彼方のなく頃に   作:krowknown

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彼方隠し編  3

 去っていく梨花ちゃんの後姿を見送り、俺も帰ろうと立ち上がる。

 落ちている包丁は持ってかえった方が良いのだろうが、今日はもう厄介ごとに付き合いたくないというのが本心であり、事前に回避できるものならそうしたい。

 こちらの挙動を疑われないように、ゆっくりと伸びをして時間を稼ぐことにする。

 他人からしたら、何をそんなにためらっているのだと一蹴されそうだが、俺にとってはそうはいかない。

 まさか今、俺の特別性が目に見える形で現れるなんて思いもしなかったからだ。

 俺をほんの数秒の内にここまで焦らせたのはお前だけだ! と意味もなく心の中で褒め称える。

 梨花ちゃんの去った方向から視線を正面に戻したら、オヤシロ様として崇められている羽入さんが包丁と俺の間に立っており心臓が止まるかと思った。

 

『人の子よ。私が見えていますね?』

 

 何だろう。古出神社に来てから異様な感じがするなと薄々だが感じていた出所が、羽入さんだとは思わなかった。

 目を合わすことなく、問いかけに返事をしないまま羽入の体をすり抜け包丁を拾う。こうして見えているわけだからぶつかったらどうしようと、半ば思いながら進んだら普通にすり抜けられたので拍子抜けだ。

「今日の夕飯どうしようかなー」と口に出しながら、古出神社を後にする。

 

 少し早足で家へと急ぐ。もう家まであと少しという所で、俺はふと立ち止まる。

 そしてまた歩き出す。

 

――ひたひたひた

 

 やはり後ろの方から聞こえてくるのは、足音。これが原作のみんながオヤシロ様と恐怖、畏怖した足音である。姿形が見えなければ俺も年甲斐もなくビビッていただろう。

 だが俺にはなぜだか姿が見えてしまうのだ。

 雰囲気は決して軽い感じではないが、可愛らしい容姿とその動き。帰り道一つだけあったカーブミラーを目だけ動かし確認すると、歩幅の違いかピョコピョコと俺の後を追ってくるその姿を見ては怖がりようがない。

 

――ひたひたひた

 

「そろそろ茶番は終わりにしようか、なあ羽入ちゃん」

『ひうっ!? やはり見えていたのですね』

 

 このままだと家の中までついてきそうな勢いがあったので、観念して後ろを振り向く。

 ビクッと肩を跳ねあがらせ、やや目の端を吊り上げる羽入。

 

「なんで俺に着いてきたんだ。さっきの俺と梨花ちゃんの話し合いは羽入ちゃんだって聞いていたはずだろ? 俺は梨花ちゃんの味方だ」

『それはボクがこの目で見て確認するのです』

「何を確認するんだ? 俺が敵だとしてどうする。羽入ちゃんはもし俺が梨花ちゃんの味方だと分かっても喜ばないと思うんだが」

『・・・・・・何を言っているのか分からないのです。どうして私が喜ばないと思うのですか? 理由を聞きたいです』

「羽入ちゃん、お前は俺が味方だと分かっても、梨花ちゃんがまた期待して失敗するのを恐れている・・・・・・いや、ちょっと違うな、梨花ちゃんの心が折れてループを止めてしまう事を恐れているんだ。また一人のままになっちゃうからな」

『・・・・・・』

 

 無言は肯定というのを誰が言い出したのかは知らないが、その無言は俺の言葉がすべてとは言わないまでも、当たっていることを指していると思っていいだろう。

 驚愕の顔から怒りの顔へと羽入の表情が変化していく。

 

『そんなことないのです! ボクは梨花がこの残酷な運命から抜け出すことを一番に考えているのですっ!!』

「別に悪いとは言ってないよ。だからそこまで怒らないでくれ。大体1000年生きているんだろ? 一人が嫌だと思っても仕方ないと俺は思うけどな。だけど自分の意志を隠して、誰かのためと虚言を吐くのは少し違くないか」

『ち、違うのです・・・・・・ボクは・・・・・・』

 

