――1000!
早朝だからなのか、ここが田舎だからなのかは分からないが、ここで素振りを始めてから小鳥のさえずり声しか聞こえない。
ここは分校のグラウンド。
朝練習をするために、みんなが学校に登校する一時間半ほど前に毎日来ている。
肩で息をしながら周りの景色を見て、何とか気持ちを落ち着かせる。
「あと一回はやっていこうかな」
そう言って、息を吐き、先ほどのようにバットを持ち上げ油断なく構える。そして自分が想像したピッチャーからの投球をイメージして、渾身の一振り。
1001回とキリが悪い数字で終わりにするのには、理由があった。
それは前の世界で体験した、1000回素振りをし終えたところでの異世界トリップが少なからず関係している。あれからというもの、1000回で終わりにするとその後に何か起こりそうなので極力避けるようにしている。
俺の野球好きを知ってか、ここで素振りをしていても魅音やらに悟史関係の事を言われた事は無かった。もうこのグラウンドは我が分校、初の野球部のテリトリーなのである。
こちらに来てからは、何かとやることがあり十分な運動ができていないためか、素振りだけで結構ヘトヘトになる。
途中から汗がすごく、頭に巻いたタオルを解いて首に掛けながら水道へと向かい、雛見沢限定の清らかな水をガブガブと飲む。
「彼方ーー!おっはよー」
「・・・・・・ああ。おはよ」
「はぅ~彼方が朝から冷たいよぉー。これが巷で噂の反抗期ってやつなのかな・・・・・・かな?」
朝っぱらから大きな声を出し、元気よく走ってきたのは竜宮レナだ。
なんで呼び捨てなのかは、しっかりとした理由がある。
片手をブンブンと振り爽快にボロイ校門をくぐり挨拶をしてくるが、今は練習中なので声をかけてほしくは無い。真剣モードなんだ俺は。
「誰が反抗期だよ! 練習中だから声かけんなって」
「レナには分かるよ! 彼方は今休憩中でしょ? それとも水をそんなに勢いよく飲むのも彼方の特殊な練習法なのかな・・・・・・かな?」
「うるせーやい。練習ってのはなやった時間じゃなくてな、その短い時間でどれだけ濃密な内容をこなせるかが重要になってくるんだよ。だから――見ろ!こうやって水道水を飲んでいる間も踵をあげて筋トレをしているだろ? 筋トレをするときは理想の体を意識してやるのとやらないとでは大違いだ」
だから気を散らさせないでくれと最後に付けたして決め顔をレナに向ける。ドヤ顔だったレナの顔も、俺のよく分からない弾丸トークにビビったのか、引き攣った顔を浮かべている。
こんなにもレナと俺が軽口を叩けるのはなぜかというと、雛見沢に来てから仲良くなったわけじゃないからだ。原作であった、レナが一時期雛見沢を離れていた時期に俺とレナは同じ学校だったのだ。
圭一は公立の俺とは違い、私立の中学に通っていたためレナのあの有名な騒動を耳にしただけで、詳しくは知らない。
レナの存在は、学校内の廊下ですれ違った時から分かっていた。
だが、俺は原作には介入せずのほほんと過ごすと決めていたので、一切こちらからはアクションを起こさなかったが、案の定『雛見沢症候群』を発症していたレナは、ひぐらしのなく頃にのファンからしてみれば当然知っている事件を起こす。
それはもう容赦なく金属バットで学校の窓を割った。傍から見ていたがチビリそうになったのは秘密だ。
しかし近くに面白半分で近寄ってきた男子生徒を殴ろうとしたところで、考えるよりも先に体が動き割って入ってしまったのだ。
それが初めての失敗であり、初めての原作介入だろう。
しかし、その騒動をきっかけにレナと距離を縮められた。
それは俺の意外な特性が要因となっていた。何故だかわからないが、俺の近くに少しの間いると雛見沢症候群が抑えられ、正気を保てるのだ。
レナは謹慎期間が解けたと同時に雛見沢に戻ってしまったが、その間の2週間はレナとレナのお父さんに強く懇願されて一緒にいたのだ。
「まぁそれはさておきだ。もうみんなが登校し始める頃だし、着替えるから先に教室に入っててくれないか?」
「ええ~レナは気にしないよぉ」
「いや俺が気にするんだ」
ぶぅーぶぅー文句を垂れてるレナを教室に追いやって、さっさと着替えを済ませようとするがパンツ一丁になったところで一番聞きたくなかった声ともう聞きなれた声が同時に耳に入ってくる。
「おおー彼方!朝から変態っぷりを出しているねぇ。さすがのおじさんもそのノリには着いていけないよ。圭ちゃんも色々と大変だね」
「いや、タイミングが悪かっただけだろ? でも・・・・・・まったく兄貴は、はぁー」
