アルドノア・ゼロ The Argentea Phantom ~銀の亡霊~ 作:気分屋
我ながらなんと無謀な……。とまぁこんな裏話もあり、ちゃんと続くのか少々不安な本作品ですが、よろしければ暇つぶしにでも見て頂ければ幸いです。
長々失礼いたしました。では、どうぞ。
大地が、燃えていた。
戦闘を経て生じた業火は辺り一帯を覆い尽くさんと瞬く間に拡がり、大地は疎か月の輝く宵の空までも紅く染め上げる。
目を凝らすと、燃え盛る炎の中には幾つかの鉄の塊が見てとれる。中には最早原型を留めぬ程に激しく損傷している物もあるが、見る者が見れば元は数輌からなる戦車であった事が推測できた。
「はぁ、はぁ、はぁ……これを、僕達が、やった、のか……?」
炎、残骸、少し前まではヒトだったモノ、夥しい死の匂い――
破壊を撒き散らされたこの地に、動く者は存在しない。その破壊をもたらした少年達の駆る重騎兵以外には。
――いや。
「……!! 生存者が!?」
いた。燃え盛る炎の中、炎上する残骸の陰に一人の兵士。抗う気力も無いのか、へたり込む彼の前には拳銃が落ちており、輝く何かを――ドッグタグだろうか――握り締めて滂沱の涙を流して茫然としている。
不意に兵士と目が合う。重騎兵の目を通して映し出された映像故に、それは少年の錯覚であるが、少年はその瞳の奥に言い尽くせぬ感情の濁流を見た気がした。
「う、う、うぅ……」
兵士の口から嗚咽が漏れる。込められたのは、圧倒的な力を見せ付けられた無力感か、友を助けられなかった悔恨か。
「あ、あぁ、あ……」
少年の掠れた声にこもるのは、自らが人を殺めたという衝撃か、兵士の目に宿った怨恨や畏怖の綯い混ぜの感情、それが自身に向けられているという重圧か。
「「うわぁああーー!!」」
片や鋼鉄の操縦席で、片や燃え盛る業火の只中で。戦場に二つの悲痛な叫びが交錯した。
◆◆◆◆
「っはぁ!! はぁっ、はぁっ……」
魘されて飛び起きた。全身が汗で濡れているようで、衣類が肌に引っ付いて気持ちが悪い。
「……またあの夢か」
あの悪夢を見るのは初めてではない。何度となく、忌まわしい程に見てきた。そう、あの日からずっと。
呼吸を調え、多少落ち着いたところで時計に目をやる。時刻は7時を回ったばかり。次に壁のカレンダーを見る。今日の日付には赤い丸で印が付けてあった。
「とうとうこの日が来たんだ」
長かった。どれだけ今日という日を待ち望んだか。短い間瞑想にふけると、外出の準備に取り掛かった。玄関のポストに挟まっていた今日の朝刊を食卓テーブルの上にぼんと置いて、シャワー室に向かう。新聞の一面には『ヴァース帝国第一皇女アセイラム・ヴァース・アリューシア姫殿下 本日来日』の記事が大きく掲載されていた。
◆◆◆◆
準備を済ませ外へ出た。普段ならもっと人気のある通りなのだが、今日に限っては閑散としている。多分火星の親善パレードの方に集まっているのだろう。
少し歩いた先のバス停でバスに乗った。窓際に座り外の景色をぼんやり眺める。数人で談笑する学生の姿、会社に出掛ける父親とそれを見送る母親に幼い少女。思わず笑みが漏れる。“平和”とはこのような風景を言うのだろうとしみじみ思う。
「――こうして、アポロ17号により月面で発見された――」
バスの後ろに座っている女子学生が、タブレット端末を隣の女子学生に見せながら話しているのが耳に入る。どうやら歴史の復習らしい。聴きながら自分でも思い出してみる。思えば今の状況も『アレ』から始まったのだ。
『ハイパーゲート』
月に存在したこの古代火星文明の遺産がアポロ17号に発見された事により、人類は火星への移住と開拓の道を進む。その結果、火星でも同種の文明の遺跡と古代テクノロジー『アルドノア』の発見に繋がった。
この発見に入植者の指導者的存在であった後のヴァース帝国初代皇帝、レイレガリア博士はアルドノアの占有を主張。しかし地球側はこれを拒否し、火星入植者に対して物資を送らないなどの経済封鎖を敢行。両者の軋轢は日に日に増していく事となる。
ここに至り、レイレガリア博士は入植者に向けて檄を飛ばす。ヴァース帝国の誕生である。そして1999年、帝国は地球に宣戦を布告した。
「おっ、よう。
「おはよ」
停車場に止まり、学生が一人乗り込んだ。大人しそうな物静かそうな少年だ。後ろの学生達と顔馴染みの様子で、朝の挨拶を交わしている。
「あれ? ユキさんとは一緒じゃないの?」
「ユキ姉は寝坊。まぁ根性見せたら兵科教練には間に合うんじゃないかな」
