彼方のなく頃に   作:krowknown

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彼方隠し編  2

 雛見沢に引っ越して来てからもう、3週間が経つ。

 

 未だに何もこの世界の事は掴めてはいない。

 この三週間の中で我が家の親戚が亡くなったので、急遽、葬儀に参列するために俺以外の3人がまた地元に帰化してしまったのだ。

 長男の俺はというと、親父との親戚への挨拶は圭一に任せて、両親に頼み込み残ったのだ。

 今日の夜には家族が帰ってくると思うので、実質、俺自身が誰の目も気にせず自由に動けるのも残す所今日一日というわけだ。

 

「あー・・・・・・最悪だ。エアコンの電源切らないで寝たから、喉やられたわ」

 

 野球人として、エアコンなどは悪だと思っていたが、ここ数日間の暑さは尋常ではなかった。

 痛む喉を手でさすりながら一階のリビングへと降りていく。

 ここ数日の朝飯となった、食パンをトースターにいれ、湯沸かし器の電源を付けておく。これをしておけば、顔を洗い、服を着替え終わるのと丁度良い時間になる。

 少し焦げ目のついた食パンに噛り付く。テレビを見ながら今日の予定について考える。

 

 当初引っ越してきたばかりの頃よりかは、雛見沢の地形も覚えてきた。原作で大まかな位置が分かっていた時とは違い、自分的には結構細部まで見て回った。

 そして今日は、まだ一度も行ったことがない古出神社に行こうかと模索している。

 『ひぐらしのなく頃に』では重要な役割を果たす古出神社を、なぜ一番最初に訪れなかった理由は簡単なことだ。そこに行くと絶対に梨花ちゃんに会うと何か確信めいたものが俺の中であったからだ。

 じゃあ、俺を疑っているであろう梨花ちゃんと一対一で会う決意をしたのかと言われれば、悩むところである。

 俺の事をどこまでいえばいいのか。そもそも俺が自分に起こったことの詳細を話すべきなのか、一向に整理はつかないが長引かせてもしょうがないと、重い腰を上げることにしただけだ。

 

分校以外では極力、原作キャラとの接触は避けて行動しているのだが、こちらの意図と言うよりも距離感を不思議に思ったのか、魅音を筆頭に部活の活動として俺を捕獲し、部活に入れようとしていることを小耳にはさんでいるので気を付けなくてはならない。

 トーストをペロリとたいらげ、髪型を簡単に整える。

 服は都会にいた頃よりかは、割と無頓着になった気がする。

 近くのコンビに行くだけで多くの人とすれ違う心配はこの雛見沢では必要ないので、動きやすさに最近は重きを置いている。

 

「よし。じゃあいってきまーす」

 

 段々と見慣れつつある、新たな我が家の玄関に挨拶をしてから外へと踏み出す。

 ドアを開けると一気に蒸し暑さが押し寄せてくる。太陽の眩しさに片手を頭の近くに持っていき目元に影ができるようにする。

 エアコンがついている部屋に適応してしまった俺の体は、予想以上に弱り果てているが玄関先で愚痴っていても始まらないと喝を入れ、要所要所にある日陰で休みながら古出神社に向かった。

 

――古手神社

 

 あの奇妙以外の何物でもない転生? 騒動から、俺自身、神社というものに苦手意識を持っていたが、古く立派な佇まいの古手神社を目にすると、神聖な感じがして感動してしまった。

 やっぱりひぐらしの世界なんだなぁ。だらしなく口を開けて眺めている俺の頭は、今となっては当たり前のことで一杯だ。

 

 賽銭箱の近くで腹を裂かれた梨花ちゃんのシーンが頭に浮かぶ。

 あのシーンを見て、梨花ちゃんが可哀想や、鷹野さんの怖すぎなど、いろいろな感想がネットの掲示板に投稿されていたが、俺はただ「痛そうだなぁ」という印象しか抱かなかった。

 何度も何度も終わることのない袋小路を彷徨い続けて、ほぼ毎回、腹をナイフで滅多刺しにされたのでは、俺だったら気が狂う。

 前の世界と今、俺が生きているこの世界の根幹はズレていない。

 こっちでもあっちでも、自殺か他殺かの違いはあれど、毎日のように人が死ぬニュースが流れている。しかし、その事件の当事者になることなんて考えている人はいないと思う。

 所詮は他人事なのだ。

 出来ることなら、そのようなことに関わることはしたくないが、ここに住む限り、確実にその当事者へとなることになるのだ。

 梨花ちゃんがいつも、その世界が終わりの間際に寝かされているだろう地面に右手の平を置く。

 

