妖精と狸と悪戯の   作:ねくら

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FAIRY TAILのアニメ見てはまってしまった。ので、アニメしか見てない詐欺野郎ですが勢いまかせて殴り書き。暇で暇でしょうがねーって方どうぞおいでませ。


01 The first magic

 

 世の中には未知なることが数えきれないほどあると思う。真っ新な青空を見上げながら、俺は心の底から呟く。ああ本当に。現実って上手くいかないなって。

 

 魔法が当たり前のこの世界。摩訶不思議な現象が数多くあり、夢と希望それに相反するように現と渇望が入り交じる。まさにファンタジーと呼ぶに相応しい世界だろう。

 どうしてそんな他人事みたいに言うかだって?そりゃ他人事だからさ。

 もちろん生まれも育ちも紛うことなく、この世界。普通に生まれてなんやかんやで幼少期を過ごして。そしてある日突然、気付いたのだ。

 

 

 自分が異質であるということに。

 

 

 今まで過ごしてきた数十年間はそのままに、記憶によみがえる別の世界での自分。詳細には思い出せなかったが明らかに以前の、それこそ前世の自分は魔法の存在しない世界で生きていた。

 つまりのところ転生者というやつだ。

 これらを思い出してからは、目に映る全てが新鮮に見えた。だって魔法だぜ?前世の世界では無かったんだから、そりゃ物珍しくもなる。

 ちなみに今俺が生きているこの世界が、前世でいうところのフィクション作品の中に非常に酷似していることも気付いている。さらりとしか見ていなかったからあまり詳しくはないけど。

 

 自分には前世の記憶がある。しかしだからといって特別何かが変わるわけでも、俺という人格が歪んでしまうこともない。ただ一つだけ言えることは。どこの世界にいても生きぬくためには、働かなければならないということだ。

 働かざるもの食うべからずってよく言うでしょ。

 

 

「くそう、ニートになりたい―――痛ッ!」

「けっ」

 

 

 芝に転がりながら黄昏れる俺の頬に、容赦ない一発が決まる。吹き飛ばされることはないにしろ、頬骨を的確に狙われて地味に痛い。目尻に涙をためながら右へ振り向けば。

 

 

「こんなトコにいやがったか。飯行くぞ」

 

 

 ぽっちゃりとした体躯に短い手足。茶色く短い毛を風に遊ばせながら、ゆらゆらと太いしっぽを揺らすその姿はまさに狸の中の狸。彼の名を"ポン太"。俺の無二の親友であり、相棒だ。端的にいうとしゃべるタヌキ。

 口は悪いしすぐに暴挙に走るわで乱暴者だが、なんだかんだでいい奴ではある。

 

 

「俺は今。将来の夢の設計作りに忙しいんだよ」

「どうせ引きこもりになるための人生計画だろぉーが。時間のムダださっさと歩け」

「ええぇ。っ、い、いーえいえハイそうですね俺も行きたくてしょうがなかったなー」

 

 

 ごきりと愛くるしい拳を鳴らし始めたポン太を目の当たりにし、すぐさま降参する俺。やべーよ。もう顔がどこぞのヤクザなんですけど、家とか押し入られたら失神ものなんですけど。いやほんと、見た目だけじゃなく怒らすとガチで恐いからな。ここは大人しく従うに限る。

 

 芝から起き上がり、そこかしこに倒れる輩を避けながらポン太へと続く。ちなみにここで気絶してるのは今回の仕事内容でもあった盗人たち。いわゆる盗賊退治というやつだ。

 思ったほど危険な仕事でなくてよかったなーと暢気なことを考えていると。

 岩陰に隠れていたのか、残党の一人がポン太へ。そしてもう一人が俺へと刃物を振り上げて向かってきた。

 

 

「邪魔だどけ」

 

 

 ぼそりと呟いた目の前の狸は、向かい来る残党に尻尾で一振り。見事にぶっ飛ばしていた。さすがポン太さん、ワイルドすぎて言葉がでません。そんな可愛らしい容姿であんな攻撃できちゃうんだから、世の中どうなってんだか。

 

 

「ったくこっちは腹が減ってんのによ。早く行くぞ」

「へいへい」

 

 

 俺の華麗なる拳についてはスルーなんですか、スルーなんですねポン太さん。別にいいけどね。鋭利な刃物を前にちょっとだけ恐かったから褒めてほしいとか。微塵も思っちゃいないからね。