兵科教練。先の宣戦布告により、地球では学生にも来たる戦争に向けて兵士育成のためのカリキュラムを施す事が義務づけられた。この学生たちもいつか命の奪い合いをする日が来るのかと思うと、正直やりきれない。
バスがトンネルを抜ける。さっき乗り込んだ少年が何かに気付き窓の外を見た。談笑していた他の学生も釣られてそちらを向く。そこには巨大なクレーターや廃墟、それらを取り巻く重機や工事区画があった。
「災害復興かぁ。新芦原も市街を離れれば、まだまだだな」
「『ヘブンズ・フォール』から15年。やりたい放題だよな、火星の奴ら」
金髪の少年の言葉に、携帯ゲームを弄っていた少年が相槌を打つ。聞き耳を立てていた自分はつい顔を歪める。ヘブンズ・フォールの単語を聞くとどうしても嫌な気分になる。あまり思い出したくない出来事だった。
『ヘブンズ・フォール』
15年前、月軌道上で起きた大規模な戦闘。その最中、突如ハイパーゲートが暴走。次元を歪める規模の重力震が発生し、月は割れ、両軍を巻き込み甚大な被害をもたらした。そして一部の破片は地上に降り注ぎ、こうして都市部を含んだ多くの地域に悲惨な爪痕を残している。
あの天災によって果たしてどれだけの命が消えていったのか。その中には、レイレガリア皇帝の息子にして二代目皇帝であるギルゼリアの姿もあった。現皇帝の崩御により、戦争はひとまずの休戦。以来、仮初めの平和が続いている。
そろそろ目的地だ。嫌な気分を紛らわそうと、音楽プレーヤーのスイッチを入れる。後ろでは「日本はまだマシな方だよ、おれやニーナの所に比べりゃ――」と嫌な話が続きそうだったので、聴こえないようにイヤホンで耳を塞いだ。
◆◆◆◆
「ご無沙汰してます、
向かった先は市内の病院。そこのロビーで昔からお世話になっている医者を見つけ挨拶する。眼鏡を掛けた穏和な印象の人物が、こちらに気づきにこやかに近づいてくる。
「やあ、ハル君。1週間ぶりかな」
「何かと立て込んでおりまして。それで――」
「あぁ、彼女は変わりありませんよ」
「そうですか……」
変わりない。その言葉を聞いた彼の表情に蔭が射したのを見て、言い方が悪かったかなと耶賀頼は己の失敗を悟る。暗い雰囲気を払拭しようと、移動を促し着いたのはとある一室。面会謝絶とプレートが掛けられたドアを抜け、ベッドに寝かされた人物と対面する。
綺麗な女性だった。肌は驚くほど白く、長く伸びた銀髪が朝日を反射して何か神秘的な輝きを放っている。眠っているのか胸が微かに上下し、その度に静かな寝息を規則的に立てている。
「お早う、エレインさん。とうとうこの日が来たよ」
横に置いてあった椅子に腰掛けた彼は、眠っている女性に話し掛ける。言葉は返ってはこないが、彼は構わず続ける。漸く故郷に帰れるのだ、愛する者と再開できるのだと。
「行くのですか?」
話を終えて立ち上がる彼の背に、耶賀頼は声を掛けた。それに対する返答は肯定。
「はい、先生。……先生には感謝してます。あのとき僕達を救って下さって、ありがとうございます」
「目の前に突然重症を負った患者が現れたら、放っておく医者はいませんよ。ただ――」
助けたのは医者として当たり前の行為だ。それについては礼を言われる必要はない。しかし、と耶賀頼は続ける。思い出すのは二人と初めて出会った日。雨の日だった。見慣れぬ格好で、血塗れの女性を抱いた十代の少年が傘を射した彼の目の前にいた。
「あの日、何があったのか。君達は何者なのか。とうとう教えてもらう事は出来なかったようですね。それだけ、残念といえば残念です」
「……すみません」
小さく溜め息を吐く耶賀頼に、彼は心底申し訳なく思う。しかし、話す訳にはいかない。もしかしたら目の前の恩人も巻き込んでしまうかもしれないから。
◆◆◆◆
新芦原郊外にひっそりと佇むバー。隠れ家的雰囲気のこの店は、ノスタルジックな内装も相まって、静かに呑みたい客達の間でいい店だと評判だった。
今日も数人からなる客で静かに賑わっていた。その一角に5人。何やらヒソヒソと小声で話している。それ事態は店の雰囲気からして怪しい事はない。ただ、5人の目には何やら剣呑な光が宿っており、楽しんで呑んでいる素振りは感じられない。
「酒量は減らすように注意しましたよね、大尉」
「こんな所にまで訪問診察とは」
「厄介な担当患者のおかげでね」
入店してきた客がカウンターにいる客と話すのを背に、5人は静かに店を後にする。ワゴン車で目的地へと移動中、助手席の男が運転手の男に、緊張した様子で話し掛けた。
「……いよいよですね」
「ああ。長きに渡る仕服が、漸く報われるのだ」
一人の少女の命と引き換えに、か?
