「おう。どうしたガキんちょ。こんなとこで泣いて」
「ひっく……うう……」
小さな少女が泣いていた。親とはぐれてしまったのか、駅の隅でうずくまりながら目から溢れ出る涙をぬぐっている。
過ぎ行く人々もどうかしたのかと視線を向けるが、自分の予定と天秤にかけるとやはり自分を優先してしまい足早にそこを立ち去って行く。
少女を可哀想と思いながらも、歩み寄る人はいなかった。
そんな中かけられた言葉。少女は恐る恐る目の前の人物を見上げる。
それは随分と珍妙な者たちだった。オレンジのパーカーに黒い白衣を着込んだ少年。彼は少女と目線を合わせるためにしゃがみ込んでおり、不思議そうな顔でこちらを覗き込んでいる。
もう一人は狸だった。あまりの目つきの悪さに一瞬悲鳴をあげそうになったが、後ろに背負う兎のリュックが目を奪われ寸での所で我慢できた。
少女は事情を説明する。嗚咽を交えながらだったため、多少聞き取りづらい部位もあったが少年は納得したようで「なるほど」と呟いていた。
「そっか。母ちゃん父ちゃんとはぐれのか」
「うう……」
「泣くな元気出せ。ほら、兄ちゃんがとっておきをあげるから」
そういって少女に差し出したのは一枚の葉。どこにでも落ちていそうな緑の葉を差し出され、困惑する少女。訳もわからず言われた通りに破いてみれば。
しゃらら、と控えめな光りの粉が溢れ出る。それと共に小さな妖精が出てきたのだ。
女の子は目を瞬かせ、突然出てきた妖精に釘付けになる。
「そいつが母ちゃんと父ちゃんのとこまで連れてってくれるはずだ」
「ほ、ほんと?」
「もちろん。妖精は困っている子には優しくしてくれるもんだ」
うつむきすぎて転ばないようにな、と念押しされ背中を促される。戸惑いながら何度か振り返る少女。そんな姿を微笑みながら見送る少年。やがて少女が人の波に飲み込まれると、彼の姿は見えなくなってじった。
それからしばらくして。
「アカリ!」
「ママー!」
小さな妖精に導かれ少女は、大好きな両親と再会するのであった。
その仕組みは既存の魔法を解析し、再構築して付与したもの。その際魔法発動のための魔力はミズイによって込められているため、第三者が使用するにあたってその者の魔力は必要としない。
故にこれは、大雑把にいえば『魔力を使わない魔法』ということになる。
魔力を持つ者と持たぬ者。その両方が存在するこの世界において、魔力が無い人でも魔法を楽しんでもらいたい。面白さを共有したい。
――――であるはずなのに。
「最近まっっったくアイディアが生まれない。これは由々しき事態だ」
「どぉーでもいいけどよ。早く切符を買わねぇと席なくなんぞ」
俺がけっこう真剣に悩んでいるというのに、ポン太め。少しはこちらの意を汲んでほしいもんだ。
まあもともと、俺の
一理ある。しかし誘惑に負けてやるのも一人間としての在り方というもんだぜ。
「さっきの女の子は親と会えたかね」
列車に乗るための切符売り場に並びながら、先ほどの迷子を思い浮かべる。
「さぁな。自慢のいたずら魔法使ってただろ。自信ねぇのか?」
「いや、それに関してはありまくりだけど…っていうかカラクリだよか・ら・く・り!」
「大して変わらねぇーよ」
彼の言い分に意義ありだけど、使った魔法に関しては問題はないと思っている。
あれって便利だよね。近代科学が産んだ素晴らしき技術の結晶だと思う。特に方向音痴にとっては。
そんな事を考えつつ、中々進まない列に疑問を持つ。
「やけに進まないね」
「クヌギ駅からの列車が遅延してんだとよ。その調整で駅員がとられてんだろぉ」
「それで窓口一個しか空いてないわけね」
それにしても困ったな。実はこれからマスターに頼まれた仕事をこなしに行こうと思っていたのに。
なんだかんだで一日無駄にして、期限が明日に迫っているので早く目的地に行きたいのだ。
まったく誰なんだ列車遅らせてる奴。
苛立を覚えながらもしかし今は並ぶしかないと、密かに決意を固めているところへ。耳障りな音と共に駅内に放送が入る。
『緊急放送です。只今、オシバナ駅とクローバー駅間で脱線事故が発生致しました。お急ぎの所申し訳ありませんが、安全確認ができるまで駅員の指示に従い駅外への移動をお願い致します。―――繰り返します。只今、オシバナ駅と』
突然の放送に困惑を隠せない様子の利用者たち。もちろん俺とポン太にとっても寝耳に水のことで。そんな人たちを迅速に誘導し始める駅員の姿が見て取れた。
「……ついてない。マスターへの言い訳を考えよう」
「落ち着けよ。とりあえず一旦出るぞ」
「うん。そうだね。その前にさ」
トイレに行ってもいいかな?