「・・・・・・冷たいな」

 

 そこに手を着けば、何かビジョンが浮かぶなど、どこかの霊媒師のような事は当然ながら起きずに、ごく普通の感想が口から出てくる。

 

「無性に素振りがしたくなってきたなー」

「彼方は何をしているのですか~?」

「——うおっ!?」

 

 身構えすぎていた反動により、何も起こらなかったことで緊張が解け野球の事を口走った瞬間に、狙ったように現れた梨花ちゃん。

 表情からは悪気がなかったかのように見えるが、騙されてはいけない。

 この目の前にいるのは、小さな女の子ではなく、俺よりもはるかに年上だと思って相手をしなければ足元をすくわれる。

 

「驚かさないでくれよー梨花ちゃん。別に何もしてないぞ? 探検してたら貫禄のある神社を見つけたから観察してただけだよ」

「そうだったんですか~。ボクには彼方が何か目的を持ってここに来たと思っていたんですが、勘違いだったようですね、にぱー」

 

 回りくどい言い方で攻めてくるじゃないか。

 俺の改めて考えていた言い訳はやっぱり通用しないか。後ろで手を組み笑顔を向けてくる梨花ちゃんを恨めしく思いながらも、表情には一切出さないようにする。

 

「彼方はなんで地面に手なんかついているのですか~?——まるでそこで何かが起こったみたいに」

 

 指摘されて俺は右手を地面につけていたままだったことを思い出す。自分で思っているよりもテンパっているようだ。

 慌てて手を離し、弁解をする。

 

「別に目的があるわけじゃなくてな、こんなすごそうな神社だからどっかのパワースポットみたいに、元気貰えないかなって思ってな」

「・・・・・・あなたは一体誰?」

 

 必死にごまかそうとしている俺など知らないとばかりに、いきなり本題へともっていかれる。

 この展開は予想外だったので、数秒間黙ってしまう。

 その問いかけには、無言も十分答えになってしまうというのに、言葉は出なかった。しかし梨花ちゃんは一切視線を俺から外すことなく、真剣な表情のままだ。

 俺が自分の口で何かいうのを待っているのだろう。

 

「一体誰って、言われてもなぁ・・・・・・この前この雛見沢に引っ越してきた、前原彼方だとしか言いようがないな」

「そんなことを知りたいわけじゃないの。私はあなたのことを知らないわ」

「そりゃ最近引っ越してきたんだから知ってるわけないだろ? それに梨花ちゃん、その口調は似合ってないぞ。もうちょっとお姉さんになったらそういう言葉使いをしたほうがいいな」

 

 何も細かい作戦を立てずに此処に来たことを後悔する。

 ここで不必要に、喋ってしまっても良い結果になるとは限らない。

 ここは断固として黙秘を貫かせて・・・・・・んっ? 今後ろに組まれているであろう手に持たれている、キラリと光るものが見えたような。

 想像しろ。今ちらりと見えたのは・・・・・・間違いなく包丁だ。

 もし俺が新たな敵なら、この場で俺を殺すか、もし敵わないと知れば、詩音の時にもあったように自分の頭に包丁を突き立て誰かに殺されるぐらいならばと自決するのかも知れない――ヤバイ

 

「普通は私の口調が変わったら、少しは驚くものよ?」

「俺の表情筋は今、休暇中でね」

 

 駆け引きでもすればいいのに、なぜか挑発的な受け答えをしてしまった。

 心の中で悲鳴を上げ梨花ちゃんの後ろを見やるともう隠す気はないのか、右手にしかと握られた包丁の全体像を見ることができた。

 

「なんで包丁を持っていらっしゃるのかな?・・・・・・あの、梨花・・・・・・さま?」

「もう一度だけ聞くわよ」

「その前に包丁の先を俺に向けないで、下してもらえればありがた――」

「あなたは一体何者?」

 

 梨花ちゃんの行動力に完全敗北である。ファーストコンタクトから包丁を携えてくるなんてな。

 これはもしかすると、俺が何かする前に死亡フラグがビンビンと立っちゃってる?