湧いてきた自らの自問に必死で堪える。その後で自嘲した。今更だ。この話を持ち掛けられたときから、覚悟は出来ていたつもりだったが……。心の葛藤を余所に、足はアクセルを踏み込み目的地へと車を動かす。
体の方は理解っているらしい。最早後戻りなど出来はしない。進む以外に道はないのだと。これから起こる事は歴史を大きく揺るがすだろう。その引き金を、自分達が引く事になるのだ。
◆◆◆◆
『御覧下さい! 只今アセイラム・ヴァース・アリューシア殿下を乗せたリムジンが――』
テレビ局のリポーターが興奮した様子で実況する。民衆は或いは来訪を歓迎し、或いは物珍しげに携帯のカメラで撮影する。その間の道路を、周囲を黒塗りの護送車と白バイに護衛されて進む純白のリムジン。防弾仕様の窓ガラスはスモーク入りで真っ黒、生憎中にいる人物や様子を窺い知る事は叶わない。
その事を彼、ハルは少し残念に思いつつ、これからどのようにして彼の人と接触を図ろうかと思案する。今の状況で飛び出したところで、警備の者に取り押さえられ変質者呼ばわりされるのは目に見えている。そんなのはゴメンだし、彼の人に対してそのような無様は晒したくなかった。
◆◆◆◆
仲間と別れた運転手の男は、パレードの群衆の中にいた。携帯のカメラをリムジンに向けてボタンを押す。カシャッとシャッター音が響き、画面にはTARGET LOCKの文字。
これで後はパスワードを入力すれば完了する。引き金を引くだけだ。しかしここに来て再び葛藤が顔を覗かせる。標的の顔に、同じくらいの年齢の娘の顔が重なる。指が動かない。
「――だらしないですねぇ。手伝ってあげましょうか?」
耳元で囁かれた言葉に驚き振り返った男の目に映ったのは、黒いフードの中に赤く輝く瞳。息遣いが聞こえる距離まで近付かれた驚愕と、何者だという警戒の念が男に芽生えたが、その思考は徐々に薄れゆく。代わりに別の感情が意識を充たしていく。
「貴方は何のためにここにいるのですか? 自身の栄達、延いては娘の幸福に繋がると引き受けた密命を果たすためでしょう?」
「娘の、ため……」
そうだ。妻を早くに亡くし、あの子には惨めな思いばかりさせてしまった。下級の身から栄達し、裕福な生活を与えたいがためにこの話に乗ったのではなかったか。最早他の全てがどうでもよく感じる。何度も感じた逡巡も、躊躇いも、顔を覗かせる事はない。胡乱な表情のまま、男は決定のボタンを――戦争の引き金を引いた。
◆◆◆◆
轟音。思案に耽っていたハルは、爆発音によって現実に引き戻された。見れば護衛の車輛が横転し、パレードの中心は爆炎と黒煙で見えなくなっている。更に続けざま、複数の爆発音が聞こえた。まだ終わってはいないのか。
黒煙を掻き分けリムジンが躍り出た。まだ姫は無事だと分かり、安堵の息を漏らす。だがそれを嘲笑うかのように二発、ハルの頭上をミサイルが通り過ぎる。一発は回避、だがもう一発は回避しきれない。直撃こそ免れたが、爆風に煽られリムジンは横転してしまう。
後部座席のドアを押し退け、中から一人這いずり出てきた。純白のドレスを着た金髪の少女。アセイラム姫殿下に相違なかった。
「姫さ――!!」
姫様、と呼び駆け寄ろうとしたハルは、刹那飛来したもう一発のミサイルが姫殿下の立つ場所に着弾したのを目撃した。
「そん、な……」
ショックのあまりその場に崩折れる。直撃だった。直に見ていたが故に、間違いないと分かる。姫様は、もう――。
轟轟と燃えるリムジンの残骸を、絶望的な心情で茫然と見ている事しかハルには出来なかった。
◆◆◆◆
『我らがアセイラム姫の切なる平和への祈りは、悪辣なる地球人どもの暴虐によって、無惨にも踏みにじられた!』
