俺、この小説を完結させたら結婚するんだ――
オリキャラ登場回その2。一話完結タイプの回です。今回はスバルたちはさわるほどしか出て来ません(笑)
(6178文字)
スバルたちにひと悶着あって、落ち着きを取り戻したころ。スバルやルナ、子供たちの遊びに振り回されて逃げてきたゴン太とキザマロは、それぞれにブラザーを結んでいた。一通りの作業が終わったのちに、ヒオリもマサトも自身のハンターVGを掲げ、新たな
そんな様子を、育田は十数メートル離れた場所から嬉しそうに見つめていた。
「どうやら、私の生徒は彼らとうまく打ち解けることができたみたいですな」
満足そうに呟いて、隣に顔を向ける。その先には金髪の女性が、子供たちが遊んでいる庭の方を見つめながら立っていた。
「はい、あの子たちのとても楽しそうな声が聞こえます」
女性は、上品に微笑みながら育田に応えた。女性の身体はすらりと高く、男性の育田と同じほどである。もっとも育田の場合、その髪型で視覚的な身長を稼いでいるため、実質的に女性は育田よりも高い身長を持っている。服は、花柄のブラウスに白いロングスカート。一見して清楚なイメージを抱かせるその女性は、この児童養護施設の保育士である。
「コダマ小学校の皆さんにはとても感謝しています。ご存知の通りあの子たちはみんな、行く
「ええ、生徒たちがお役に立てたなら、願ってもないことです、アーリーさん」
アーリーという名の保育士は、育田には目を合わせずに笑顔でそれに応えた。この女性は、立ち振舞いの上品さや容姿の美しさも去ることながら、それを含めても有り余る人受けの良さがあった。言い換えれば、人一倍の包容力があるのだ。どんな人とも程よい関係を築き上げる彼女の人間性は、育田やスバルたち生徒をも当然のように受け入れた。わずか数時間しか行動を共にしていなかったのにも関わらず、何年も前から親しくしていたように錯覚させるほどの魔力を、彼女は持っていた。
「でも、あと数十分でお別れですし……そう思うと少し寂しいですね」
「そうですな……しかし、都合が合えばまたこうして来ることもできます。どちらの子供たちも相手のことを気に入っているみたいですし、その時を楽しみに待ちましょう」
「そうですね。その時は今度は私たちの方からコダマ小学校にお邪魔しても構いませんか?」
「ええ、ぜひ。生徒たちも喜ぶでしょう。一部の子供たちはブラザーを結んだようですし、もしかしたら行事だけじゃなくてプライベートでもいい関係を築いていってくれるでしょうな」
再び、育田はスバルたちを見つめる。スバルたちは笑い合い、とても楽しそうだ。そんな子供たちの様子を見るのが彼の楽しみであり、生き甲斐でもあった。赤毛の女の子が偉そうに胸を張る目の前で、キザマロがガックリと地に膝と手を付けている様子が見えたが、そんな戯れも元気な証拠だ。
「え、あの子たち、ブラザーを結んだんですか? ……良かった、これでまたあの子たちの心の支えが増えましたね」
距離があるとはいえ、目の前でスバルたちがブラザーを結んではしゃいでいたのにも関わらず、アーリーは見なかったような反応をとる。それもそのはず、彼女は見ていなくて当然なのだ。
「アーリーせんせーっ! こっちおいでよー!」
遠くから、施設の子供が呼ぶ。それに笑顔で頷いて、歩き出した。
「……! アーリーさん!」
「ア、アーリーせんせ、ダメッ!」
しかし、育田と呼び掛けた子供が、同時に血相を変えて叫んだ。
「え――」
その声たちをアーリーの耳が察知した時にはもう、彼女は踏み出してはいけない次の一歩を踏み出していた。アーリーは、施設の庭を二分する少し大きめの川のへりに向けて、何の躊躇いもない一歩を踏み出していた。