 かくして一人と一匹は街までまっしぐら。先を急ぐのであった。

 

 

 そんじゃ。一応自己紹介だ。

 俺の名前はミズイ。17歳で転生者。

 くすんだ茶髪にオレンジのパーカーと黒の白衣。

 職業は魔導士で、得意な分野は造形魔法。

 趣味はクリエイティブな魔法を作ること。

 相棒のポン太と一緒に魔導士ギルド幽鬼の支配者(ファントムロード)に在籍中。

 

 以後よろしくだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 フィオーレ王国と呼ばれるここ。人口1700万人ほどで主な産業は酪農と園芸農業。まあ、そこそこ平和なとこだ。そんな国のハルジオンという場所に盗賊退治の仕事で来ていた俺は現在。手頃な飲食店を物色中である。

 安くてたくさん食べれておいしいところがベストかな。ここがいいかもとショウウィンドウに顔を近づける。その度に肩に乗るポン太に思いっきり頭を引っ張られるのだ。

 どうやらお気に召さなかったらしい。生意気な狸め。

 

 静かなる冷戦状態で双方睨み合っていると、行く先に人だかりを見つけた。何やら甲高い声で叫んでおり、そのほとんどが若い女の子。ひょっとしてアイドルか何かでもいるのだろうか。

 思いつつ耳を澄ませ、聞こえてきた"サラマンダー"という言葉。

 前世での原作の記憶は曖昧だが、ギルドに所属しているからにはその名には聞き覚えがあった。

 

 確かギルド妖精の尻尾(フェアリーテイル)で一、二を争う問題児だったはず。

 

 うへー。明らかに面倒そうな臭いがぷんぷんだ。

 これは関わらない方が身のためかもしれん。

 

 決めたら即行動。俺の志に従って、その場をUターンして素通りしたお店の扉へと手をかけるのであった。

 

 

 お昼時ということもあり店内はかなり混雑している。ほぼ満席に近い状態の中、広めの席につけたのは運がよかったのかもしれない。ポン太の「早く決めろ」という無言の圧力を受けながら、メニューとにらめっこ。

 ウェイターさんを呼ぶと注文をすませた。

 

 

「さてさて。今月はもう充分働いたし、休暇に入るか」

「そう言いつつ一年の大半は休暇じゃねぇか」

「ポン太氏。人間とは惰眠を貪るために日々働いているのだよ」

「違ぇと思う」

「それに俺には新たな技を開発するという大事な夢がある」

「またあのくだらない魔法か」

 

 

 そう。このFAIRY TAILに転生してからというものの。前世の記憶を持ったことで魔法については若干新鮮さを覚えたのは言うまでもない。何せ前の世界には魔法のまの字もなかったんだから。

 そして新鮮さを改めて感じた時俺は思った。戦いとか、喧嘩とかそういう危ないものは極力回避しつつもっと有意義なことに魔法を使ってみようということだ。それこそ人を楽しませることができるような、アメイジングでクリエイティブな魔法を。

 例えでいえば花火に、お菓子作り、歩く人形などなど。解析実行は得意なのでこういった新しい魔法を日々作り出しているのだ。

 目指せ、魔力のない人でも楽しめる魔法。題してみんなできるよワクワクさん。

 ポン太には不評みたいだけど。あとギルドのマスターとか特に。

 

 

「お前の能力は一応認めてるんだ。もっとマシなもんに使えよ」

「本人が楽しんでるんだからいいだろ別に。魔法に面白みは不可欠さ」

「ちっ」

 

 

 俺が肩をすくめながら言えば、返ってくるのは舌打ち。ちょっとちょっとポン太さん。今ではもう慣れちゃったけどやっぱり人の夢に舌打ちするのは如何なものかと思うのですよ。

 口元をひくつかせる俺を余所に、ポン太は背負ってきたリュックから地図と一枚の紙を取り出す。どうやら他の話題に移ろうとしているみたいだ。ちなみに余談だが、ポン太の持つリュックは可愛いうさぎさんモチーフのものだったりする。あんな毒舌と性格してるくせに変な所で可愛さ発揮するんだからよくわからん。

 

 

「さっきも言ったけど今月は休暇にするからな」

「これを見ろ」

 

 

 渡されたのは書物の写しと思われる紙だった。そこには呪歌(ララバイ)という単語と、それについての伝承。アイゼンバルトとその隣には。

 