 そう言い、黙ってしまう羽入。

 アニメなどを見て思った疑問。それは羽入の変な介入の仕方だった。

 雛見沢症候群を発症した圭一の後を謝っているとしても後を着けるのは得策ではないし、むしろ逆効果である。そのほかにも不明な点は少なからずあった。

 普段とのギャップが邪魔しているだけで羽入は聡明だ。

 前の世界から思っていたことだから、急な展開でも言うことができた。それに綻びが無いように、歩きながら急いで過去の記憶を整理していたことは秘密だ。

 と言っても俺は本格的に『ひぐらしのなく頃に』を知っているわけではない。

 だから俺の知らない羽入への制約やら、設定があるのかもしれないが今の限りでは、あっているのだろう。

 

「もしここで・・・・・・この世界で惨劇を回避したいなら、俺を、梨花ちゃんを信用してくれ」

 

 そう最後に言ってこの場を後にする。もう後ろからついてくる足音は聞こえない。これで羽入が俺を信用してくれるか、しないのかで色々と変わってくるな。

 頭の後ろで手を組みながら、さっきの事を思い返しながら残りの道を歩いていく。

 

 

 

 

 

 

 

 時刻は十六時

 先ほど家の電話にて、渋滞に巻き込まれて帰りが深夜になるという旨を母さんから伝えられたので、食材を買うために商店街までやってきたのだ。

 このペースなら日が完全に落ち切る前には、帰れるだろうと内心ホッとしながら両脇に並び立つ店を眺める。

 しかし、買い物スキルが全くと言っていいほど無い俺は、向かう店ごとにとても良い笑顔で高値で買わされようとされて、世間の厳しさを痛感していた。

 買い物を終える頃には、商店街の活気のある喧騒がどれも悪魔の声にしか聞こえない有様である。

 無駄に疲れた体に鞭を打ち、両手に抱えた結構な量の入った袋を持ち帰路につこうとすると、背がちっこい見知った金髪の髪の色をした後姿を捉える。

 

「あれは、沙都子じゃねーか?」

 

 近くに付き添っている人が見えないので一人で来たのだろう。

 分校生活を大体3週間過ぎた俺には忌々しい悪戯っ子の後姿を見間違えたという事は無かった。食材を選ぶために商品を見る横顔は間違いなく良く知る沙都子だった。

 それにしても、沙都子が商店街か・・・・・・あまり良いイメージは湧かないな。

 少し観察しただけで、商店街の人達が故意的に距離を置いているのがわかる。境遇などを考えると不憫に思えてくるが、すぐにその上から目線の考えを振り払う。

 

「このお肉をくださいませんか?」

「・・・・・・580円ね」

 

 今持っている沙都子の袋の中身と、今買おうとしている肉からして今日はカレーなのかな?っと頭を回転させるがどうでもいいことだと考えるのをやめる。

 店主に値段を聞き、財布を取り出そうとするが、両手にはもう十分な品物が入った袋がぶら下がっている。その状況を見て嫌な予感が頭をよぎるのと、お金の散らばる音が商店街の通りに響いたのはほぼ同時だった。

 慌てた様子で転がった小銭を拾い出す沙都子。

 買い物途中だったからなのか、不運なことに多くの小銭が散らばってしまっている。

 知ってはいた。知ってはいたが、いざこの状況で無関心を押し通す店の主人や、夕飯の食材を買いに来たであろう主婦のおばさん達に複雑な感情を抱く。

 落ちてしまったお金を取ろうとする人もいないが、拾おうとする人もいない。

 梨花ちゃんと仲良くやっていたので、この辺の事も表面上では少しは軟化しているのでは? と期待していた俺が甘かった。

 

「あれだけ凝ったイタズラするくせに、こういうおっちょこちょいな所もあるんだな」

「ありがとうございますですの・・・・・・あっ、彼方さん」

 

 俺の足もとに転がってきた10円玉を手に取り、軽い調子で話しかけながら渡す。見知った人だとは思わなかったのか、ビクッとしてお礼を述べながら、顔をあげる。お金を拾ったのが俺だと知ると、驚いていたがすぐに残りのお金を拾いだす。

