晴天の空が広がる。雲一つない大空の元、活気づく街中のとある場所で。今まさに一世一代のショーが行われていた。
子供たちはそろって目の前の出来事に目を輝かせ、大人たちは一体どういう仕掛けなのか見破ろうと食い入るようにみている。
そんな中立ち回るのは。
「さあさあ寄ってらっしゃい見てらっしゃい!」
くすんだ茶髪にオレンジのパーカー。その上から黒い白衣を身に纏う、魔導士ミズイである。彼は時折発光の魔法を放ちながら場を盛り上げている。
「お次は伝説の中だけの存在として語られる生き物を呼びだすよ! そこの坊主、何だと思う?」
「んーと、んーと。わかんないよ」
「ヒントだ。それは何よりも強く、固い鱗を持っていて、鋭い牙に大きな口があるーーー」
こいつさ!そう叫んだと同時、ミズイの後ろで水蒸気が発生。中から出てきたのは水で形作られたドラゴンであった。体格はミズイより少し小さい程度だが、それでも精巧に作られたボディとリアルな声まで出るものだから一部観客から悲鳴があがる。
「さてさて。この見るからに強そうなドラゴンを倒そうと思う勇者はいるかい!?」
「……ぼ、ぼく! やってみたい!」
「おお。勇敢なる少年よ! 勇気ある君に俺からとっておきをプレゼントしよう」
怯えながらも立ち上がった男の子の手を優しく引き、一枚の真緑の葉っぱを持たせる。一体これは何なのだろう、と少年は疑問に頭を傾げるが指示通りに葉を破る。
するとどうだろう。七色の光と共に、男の子の目の前に一振りの剣が現れたのだ。もちろん、ショーなので実際に斬れるものではないのだがそれでも男の子にとっては興奮するには充分すぎる効果を発揮した。
途端に勇者っぽくなった男の子。彼は七色の剣を持ち、水のドラゴンに立ち向かい見事倒すことに成功する。
その瞬間割れんばかりの喝采が起こった。
同じ年代の子供たちは尊敬と憧れの目を持って。大人たちは彼の小さな勇気を讃えて。
その笑い声と拍手と歓声はしばし街の片隅で響き渡ることとなった。
「ふぃー。お疲れポン太」
「まったくだ。水であんなモン作らせやがって」
客が去ってから、壁によりかかりすっかりくつろぎタイムになっている俺。そんな俺の横に腰を降ろしながら、近場で購入したミルクを飲み干す狸。彼は無二の相棒であり、水を操る魔導士である。名をポン太。
実は先ほどのショーで出てきたドラゴンの演出は、このポン太によるものだ。本人はかなり嫌々だったがそこは俺の得意技、おねだりでなんとかイエスと言わせることに成功した。さすが俺。
ギルドの仕事が入ってない日は、こうして街中での大道芸に勤しでんいる。なんといっても俺の
今回の演目は勇者がドラゴンに立ち向かう、というものだったんだけど。自分てきにはまあまあの出来だったといえる。前回よりは事がスムーズに運んだし、
ただ一つ言えるのは、勇者の剣の登場シーンが地味だったことかな。とりあえず七色に光らせてみたけど、次回は服とかも変わるように改良してみよう。そのほうが勇者感がでるだろう。
「必死に無駄なこと考えてるとこ悪いけどよぉ。そろそろ例のもん探しにいこうぜ」
「あー。そうだね。その前にギルドに寄らなきゃだけど」
例のものとは、聞いたものを死へと誘うという
ちょっと参考程度に解析してみたいという好奇心から探しているのだけど、まったくと言っていいほど手がかりがない。
いくら転生しているとはいえ、この世界で何年も過ごしてしまっているので原作知識の記憶もだいぶ掠れてきてしまっている。なので肝心なところで思い出せなかったり、そもそも元から詳しくないので知らなかったりと。ほとんど転生の利点を生かせていない。
だめじゃん、俺。
とりあえず、呪歌《ララバイ》については
それでお互いがお互いに夢中になってくれれば、横取りしやすいから尚良しなんだけども。
「行こうポン太。さすがに依頼達成の報告をこんだけ溜め込んでたらやばそう」
「もう手遅れな気ぃすっけどな」
言うな。帰るのに気が重くなるだろう。
ぐすん。
まあ。つまり自由度はわりと高め。