 

「なんだ、この汚い渦……痛ッ!」

「イラストに決まってんだろぉが」

「イラスっ、げほげほ。おー、まるで芸術だこのイラストいやほんと素敵」

「白々しい」

 

 

 だってこれはっきりいってイラストと呼べる代物じゃない。断じて。俺の方が上手いって自信あるもんね。

 あらゆることでポン太に負けっぱなしの俺だが、こん時はなんだか自分を誇れた気がする。

 ちょっとだけ鼻高になりながらも、その文献の写しへ目を通していくうちに俺の興味は一気にその一文へと注がれた。

 

 

「聞いた者を死に誘う呪いの魔法……?」

「吸魂系統の魔法かもしれねぇ」

「ぽ、ポン太。もしかしてこれって」

「前から他人に物理的に幸福感を与える魔法の研究してんだろ」

「物理的幸福って、ずいぶん押し付けがましい幸福だよね。でも、そうか」

 

 

 発想の転換でいけば仮に魂を吸い出す魔法だとして、その構造を逆に組み替えることができれば人に吸収させることが可能かもしれない。つまりエンターテイメントに必要な「楽しい」「嬉しい」といったプラスの感情をぶっこむ方法がわかるかもしれないのだ。

 アメを一粒食べるごとに幸福感を味わえる。それもそこらにある二流三流ではない、超一流級の幸福作用をもたらす魔法のヒントがこの呪歌(ララバイ)に。

 

 善は急げ。

 

 

「よし。これを探そう」

「言うと思った」

「で。このアイゼンバルトっていうのは」

「お待たせ致しましたー」

 

 

 疑問を投げかけたところでウェイターさんが料理を運んでくる。チーズをふんだんに使ったドリアが俺の前に、海藻サラダてんこ盛りがポン太の前へとそれぞれ置かれる。

 そうして去っていくと思いきや、ウェイターさんはこちらを伺うような視線を向けながら他の方と相席にしても良いか、といった質問をこちらへしてきた。

 当然すぐに不快感を露にしたポン太。やばい。目が据わってる。

 このままでは容赦のない暴言が彼女にとんでしまうと踏んだ俺は、高速で頭を縦に振ると肯定の意を示した。

 

 

「ポン太さんポン太さん。女の子には優しく」

「けっ」

「またこれだよ」

「あの、すみません」

 

 

 突然かかった声。タイミングからして相席する相手だろう。振り向けば、横で髪を一纏めにした金髪セミロングの女の子。その後ろにはうろこのようなマフラーを身につけた桜髪の青年。そして青い猫。

 ……なんか、すっごい見たことのある人たち。そしてポン太さん。無言で眼とばすの止めてくれませんか。

 とりあえず女の子のほうが申し訳なさそうな顔だったので、着席を促す。俺とポン太さんは隣同士で座っているので、向かい側に座る二人と一匹。

 

 

「ごめんさいね、相席してもらっちゃたりして」

「気にしなくていいですよ。それよりそっちのマフラーの人は大丈夫ですか? 随分消耗してるけど」

「あー多分大丈夫よ」

「よかったら俺の手つけてないんで食べ」

「おおお! あんがとよ!」

「……いえいえ。お早い反応で」

 

 

 金髪の女の子はルーシィ。桜髪で現在俺の注文した料理にがっついているのがナツ。そして青い猫がハッピーという名前らしい。まさかまさかとは思ったけど原作でいうところの主人公たちだった。びっくり桃の木。

 ポン太さんは終止無口だったけど、相席になった俺たちは成り行きで会話を続ける。

 どうにもチャームという魅惑の魔法を使ったいけすかない奴がいて、それにひっかかりそうになった所をナツに助けてもらったのだとか。そのお礼で食事をおごろうとこの店に入ったらしい。

 

 魅惑の魔法ねぇ。あれはここ数年で販売中止になってて欲しいと思ったときにはもう手遅れだったという苦い思い出がある。もちろん、それでハーレム作りたいとかそういうんじゃなくて、創作魔法の参考になりやしないかと思い至っただけだ。他意はない、はず。

 

 ナツとハッピーが注文した品を片っ端から食べる傍ら、俺はルーシィから入りたいギルドがあるのだと聞かされた。なんでも最高に格好よくて、大きいギルドだから仕事もたくさんもらえそうとか。