とたんに、土が靴を滑らせるずるりという音が鳴り、彼女の身体がバランスを崩す。彼女が知覚できるのは2つの感覚のみ。足を滑らせた音と、転んだ時にも体験する一瞬の浮遊感のみだ。そのまま、彼女は後ろのめりに重力に引っ張られて――
「――あ、あれ?」
アーリーは、きょとんとした表情で辺りが見回す。彼女は尻餅をついて、片手を川縁の湿った地面に突いていた。足は川の中に突っ込んでいる。転んだ拍子に足を川に入れてしまったため、その足は靴を履いたままだ。
「……そう、ここには川があったわね。注意すべきだったわ……」
アーリーは俯きながら、そう呟いた。彼女の靴は水を防ぎきれずに、中にまで浸水してきている。その足が感じる清涼感で、ようやく彼女はそこに川があったことを認知したのだ。
川が目の間にあることを知らなかったこと。スバルたちがブラザーを結んだところを彼女が見ていないこと。これらは普通の人なら当たり前のように知覚するだろうが、彼女はそれが出来ない。
――彼女の眼は、すでに失明しているのだから。
「大丈夫ですか!?」
育田が緊迫した面持ちで聞く。アーリーはその声のする方に顔を向けて笑顔を作った。
「大丈夫です、助けてくださってありがとうございます」
アーリーの片手は、それを握りしめる大きな手とそこから伝わってくる体温を感じとっていた。アーリーが転んだとき、育田はとっさに腕を伸ばして彼女の手を掴んでいたのだ。彼の行動がなければ、アーリーは足どころか全身が川に落ちていたかもしれないし、落ち方が悪ければ足の骨を折っていたかもしれない。
「靴が濡れてしまいましたね……」
「後で履き替えれば大丈夫です」
「アーリーせんせ、大丈夫っ!?」
二人の会話が遮られる。事の次第に気付いた子供たちが駆け寄ってきていた。
「あう……靴が汚れちゃってる……」
先頭にいた女の子が泣きそうな顔でアーリーのそばにしゃがむ。さきほど、アーリーを呼んだ子供だった。この子にとっては、アーリーは自分のせいで転んだようなものだ。危うくみんなにとって大切な人に怪我をさせるところだった、という責任を少女は感じているのである。
「ご、ごめんなさい……」
その罪意識の元で、女の子は地に頭が付きそうなほど深々と頭を下げた。特にこの年頃の子供には、このような罪悪感は抱えきれるものではなく、心の傷として少女の記憶に残りそうだ。
「…………」
アーリーは、少女の声のする方にふらふらと頼りない仕草で腕を伸ばす。少女のいる方向は声で大体分かるものの、目の見えないアーリーには具体的な方向が定まらず、暗闇の中でものを探りながら掴むように腕がふらふらしてしまう。それでも、彼女は少女の頭に自らの手を乗せると、優しく撫で始めた。
「アーリーせんせ……?」
アーリーは撫でながらにっこりと笑うと、突然靴を脱いだ。
「ど、どうしたの、アーリー先生?」
別の子供が唐突なアーリーの行為に疑問を投げ掛ける。
「ほら、みんなもやってみようよ。気持ちいいよ?」
そう言って、アーリーは白い素足を川に浸した。その様子を少し傍観した子供たちは、すぐに笑顔になってそれに従った。小さな事件が起きて緊迫した空気が一転して、子供たちがきゃっきゃとはしゃぐ楽しげな雰囲気に変わる。
「…………」
謝っていた女の子は、呆然それを呆然と見つめていた。
「ほら、君もやらないのかい?」
育田が背中を押す。少女は濡れた眼で育田を見つめ、川に足を浸す子供たちを見つめ、アーリーの後ろ姿を見つめて、
「……うんっ!」
大きく頷いて指で目を拭うと、川に足を浸す一団に加わった。
育田は静かにその微笑ましい様子を見つめていた。
「気持ちいいね!」
「でも、足が濡れちゃってこのあと靴履けないよ?」
「あっ」
子供の一人が言った言葉に、アーリーはぴくりと肩を震わせた。
「……まさか、アーリー先生……」
「……えへ」
そこまで考えてなかったらしい。アーリーの反応に、増せた子供たちはやれやれ、とばかりに頭を振った。