なんで俺は朝から、色々とぶっ飛んだ奴らの相手をしなければならないんだ。
俺がツッコまなければ、いつまでも俺に対しての日頃の不満を吐き続けているであろう二人を止めようとすると、さっきレナを連行した校舎の方から声がする。
「おっはよー!圭一君、魅音ちゃーん」
「あれ? 随分と早い出勤だねレナは。こんな朝から、どこかの変態じゃあるまいしなんで教室にいるんだい」
「おい魅音。俺が変態みたいな流れを――」
「えっとねー彼方が俺の着替えを特等席で見せてやるから教室に入って、窓から見てなって言ってくれたからレナはここにいるんだよー!」
聞き捨てならない魅音の言葉を訂正するように言おうとしたが、それに俺の声より倍近い大きな声で被せてきたレナの発言に辺りは静かになった。
小鳥たちも空気を呼んだのか鳴き声をやめている。
「・・・・・・彼方。あとでおじさんと入江診療所に行こっか。あっ、それ以上は近づかないで」
「兄貴。俺さ、兄貴のことずっと信じてたのに、なんでこんなことになっちまったんだ。俺が兄貴のそばを離れちまったから。くそぉ・・・・・・くそぉぉおお」
もう誰も味方はいなかった。
後からきた生徒たちは、俺と魅音達を見て何かを察したのだろう大人びた顔で笑みをくれる。晴れて原作が始まるであろう今日という日に俺のあだ名は『変態パンツマン』になったのだ。
この一部始終で頭を抱えたのは俺だけではなかった。その話を聞いた梨花ちゃんも、昨日の今日だが、今後の未来を考えて頭痛にひどく悩まされるのだった。
校長先生が鈴を鳴らし、最後の授業が終わったことを告げる。
その音を聞いて、無意識に肩の荷が下りる。今日も無事に学業を終えたことによる安堵からだ。
府抜けている俺自身に、喝を入れて辺りを見回す。
そう、問題はここからなのだ。帰り仕度をしている生徒たちに視線を走らせる。俺のせいで大分原作とは違ってくるだろうが、大まかな流れは変わらないと勝手に納得している自分もいるのだが。内心ドキドキである。
この世界が○○編なのか。それが重要になっていくだろう。
もしここが罪滅ぼし編の世界を辿るのだとしたら、引っ越しの2週間後に水鉄砲勝負をしてレナと圭一の一騎打ちが行われるはずだが、行われていない。
まぁ考えたところでどう転ぶのかは分からないし、考え方によってはみんなが一度に、雛見沢症候群を発症する可能性だってあるのだ。最悪である。
「け、圭一君・・・・・・今日はこれから予定とかあるかな?・・・・・・かな?」
「えっ? 予定は無いけど、まさかデートの誘いか?」
「はうぅ~そういう事じゃないよぉ。まだ雛見沢を全部知っている訳じゃないでしょ? だから案内してあげようと思って・・・・・・」
「確かにまだ知らなそうなところもありそうだしな。なら兄貴も誘って三人で行っていいか、レナ?」
「もちろんだよ!圭一君、彼方を誘ってくれるかな・・・・・・かな?」
気づけばレナと圭一の宝山フラグが立っていた。それに招待されそうになるが今日は一緒にはいけない。それに、俺は宝の山も探索済みだ、なので着いていってもメリットはないし、今日はやりたいことがあったので断らせてもらおう。
「いや、せっかくの誘いだけど俺は大丈夫だ! 二人だけで仲良く行って来いよ。俺がいたら邪魔になっちゃいそうだしな」
俺の返事に、圭一はまだ女の子と二人というのは慣れないのか、両手を前にして必死に否定している。さっきのレナを弄っていた威勢はどうしたんだよ。
レナは心なしか残念そうに見えるが、まさか俺が行かないからか? とナルシストのような考えが浮かんだが、自分で考えて気持ち悪くなってきたので、すぐに頭からその思考を放り出す。
原作ではこの時点で、圭一はレナ達に対してクサいセリフを吐くというか、女性に対して免疫はあったと思うがそういう風にはあまり思えない。
他にも少しずつ違ったような、ズレがあるような気がするが、首を傾けて「うーん」と唸るしかない。
二人とも教室を出るまで、俺がついていかないことに不満気だったがそれを苦笑いで見送り、俺も行動に移すことにする。
そして物語は動き出す(´_ゝ`)フッ
はい、すみません。調子に乗りました。
前原彼方の設定書いておきますね!
前原彼方
中学三年生 14歳 8月10日生まれ
身長 178cm 体重 70㎏
筋トレや素振りは、毎日の日課で組み込まれている。睡眠と食事に小さい頃から気を付けていたので、前の世界よりも体格が良いことに本人も嬉しがっている。