俺はレナと圭一の二人を見送ってから、教室を出ようとしている魅音を呼び止める。
「魅音ーちょっといいか?」
「どうしたんだい改まって、おじさんに相談かい?」
そう呼ぶと手入れの整った綺麗な髪を靡かせ笑顔でそう返してくるところからも、みんなが魅音に一目を置いていることがわかる。
「お願いがあるんだけどさ。なんか俺の親が雛見沢に引っ越してきてからさ、魅音のおばさんに挨拶をしに行ってないんだよ。だから今日家に帰ってから、俺が代表して窺おうと思うんだけど大丈夫そうかな?」
「あっはっは! それは随分と急な話だね。別にそんなに畏まらなくても良いと思うんだけどね。まぁ来たいっていんなら私の方からバッチャに伝えとくよ」
俺の突然の申し出に魅音は快く引き受けてくれる。これぞまさしく姉御肌というものだろうか? その立派な大きな胸にルパンダイブをしたいところだぜ。
この雛見沢で俺の知る中でのトップに君臨するであろう魅音の祖母にあたる園崎お魎。
この人も色々なシリーズで書き方や、役割に幅がある人だ。結果的には確か理解のある良い人だった気がするが、自分で実際に会って確認するのが一番である。
自分で言い出したが、やはりあの人に会うのは少々気が滅入ってしまうのが本音でもあるが、この時期での顔合わせは大事だろうと結論付けた。
「かーなーたー。おじさんだって男子からの視線には敏感なんだからね。男のチラ見は女のガン見っていうでしょ! 次、そんな目で見てたら無理やり部活に引き込んで罰ゲームであんなことや、うっふーんなことまでさせるからね!」
「——どうもすみませんでした」
ああ、そんな可哀想な目で俺を見ないでくれ。それに魅音の言っている部活とは、沙都子・梨花ちゃん・レナ・魅音・圭一で構成されている、俺から言わせれば遊び部だ。しかしそこで負けたらとんでもない罰ゲームが待っている。
今までの圭一への罰ゲームを俺も垣間見たことがあるが、ひどいものだった。あの立ち位置が自分だと思うだけで身の毛がよだつほどだ。
魅音の言葉に即座に謝罪の言葉をのべる。
「わかればよろしい! それじゃあ、伝えておくから早く来なよ」
そう言い残し、元気よく走り出していく魅音の後姿を見つめながら、園崎家次期頭首はこの年から才を表しているのだなと、いろいろな意味で感じた。
何事も失礼があってはいけない。
それにこれから嫌でも、いろいろとお世話になるであろう園崎家である。というより、お魎さんに失礼があってはこの雛見沢で生活ができるのかも怪しくなってくる。
そう考え家に帰ってすぐに行動に移す。
親父の部屋に勝手に入りスーツを拝借し、最近切っていなかった髪の毛をハードワックスで後ろに流し整える。出来上がった髪型はいわゆるオールバックだ。
「母さーん! 園崎さんに引っ越しの挨拶しに行くんだけど、ご近所さんにあいさつ回りした時の残りがあったよね? どこにしまったー?」
「あら、いろいろ立て込んでてど忘れしてたわね。彼方が気づいてくれて助かったわ。たしか、北側の部屋にあったと思うけどーええっと・・・・・・ほら、あったわよ! 無礼の無いようにね。靴は揃える。家の中に入るときは大きな声でお邪魔しますって言うのよ。受け答えはハキハキと! わかったわね?」
「俺はどこぞの坊ちゃんか!! 心配しなくても大丈夫だよ、そこら辺は上手くやるよ。それじゃあ行ってきま・・・・・・あっ、それと今日の夕飯なんだけど圭一の好物のハンバーグに夕飯はしてほしいな。よろしく母さん」
玄関で靴を履き終えると、後ろから母さんの「まかせときなさい!」という声を背に、魅音の家へと向かうのだった。
一度雛見沢を探索していた時に、遠目から確認だけはしていたのですんなりと魅音の家へとたどり着いたが、道中の彼方の顔を見た村の人達は皆一様に「あれは死地に赴く顔だった」と口をそろえて言うだろう。
ようやくと言った感じで無事に魅音の家に着いたはいいのだが、醸し出す雰囲気にもう半分もダメージを持っていかれる。厳重な設備と和を連想させる塀を見ると、初めて見た人の大半はヤ○ザさんの事務所を想像するだろう。まぁあながち間違ってはいないのだけれども。
玄関の前で軽く深呼吸をして、意を決してインターホンのボタンを押す。
こんなに人差し指一つに集中したのは初めてだ。間隔を空けずにすぐに野太い声の返事が返ってくる。内心のテンパりを必死に表に出さないよう隠して、なんとか名前を言うと「——どうぞ」と言う返事とともにカチリとドアのロックが外れる音がして、静かに開く。
許可が出たので、そこから盆栽や松が綺麗に手入れされている庭園を通る。
「かーなたー! 遅かったねぇ、ばっちゃにはもう話通してあるから、さっそく行こうか」
俺が来たことが伝えられたのか、反対方向からいつのもの普段着とは違う、着物を着た魅音が駆け寄ってくる。何気に自信作だった自分の服装と髪型は華麗にスルーされるが、ここで自分からアピールするのも恥ずかしいので自重し先を行く魅音の後を着いていく。