 時たま飛んでくる食べカスをさらりと避けながら、そりゃいいですねと相づちを打つ。

 そこからは魔導士の話だとか、ナツからは本物のドラゴンを捜しているとかぶっとんだ話題まで投げ込まれたり。

 

 

「それにしてもその狸、可愛いわね。特に尻尾が」

「うるせぇブス」

「………」

 

 

 など、時折あぶない場面があったんだけど。転生してから初めての主人公たち遭遇イベントはつつがなく進んでいった。

 そろそろおいとまするわ、とルーシィがお金を置いて立ち去り。残された俺とポン太そしてナツとハッピー。

 相も変わらず食べ続ける彼らの胃袋事情がけっこう気になるんだけど。

 

 

「俺たちも行こうか。ナツさん、ハッピーさんお先に」

「おおー、料理さんきゅな!」

「あいっ! それとオイラたちに敬語とか使わなくていいよ」

「そっか。それじゃまたいつか」

 

 

 そうは言いつつも、すぐにまた対面することになりそうだなとか。思ってみたりして。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ナツ、ハッピー、ミズイ、狸と別れたルーシィは公園のベンチに腰を降ろしていた。手には途中で購入した魔導士を特集している雑誌。

 これには様々なギルドの情報や、人気魔導士のインタビュー、グラビアなど多くの事が記載されている。

 そして彼女の目下の興味はただ一つ。妖精の尻尾(フェアリーテイル)というギルドだった。

 雑誌には「またしてもやらかす妖精たち」という題で、今月妖精の尻尾(フェアリーテイル)のメンバーが起こした騒動が載っていた。

 それを見ながら笑いを堪えるルーシィ。世間的には厄介者扱い気味の彼らだが、仲間を何よりも大切にしていたり、その志が高いことも見聞きしている。だからこそ、彼女はこのギルドに入りたいと思ったのだ。

 そう遠くない将来、妖精の尻尾(フェアリーテイル)に入る自分を夢みながらページをめくる。

 

 すると今度は幽鬼の支配者(ファントムロード)の特集がされていた。思わずタイトルを目にし眉をしかめる。

 妖精の尻尾(フェアリーテイル)と拮抗するギルドではあるが、彼女てきにはあまり良いイメージはない。なんだかパッとしないし、各地に支部があり人数はいるが真の実力者は少ないように思えるからだ。

 それに正規ギルドでありながら、時たま黒い噂を聞いたりもする。

 

 

「なんっかもやっとするのよね、ここ」

 

 

 ため息をついてページをとばそうとする直前、目に入る文字。そこには「黒の探求者(クリエイター)情報求む!」と書かれていた。

 何のことかと思いつつも、そういえば最近幽鬼の支配者(ファントムロード)にしては珍しい破天荒な魔導士が加入したとかで有名になっていたっけと呟く。

 ギルドメンバーにも関わらず仕事をして貢献という考えがあまりないようで、最低限の仕事をすると後は自分の趣味に走るとか。しかもその趣味の暴走で港町半壊や家屋破壊などやらかしているらしい。

 まるで妖精の尻尾(フェアリーテイル)のような話だ。

 

 

「どんな奴なのかしら」

 

 

 きっととんでもない乱暴者に違いない。とすると、筋肉もりもりのひげ面だったりして。想像して苦笑するルーシィ。

 そんな彼女を見てほくそ笑む男がいるとも知らず。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「へっくしゅ!」

 

 

 海岸沿いに敷き詰められた石の壁。そこにポン太と腰を降ろしながら、すっかり夜へと様変わりした空を見上げる。

 前ぶれなくくしゃみがでたが、風邪ではないと思いたい。

 本来であれば宿をとり、一泊してから家へと帰るつもりだったのだが。俺のどうしてもチャームの魔法が欲しいというわがままを聞いてもらったがためにここにいる。

 うろ覚えの原作知識の通りであれば、例の胡散臭い奴の船がこの海岸まで押し返されてくるはずだ。

 チャームの魔法が欲しいと言いつつ、まったく動かない俺にポン太の方は怪訝そうな目を向けてくる。

 とっとと行動に移せ、とか言いたいんだろう。

 まあ、見てなって。その内向こうからやってくんだから。

 

 

「俺って策略家かもしれん」

「どこがだ」

 

 