ただある一定以上の実力を持つ魔導士とかは、いわゆるマスターのお気に入りとなるので面倒な仕事をまわされがちになる。エレメント4とか鉄の滅竜魔導士とかが最たる例だ。
彼らはマスターから仕事を割り振られることが多々あるようで、かなり忙しそう。
「あんまし人のこと言えないんだけどねぇ」
ため息をつきながら木製のドアの前に立つ。しっかり閉じられた扉の向こうから喧騒が聞こえてくる辺り、かなり人がいるのが窺い知れる。嫌だなあ。なんか俺、ギルドの中で悪目立ちしてるみたいで白い目で見られるから心のダメージはんぱないんだよね。
「入らねぇのか」
「入るよ入る。べ、別にびびってないもん」
「何も言ってねぇーだろぉが」
そうだ。ここは支部だからマスターはいない。あの人さえいなければなんとか乗り切ることが可能だ。周りの視線に負けるな俺。仮にも一介の魔導士じゃないか。
そして俺は勢いよく、ギルドの扉を開けた。
途端に静まり返る室内。
誰もがこちらを見ては、驚いたような顔をした後隣の奴と会話をしている。
「おいおいマジかよ。あれって」
「ああ。普段滅多に顔出さないのに珍しいな」
「あ、あれが黒の
「いや。俺は緑の魔導士って聞いたぜ」
「え。奇人のミズイじゃないのか」
「たくさん通り名があんだよ。とにかくそれだけやばい人ってこと」
聞こえてるから。相手に聞こえるひそひそ話とかベタだよね。
好奇の目に晒されながら俺の心はブロークンハート。そんな厨二チックなあだ名つけられても嬉しくもなんともない。
この世界ではそうでもないかもだけど、前世の記憶と価値観を持つこちらとしては赤面ものなのだ。
「本当に珍しい。あの人だけでも驚愕もんなのに」
その呟きが俺の耳へ届いたのと同時、右死角から猛烈に嫌な気配を感じてその場へしゃがみ込む。
動きながら自分の頭の上を通過していく
「ギヒッ。いーい反応だな」
「あちゃー……。嫌な人物に会ってしまった」
鋭い双眼でこちらを見ている人物。それは俺の苦手ランキングで上位に入ってくる奴だった。
ガジル・レッドフォックス。鉄の滅竜魔導士にしてこのギルド最強とされている男だ。
とにかく口が悪くて喧嘩早いし、俺に対しては挨拶が鉄パンチかキックで通常だから本当にありがた迷惑。他にやることないのかなこの人。
「ちょうど暇してたんだ。少し付き合え」
「ぜったい嫌だ。どうせ手合わせとかなんとか言うんだろ。他に頼めば」
「あいつら弱すぎて相手にならねぇ。カスばっかだ」
「い、言い方。仲間なんだしもうちょっと何かあるでしょ」
もう一つ、彼のことが苦手な理由がある。それは仲間意識が低いということ。というよりも彼の場合、本当に認めた奴しか歩み寄ろうとしないというべきかもしれない。
別に仲良しこよしを強制するとかではないのだけど、上記の理由から敵はもちろんのことギルドメンバーに対しても、一切の容赦がない。
ただ、一人妙に彼になついている子供がいてその子に対してはまんざらでもないみたいだけど。
それにしてももうちょい心に余裕持って生きてみればいいのにな、と時折思ったりする。
例えば。
「ガジル氏、ガジル氏。腕貸してみ」
「は? なんでだよーーってオイ」
「それいっ」
真緑の葉っぱを破ればあら不思議。鉄と化したガジルの腕に色とりどりの花が咲き乱れる。
一瞬、アスファルトに咲く花のようにのフレーズが流れてきたけど仕方ないと思う。誰もが通る道だよ。
「お、おいおいおい。ガジルさんがあれ」
「やべぇよ。完全にやばいよあの人何してんの」
「ガジルさん相手にあんなことする人、ミズイさんだけだよ」
それにしても思ったよか花の見映えがよくない。これはもう少し色を増やした方がいいかも。いや、あえて色数を抑えて一つの色を目立たせるという考えもアリかな。
真剣に俺が目の前のお花畑で悩んでいると。何やらくぐもった声が。
疑問に思って視線を上げれば。
「いっ」
先ほどの一発とは比べ物にならない早さの蹴りが飛んできた。こりゃしゃがんでも余波でダメージきそうだ、と判断してすぐに回避行動に移る。数十メートル離れた場所に着地するのと、ガジルが床に蹴り込むのはほぼ同時だった。
