彼方のなく頃に   作:krowknown

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プロローグ

「——1000」

 

 気合いの入った声の後に、荒い息遣いが辺りに響く。

 今日は自主練の開始時間が少し遅かったせいか、空を見上げればもうだいぶ日が暮れてきていた。昼間は地上で生きている生きている生物達を、焼き殺さんとばかりに照らしていた太陽は、もう半分ほど消えかかっている。

 毎日の日課である、近所の神社で素振り1000回。

 季節は夏

 三年生の先輩はつい最近引退していった。強豪でもない地元にある普通の共学高校だが、今年は予選で三回戦までいっただけ善戦したと言ってもいいだろう。普通の野球部員なら喜ぶところだが、ここにいる前原(まえばら)彼方(かなた)は、この結果に満足しているわけではなかった。

 

 今年の自分の代では絶対に甲子園に出場すると息を巻いている訳なのだが、他の部員の意識は彼方とかけ離れており、大会に挑む情熱はそれほど高いわけではないことが、最近の彼方の悩みの種だったりもする。

 高校に入ってから一日も欠かすことなく、毎日素振りを1000回するところを見るに、常日頃から言っていて、もう口癖と化したセリフである「甲子園に行く!」という目標は、周囲の人間は笑うが、彼方自身は大まじめだということが窺える。

 

「はぁ~疲れた。でも、もう少しイメージが欲しいな。甲子園ともなればもっとキレの良いスライダーやら、フォークボールを投げてくるんだろうな。楽しみだなぁ、へへ・・・・・・やべ、鼻血出てきた」

 

――野球バカ

 この男を一番しっくりと表している言葉だろう。

 練習のしすぎか、はたまた未知なる対戦相手を想像し、興奮して鼻血を出しているのかは分からないが、近くの階段に重りのついた木製のバットを丁寧に立て掛け、バックが置いてある賽銭箱の方まで行き、サイドポケットからポケットティッシュを取り出す。

 野球部御用達のエナメルバッグという、大きくそして利便性のあるバッグは、高校球児の相棒と言っても過言ではない。

 置き勉をして野球道具しか入っていない学生の本分を忘れさせる中身をチャックの隙間から確認しながら、丸めたティッシュを鼻に詰める。

 

「それにしてもひぐらしがよく鳴いているな。ひぐらしっていえば前に友達に進められたアニメがあったっけ。中学の時だっけな? 面白かったなぁ」

 

 平凡な高校で野球一筋、授業中はもちろんただ歩いているときも、野球の事を考えている彼方だが、普通に友達とアニメの話や、最近の流行の話だってする。

 学校では若干変人扱いの、彼方のスキルである独り言は、近くでお腹を上にして倒れたままピクリともしないひぐらしにしか届いていない。

 無論そのひぐらしはもう生きていないのかもしれないが。

 

「ああ・・・・・・やばいな。今日はいつも以上に疲れた。少しだけ寝ていこうかな」

 

 突然の疲労感と睡魔に負け、この場所で少し休んでいくことにする。幸い神社と言っても近くに電灯がいくつもあり真っ暗になる事は無い。

 胡坐をかき賽銭箱に背中を預けて瞼を閉じる。やはり疲れがたまっていたのだろうか、すぐに彼方の意識は薄れていく。

 その薄れる意識の中、すぐ近くで鳴いているひぐらしの鳴き声がなぜか鮮明に聞こえてきた。

 

 

 幸か不幸か、その日『ある世界で一つの生が消え、次元を超えたある世界で一つの生が生まれた』

 

 その小さな小さな生はその世界にどのようなことをもたらせてくれるのだろうか。

――結果は唯一人、前原彼方しか知らない。

 

 

 

 





 前から読んでいただいてる方、お久しぶりです。
 初めての方、初めまして。

 健康に気を付けて、頑張っていきましょう!(; ・`д・´)
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