 周りの人が俺らを見て、ひそひそ話しているが内容までは聞き取れない。なので、有名人になったかのような軽い気持ちで受け流す。

 

「いいのですよ彼方さん。別に手伝ってくださらなくても」

「いいんだよ。俺が勝手にやってることだ」

「・・・・・・そうですの」

「おう」

 

 普段の茶目っ気のある顔とは違い、パッとしない表情のまま沙都子は話しかけてくる。

 その事で色々と言いたい事はあったが、多くは言わないで簡単に返事をする。今はそれが正解のような気がしたからだ。

 

「まあ気にすんな。それよりも早く肉買って帰ろうぜ」

 何とか小銭を拾い終わり、途中だったお肉を買って商店街を後にする。

 しかし、肩を並べて歩いている俺達の間には、いつもの五月蠅さが嘘のように静かな時間が流れる。

 

「な・・・・・・なんで、拾ってくださいましたの? 私が言うのもなんですけど、学校の方ではよく悪戯をして怒らせてしまいますのに」

 

 キョロキョロと視線を動かし、絞り出すかのような声でさっき聞きたくても聞けなかった疑問を言ってくる。どこか遠慮している、距離をつくっているかのような話し方に思う所はあったが質問にだけ答えるとしよう。

 

「よく分かってるな! 授業がすべて終わってからならいいが・・・・・・いや、良くないが。墨だらけにされたり、タライが脳天を直撃したり、正直あんまりお前に良い印象は無いが、それこそ笑って許せる圭一みたいに俺は良い人間じゃない。けどさ、ちっこい女の子が目の前で困ってたら助けるのが普通だろ? そう思わないか?」

 

 遠慮なしに思っていることを告げていく。溜め込んで嘘の付き合いをするよりも、正面切って言い合うのが俺の本分だからだ。

 沙都子は、自分から悪戯の事を話題に出しておきながら、はっきりと肩を落とし落ち込んでしまう。

 

「彼方さんは・・・・・・彼方さんは、なんで商店街の方々が私にああいう風な態度をとっているかご存知ですの?」

「ああ、まぁ・・・・・・風の噂程度にはな」

「知っていましたの!?なら、今後ああいう事があっても手を貸してくださらなくて結構ですわよ。もしかすると、彼方さんの家の方々も商店街や村の方々に良い顔をされなくなってしまいますわ。ですから、外では私とあまり仲良くしない方がよろしいですわ」

 

 風の噂って言ったが、バリバリ知っています。嘘つきました。と心の中で謝罪をする。

 昔、この雛見沢をダムの建設の為に埋め立てするか、しないかですごい闘争が起こった。もちろんこの村の中心である御三家の人や、他の村人もダム反対派だったが、やはり賛成を推す人も出てくるのが世の常だ。

 賛成派の中心だった北条家は、ダムの建設が無くなった今でも村の爪はじきにあってしまっている。

 

「でもさ、俺達子供は大人の理由なんか適用されないって。俺は全然気にしないからな」

 

 そうだ。大人のいざこざに子供を巻き込むのは間違っている。

 あの元気な沙都子がこのような暗い雰囲気を醸し出しているのは、見ているこっちからしたら辛い。いつものような、あの自信に満ちた顔で笑っていてほしい。

 

「そんなこと言ってくれるのは、彼方さんだけですのよ。他の人達からすれば、北条家と言う括りで捉えられてしまっていますの」

「でも、俺は沙都子と仲良くしちゃダメだとしても、梨花ちゃんはいつも一緒にいるだろ?」

「梨花は別ですの。梨花は雛見沢御三家・古手家の最後の一人で、彼方さんとはいろいろと立場が違いましてよ・・・・・・ああ、もう!なんで分からないんですの? ああいう事をされるのは迷惑だと遠まわしに言っているのが分からないんですの?」

 