揚陸城管制室の大型モニターには一人の男性が映し出されている。名をザーツバルム。火星騎士にして、伯爵の位を持つヴァース37家門が一人である。彼は言う。平和を願った姫君は暗殺され、その想い、祈りは葬られた。この上は、我らヴァース帝国の臣は地球の旧人類に対し、正義の鉄槌を降さねばならぬ。誇り高き火星の騎士たちよ、時は来た。今こそ歴代の悲願たる地球降下の大任を姫の無念に乗せて、義を以て果たすべし、と。
ザーツバルムの檄文は、軌道上に展開する全ての揚陸城に通信された。諸侯の反応は様々だ。ある者は姫の無念を果たさんと義憤を燃やし、ある者は地球降下の大義名分が出来たと内心で歓喜する。
そんな中、とある揚陸城の主は――
「フフフッ、役者ですねぇザーツバルム卿は。姫の暗殺を裏で操っておきながら、見事な檄の飛ばしよう。称賛に値します」
黒いフードを被ったその人物は、ワインの入ったグラスを玩び愉快そうに喋る。が、話の内容で言えば愉快とは程遠い。姫のためにと叫ぶ彼の伯爵が、その姫を暗殺した反逆者だという。本来誰かに聞かれようものなら、謂れなき侮辱として反感を招き、最悪の場合敵対する事になりかねない。
しかし、それを聞いているだろう中央管制室にいる兵士達は、何の反応も示さない。何も聞いてなどいないか、関心がないかのように淡々と己が本分をこなしている。
「しかしながら、人選に関しては少々詰めが甘いと言わざるを得ません。実行犯のリーダー格は直前で躊躇う半端者、その上後始末を命じたのがトリルラン男爵とは」
まるで見ていたかのような口振り。否、どういうからくりか、実際にあの場にいたのだ。この人物が実行犯へ囁きかけなければ、もしかしたら暗殺は未遂に終わっていたかもしれない。
「ベルクト様、幾つかの揚陸城が降下を開始したようです」
黒い軍服を着た部下が報告をする。やはりというか、その顔に表情はない。ベルクトと呼ばれた黒ローブの男は、手にしたワインを掲げ冷笑する。
「そうですか。フフッ、まぁ戦端を開いてくれた事には感謝しましょう。お陰でこちらが動く手間が省けましたし」
「我が揚陸城も降下なさいますか?」
「そうですねぇ……。やめておきましょう。あちらには
グラスを傾けワインを垂らす。床に拡がる赤い液体はこれから流れるだろう多くの血を暗示しているかのように思えた。
「そう、我らはまだ動かずともよい。『機関』が動くべき時はそう遠くない」
◆◆◆◆
時を掛けずして、地球各所に火星の揚陸城が降下。着陸の衝撃は周囲一帯の全てを薙ぎ払い、熱波は着陸の様子を呆然と眺める人々を一瞬にして炭に変えた。
地球軍は人型機動兵器『KG-7 アレイオン』で構成された部隊を落着予想地点へと投入。交戦を開始した。だが――
「敵揚陸城よりミサイル攻撃!」
「対空迎撃、RAM」
「――いえ、これは……?」
オペレーターの報告に近海に布陣する空母の艦長は迎撃命令を下す。だが、次いで聞こえたオペレーターの困惑の声に訝しむ。ミサイルは艦隊の頭上を飛び越え、海面に落着、若しくはあらぬ方向へと飛んでいく。何のつもりだと訝しんだ艦長は、次の報告で敵の意図を理解した。
「海底ケーブル切断! サザンクロス、コンチェルト1沈黙!」
「マイアミ・ランディングステーション大破!」
「っ!? 通信衛星は!?」
「駄目です! 軌道上の揚陸城から攻撃を受けている模様!」
慌てて問い質すが既に遅く、軌道上の揚陸城によって主要な衛星は撃ち落とされていた。
「連合軍本部、並びに支部との通信途絶!!」
やられた。艦長は漸く自分達がしてやられた事に気づいた。敵はまず先行した部隊や我が艦隊ではなく、通信衛星や中継局といった通信設備を叩いた。これにより我が艦隊は孤立、分断されたといっていい。侵攻を想定していたのは我が方だけではなかったという事か。
「こちら航空部隊、これより攻撃を開始する! ……何っ!?」
