2、逃走劇
時は220X年……
電波による技術の急速な発展により、人々は便利な生活を手にいれていた。
しかし、そんな人々の平和を脅かす3度の危機が世界を襲う。
1回目は、身体が電波で構成されている宇宙人、FM星人による地球への侵略攻撃。
2回目は、無能な人間を憎む科学者ドクター・オリヒメによる、古代文明ムーのテクノロジーを利用した世界支配。
3回目は、電波犯罪組織ディーラーのリーダーであるミスター・キングによる、メテオGと呼ばれる巨大ノイズ流星を使った世界征服計画。
地球にもたらされた危機から人々を救ったのは、たった一人のヒーローだった。小学生の地球人「星河スバル」と、宇宙から来たAM星人「ウォーロック」が合体することで誕生する電波人間、シューティングスター・ロックマンである。
ロックマンの命がけの死闘によって世界は危機から脱し、その平和を取り戻しつつあった――
少年は、森を駆けていた。足元には膝まであろうかという草が生い茂り、行く手には数々の大木が立ちふさがっているが、少年はそれに意に解することもない。むしろ彼はしきりに後ろを振り向き、その様子はまるで何者かに追われているようだった。 ……そもそも彼は、運動は得意な方ではない。およそ2年ほどもの間、学校を登校拒否し引きこもって宇宙ばかり観てきたという運動不足っぷりだ。それは約1年が経過し、活動的になった今では幾分かマシになったとはいえ未だ駆けっこは速い方ではない。故に、彼がバテるのは時間の問題であった。
「ハァ、ハァ、ハァ……」
案の定、少年の体力はすぐに底を突き、彼は立ち膝になりながら近くの樹木の幹に手をそえて体を支えた。それでも荒くなった息は止まらず、少年は木に背を預けて寄りかかった。
『オイ、大丈夫かよ、スバル!?』
「はぁ、はぁ……」
彼のポケットの中にある携帯端末から何者かの声が問いかけたが、少年はそれに答える余裕もなかったのか、依然として荒い息はを吐き続けた。
『オイオイ、バテてる場合じゃないぜ?』
そんな少年を見兼ねてか、彼の隣の空間に電波の粒子が高速で集まりだし、あっという間に一体の生命体を形作った。その生命体が少年に話しかける声の主である。
「ウォーロック、そんなこと言ったって……まさかこんなことになるなんて……」
少年が、現れた生命体――いや、電波体のウォーロックに応えた。しかし、ウォーロックはそれに意を向けず、周囲を見回している。
『……マズイぜ、スバル。奴らすでにこちらの場所を把握してやがる。オレらを囲もうと動いてるみたいだ』
「か、囲まれたら一溜まりもないじゃないか!」
ウォーロックの状況報告を聞いて、その少年――スバルは戦慄しを覚えた。そもそも今まで捕まらなかった事が奇跡であるのに、囲まれたらそれこそ逃げ場などなくなってしまう。
「電波変換するわけにもいかないし……」
『休んでる暇なんてないってわけだ』
「……くっ……」
スバルは観念すると、よろよろと走り出した。走るとは言っても、もはや常人にとっては歩みよりもなお遅い。いつ足を取られて転ぶかという足取りである。ウォーロックといえば、スバルの代わりに走る、なんて事はもちろんできないため周囲を警戒するように見回しながら彼の後を追う。
と、急にウォーロックは目を見開いた。
『ッ! スバル、この先にも誰か居るぜ!』
「なっ!?」
前方から突然現れた新たなる敵。敵は、迷うことなく一直線にスバルめがけて駆けて来る。言葉を交わす暇も無い刹那の内に、2人は敵に図られた事を知った。敵は待ち伏せをしていたことを。数にモノを言わせて、待ち伏せ要員と追い込み要員に分かれていたのだ。先ほどウォーロックが感じた、獲物を囲うような敵の動きは、待ち伏せしている彼らの仲間の元へと誘導するための作戦だったということに。
しかし、時はすでに遅し。すでに周りにも追いこみ要員の敵がいるし、恐れた通りに逃げ場はない。そして――