 ポン太さん。そこはのせてくれてもいいと思うのですよ。あんまりズバっと切られると悲しいというか。切ないというか。とにかくテンションがたださがりなわけ。

 そこんところ理解してます?と問うと、けっ、と短い嘲笑が返ってくる。もういつものことだよね。

 ただそんな態度を取りつつも付き合ってくれるんだから我が相棒は中々のイケメンさんだ。

 くすくすと一人で笑っていると、何やら後ろから駆けてくる音と人の声。

 ポン太もじっと後ろの道を凝視している。

 

 一人と一匹に注目されやってきたのは、昼間に会った桜髪の青年と青い猫。何やら「フェアリーテイルだとお!?」と叫んでいる。

 あまりの迫力に唖然としている内に、桜髪のナツは俺たちが腰掛けている石壁に足をつき思いっきり跳躍した。

 生身の人間ってあそこまで飛べるものなのか、と思いつつ見上げていると後から来た青い猫ハッピーに抱えられあっという間に飛んでいってしまう。

 まるで台風のような一瞬だった。

 

 

「フェアリーテイルか」

「おお。珍しく興味でも持ったのポン太」

「けっ。ただやかましいが取り柄のお騒がせギルドだろぉが。オレらの敵じゃねぇ」

「なんだかんだで幽鬼の支配者(ファントムロード)大好きだよね君」

「うっせぇ」

 

 

 世間的には妖精の尻尾(フェアリーテイル)と並び称される幽鬼の支配者(ファントムロード)。そのマスター、ジョゼ・ポーラは妖精の尻尾(フェアリーテイル)のマスターに強烈な程のライバル意識を持っているらしく、何かと彼らと比べたがる。

 その八つ当たりのようなものがギルドメンバーにも降り掛かってくるわけで。俺自身はけっこうマスターが苦手だ。

 魔導士としても相当強いし、逆らった時を想像するとまじで恐い。

 

 ゆったり流れる雲を見つめながらそんなことを考えていると。波打ち際が不自然に乱れているのに気がついた。そして一瞬海水が引いたかと思えば、次の瞬間に轟音と共に大きな津波が発生した。

 原作知識で予想していたこととはいえ、この迫力を目の前にすると圧倒されるな。海岸付近を歩いていた人たちもこの突然の現象に逃げることも忘れぽかんと見つめている。

 こいつはちょいと、やばそうだ。このままでは波に一般人が飲み込まれてしまう。そう判断し、胸の前で柏手を一つ。

 

 

 パン―――――。

 

 

 緑の造形魔法(プラント・メイク)大きな森(フォレスト)

 魔力を流すと同時、ほぼタイムラグ無しで海岸を包むような森が出現する。波に攫われそうだった人たちはこの森のから出てきたツルによって事なきを得ている。うん、なかなかいい造形具合だ。

 造形魔法って両手を使うのと、何より形を作るのに時間を取られるというデメリットがあるからな。中々難しい魔法なんだよね。

 どうよ数年前よりだいぶ上達しただろう、と意味ありげな視線をポン太に送ってみれば。

 

 

「………」

 

 

 彼はもうその場にいなかった。

 なんでだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ルーシィ・ハートフィリアは突如として現れた広大な森を呆然と見上げていた。星霊魔導士である彼女は、騙され誘拐されそうになっていた女の子たちを救うべく、宝瓶宮(ほうへいきゅう)アクエリアスを召喚し船を港へ押し戻したのだが。

 予想以上に波の規模が大きく、あわや一般人も巻き込んでしまうのではと冷や汗をかいていたのだが。

 この森のおかげで余計な被害を出さずに済んだのである。

 

 

「一体何が……」

「すっごい森だねルーシィ」

「当たり前ぇだ。オレの相棒がやったんだからな」

「あっ、あんたミズイと一緒にいた」

「あいっ。狸だ!」

「違ぇクソネコ。黙れ」

「あいぃ……ひどいよ」

 

 

 昼間の相席の時からわかっていたことだが、この狸とんでもなく口が悪い。通常営業で吐かれた毒は見事にハッピーの良心をごそりと削り取っていく。

 二匹を呆れ気味に見ていたルーシィは、そこではっと気付く。そういえば寸での所で助けにきてくれた青年はどうしたのかと。

 砂浜に打ち上げられた衝撃でぼろぼろになった船体。周りには乗っていた誘拐犯たちが倒れふしている。

 

 と、船体の中から険しい顔つきで出てきた桜髪の青年が。

 

