たちはその音に体を強ばらせて縮こまった。

 

「し、ししし、心配なんてしてないわよ、スバルくんのことなんて! いいこと、わたしが愛してるのはスバルくんじゃなくてロックマンさまなんだから――」

「……委員長、スバルくんならもう失神してます」

「へ……?」

 

 鼻から出したような間抜けた声を発するルナ。そして彼女の足元には、乙女のスーパービンタでノックアウトされたスバルが地に伏していた。

 

「ち、ちょっとスバルくん!? しっかりしなさい!」

 

 ルナは、しゃがみこんで彼を揺さぶった。しかし、スバルは目を回すばかり。ルナも先刻の放ったビンタは反射的なもので、照れ隠し以外の意図はない。しかしスバルにとっては、何もしてないのに理不尽に叩かれたのだ。

 それから、スバルが気を取り戻すまで、数分の時間を要した。

 

「ひ、ひどい目に遭った……」

 

 覚醒したあと、開口一番に発したスバルの言葉がそれだ。叩かれた方の頬を手で押さえながら起き上がる。

 

「わ、悪かったわよ……。え、えっと、ご、ごめんなさい……」

 

 あまり謝り慣れていないのか、ルナの謝罪は不器用だ。目は左右に泳いで、スバルの方へはチラチラとしか目を向けない。そんなルナを見て、スバルは少し笑った。

 

「な、なに笑ってるのよ? わたしはこれでもちゃんと謝っ――」

「ありがと、委員長。心配してくれて。敵は逃しちゃったけど、こうして戻ってきたよ。ボクじゃなくてロックマンに対して、でも嬉しい」

「っ――」

 

 スバルの礼に不意を突かれたルナは思わず赤面する。

 

「……ま、まぁ、かわいそうだからちょっとくらいならスバルくんのことも心配してあげなくもないけど……」

「うん、それが委員長らしいや」

 

 顔を背けながら言ったルナに、スバルは頷く。それに対して、やはり素直にはなれないのか、ルナは少し声を張った。

 

「と、とにかくスバルくんが無事で戻ってきてくれて良かったわ」

「たった今、無事じゃなくなったぜ、いいん――」

「ゴン太、後で話があるから、わたしの所に来なさい」

「い、いやぁ、スバルが無事で良かったぜ!」

 

 急いで訂正するゴン太がおかしくなって、スバルは笑った。笑うスバルにつられて笑いそうになったルナは、あわてて顔を戻して次の話を言おうとして、

 

「あれ、やっぱりスバルお兄ちゃんがロックマンなの?」

 

 という子供の声に遮られた。

 

「あ――」

 

 思い返すと、スバルもルナも、「スバル=ロックマン」だと言わんばかりのことを子供たちの前で話してしまった。ルナはともかくスバルは完全に墓穴を掘っていた。

 

「ち、違うよ、ロックマンはヒーローでボクはただの小学生だよ」

「えー、でもロックマンと入れ替わりでスバルお兄ちゃん帰ってきたよ?」

「ロックマンはもう帰ってボクはやっとトイレから出てきたんだよ」

「スバルお兄ちゃんが帰ってきたところ、見なかったよ?」

「し、瞬間移動だよ!」

『落ち着け、 何者(なにもん)だオマエ!? 』

 ウォーロックがつっこむ。瞬間移動できるただの小学生とはこれいかに。

 

「わー、スバルお兄ちゃんすげー!」

「すごいでしょー!」

『……』

 そして納得する子供たち。まだ彼らは人を疑うということを知らない。

 

「じゃあやってみてよ!」

「ェ……」

 

 しかしそれが裏目に出た。上手く行ったとタカをくくっていたスバルは、直後に窮地に立たされるのだった。

 

「見せて、見せて!」

「うぐ……」

 

 好奇心旺盛な少年少女は、その汚れなき (まなこ)をスバルに向ける。スバルは一人で事態の収拾を成すことは不可能と悟った。助けを求めて視線を泳がせ、ルナと目が合うが、彼女は「自分でなんとかしなさい」とばかりに視線を返す。ゴン太もキザマロ似たようなものだ。……と、なると残りは――