「育田先生、申し訳ないですが、タオルをなるべく持ってきてくれませんか?」
自分の失敗に苦笑したまま顔で、アーリーは育田に振り返った。振り替えるものの、目が見えないせいで視線は合わない。それでも育田は快く言った。
「分かりました。それに、アーリーさんの替えの靴も、ですね」
「あ、そうですね、お願いします」
育田は頷くと、タオルとアーリーの靴を取りに向かった。
育田が靴とタオル入りのバスケットを持って川縁に戻ってくると、状況は一変していた。まだまだ元気を持て余した子供たちが、川の水を掛け合っていたのだ。
「元気ですな、子供たち」
少し離れたところからそれを見つめている(ように見える)アーリーに声をかける。振り返ったアーリーの顔は少し不安げだった。
「育田先生、戻られたんですね。……元気なのはいいのですが、今度は服が……」
子供たちの服は水を浴びて、だんだん湿ったシミを作っていく。視力がなくとも、そんな様子が脳裏に浮かぶのだろう。
「わんぱくなのもいいことでしょう。子供のうちに、はしゃげるだけはしゃいだ方がいいです。そのためなら服が汚れるくらい取るに足らないことですよ」
「……そうですね。さすが育田先生です」
嬉しそうに頷くと、アーリーは黙って目を閉じた。目の見えないアーリーにとって耳に聞こえる彼らの声は、この上なく貴重な、彼女と子供たちを繋ぐ情報である。育田が子供たちの笑顔を楽しむように、アーリーもまた子供たちの笑い声を楽しんでいたのだ。そんなアーリーの気持ちを尊重してか、育田もアーリーに話しかけるのを止めて子供たちを見守ることにしたようだ。
「……育田先生」
しばらくして、アーリーは蚊の鳴くような小さな声で呼び掛けた。育田が再びアーリーへ振り向くと、彼女はひどく思い悩んだ顔をしていた。
「ど、どうしました?」
その様子の変わりように、育田は少し驚き、動揺した。そんな彼の様子を知ってか知らずか、アーリーは沈んだ声で話す。
「私は、保育士でいいのでしょうか?」
その質問は、育田の全く予想し得ないものだった。彼女の仕事に対する姿勢は目を見張るものがあったし、彼女自身が楽しんでいるように見えたからだ。
「私はお話したように、目がもう見えません。だから失敗も多く、子供たちに守られることもしばしばです。たぶん、あの子たちがいなかったら私は生きて行けません。……本来なら、私はあの子たちを守って危険や不安から助けてあげるべき立場なのに、実際は逆です。こんな私は……」
アーリーは、そこまで話して口を閉ざした。自分の不安を打ち明けるときは、自分の言いたいことが多い上に言葉にすることが難しいことがある。それはアーリーも同じようで、彼女は綺麗な金髪を揺らしながら声を振り絞っている。
「ごめんなさい、こんなこといきなり相談されても困りますよね。でも、育田先生は子供を何人もお持ちで、コダマ小学校の皆さんにも慕われてるから……その……こんなこと言える方ってほとんど居なくて……」
アーリーは子供たちの手前だからか、涙は見せまいと我慢していることが見え見えだった。
「私だけ喋って申し訳ないです。正しい教育をされている育田先生に聞いていただいただけでも――
「正しい教育なんて、きっとこの世のどこにもありませんよ」
アーリーの言葉を遮るように育田が言う。アーリーは少し驚いたように顔を上げた。
「私だって、自分の教育が正しいかどうか、いつも悩んでいます。でも、子供を育てる立場の者が思い悩むことは間違ってないはずです。考えることを放棄した瞬間に、教育者は教育者でなくなります」
「…………」
「今そうして悩んでいる時点で、アーリーさんは立派な保育士です。それに、守られたっていいじゃないですか。人は、守るものがあれば強くなれます。アーリーさんを守ろうとする子供たちは決して弱くないし、生きていく不安もきっと乗り越えてくれますよ」