接近した隊長機の攻撃開始の通信から数秒後、下方から伸びた二本の熱線によって航空部隊は全滅する。次いでジャミングによるものか、先行した部隊とも連絡が途絶えた。上陸部隊の隊長機は前進を促す。
「あいつか……」
先頭を行く隊長機が、建物の陰から漸く敵の姿を捉える。橋の上に一機だけ佇んでいる。自分達の乗る機体に比べて細身で華奢な印象を受けるその敵機は、ゆっくりとこちらの方向へと顔を向ける。次の瞬間、赤い光が溢れたかと思うと隊長機の頭部からコクピット部分までを消し飛ばした。
「た、隊長ぉーー!?」
隊長機が倒れたのを目の当たりにし各機がライフルで応戦するが、伸びてきた熱線により隊長機と同じ末路を辿る。
「愚かなる地球人よ。神の力の前にひれ伏すがいい」
細身の機体の操縦者は、然したる感情も抱かず淡々と愛機を動かす。再び放たれた熱線は廃墟と化した街を、残存の上陸部隊を文字通り薙ぎ払う。
「何だ、あれは……」
圧倒的なまでの力の差に、艦長は命令を下す事すら忘れ、ただ呆然と眺める事しかできない。燃え盛る炎の中、睥睨するように光る敵機の眼光に、肌に粟が立つのを感じた。
「あれが……火星のカタフラクト……」
艦長の反応は、今日敵カタフラクトを目撃した全ての者の心情を代弁していたと言ってもいいかもしれない。それはこの場所に限らず、今頃戦場となっているであろう他の降下予測地点で戦う人間も含めてだ。ここ日本もその中に含まれる。
東京都都心部。高層ビルが建ち並ぶここ一帯でも、火星カタフラクトと地球軍カタフラクト部隊の戦闘は起きていた。数に物を言わせる地球軍部隊は雨霰の如く銃弾を叩き込むが、敵機は驚くほど軽快な機動性と、周囲のビル群を遮蔽物として巧みに利用し翻弄する事で圧倒していた。
弾丸が尽きたのか、突出した機体がライフルからハンドガンに持ち変え、連続して引き金を引く。放たれた弾丸を敵機は左右に躱すと同時に急接近、その手に持つ光の剣でアレイオンを貫いた。
他の機体は怯みつつも弾幕を張って応戦。対する敵機は貫いたアレイオンを盾に更に猛追する。銃撃に耐えきれなくなったアレイオンが爆発する。その爆風を掻き分け、蒼白い光剣を突き出した重騎兵が躍り出る。
懐に潜り込まれ部隊は浮き足立つ。同士討ちを恐れた各機は録な反撃もできず、瞬く間に剣の錆となっていった。
「こんなの……勝てるわけが無ぇ……。オレたちは、虫だ。虫けらと……同じ――」
最後に残った隊員は、仰向けに擱座した自機の中で乾いた笑い混じりに呟いた。圧倒的すぎる。あまりにも大きい力の差に、恐怖を通り越して可笑しくなった。会敵の瞬間まで、侵略者から地球を守ると意気込んでいた隊員の心は見事に折られてしまっていた。諦観の念を抱き薄れゆく意識の中、隊員が最期に見たのは逆手に持った剣を両手で握り、隊員の機体に突き下ろそうとする重騎兵の姿だった。
この日、世界各地で起こったヴァース帝国と地球連合軍の戦闘は、連合軍の大敗という形で幕を閉じる事となる。
◆◆◆◆
「わぁ、お姉ちゃん見て! 流れ星!」
夜更けにベランダに飛び出した幼い少年。後を追って出てきた少女に空を指差し嬉しそうに話す。
「すごーい! あんなに沢山。お願い事はした?」
姉の問い掛けに、少年は元気よく返す。
「うんっ! 世界中のみんなが、仲良く平和に暮らせますようにって!」
微笑ましい願い事にまあ、と感嘆の声を挙げる姉。だが皮肉にも、その願いは叶わない。夜空に輝く流れ星、それこそが平和の崩れ去る前兆である故に。
いかがでしたか? といっても一話で内容も殆ど分からず。主人公の特徴とか人物像はいずれ書いていくので、それまでお待ちを。
文字や表現の間違い、ちょっとした指摘も含めて感想など頂けたらありがたいです。