 どんなに語気を荒くしたって、睨んだって、そんなに悲しそうな顔で言われたら俺でも虚勢だってことは分かる。

 それに俺や俺の家族の事を本心で心配してくれてることも伝わってくる。

 こんなに人の事を考え、自分より他人の心配をする女の子を孤独にさせては駄目だ。

 優しい人っていうのは辛いこと悲しいことを経験しているから、優しくできる。前の世界でコーチから聞かされた話だ。

 確かにそうだろう。その痛みを知って、それを他人に味あわせることができる奴は、そうはいないだろう。絶対ではないところが人間らしいと言えば人間らしいが。

 

「なんか勘違いしてるんじゃないか沙都子?」

「——っえ?」

「もしの話だけど、沙都子に将来好きな人ができたとしよう。顔は10人中9人がカッコいいと認めて、勉強もスポーツも完璧だ」

「それはまぁ、すごいお人ですわね」

「そうだろ、だけどただ一つ。小さい子がお金を落として困っているのを見ても拾おうとしたり、手伝ってやる素振りすら見せないで無視をするんだ。俺だったらそんな奴、嫌だね。沙都子はそれでも好きなままでいられるか?」

 

 こんな突拍子もない話に真剣に考えてくれる。聞いといてなんだが沙都子の答えは分かっている。最初から分かっていながらもこういう質問をしたのだから。

 

「・・・・・・私は好きでいられないと思いますわ。――っは!!そもそも、外見だけで惚れるほど私は軟な女じゃありませんことよ!それに何なんですの、この質問は。話を逸らさないでくれませんこと!」

「逸らしてなんかいないよ。俺が野球好きなの知ってるだろ? もし野球の神様がいたら、どんな立場であっても信念曲げずに格好良く生きている奴を勝たすはずさ。だから困っている人を助けないのは俺の信念に反するわけだ。ただ自分勝手なだけだから、あんまし気にすんな」

 

 ポカーンと口を開き俺の言葉を聞く沙都子。

 その呆気にとられてる様子から、もしかしたら今のセリフは右から左に流されてるんじゃないかと思ったほどに、だらしない顔をしている。

 沙都子は、大きなため息を吐いて、両手上に向けて首を振り、ヤレヤレといった顔をする。

 

「・・・・・・まったく、こんな時にまで野球が出てくるなんて呆れを通り越して、もう天才ですわね。もういいですの。真剣に考えていた私がバカでしたわ。要するに彼方さん、私のことが好きなんじゃありませんの?」

「——っんな!!」

「申し訳ございませんわ。先ほども申し上げました通り、私はそんな軽い軟な女ではありませんことよ。そうですわね・・・・・・もっと全体的に努力してくださいまし」

 

 確かにクサいセリフを吐いたと自分でも分かっていたが、こんな仕打ち食らうなんて。勝手に解釈されていきなりフラれた俺は何も言えずに、先ほどとは違う楽しそうに微笑む沙都子を見つめるしかなかった。

 元気になってくれたのならば、これはこれでいいかと心の中で納得してから、俺も沙都子の小悪魔な笑顔に対抗して口の端を吊り上げる。

 

「うるせーよ! 誰がお前みたいなケツの青いガキなんか好きになるかよ。お前こそもっと努力して、大人の色気を出せるようになってからそのセリフを言うんだな」

 

 そう言うと同時に、まばらに設置された街灯の、心ともない光によって照らされた整備のされていない荒れた道を駆け出す。

 

「彼方さんあなたっていう人はーー!お待ちなさーい」

 2人して笑いながら暗くなった田舎道を、走るのも満更でもないなと思いながら、『今』という時間を楽しむ。

 

 俺と沙都子が通り過ぎた街灯の下には、ひぐらしが鳴き疲れたのか弱弱しく横たわっていた。終わりへのカウントダウンは待ってはくれない。

 惨劇への時間は無情にも刻一刻と近づいてきていた。

 

 

 

 




こんにちは、みなさん。

早速評価、感想等頂き誠に嬉しいでございまする。( *´艸`)

これからもよろしくお願いいたしますで候!
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