彼方のなく頃に   作:krowknown

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彼方隠し編  1

 一体これは何だろうか?

 

 瞬間移動、タイムパラドックス、タイムトラベル、憑依、転生・・・・・・。なにが一番適切な表現なのだろうか。いや、よく分からないものが混ざってる気がするがこの世界に来た当初の俺は当然のごとく困惑していた。

 寝ていて起きたら、別の世界の誰か知らない体になっている。これほど恐ろしいことは無いだろう。新しく自分の体になった、幼い体で無我夢中で泣き、夜は怖くて寝れなかった。

 一体この人達は誰なんだろう?なんで、俺は誰だ?

 

 その当時は俺の荒れように、今の両親もそれはもう心配した。病院にも連れていかれた。このあまりにも理不尽な運命を受け止めたのは、それから長いこと時間を必要とした。

 

「——なんてこった」

 

 そして今、現在。

 俺は急遽行われた家族会議で昔に吐いた一言と同じニュアンスの言葉を口からこぼす。

 

 なぜこのような言葉が俺から出たかと言うと、第二の親父から言い出された一言は彼方の人生を左右するには十分すぎるほど威力を持っているからだ。

 

『一週間後、我が家族は雛見沢村に引っ越すことにした』

 

 それを言い放った親父の顔は冗談でもなく真剣そのものだった。

 

「やっぱり嫌だよな・・・・・・。ごめんな兄貴、俺がもっと強ければ」

 

 小さく呟いたはずの言葉だが隣に座っている俺の弟、圭一(けいいち)には聞こえていたようだ。実際この引っ越しの話も、圭一の為にと両親が決断したことなので、俺の言葉に心底申し訳なさそうな顔をする圭一に俺も居た堪れなくなる。

 アニメや、漫画でも登場した容姿そのものである、圭一の顔は今にも泣きだしそうである。

 

 そう。俺が今生きているこの世界は、あの友達に進められて読んだ『ひぐらしのなく頃に』の世界なのである。

 

 あの日、神社で眠っていたら次に目を覚ませば景色は家の中、保育園児の子供になっていたのだ。

 違う世界。だけど前原という同じ名字の家の子になり、名前も彼方(かなた)と変わっていない。しかし変わったこともある。

 兄弟ができた。一つ下の圭一である。この世界で生活していくと、薄々だがお父さんの容姿やら仕事やら引っかかるものがあったが、この世界が『ひぐらしのなく頃に』だと判断するのに、段々と成長していき容姿が整ってきた弟の圭一が決定打となる。

――怖かった

 空想の話として見ていた、あの世界での事象がこの現実となった世界で起こるということが。

 俺は動いた。雛見沢に行かないようにするために、圭一の勉強へのストレスを抑えるために、親の期待やら何やらを押し付けないでくれと親を叱ったり、学校で苛めがあると知ればすぐに助けに行った。

 そのおかげと言っては何だが、圭一からは結構懐かれている。

 

「いや、別にそういう訳で言ったんじゃないんだ・俺こそごめんな。圭一が学校で苛められてたっていうのに、助けられなくてさ。それに親父が気づいてこういう風に、行動してくれたこと事態も俺は嬉しいんだ。だからさ、そんな顔するなって!」

「そんなことねーって!兄貴はスゲー俺の事を守ってくれてたよ。学年も学校も違うっていうのにいつも助けられっぱなしだ。だけど・・・・・・だからこそ、今回は見ててくれよ!俺、強くなるからさ」

 

 拳を握りキラキラとした瞳でそう宣言をされては、兄として応援する選択しかない。

 クシャクシャと圭一の頭を撫でてやる。

 アニメなどでメイドやスクール水着などのコスプレをさせられるだけあって、上目づかいは俺の中にある加護欲をすごい刺激してくる。勘違いしてはならないが、俺はノーマルである。

 

 圭一が犬だったなら、今正に千切れんばかりに左右に振られているであろうことは容易に想像がつく。

 