 

「ナツ!」

 

 

 チャームの魔法から助けてくた一般人の男の子。ルーシィのこの印象は、次の出来事から瞬く間に崩れ去る。

 まず、彼は自分と同じ魔導士であったということ。口から火を吹いたり炎を食べたりと見たこともない魔法を使うということ。そして、彼女が憧れるギルドの一員としてよく耳にする火竜(サラマンダー)だということだった。

 あまりにも驚きすぎて何がなんだか。目の前で行われる戦闘に呆然としていた。

 

 

「ふんっ。あれが妖精の尻尾(フェアリーテイル)の滅竜魔導士か」

「そうだけど、知ってるの?」

 

 

 ポン太が知っていることが驚きだったのだろう。好奇心に目を輝かせハッピーが詰め寄る。それを鬱陶しそうに一瞥した後、火を纏って戦うナツを見据えながら首を縦に振って肯定した。

 

 

「同業者なら話くらい流れてくんだろ」

「えっ!? じゃあ君も魔導士ってこと?」

「言う必要あんのかよ」

「というかそんなことよりも」

 

 

 ルーシィは二匹のやりとりよりも、ナツの攻撃による余波に嫌な汗を背中にかきだしていた。

 確かに彼の炎の魔法は凄まじい。並の威力ではないのだろう。だが周りへと飛び火していく現状はどうみてもやり過ぎではないかと思ってしまうのだ。

 現にナツの口から放たれた炎の魔法が生い茂る森に着火。一気に燃え広がっている。

 そしてそんな状況を見て大慌てで森の中からやってくる一人の影。

 

 

「ちょっとちょっとちょっとおおお! 誰、誰なの! せっかくいい感触でできた森を燃やそうとしてんのは」

 

 

 くすんだ茶髪にオレンジのパーカーとボトムス。その上から黒い白衣を纏った少年、ミズイだった。

 彼の登場に一瞬言葉に詰まるルーシィだが、叫んでいる内容からあの森を作ったのが彼なのだということを理解した。そして同時に、彼も魔導士だったのかと思わず苦笑してしまう。

 

 

「ミズイ!」

「ん。ルーシィとハッピー。それにポン太! なんで先行くんだよめっちゃ切なかったんだぞ」

 

 

 まるで数年振りの再会といわんばかりの勢いでポン太を抱擁するミズイ。ポン太本人は凄まじい表情でパンチを決めていたが。

 

 

「ミズイも魔導士だったんだねぇ」

「あれ、言ってなかったけ。いいやそれよりもお宅のナツさんはあれどゆことよ。森を燃やすとか自然破壊もいいとこです」

「あい! ナツはいつもあんな感じだよ」

 

 

 それ、胸張って言えることじゃないよね。ええー……と言葉を失っているミズイを余所に確かにこのままだと街にまで火の手があがるかもしれないと思案するルーシィ。

 まったく噂通りとんでもない魔法なんだから、と困り顔でいると。我に返ったミズイが何やらポン太と会話している。

 

 

「ちっ。仕方ねぇ。貸しイチだからな」

「はいはい。そんじゃよろしく頼んます」

 

 

 そこからの展開は早かった。ただの狸だと思っていたポン太も実は魔導士。それも水を得意とする魔導士だったらしく、森に燃え広がった火は瞬く間に鎮火された。

 一方でナツの方も片がついたのか、主犯である男はぶっ飛ばされていた。果たしてあの炎の拳でやられて無事なのか。疑問には思うが当然の報いと思ってここは無視するに限る。

 

 終着した事に安堵したルーシィが駆け寄って声をかけようとするが。街の警備隊や軍隊がやってきていることに気がつく。このままでは尋問され、悪ければブタ箱行き。今回のこの港はそれくらいの被害にはなっているだろう。

 

 

「ルーシィ、ルーシィ」

 

 

 どうすれば良いのかと迷っているところへ、自分を呼ぶ声。振り向けばミズイが手招きをしていた。

 

 

「俺が足止めしといてあげるから、ナツとハッピー連れて先行きな」

「で、でも。ミズイは大丈夫なの?」

「まっかせっなさーい。俺は凄腕の魔導士なのです」

「自分で言ってりゃ世話ねぇけどな」

「ポン太さんポン太さん。せめて女の子の前では格好つけさせてよ」

 

 