 

「あのですねぇ「——答えて!」」

 

 どうやらもう俺に発言権は無いらしい。冷徹な低い声が俺の頭を混乱させていってしまう。だめだ、焦っちゃだめだ。

 焦って問題が好転することはありえない。

 冷静になれと何回も心の中で繰り返しつぶやく。

 あどけない、年相応の可愛らしい口調は鳴りを潜め、大人らしい俗に言う『黒梨花ちゃん』と視線を合わせる。こちらだけが追い込まれていたと思っていたが、その梨花ちゃんの瞳は揺れている。

 何回も世界を繰り返していて、初めて現れた前原彼方に、梨花ちゃんは恐怖しているのだ。

 そう思うと、目の前にいる包丁を持った女の子に恐怖を抱かなくなった。

 

「俺は前原彼方だよ。前原圭一の兄で、この田舎の雛見沢の魅力に惹かれつつある普通の中学3年生だ。だから、そんなに怖がらないで」

「あなたは私の敵? それとも味方なの?」

「・・・・・・」

「もし、もしあなたが私の敵だとするなら、私は!・・・・・・もう・・・・・・」

 

 この目の前にいる女の子はもう限界だったのだろう。

 終わりが見えない運命にまた新たな敵が、前原圭一の兄という最悪なポジションで出てこようものなら、おそらく彼女の心は今までの強さが嘘のようにポッキリと折れてしまうのだろう。

 

「えっとな、上手く言えないんだけどな」

 

 こんな時になっても踏ん切りがつかないでいる。

 俺は全部知っているぞとでも言えばいいのだろうか? 今一番適切な言葉はわからない。

 どんなことを言えばこれからの物語が進みやすくなるのか・・・・・・わからない。わからないから――

 

「——俺は梨花ちゃんの味方だぞ」

 

 一言。笑顔でこう述べるしかなかった。

 

 少しクサかったかなと段々襲ってくる羞恥に、頬を紅潮させながらも梨花ちゃんの反応を窺うが、何の反応も示さない。言葉の通り固まってしまているのだ。

 可愛い小さな口を空けっぱなしにし、先ほどとまったく変わらない姿勢。

 

「ええっと・・・・・・この状況で言うのもどうかと思うけど、何か反応してほしいな」

 

 遊びではなく、真剣に包丁を俺に向けている正面の相手に、わざわざ反応をしてくださいと仄めかすのはどうかと思うが、なぜかこの変な空気に耐えられない自分がいる。

 

「梨花ちゃん?・・・・・・梨花さん。・・・・・・梨花様!」

「梨花様はやめなさい!」

 

 どうしたものかと、梨花ちゃんの名前を呼んでみるが応答は無く、ならば大人バージョンの梨花ちゃんと接しているという状況を考えて「さん」付けをする。

 しかし、それも手ごたえは無い。ならばと思い、「様」付けをするとムキーと言う感じで怒ってくる梨花ちゃん。

 

「おっ、やっと反応してくれたか。それで・・・・・・当事者の俺からは、梨花ちゃんの味方だって宣言したわけだが、問いただした本人は今どう思ってるのか聞きたいな」

 

「私は・・・・・・こういう時にどういう反応をすればいいのか、この今の気持ちをどう表現すればいいのか忘れちゃっただけよ。正直に言うと嬉しいわ。だけど、まだあなたを信じれていない私もいるのが正直な所」

 

 包丁を持つ手を下げ、力なく言う梨花ちゃんの顔は本当に感情そのものを上手く出せないのだと気づく。

 偽りの自分を演じ、周りをだまし続けて、必死に生を掴もうと過ごしている少女への過酷な運命は、何時しか彼女の心さえも蝕んでいたのだ。

 

「まぁさ、時間はたっぷりと・・・・・・たっぷりは無いか。少しはあるわけだからさ、俺を監視するという意味でも、少し泳がせてから判断すればいいんじゃないのか?」

 

「そうね、そうさせてもらうわ。・・・・・・ってちょっと待ちなさい。あなた今、時間があと少ししかないって言ったわね。あなたは・・・・・・あなたはどこまで知っているの?」

 

 入学初日に引き続き、またここでも口が滑ってしまう。

 だいたい綿流しまで一か月ぐらいだと、確認していたので俺の中ではもう時間は残り少ないという認知だった。俺の言葉に驚きの色を隠せない梨花ちゃんは、情報開示を求めてくる。

 

「いや、それはだな。やっぱり先のセリフは無し!ノーカウント!」

 

 身振り手振りで勘弁してくれと暗に言っているのだが、当然梨花ちゃんは納得しない。

 