 圭一の苛めへの理由は、頭が良いことによる僻みからだった。

 周りの期待というストレスからの解放に加え、いつも心配をしてくれる兄という存在が余計に圭一の頭を良くさせた。それが、この世界に来て失敗した二つの中の一つである。結局は圭一を苦しめてしまったことには変わりないので、俺の圭一の気使いはいらないお世話だったのだ。

 そして、雛見沢に行くということはもう一つの失敗も、これから影響していくのであろう。

 

「じゃあ、学校の事は親父が何とかしてるんだろうから少し部屋の掃除したら、もう寝るから」

 

 そう言いながら膝に手を着き、ソファーから腰を上げる。

 リビングから出ようとしたところで、今まで黙っていた親父が俺に声をかけてくる。

 

「彼方!あっちでは多分野球はできないぞ。あと一年して高校に入学すれば別だが。もし、それが嫌なら・・・・・・お前だけでもこっちに住むか?」

 

 親父なりに気を使っての言葉だろう。その俺にとっては何事にも代えがたい話ではある。決心をした俺でも、悩んでいる自分が今いるのもまた事実だ。

 この機会を逃したら俺はもう、逃れられないだろう。

 運が良ければ原作通り、みんなで生きて人生を全うできる。その逆で運が悪ければ、これもまた原作通りみんな死ぬのだろう。

 その悪魔の囁きとでもいう甘い誘惑に、俺は頷くことはできなかった。

 どうにかなるだろ?などと簡単に考えているわけではない。ただ・・・・・・ただ単にこの家族を、弟を失いたくない。それだけのことだ。

 

 俺と言う、前原彼方というイレギュラーが生まれてしまったこの世界で簡単に惨劇を回避することは難しいだろう。だが、もうこうなったらやるしかない。

 意を決して返事をする。

 

「・・・・・・いやー別に気にしなくていいよ。一年間自主練して、高校に入ったら甲子園にちゃんと行くからさ」

 

――何事もなく雛見沢で過ごせたらね。

 そう。何事もなく過ごせたらの場合である。

 

 野球という名のアメと、惨劇という名のムチに挟まれた俺は引き攣った笑みを浮かべるしかできなかった。

 あっちで一年越すことができたら、念願の甲子園に!

 

 

 

 

 

 

 

 

 それからあっという間に一週間は過ぎていき、俺と圭一は今、雛見沢唯一の教育機関である雛見沢分校の教室の前にいる。

 校長と担任となる知恵(ちえ)留美子(るみこ)こと、知恵先生に挨拶を済ませ、今度はドキドキのクラスメイトもとい、アニメの主要キャラとの初のご対面である。

 緊張せずにはいられない。

 

「はい。じゃあ転校生を紹介するわね!」

 

 教室の中にいる知恵先生から俺たちの事を指す言葉を貰ったので、いざ戦場へ!という決心と共にドアノブに手をかける。

 

「あっ忘れてたわ!二人とも都会から来たから怒らせちゃだめですよ!確か・・・・・・東京湾? っていう所に沈められてしまいますからね。では、入ってくださーい」

 

 手をかけたところで完全に動きは止まった。横で今の発言を聞いていた圭一も驚いた面持ちで唾を飲む。

 ガヤガヤとこの分校、唯一の教室から元気で明るい子供たちの声が聞こえていたので、案外やっていけそうだなぁと内心は少し安心していたというのに、知恵先生は何を思い出したかのように、爆弾を落としていっているのだろうか。

 ドアノブに掛けられていた手を静かに離す。

 

「・・・・・・圭一、先に入れって」

「なんでだよ、ドアノブに手をかけてたのにいきなり俺にパスするのはおかしいだろ。兄貴が入れって」

「おい!お兄ちゃんが頼んでんだぞ。この状況で何事もなくすんなり教室に入れるやつがいたら俺は尊敬するね。戦時下の天皇様より俺は敬うね!」

「なに訳の分からないこと言ってんだよ兄貴!今の聞いてたろ。小心者でイケメンな俺が入れるわけねーって」

「なに遠慮してると思わせておいて、自分の事褒めてんだよ!馬鹿なんだろ?馬鹿なんだろお前」

 

 俺らはドアを開けることができなかった。あのさっきまで教室から聞こえていた喧騒が嘘のように静かになっていたからである。なにが東京湾だよ!そのイメージはどこから手に入れたんだよ!