「スバル兄ちゃん捕まえたーーっ!!」
緊迫した雰囲気に場違いなカン高い声が森に響いた。その声がこの逃走劇――もとい、鬼ごっこの終止符を打った。
「いえーいっ、これでボクたちの3勝っ!」
「かんぜんしょうりーっ!」
「作戦勝ちだったね!」
「次は何して遊ぶ?」
「缶蹴りとか?」
捕まった時の勢いで森の地面に尻もちをついた状態のスバルの周囲に集まった小さな少女少年が口ぐちに感想や次に遊ぶ内容について叫んで話合っている。その様子をスバルは眺めながら息を整えていた。
「あ~あ、捕まっちゃったなぁ……」
『お前の足が遅ぇんだよ、スバル!』
ウォーロックがハンターの中から怒号を浴びせる。彼は偵察の必要がなくなったためか、再び携帯端末の中に戻っていた。基本的にウィザードは主人であるオペレーターが必要としない限りはハンターVGの中に居る存在なのである。あくまで基本的に、ではあるが。
「なんだよ! それを言うならあの時追い詰められてるのをもっと早く教えてくれればまだ逃げられたかもしれないじゃないか!」
『なんだと!? そもそも追い詰められたのもお前の足が遅いからだろ!』
「あわわ、喧嘩始めちゃったよお兄ちゃんたち……」
「やめてー! お兄ちゃーん!」
口喧嘩を始めたオペレーターとそのウィザードを周りの子供たちがなだめる。年下の子供に仲裁を取られるとは、大人げない。なんとも大人げない。
「ぐ……とにかく、一旦施設に戻ろうか、みんな」
『おい、無視すんなスバル!』
どちらが悪いかを白黒つけたいらしいウィザードの声がハンターVGの中から響くが、スバルたちはこれを華麗にスルーし、帰路についた。
彼らが「施設」にたどり着くと、スバルにとってはもはや慣れ親しんだ顔ぶれが彼らを出迎えた。先頭に立つ金髪くるくるツインテールの少女が口を開く。
「え!? もう捕まっちゃったの、スバルくん!」
「はい、捕まっちゃいました……」
なぜか敬語で答えたスバルに目の前のクラスメイトは不満げだ。
「なんだよだらしねーな、スバル!」
「真っ先に捕まったゴン太くんが言えることじゃないですよ?」
最初に喋った少女の後ろから、大小二人の男の子が話しかける。この3人とも、スバルのブラザーであり彼の「正体」を知る数少ない人物たちである。
「ま、まぁ正直この子たち相手にはしょうがないわよ。むしろ最後まで逃げられたことを褒めるべき――って、ちょっとスバルくん!? なにポカンとした顔してるのよ!?」
そう言った金髪少女――白金ルナの目の前で、スバルは緩み切った顔を浮かべていた。
「いや……てっきり怒られるものかとばかり……」
「なっ! それじゃわたしが怒りっぽい性格みたいじゃない!」
……と、頬を膨らませ怒るルナ。スバルもそれを言わなければむしろ怒られずに済んだのに。そして、
(怒りっぽいよな……)
(怒りっぽいよね……)
(怒りっぽいですよね……)
ルナの周りの3人組の心の内は一致していた。今更な事実なので誰も口には出さなかったが。
「あの……お兄ちゃんにお姉ちゃん……」
と、それまでスバルたちに置いてけぼりを食らっていた子供たちは、会話が途切れる合間を狙っておずおずと声を出した。
「あ、ごめんごめん! 次はお姉ちゃんたちと何をしよっか?」
学級委員長であり生徒会長にもなったルナはこれでも面倒見は良く、子供たちの前でもしっかりお姉さんをやっていた。
――今、コダマ小学校6年生に進級したスバルたちは社会科見学の一環として、とある養護施設に訪れていた。5年生の頃からの担任である育田
そして、スバルたちはそんな指針の元、施設の子供たちと遊び戯れているわけなのだが、この子供たちが、想像以上すぎた。年下と思って悪くいえば舐めていたわけだが、非常にパワフルでむしろお兄さんお姉さんのスバルたちが振り回されているのである。
「……多数決の結果、騎馬戦に決まりましたー! いえーい!」
「ウソだろっ!?」