育田の話を、アーリーはまるで好奇心旺盛な子供のように聞き入っていた。施設の子供たちが、スバルたちを困らせるほどの積極的なスキンシップをはかるのも、言ってみればアーリーのお蔭だった。目の見えないアーリーには、音でしか周りの状況を察知できない。それ故に、子供たちは積極的に声をかけることを覚え、彼女の支えにならんと必死になった。大切な人を、決して一人にしないように。それが彼らに活力を与えたのもまた事実なんである。
育田の言葉を心の中で反芻するアーリーの元に、川で遊んでいたはずの子供たちのうちの数人が集まってきた。話が聞こえたのかアーリーの曇った顔を見たのか、アーリーを心配そうに見つめている。
「アーリー先生、どーしたの?」
「えっ?」
話しかけられて、アーリーは自身の周りに子供が集まっていることにようやく気付いた。子供たちは、アーリーの表情と潤んだ目をどう捉えたのか、育田を睨み付け始めた。子供たちのリーダーのような女の子は両手を広げて、まるで敵からアーリーを守るように立ち塞がっている。
「ひょっとして、育田先生……でしたっけ? この人が何かひどいこと言ったんじゃ……」
「えっ、ひどい!」
「アーリーせんせーをいじめちゃだめっ!」
口々に叫ぶ子供たちに、育田は怒ることも反論することもしない。子供に文句を言われることは馴れているし、特に反論はするまでもなかった。
なぜなら、アーリーが子供たちのうちの一人、リーダーシップをとっていたらしい女の子に後ろから抱きついていたからだ。
「アーリー先生……?」
「ちがうんだよ、育田先生はね、先生の悩みを聞いて解決してくれたんだよ……」
抱きついたアーリーは、まるで母親にすがる子のようにも見え、子を安心させようと抱き締める母親のようにも見えた。
「そ、そうなの?」
リーダーの女の子は、勘違いをしてしまった恥と無実の罪を擦り付けてしまった負い目で顔を歪めた。次々に、育田に謝る子供たちだったが、育田は気にしないよ、とばかりに笑った。
「みんな……ごめんね。私、勘違いしてたみたい……」
「どうしたの、アーリー先生」
様子のおかしいアーリーを心配して、子供たちが不安そうに見守る。
「そうだよね、立場が逆だとか、どうでもいいよね」
「なんだか分からないけど、アーリーせんせ、元気出して?」
先程アーリーを不用意に呼んでしまい転ばせてしまった子が、いい子いい子、とばかりに彼女の頭を撫でた。
「私が危ない時は守ってね。みんなのことは私が守るから……」
我慢を止めたのか、アーリーはすでに声を震わせて泣いていた。リーダー的立ち位置の子は背中から抱きつくアーリーの手を握り返す。
「うん、アーリー先生は一人じゃないよ」
それからしばらく、アーリーは子供のように泣き続けて、泣き止ませることに子供たちは必死であった。子供たち曰く、彼女は元々涙もろい人ならしく、同時に一人で背負子みやすい
彼女は、育田の聞いた話では保育士としては新米らしく、未熟な部分も多いのだろう。でも、今回のことで一つ乗り越えた彼女なら大丈夫だろう。そう心に思い、育田はアーリーを子供たちに任せ、生徒を集めるために彼らの元へ向かった。
コダマ小学校の生徒と児童養護施設の子供たちのお別れの時が近づいていた。
今回の執筆で、思っていた以上に日本語って言語は目が見えることを前提にしていることが分かりました。目が見える人と見えない人が同時に居る場面での3人称の文って、どの人の立場で書くかの使い分けが必要なんですね。
しかし、育田先生の台詞がクサい。いい台詞を言おうとする人はクサくなるのは僕のクセなのだろうか?
ちなみに、育田先生とアーリーさんは恋愛フラグは立たないのでそのつもりでお願いします()