駅員によって駅の外へと誘導された利用者たち。それとすれ違うように駅へ突入していく軍隊。その殺伐とした空気感にさしもの一般人もただ事ではないと気付き始めていた。
静まり返った駅内で一体何が起こっているのか。
誰もが遠巻きに見つめる中、行動に移る者立ちがいた。
駅内を走るの四人と一匹の男女。一人は桜髪にウロコのようなマフラーを身につけた者。その隣を飛ぶ青い猫。その後ろには右で髪をまとめた金髪の女の子。隣には短髪の紺髪の青年。そして彼らの先頭を走るのが、深紅のストレートに鎧姿の女性だった。
彼らは
「急げ! この先にエリゴールがいるはずだ!」
「わーってるよ。つか、エルザは魔力の方は大丈夫なのかよ」
「問題ない。それよりも今は奴だ。
そう。此度の一件は闇ギルドと呼ばれるアイゼンバルトによるものである。彼らは死の魔法として恐れられている
そのために人を襲い、列車を奪い。このクローバー駅へとやってきたのだ。先の緊急放送も、これらを察知した軍の要請により混乱を与えないための措置であった。
「ううう……まだ体が揺れて、キモチワルうっぷ」
「ちょ、ちょっとこんな所で吐かないでよね!?」
「あい! ナツは相変わらず乗り物に弱いよね」
彼らは走る。古の呪われた魔法を持ち出した闇ギルドの思い通りにさせてなるものかと。確固たる決意を秘めながら、真っ直ぐに伸びる道を駆け抜ける。そしてある曲がり角を通り過ぎようとしたところで。
「むっ」
「うおわっ」
先頭を走っていた赤髪ストレートのエルザが、角から出てきた人物と接触した。互いに踏みとどまりはしたが、この緊張の中に人が出てくれば思考は自然と傾いてしまうというもの。
出てきた人物を完全にエリゴールの仲間と断定したエルザは、恐ろしい早さで剣を抜き相手の首もとへ突きつけていた。
その際、刃を向けられた者は情けなくも「ひぃっ」と悲鳴を上げる。
「なんだコイツ。コイツもあいつらの仲間か」
「おそらくな。他は外に避難しているはずだ」
紺の髪をした男、グレイは警戒心露に構えながら目の前の青年を見る。くすんだ茶髪にオレンジのパーカー、その上から黒い白衣と見るからに妙な格好をしている。
怪しい。
一触即発な空気の中、追いついてきたナツ、ルーシィ、ハッピーが素っ頓狂な声を上げた。
「ミズイ!」
「食いもんくれた奴!」
「あい! ミズイだ」
「よ、ようお三方。とりあえず助ケテ」
おっどろいた。トイレ行ってすっきりして出てきたらいきなり剣を突きつけられるし。
え。もしかしてここトイレじゃなかったのかな。もしかしなくてもでかいのは駄目だったんだろうか…と本気で考えてしまった。
この形相はんぱない赤髪の人にどう話しかければいいのか困っていたところへ、なんとナツ、ルーシィ、ハッピーがやってきたではないか。来たれ救世主。
向こうもこちらを覚えていてくれたようで、お仲間さんらしい赤髪と紺髪に事情を説明してくれたことで誤解が解けたようだ。
ああよかった。
ついでに自己紹介もされた。赤髪の方はエルザさんといい、紺髪の方はグレイさんというらしい。今更だったけど君ら主人公格だったんだね。出会いが衝撃的すぎて転生とか知識とかぶっ飛んでたよ。
自分でもよくわからないショックを受けていると、エルザさんが深々と頭を下げてきた。
「済まない。てっきり奴らの仲間かと。この通りだ」
「き、気にしないでください」
恐かったけど。
でもそこまで畏まられると、逆にいたたまれなくなる。
「それにしてもなんでお前ここにいるんだよ。避難しなかったのか?」
「グレイさん、だっけ? トイレ行ってたら見事に乗り遅れてしまったんだよ。というかなんで裸なの?」
「ほわあ!? いつの間に」
「いや。話しながら脱ぎ出してたよね」