「そうね。じゃあ私も、あなたを少し信用しようとした自分の気持ちをノーカウントさせてもらうわね。それじゃあ、さようなら」

 

 終始真顔でそう言い、下していた包丁をもう一度掲げ、振り下ろそうとしてくる梨花ちゃんの腕を掴み、必死に落ち着くように懇願する。

 シャレにならないとは正にこの事だ。

 振り下ろす腕を掴むと結構な力がはいっていたことに気づく。

 そこから、本当に殺そうとしていたことが窺え、先ほど以上の冷たい冷や汗が背中を伝っていく。

 この状況間違いなく言えることは、選択肢を間違えたら間違いなく――殺される

 

「分かったって、話すから!話すから、まずは無表情のその顔を元に戻して、包丁を地面にでも置いてくれ」

「また、ごまかそうとするんじゃないの?」

「もう本当にしませんから!本当に、いやまじで」

「そう・・・・・・じゃあ、さっさとそう言えなのですぅ~。にぱ~」

 

 ああ、ちくしょう。ぶん殴りてぇー。

 今度は逆に、震える拳を俺が抑えながら後ろに一歩引く。

 お互い落ち着いたところで、階段に腰をおろし、話す態勢に入る。包丁は念のため前方三メートルほどの距離に無造作に置かれている。これでいきなり刺殺ということにはならないだろう。

 

「どこから話せばいいのやら・・・・・・」

 心の声が口から出てしまい慌てて手で押さえるが、意味は無し。

「もし、また嘘をついたら本当に刺すからね?」

 俺は直接的には、自分を守るために行動しているわけだが、実際梨花ちゃんを助けようとしているのに、その当人に信用されず、殺されるというのはあんまりではないだろうか。

 溜息を吐き、右隣にいる梨花ちゃんを横目で見ると、さっきから俺から目を離さないとばかりに見つめる、つぶらな瞳と視線が交差する。

 ここが漫画の世界と言うのは、言わない方がいいな。

 じゃあなんで知っているかになるが、この世界で一番しっくりする言葉は何だろうか。

 少しの間思考を巡らせ、言葉を見つける。

 

「俺は12歳の誕生日お迎えた時に、すべてを思い出したんだ。思い出したっていうと、少しおかしいんだが、何かこう、俺の知らない記憶がダ―ッて流れ込んでくるような感じ? それが一気にさ。それでここがどんな世界なのか、梨花ちゃんがどんな運命と戦っているのか、圭一や魅音、レナ、それに沙都子と詩音の悲しい運命も俺は知っている」

 

 そこで言葉を切り、梨花ちゃんの反応を窺うと、驚いてはいるがしっかりと聞いてくれているようだ。

 

「すべての世界でのことを知ってるわけでもないけど、梨花ちゃんの事も俺は分かってる。だからこう思うんだ。前原圭一の兄として生まれた俺っていう存在は、梨花ちゃん自身の意志の強さが生み出したものなんじゃないかってさ・・・・・・だから、俺は梨花ちゃんの味方だ。この世界で失敗して梨花ちゃんが死ぬ時っていうのは俺も一緒に死ぬってことだな」

 

 最初は雛見沢の事を見捨てて、圭一や両親と幸せに暮らしていこうと画策していた俺からとは到底思えないほどのセリフがポンポン出てくる。

 だけど、俺が雛見沢に、梨花ちゃんの前にいるってことはさっきのセリフがすべて嘘ではないということにもなる。俺は全力で梨花ちゃんを、そしてこの雛見沢の人達を守るつもりでいる。

 だから梨花ちゃんが死ぬっていうことは、俺はその時、もう死んでいるということだ。

 一応、羽入の事とかは、まだ言わないでおこう。あっちだってこちらが言わなければ分かりはしないだろうし。

 

「・・・・・・」

「ん?どうした、梨花ちゃん」

「・・・・・・ま、まぁほんの少しだけあなたの・・・・・・彼方のことを信用してもいいわよ」

 

 この際だからこれからの事も少し話そうと思っていたのに、梨花ちゃんはそう言い残して俺の前から駆け足で去っていった。

 梨花ちゃんのいなくなった古出神社には、取り残されて釈然としない俺と、梨花ちゃんの持ってきた包丁が寂しく転がっていた。

 

 

 

 

 

 

 




 はい。ひぐらしのMADや、youを聞いていたら力が湧いてきた、単純馬鹿が通りますよ。
 感想も23時間募集中です。
 これからもよろしくお願いします。
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