 口にしていることは容易ではないはずなのに、軽妙にやりとりをしている一人と一匹。そんな彼らに本当に大丈夫なのかと確認のように問えば。返ってきたのはきょとんとした顔。次いで親指をたてたグッドサイン。

 

 

「まかせろ!」

 

 

 

 

 

 

 さてさて。あんなこと言って格好つけたのはいいが、このまま棒立ちしていたらやってきた軍に捕縛されかねない。

 下手すればこの惨状全部俺のせいにされる可能性もある。チャームの魔法である指輪もさっき手に入れたことだし、かくなる上は。

 

 

「じゃーん。名付けて悪戯(からくり)魔法第三番、大玉花火!」

 

 

 懐から出した数枚の葉っぱ。これこそ、俺の趣味趣向により産み出された魔法の断片である。

 とはいえ、正確にいえば完全な新しい魔法というよりは緑の造形魔法の延長のようなものだ。

 

 作り方は至ってシンプル。まずは緑の造形魔法で種を形作り、そこへ解析した魔法を付け足す。

 種が成長する過程で付与した魔法が集約され、葉っぱをつけたらあら不思議。魔法が組み込まれた葉っぱが出来上がるというわけだ。

 自分的にはかなりお手軽なんだけど、ポン太に言わせれば非常識すぎて理解できないという酷評をもらっている。

 ちょっとは褒めてよ。

 

 

「そーら行くぜ」

 

 

 真緑の葉っぱを、一気に破る。すると同時に魔方陣が展開。所定のプログラム通り葉っぱたちはものすこい勢いで四方八方へと飛びさっていく。

 

 そしてこの花火。ただの花火ではないのだ。

 

 魔法の発動を確認した俺とポン太はその光景を見守ることなく、急いでその場を後にする。

 海岸を抜け街中に入ってもまだ走り。路地に身を隠す。――――刹那。

 

 凄まじい轟音と目を差すような光りが、常闇の空を埋め尽くす。

 海岸からは混乱の声と、被害状況を確かめる怒号が聞こえてくる。

 

 

「何かしら今の音」

「ママー見て! おっきな花火」

「お空からキラキラの砂がふってるよ!」

「おいおい。夜なのに虹がかかってやがるぞ」

「虹のカーテンだ!」

「きれーい!!」

「歌も聞こえてくるよ。すっごい綺麗な声」

 

 

 そうなのだそうなのです。こういう反応があるから俺はこの悪戯(からくり)魔法を追い求めるのだ。

 人をあっと驚かせると気持ちいいんだよな。

 

 ただの花火ではない。これは魔法の力をフル活用した特製の花火。火薬の爆発はもちろんのこと。昼なら虹、夜ならオーロラを出し金粒を降らせて歌も流れる。

 

 

「ふっふっふー。軍も撒けたし、反応ももらえたし俺って本当。天才じゃねっ?」

「頭に馬鹿がつく天才ではあるな」

「何を言われようが今は最高に気分がいいのです。ほらほらポン太、さっさと次の街に行くぞ!」

「けっ。ガキかってーの」

 

 

 

 

 

 

 後日。こ度の出来事は大々的に記事に載ることとなった。それも、今回の破壊行為は完全に妖精の尻尾(フェアリーテイル)所属の一人の魔導士によってもたらされたことであり。全面的に彼と彼らのギルドの責任であると。あっあとあのでっかい森もその人によって作られました。どでかい花火もそうです。えーっと、後は。とにかく全部彼の仕業です。

 

 これは、後を任されたミズイとポン太が自分たちに被害が及ばぬようにと苦汁の決断で噂を流した故のことであった。

 そう。断じて、面倒だとかそんな理由ではないのである。多分。

 

 




ミズイ:緑の造形魔法(プラント・メイク)とその延長にあたる悪戯魔法(カラクリ・マジック)。
ポン太:水質系の魔導士。


【挿絵表示】


基本ポン太は後ろ姿は可愛いけど顔はいかつい。
挿絵は勇気ある方だけどうぞです。
いいや、俺は見ない、見ないぞ!って人はそのままで。


話しがあんましスムーズじゃないですけど。今回は紹介編みたいな感じで。
次回からちょびっとずつ戦闘したい。恋愛したい。
なによりも花火ばかすか打ちたい。

ありがとうございましたー


5/9 一部編集。ウッド・メイク→からプラント・メイクに変更。知らないって罪だわぁ……。
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