次の瞬間、そこら一体の床が吹き飛ぶ。もちろん周りで酒を煽っていた人らも巻き添え。
よかった離れてて。
そういえばこんな時にポン太はなにをしているんだと思って見渡せば、彼はとっくに依頼受注係の人の前にいた。きっと溜まった報告手続きをしているんだろう。ほんと、優秀な相棒様だよ。
「てめぇ……」
ゆらりと立ち上がる鉄の男。ちょっとからかいすぎたかもしれん。青筋浮かべながら腕の花を叩き落としているが、如何せん叩いてもすぐに再生してくる。よ、よかれと思って組み込んだ仕組みが裏目に出てしまった。
「雑草野郎が。ぶっ潰す」
「落ち着こうガジル。争いは良くなうわわわ」
完全に頭に血が昇っているようで、こちらの話をききやしない。仕事の報告もポン太がやってくれていることだし、ここは逃げるが勝ちだろう。頭の中で考えをまとめた俺はすぐに行動に移ろうとするが、前触れなく感じた嫌な予感に身をすくませてしまう。
それは目の前のガジルも同じだったようで、その場で踏みとどまっている。
「何を騒いでいるのです? お二人とも」
赤紫の髪色に口ひげを生やした上品な立ち振る舞い。見紛う事無き、この
「マ、マスター」
「ギヒッ。今日は本部にいるはずだろ、なんでいやがる」
「思念体に決まっているでしょう。それよりもミズイさん。少しお話があるんです、上まで来てもらえますね」
「えー……俺、この後行くところが」
「来てもらえますね」
「ハイ。行かせていただきます」
見たか今の肩越しの目つき。くっそ恐いはんぱない。大きなギルドをまとめるだけあって、存在感は絶大だマスター。
呼び出されたからには行かないと、後で何されるかわからない。
とぼとぼとマスターの後をついていく。その途中ガジルは「覚えてろよ」とか言い放ってきたし、今日は厄日かもしれない。
ミズイがマスタージョゼに連れられて行った後。依頼受注兼酒場であるここは、先ほどとは打って変わってしんと静まり返っていた。
床はひしゃげ、机や椅子は乱雑し、何人かがいまだにそこらで伸びている。たった数発のミズイとガジルによる戦闘痕は凄まじいの一言につきた。
誰もが張りつめた空気に固まっている中、皆の視線を集めながらも一切気にしていない男が机に腰掛けている。このギルド内では最強と呼ばれる
彼は端から見てもわかるほどに苛立っていた。その原因は、今もなおむしり続けている腕の花々たち。
「あんのヤローぜってぇ殺す!」
「ガジル」
「ああっ?」
常なら怒りまくっているガジルに話しかけようとする者などいない。だが目の前の狸は違った。精悍な佇まいでガジルを見上げるポン太は、小さな丸薬の入った瓶を差し出す。
「魔法の効果を消す薬だ。効くと思うぜ」
「……チッ」
しばらく受け取るのを躊躇したガジルだが、やはり無制限に成長する花を放って置くことはできない。大層嫌そうに奪い取ると一気に中身を飲み干した。
「相棒が悪かったな」
「まったくだぜあの雑草野郎。毎度と意味わかんねぇー魔法使いやがって」
「馬鹿なんだよォあいつは。大目に頼むぜギルド最強様」
「そりゃてめぇーのクソ相棒もだろうが」
ガジルの言葉にポン太は驚いたように、僅かに目を見開いた。その機微は本当に小さなものだったが、目敏く気付いたガジルが余計に不機嫌になっていく。
手近にあった誰かの飲みかけを口に流し込むと、少し間をあけて話し出す。
「俺は弱ぇヤツは嫌いだが、てめぇーの強さを過信するほど馬鹿でもねぇ」
「……意外だな。ミズイのこと認めてんのか」
「実力だけだ。あいつも一応は、俺と肩並べるギルド最強だからな」
しかしギルドメンバーはこのガジルと同等の実力を持つとして見ている人物がいる。
それが、緑の魔導士ミズイだ。魔法、体力、知能どれもバランスが良く、特に魔法に関してはかなり多彩な力を発揮する。彼は表立ってギルドの仕事をすることがないため、他のギルドでもその名を知る者は少ない。ただガジルの外での行動が派手なために、彼のイメージが印象強くなるということも少なからずある気もするが。