 少なくとも無事にやり過ごせば一年間はこの分校にお世話になるわけなので、第一印象は最悪にはしたくなかった。

 そんな俺らの事など関係ないとばかりに、元凶である知恵先生が般若のお面を被ったのではないだろうかと思わせるほどの顔をして立っていた。

 

「お馬鹿さんはどっちでしょうね~前原さん」

 

 圭一と両手を絡める身体を寄せ合う。人間が生まれもって持っている防衛本能が言っている。お前らの敵う相手じゃないと。

 こんなピンチな場面になったからだろうか。今圭一と俺は同じことを考えているとお互いに感じられた。これを言ったら東京湾に沈められてしまうのは俺達のほうかもしれないが、そもそもの原因が誰なのかをはっきりと伝えなければならない。

 

『——お馬鹿さんはあなたですよ』

 

 言い終えたと同時に感じる殺気。ああ、なんて理不尽なのだろうか。俺の視界にはぎりぎり知恵先生が腕を振り絞って圭一にエルボーをお見舞いする瞬間を捉えることができた。

 圭一を庇った俺はその一撃をもろに食らってしまいあえなくダウンをした。

 

 次に目を覚ますと消毒液の匂いが僅かに香る保健室のベッドに寝かされていた。

 

「目を覚ましましたか?」

 

 木製の扉が甲高い変な音を立てながら開かれると、知恵先生が申し訳なさそうに入ってきた。エプロンをしていることから察するに、今はお昼時なのだろう。意識しだすと急にお腹が減ってきた。

 

「いやまぁ、なんというか・・・・・・おかげさまで。いい肘をお持ちですね」

「うぅ~本当にすみません。もうケガの具合は大丈夫ですか?」

「大丈夫ですよ。変にこういうことに慣れていますから」

「なら良かったです。加減していなかったのでホントに焦っちゃって。今はみんなお昼でお弁当を食べているので、よかったら教室に行って皆さんに挨拶しませんか?圭一君はもう先に終わらせて馴染んでいますよ」

 

 少しとは言い難いが暴力的なところを除けば良い先生である。それに美人だ。そんな風に微笑まれてしまったら、見とれてしまうのもしょうがない認めざるをえまい。

 倒れた時に打ったのだろう、まだ少し痛む腰を擦りながらベッドから降りて知恵先生の後を着いていく。

 

 教室に足を運ぶと教室では各々で机を合わせて、楽しく会話をしながら食事をとっている。その後ろの方で、俺と同じぐらいの歳の奴らと、小学生だろう女の子たちで机を囲んでいるところに、原作メンバーと圭一がいた。

 

「はい、みんな注目して!もう一人の転校生を紹介するわよ」

 

 手をパンパンと叩き周りからの注目を集める知恵先生。周りが静かになったところで目で俺に先を促す。

 

「ああ、じゃあ。転校してきた前原彼方って言います。そこでハーレムを築きつつある圭一の兄をやってます。趣味は野球で、特技も野球。マイブームは野球の雑誌を読む事かな。いろいろと皆にお世話になると思うけど、よろしくお願いします」

 

 挨拶をやり終えお辞儀をすると、拍手をしてくれた。中々の手応えだとばかりに、少し浮かれていると例の一団から声が聞こえる。

 

「ちょっと聞きましてみなさん!野球しか能のない真正のお馬鹿さんがやってきてしまいましたわよ」

「おじさんもびっくりだよ。あんなドヤ顔で小学生並の自己紹介をするなんてね。男なら一発ギャグくらいはあそこでかましてほしいよ。同学年ってことで、ちぃーと期待しすぎたおじさんが愚かだってことかな。ガッカリだよ」

「可愛い可愛いお馬鹿さんですね。にぱー」

 

 なんだとパーフェクトコミュニケーションかと思っていたのに、この言われよう・・・・・・結構くるものがあるぜ。それより原作組は一体俺に何を求めてんだよ!もういろいろと怖いわ!