子供達のまさかのチョイスに愕然とするコダマ小学校の面々。まず人数が足りるのかすら
「ちょ、ちょっと一回休まない?」
「オ、オレもそうしたいところだぜ……」
「えー!?」
「まだ遊び足りないよー!?」
スバルとゴン太の弱音に、子供達のブーイングの嵐が浴びせられた。
『なんだお前ら、この程度で疲れるなんて体力無さすぎるんじゃねーか?』
ウォーロックが再びハンターから勝手に出てきて畳み掛ける。スバルは自らのウィザードを少し睨んだ。
「ロックは走ってないからそんなに元気なんだよ」
「そうよ、あなたもやろうと思えば鬼ごっこに参加できるでしょ? 少しは遊びに貢献しなさいっ!」
スバルに続けてルナもウォーロックに抗議しつつ、ビシッと指を彼に指した。
『…………』
そんなルナを何を考えてるか分からない表情で見つめ返すウォーロック。ルナは、目の前のウィザードの雰囲気を見てか、少し顔を引きつらせた。
「な、なによ……」
『……いやなに、そこまで言うならオレも鬼ごっこしようかなと思ったまでだ』
(あ、何か嫌な予感が……)
ルナとウォーロックのやり取りを見つめながら、スバルはウォーロックが何を考えているのかを察していた。
「ちょっ……ウォーロック?」
『……ウガァァアアアアア!!』
「きゃぁぁあああああああ!!」
ウォーロックが威嚇するように獣のような咆哮をあげてルナに迫ると、ルナは人間離れした速度で回れ右をした後に逃亡を始めた。そのまま謎の鬼ごっこを始める2人。ウォーロックを本気で怖がるルナと、それを面白がってわざと怖い雰囲気を作って襲うウォーロック。犬猿の仲とまではいかなくとも相変わらずウォーロックが苦手なルナなのであった。
「またこれか……」
はぁ、と軽くため息をつきつつ、ウィザード・オフを実行して自分のウィザードをハンターへ戻そうとし、違和感を覚えた。
「ん?」
『んあ? どうしたスバル?』
何かに気付いてとある方向を見つめるスバルに気付いたウォーロックは、ルナを追いかけるという悪ふざけを中断してスバルの視線を追った。そして気付いた。
ウォーロックに注がれる、キラキラとした子供たちの視線を。
『……えっと、どうした、お前ら?』
なんとなく次の展開が予想できたウォーロックは、冷や汗をかきながら施設の子供たちに聞いてみた。
「スバルお兄ちゃんのウィザード、かっこいいね……」
「強そうだし……」
「面白そうだし……」
穢れ無く輝かせた眼を一切崩さず、口々に呟く子供たち。今のウォーロックはさながら、ライオンの群れの前に投げ出された獲物、といったところだろうか。ライオンのような見た目のくせに。
『おい……まさか……』
「かかれーっ!」
『かかれってうおい、ちょっ待ちやがれぇっ!!』
一斉に子供たちが、ウォーロックに飛びかからん勢いで迫り、今度はウォーロックが逃げ出す番だった。どうやら今度は遊び相手をウォーロックに切り替えたらしい。それも、本人の意思などお構いなしだ。
『お、おい、スバル、どうにかしろーっ!』
「いやだってボク疲れたし……」
『薄情者ぉぉおおおお!!』
「ウォーロックっ! 遊んで! 騎馬戦で!!」
『いや待て騎馬戦はムリだろ、一旦止まれーっ!!』
どどどどど、と音を立てて子供の一団は逃げるウォーロックを先頭にどこかへと行ってしまった。そして、カオスだった場が急に静寂を取り戻す。
「ウォーロックは犠牲になったのだ……」
「もっと別に言ってあげることはなかったんですか」
ぽつりと呟いたスバルに、キザマロが問う。
「何にせよ、これで休めるわね。ウォーロックには悪いけど、わたしを怖がらせたから良い気味よ」
「やっぱ怒りっぽいぜ、委員長……」
「何か言った?」
「ななな、なにも言ってないぜ、なにも!」
ルナに余計なことを言って怒られかけるゴン太であった。
テンポ悪い……っていうか展開早いかな。
委員長のツンツンした感じが足りないな……