ともかくである。ガジルとミズイ。この二人こそ、現在
「なるほど」
ふっと笑ったポン太が腰掛けていた机から飛び降りる。
「なんだ行くのか。雑草野郎はまだみたいだぞ」
「ああ。次の場所に向けて馬車を借りて来なくちゃいけねぇんだよ。あいつに任せるとろくでもねぇことになんだ」
「ギヒッ。そいつは大変なこった」
「まったくだ」
どうにもその類のことをミズイに任せると、大騒ぎになる。曰く、馬車を借りに行ったのに猛獣を狩りに行ってたり。曰く、馬車を借りても悪戯魔法を多様しすぎて業者に断られたりといった風だ。
まあそれでも、なんだかんだで仕事のときは頼りになるし、腐れ縁の仲である。
それらを思い返して、歩きながらも小さな肩をすくめるポン太。心底呆れているのかと思えば、唐突に彼はガジルへと振り返る。
「自慢の相棒だからな。サービスだよ」
滅多にあげない口角で、そう言呟くのだった。
ここは支部のため、マスターが常駐する私室はなく応接室のみである。そこに通された俺。促されたソファに腰掛けると、マスターはいくつかの紙をこちらへ渡してきた。
中身はどれも土地調査のような内容だった。
「その紙にある事を期限三日でこなしてきて頂きたいのです」
「そりゃ構わないですけど。ぶっちゃけ俺じゃなくてもいいんじゃ」
「確かに簡単な土地調査ではありますが、その辺はならず者も多いので念のためですよ」
「はあ。そんなに重要なんですか」
土の成分調査や、水質調査とか随分簡単なわりには値段が良い。おいしい話のようだけどなーんか裏がありそうで胡散臭い。
俺の怪訝な視線に気付いたのか、マスターはにこやかな笑みを浮かべるとちゃんとした依頼だから大丈夫ですよ、と返してきた。
本当かな。マスターの笑みほど信用ならないものってないからさ。
「まあ。簡単そうだしいいですけど」
「頼みますね。それはそうと以前お話していた、魔法の方はどうなりました?」
「ああ、あれね。できてますよ」
そういえばそんな話しもしてたっけ、と思いつつ鞄の中に手を突っ込む。この鞄は拡張の魔法がかけられているため、見た目よりずっと物が入るんで俺のお気に入りだ。
手探りで目当ての物を見つけ出し取り出す。出てきたのは黄色の鉢植え。そこにはしっかりとした低木とそこになる黒い葉っぱ。見映えは良くないがつい最近作った
「おお。その葉が魔法の起動キーですか」
「そうですね。言われた通り作りましたけど、こんなの何に使うんですか?」
「魔力を消費しなくていい魔法など、いくらでも使いどころがあるのですよミズイさん」
わからなくもないけど、聖十大魔導士の一人でもあるマスターに言われると嫌味にしか聞こえない。溢れんばかりの魔力あるくせに何言っちゃってんのこの人ーみたいな。
「あなたのような優秀な魔導士がうちにいてくれて、本当に助かりますよ」
「ははは。そりゃどうも」
魔導士として格上であるマスターにそういってもらえるのは素直に嬉しいが、あまり過度な期待をされても困る。こうして直接依頼を頼まれることから、それなりの信用を受けているんだろうけど。
それ絡みで面倒に巻き込まれても困るからね。
「じゃ、俺もう行きますんで」
部屋を出る寸前、マスターは思い出したように口を開いた。
「そうだ、一月後には本部に戻っていてくださいね。大仕事があるのですよ」
「大仕事? 俺、休暇にしようかと」
「戻ってくださいね」
「ハイ。頑張ります」
マスターコワイヨ。コワスギル。蛇に睨まれた蛙のように、俺は肩を竦めながら部屋を後にするのであった。
小説描くのって大変ですね。本当はこの章でララバイのこと終らせるつもりだったのに、力つきた。次回こそララバイ出してとっとと次に進もう。
今回のお絵描き↓
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けっこうびっくりだった
皆さんよくこの小説見つけましたね
そして暇人さんですね
読んでくれる方がいる限りできるだけ頑張ろうと作者は決意した…けど、進まない執筆を前に白目を向いてしまう時点でブラックアウト