本当に原作と変わらないんだなこの人。物語の中ではギャグ要素として笑えたけど、実際目の前にすると驚くというか衝撃というか。はっきり言うとどん引きだ。
そして俺がそんな事を吐露しているのも知らず、グレイさんは服を片手に絡んできたナツに喧嘩を売っている。そういうとこまで原作通りなんだねほんと元気だ。
さて。トイレは済ませたしポン太も先に出ているはずだから、俺もそろそろおいとましよう。
そんじゃ俺はこれで、と言い出す前にルーシィの一言で意図せず固まってしまった。
「ちょっとみんな、早くしないとあいつら
もしかしてこれって、原作にもあったあの話に入っているのか。だとしたらここで
運が良いんだか悪いんだか。とにかくこれに乗っからない手はないだろう。
ポン太ごめんよ、もうちょい待っててくれ。
「あ。俺も手伝うよ。列車動かないと困るんだ」
俺の突拍子もない申し出に、一瞬ぽかんとしていた彼らだったがすぐに承諾され行動を共にすることになった。
すんなりと受け入れられたのはよかったけど、あまりにも自然にだったから少し驚いた。ナツ、ルーシィ、ハッピーとは面識があるからわかるけど、他二人は俺を知らない。
その疑問をエルザさんとグレイさんに言ってみると。
「勘だ」
「なんとなく」
さいですか。
まあ、何はともあれ今日の結果によっては俺の
魔法は夢を持ってこそ真に輝くというものさ。
むふふ、とだらしない顔になってしまったが、最後尾を走ってるから多分平気だろう。
そうこうしている内に、俺達は長い通路の終わりへと差し掛かろうとしていた。
そして開けた先には。
「よォ。ようやくお出ましってか、ハエ共」
ずらりと並ぶ者たち。皆一様に歪んだ笑みをこちらに向けている。
そして二階部の柵にはだぼだぼのズボンにマフラー、上半身裸の男が悠然と座っていた。
……毎度毎度と思うのだけど、この世界の人たちのファッションセンスはどうなっているんだろう。
「エリゴール! 貴様らは一体何を企んでいる」
「なぁーに、ただの復讐さ」
「復讐だと?」
「そうさ。これは俺達から権利を奪った奴らと、奪われた奴らがいることも知らず能天気に生きるクズ共。そいつらへの復讐ってとこかね」
「……
「さァ、なんのことだか」
ん。話の内容はわからないけど、うろ覚えの原作知識と擦り合わせて、目の前にいる奴らが呪歌を持ってるということかな。ポン太から見せてもらった資料では確か、闇ギルドアイゼンバルト。
「なあ、ナツ」
「ううぷっ」
「だ、大丈夫かよ」
よくわからないけど調子が悪そうなナツ。とりあえず背中をさすってはみるが、良くなる気配がない。
この人この状態で戦えるのかな。ちょっと心配。
そんな事を思っていると、前方のパイナップルみたいな頭をした黒髪の男が突然笑い出した。
「はっは、誰かと思ったらお前列車にいたハエじゃねぇか!」
「あァ?」
パイナップル男はこちらを。正確には俺の隣を指さして面白可笑しそうに笑っている。
こちらから見ればわかりやすい挑発だけど、隣の彼は黙っちゃいない。
ナツさんナツさん軽い挑発ですよー。そんなこと呟いても後の祭り。完全にブチ切れている彼の体から僅かな炎が
あれ。体調治ったのかな。
パイナップル男は続ける。
「ハエが五匹。内一人はハエにも劣るカス!」
「んだと、てめぇ!」
「な、ナツ氏ナツ氏落ち着こう」
「そうよナツ。安い挑発だわ」
ルーシィ、ナイス援護。頭に血が昇ると周りは見えなくなるし、ろくなことがない。ここは冷静でいることが大切だ。
すると奥からまた一人。別の男がやってきてパイナップル男に同調し始める。こちらはトサカのような頭をしていた。
「フィオーレ最強に近いといえど、所詮は甘ちゃんの集まり。僕らの敵じゃないということだよね」
「さすがわかってるじゃないか、ゼロ。何が大ギルドだ何が最強だ。くっだらねぇ。
「
………なんだって?