家の最も奥まで通されて、一際大きな部屋の前で魅音は歩みを止めた。ここなのか? と魅音に聞こうとするが、部屋の方を向き正座をされてしまえば問わなくても分かってしまう。この部屋にボスモンスターがいる。
「ばっちゃ。前原家のご子息を連れてまいりました」
「——はいりんさい」
この態度が魅音の家での普通だとは知っているが、こうも普段の接している話方などと違うと、本当に俺の友人の園崎魅音なのかと不思議に感じてしまう。
家政婦だろうかお付きの人が中から襖をあけ、魅音が一礼して部屋の中に入ってくのに続き俺も軽くお辞儀をして敷居をまたぐ。
部屋の中央には布団が敷いてあり、そこに上半身だけ起こしている園崎家御頭首がいた。その目はこちらを見据えたまま動かない。その鋭い眼光に当てられて俺は体が強張ってしまい、部屋の中に進んで歩いている状態のまま動けなくなってしまった。
このプレッシャーは何なんだ。間違いなく今まで対峙したどのピッチャーよりも凄まじい闘気だ。目を離した瞬間食い殺されてしまうのではないか? と馬鹿なことを考えてしまうほどには、今、目の前にいる人は異常だった。
「ばっちゃ、私の友達をそんなに怖がらせないでください」
「・・・・・・クックック。儂の目から逸らさないのは褒めちゃろう。話に聞くと前原家の長男は梨花ちゃまに気に入られてるみたいやんね。——して何しにきよったんや?」
視線を逸らさなかったかというよりも、俺はその逆で必死にその凶暴な視線から目を逸らそうとしていたが、なぜか動かなかっただけだ。何はともあれその勘違いにより、一応は良い評価を貰ったようなので結果オーライである。俺は持ってきた挨拶の品を前に差し出す。
「あいしゃ・・・・・・ンッ、ゴホッ。挨拶が遅れて申し訳ございません。3週間ほど前にこちらの雛見沢移住してきた前原でございます。本日は貴重な時間を割いていただきありがとうございます。両親に変わり長男の私、前原彼方が代わりに挨拶に来ました。こちらはつまらないものですがよろしければどうぞ」
緊張によって最初は噛んでしまったが、綺麗にお辞儀をして挨拶を済ませる。
「よかよか、もう顔を上げい。彼方言うたなぁ・・・・・・どうじゃ、都会に住んでたお前さんには雛見沢は不憫じゃないけぇの?」
確かお魎さんは、雛見沢に新しい風を入れたいと思っていたんじゃないっけ。ならここは、深く考えずに正直に答えても悪い展開にはならないだろう。
「私には都会よりも田舎の方が性に合っていますよ。それに学校の人数は少ないですけど、こちらにいる魅音を筆頭に綺麗な女性と勉学を取れるのはなんていうか・・・・・・最高です。とても住みやすい所だと私は思います」
不純な理由が大いに入っていた気がするが、それを笑って流してくれたお魎さんはやはり、良い人なのだろう。
「——そうかい。んならよかった。今日はわざわざご苦労じゃったの。まぁ、この老いぼれを目の前にして、孫を口説くのはいただけなかね」
言い終わるとお魎さんは魅音に目を向け合図を送る。
その目配せを受けた魅音が立ちあがると同じく俺も、腰を上げ部屋をあとにしようとすると、もう体を倒して横になっているお魎さんが俺を呼び止める。
「何か困ったことがありゃ、遠慮せずに言いにきんしゃい」
「——はい!」
予想外の言葉に一瞬驚いてしまったが、元気よく返事をする。どうにか気に入ってもらえたようだ。少しの手応えを感じて園崎家を後にした。
「いやぁすごいね彼方は。まさかばっちゃの本気の眼力から目をそらないないなんてね。 おじさんも感動したよ!」
園崎家の家の前で緊張を解いた俺らは苦笑いしながらも、さっきのことを話し始める。
魅音がいうには、あの最初のお魎さんの眼は大の大人でさえ初見では竦み上がってしまうらしい。俺も経験したからわかるが、さすが作中で詩音から鬼婆といわれているだけある。
俺らでは想像もしえない武勇伝がもっとあるに違いない。
「1対1なら完全にちびってたな。魅音が隣にいてくれて助かったよ。なんかお前って安心感あるからな」
「えっ!?そ、そそっそりゃ良かった。まぁ部長だからね私は! てかさっきと言い勘違いさせるようなことは言わない方が良いよ。・・・・・・どうせ分かってないだろうけどね。ほら、もう暗くなってきたから帰んな帰んな!」
さっきまで普通に話してたと思ったら、急に背中を押され帰路を急がれる。
でも魅音の言う通り少し長居してしまった感も否めないので、ここは素直に帰らせてもらう事にしよう。大きく腕を左右に振る魅音を背に歩き出す。
「彼方ー! その髪型似合ってないよぉおお。写真は撮ってあるから楽しみにしてなねー!」
園崎家との距離が結構遠くなった頃、それを見計らったかのように魅音が大声でとんでもないことをカミングアウトしてきやがった。
何か言い返そうと振り向いたが、こっちが見惚れるぐらいの良い笑顔で言われちゃ何も反論はできないというものだ。部活メンバーにまたからかわれることを想像しながらも軽く手をあげてまた歩き出す。
熱い・暑い・厚い。
ひぐらしが鳴いている。風情ですね。