 

《分かったよ、やりゃいいんだろ、やりゃ!》

(ごめん、ありがとうロック)

 

 スバルは声を潜めて礼を言いつつ、ウェーブステーションを探す。そして、今いる林中の広場の隅にそれを見つけ、ジリジリと近寄る。

 

「よし、じゃあ見せてあげる」

「やったぁ!」

《よし、じゃねぇよ》

 

 ウォーロックは心の中で思いながらハンターVGの中へと戻っていく。それを確認してから、スバルはハンターVGを背中に隠しながら操作する。

 

「いくよ! 瞬間移動! 星河スバル、オン・エア!」

 

 言いながら、スバルはトランスコードを提示して電波変換する。それと同時にスバルのハンターVGとウェーブステーションは相互通信を行い、電波変換した彼を上空のウェーブロードへと打ち上げ、運んだ。

 

「ふぅ、なんとかなったね」

 

 ウェーブロードを踏みしめながらロックマンが呟く。眼下の現実世界では、子供たちが歓声を挙げていた。電波変換によってウェーブロードに移動したスバルは、何も知らない者が見れば突然、姿を消したように見えるだろう。

 

『こんな理由で電波変換とか勘弁してくれ』

「ごめんって。いつも感謝してます、ロック様!」

『お、そうか? そういうことならどんどん頼れ! このロック様が付き合ってやるぜ!』

 

 ロックマンにすっかりおだてられたウォーロックは上機嫌だ。相変わらずすぐ調子に乗るウィザードである。

 

「――って、あれ?」

『どした?』

「今は助かったけど、なんでこんな林の中にウェーブステーションがあったんだ?」

 

 ウェーブステーションは、人々がハンターVGを使ってより迅速に情報をやり取り出来るように設置されるため、当然その設置場所も人通りの多い場所が選ばれる。普段誰も来ない、こんな林の中にあるのは不自然である。

 

『さぁ? 林に迷った人が帰り道を探すためとかじゃないか?』

「えー、そうなのかな……」

 

 いぶかしむロックマンだが、しかし他に理由が思い付く訳でもない。ウォーロックの仮説が真実だとは思いにくいが、特に知る必要もないことなので考えを保留にした。

 

 ロックマンはそのまま子供たちの養護施設まで戻ってきてウェーブアウトした。子供たちはルナたちが引率して施設まで誘導してくれるらしい。スバルはその場でルナたちを待つことになった。

 

「……あれ?」

 

 スバルは唐突に顔をあげ、遠くを見つめる。ウォーロックもスバルの視線を追うと、遠目にがたいの良い体つきをした人物が歩いてくるのが見えた。

 

『あいつは……』

「サテラポリスの人だ。きっとロックの言った通り、キザマロがサテラポリスを呼んだんだ」

 

 その制服を見てスバルが言う。その服装は、サテラポリスでもエリートを示す、特殊部隊のものだ。

 

「やぁ、スバルくん」

「こんにちは」

 

 スバルの元にやってきたサテラポリス隊員は、彼と共に気さくに挨拶を交わす。スバルはもはや、小学生でありながらサテラポリスにも顔がきく。このサテラポリス隊員とも顔馴染みであった。

 

「ウイルスが大量に出たんだって?」

「はい、ノイズウェーブの扉が開いて、中から出てきたんです」

「またか……」

 

 ため息まじりに呟いた隊員の言葉に、スバルは眉根をひそめる。

 

「また?」

「そう。その事件の現場には、ハンターVGが落ちてなかったかい?」

「あ、はい、ありました!」

 

 隊員に言われて、スバルはあの赤茶の髪の少年から拾ったハンターVGを預かっていたことを思い出す。彼はポケットからそのハンターVGを取り出して隊員に手渡した。

 

「そう、これこれ。これを利用して人々をウイルスに襲わせる事件が最近多発してるんだよ」

「なるほど……」

 

 やはり、このハンターVGは事件に関係するものだったのだ。それも、この手の事件は今回だけではないらしい。

 