 みんなすごい可愛いのがショックを加速させる。

 原作のメインを張ってるだけあって、一人一人が学年や学校に一人はいるだろうマドンナ級の美人と言っても良いだろう。 

 なぜこんな田舎に。テレビ業界が黙っちゃいないでしょうに。

 

「いや、お前らさすがに言いすぎだろ。確かに兄貴は野球の事しか頭にないだろうけど悪い奴じゃないし、兄貴を馬鹿にするのはいくらお前達でもゆるさないぞ!」

「落ち着け落ち着け。こんなできた弟を持てて俺は嬉しいよ。みんなも改めてよろしくな!さっ――ええっと名前はまだ聞いてなかったよな。もし良かったら自己紹介してくれると助かるな」

 

 いきなり熱くなる圭一をクラスで明日から浮かないように、フォローを入れる。俺のために怒ってくれるのはいいが、後先を考えずに行動するタイプの圭一に頭を悩ましながら、圭一の肩に腕を回し陽気に接する。

 それよりも問題は、必死に話を逸らそうとした結果大きなミスをしてしまったことだ。

 みんなの今の反応を見るに気にしてはいないようだが、最初からなんとなく警戒の色を隠せていなかった梨花ちゃんには気づかれてしまったようだが。俺が沙都子の名前をその流れのまま言おうとしたことに。

 沙都子の横で一瞬目を見開き、こちらを凝視してきた梨花ちゃんから目線を合わせないようにしながら、その場を取り繕う。

 

「みー?彼方は今、沙都子の方を見て名前を呼ぼうとしてましたよね?どっかで会ったことがあるですか」

 

 案の定追及されてしまった。

 あの大人バージョンの梨花ちゃんを知っているからなのかは分からないが、こんな見た目年もいかない子にプレッシャーをかけれれているを感じる。急に背中に冷たい汗が流れる。

 

「ん?ええっと・・・・・・「梨花なのですよ」そっか、じゃあ梨花ちゃん。何か勘違いしているようだけど、このクラスの子たちと会うのは初めてだよ。名前なんか知るわけもないしね」

「でも、さっき沙都子の方を向いて名前を言いかけていたのですよぉ。どう見ても初めて会った感じではないのですよ~」

 

 そんな世の中の良い所しか知りませんよみたいな無垢な表情で見つめられると、こちらとしても困ってしまう。なんでいきなりピンチに陥ってるんだ俺は。

 

「いや、違うって。さっきのはあれだよ! そう、俺ってさ野球が好きだから、みんなもよろしくな!さあしまっていこーう!みたいな感じを言おうとしたんだよ。でもさっきみたいに引かれても嫌だから言うのを途中でやめただけだよ」

 

 頭をフル回転させて何とか言い訳を述べる。数秒梨花ちゃんと視線を交わす。

 

「・・・・・・そうなのですかぁ。ボクが勘違いしていたようなのです、ごめんなのですよ」

 

 なんとかボロが出る前に追及を止めてくれた。本心は納得していないが今はやめときますという顔をして、梨花ちゃんは俺から目を離す。

 少し変な空気になってしまったところを、魅音が慌てて立て直してくれる。

 

「まあまあ、落ち着いたところでお弁当食べようか。彼方はそこにある今日休みのレナの机を借りればいいよ。ちなみにおじさんは園崎魅音。名字はあんまし好きじゃないから名前で呼んでくれていいよ。よろしくね彼方!」

「ああ、こちらこそよろしくな」

 

 これからは原作知識のボロが出ないように気を付けて周りと接しなきゃなと、気持ちを引き締める。差し出された魅音の手は、思っていたよりも小さく暖かかった。

 

 追い追いこの世界が、どこの話の世界なのか見極めなくてはならないが、今はこの限りある平凡な毎日を少しでも堪能しようと思う。

 

 

 

 

 

 

 

 




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