「このハンターVGはね、違法改造を受けていて、外部から遠隔操作が出来るようになっているんだ。このハンターVGをばらまいて、遠隔操作でハンターVGの機能を使い、ノイズウェーブへの扉を開けて、ウイルスを呼び寄せ人々に襲いかからせるんだ」

「な、なんでそんなこと……」

 

 スバルの問いに隊員は頷く。

 

「そう、最も分からないのが事件を起こす動機だ。ただ人を襲うことが目的のようにも考えられるけど、それだと不可解な点がある。

 ――このハンターVGは、情報開示に対してロックされていて、ヨイリー博士でも解除出来ないんだ」

「ヨイリー博士でも!?」

 

 ヨイリー博士は、サテラポリスも認める世界でも一、二を争う科学者だ。そのヨイリー博士が解除が出来ないとなると、

 

「つまり事件の首謀者は相当な科学力を持っていることになる。そんな奴なら、こんな回りくどいことせずにもっといろいろ、社会にダメージを与える方法が取れるはずなんだ。それをしないからこそ、動機すらも不明なんだ」

「…………」

 

 サテラポリス隊員の話にスバルは息を飲む。つまりはその首謀者の意図がサテラポリスにも分からず、下手をすると出し抜かれるかもしれないのだ。

 

「今回は君がいてくれてよかった。本当に感謝するよ」

「いえ、ボクはみんなを守りたかっただけなので……」

「その気持ちが大切なんだよ。君は本当に大吾さんの息子だな」

 

 その誉め言葉にスバルは嬉しさを感じる。彼には星河大吾の息子であることそのものが誇らしいことなのだ。

 

「これはいずれ通知がいくはずなんだが、ついでだし伝えておこう。今日から丁度一週間後に、いま言った一連のウイルス事件について、サテラポリスで会議があるんだ。これにはトランスコードに登録されているメンバーにも参加してもらうことになるから、君もぜひ来てほしい」

「分かりました!」

 

 スバルの元気な返事に隊員も頷く。

 

「じゃあ、私はそのウイルスが出た現場を調べてみるよ」

「なら、そこまで道案内を……」

「そうしてもらいたいのは山々なんだが、君がサテラポリス隊員と一緒にいると、ややこしいことになる。ロックマンであることは隠さないといけないだろう?」

 

 その話には激しく同意だった。スバルはさっきまで正体がバレないようにするのにかなり苦労したのだから。

 

「だから、私のハンターVGに現場の位置情報を送ってくれればいい。そうだ、それとその事件で怪我をした子はいないかい?」

「たぶん大丈夫だと思いますが、ウイルスの攻撃を喰らいかけた子はいるので少し心配です」

「そうか、なら後でその子を診た方がよさそうだな」

 

 そう言うと、サテラポリス隊員はスバルから位置情報を受け取って林の中へと消えていった。

 

「ふぅ、慣れてきたとはいってもサテラポリスの人と話すの緊張するなぁ」

『そうかぁ? どっしり構えりゃ大丈夫だろ、どっしり!』

「ロックはそういうの深く考えないだけじゃないかな」

『なにぃ!? それじゃオレがなにも考えてないバカみたいじゃねえか!』

「え」

『やめろ! その「違うの?」みたいな顔をやめろ!』

「いや、これは『やっと分かった?』って顔だよ」

『分かるかそんなの!』

 

 他愛のない話を交わすスバルとウォーロック。と、唐突にウォーロックが思い出したように、呟くような声で聞いた。

 

『そういや、オレたちが追っかけてたあの怪しい奴のこと、さっきの隊員に報告しなくてよかったのか?』

「あ――」

『……忘れてたな?』

 

 ハッと思い出したように目を見張るスバルに、ウォーロックはジト目を送る。

 

『今日のスバル、いろいろ抜けてるな』

「何も考えてないの、ボクもかも……」

 

 しゅんとした顔で呟くスバル。正体はバレかけるし、よく分からないやつに襲われて取り逃がすし、ルナにはビンタされるし、報告にも抜け目かあるし。この数十分間にずいぶんと災難な目に遭ったスバルであった。




 いいんちょの必殺技:ダイナミック照れ隠し(物理)
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