パイナップル男とトサカ。二人の言葉にアイゼンバルトの者たちがせせら笑う。こいつら完全に俺らを馬鹿にしている。そんなのは一目瞭然だった。
ここにポン太を連れて来なくてよかったか。もしも彼がこの場にいたら、四の五の言わず消し炭にしようとしてただろう。素っ気ないようにして実はギルドが大好きな奴なのだ。だからこそ、止めるの大変なんだけど。
そうこれは明らかな挑発行為。先ほどナツにも言った通り冷静に構えるべきところだ。
論理的に、思考を働かせて。
………だけども、さ。
「まあ、そういうことさ。所詮は生温いギルド。俺たち闇ギルドの足下にも及ばないってことだ」
「ははは! そいつは言えてるぜ!」
「俺らがフィオーレ最強だあああ!」
「ザコ同志仲良くやってりゃいーぜ」
「正規ギルド恐るるにたらず!」
人には限界、というものがあるんだよ。
―――――瞬間。その場に轟音が響き渡る。
簡素だが綺麗なタイル張りだった床下から、勢い良く何かが飛び出してきたのだ。ぐねぐねと身をよじるように、またはぐんぐんと天上向けて真っ直ぐ伸びるように。
現れたのは、樹木だった。
突如として現れたそれらに反応できなかったアイゼンバルトの面々は、その半数が生えてきた木々によって吹っ飛ばされる。運良く回避に成功した者たちは、そのあまりの光景に罵ることも忘れ呆然と見上げている。
観光地でもあるこの駅構内の広さは、フィオーレの中でも随一だ。大人が全力で駆け回ってもかなり余裕があるほどの。その範囲にこれだけの規模で魔法をもたらすその技量。
「おいおい、コイツぁ……」
思わずエリゴールも嘆息する。
そして驚いているのはアイゼンバルトだけではなかった。ミズイたちがいる場所はまったく被害を受けておらず、目の前で起きた出来事にルーシィとハッピーは驚きに体を硬直させ、目を瞬かせている。
ナツは何故いきなり木なのか首を傾げつつも驚愕しており、エルザは先頭で手を合わせて微動だにしないミズイを凝視している。
そして唯一。
この一瞬の出来事を把握していたグレイは、しかし信じられないといった顔で唖然とミズイの背中を見つめる。
その魔法は知っていた。何故なら同型等の魔法を自分も行使するからだ。
おそらく使い手もそう少なくはないだろう。難易度は高めだが、それなりに普及しているものだ。
だが問題はそんな事ではない。
どんなに強力でも、どんなに緻密でも。これらには必ず時間が必要になる。つまり威力や範囲が大きければ大きい程発動までに時間がかかるのだ。
この魔法の使い手にとって一番の課題といっても良いほどのもの。
「
緑の魔導師ミズイの名は、伊達ではないのだ。
「さーて。人への悪口は三倍になって返ってくるって知ってるか? パイナップル君」
「だ、誰がパイナップルだ! カゲヤマだ!」
「ではカゲヤマ君。それとそこのトサカ頭。家族を貶したからにはそれ相応の覚悟ができているんだよね」
「か、ぞく……?」
「ミズイ。それってもしかして」
ようやく両手を降ろしたミズイは、ルーシィの驚愕声に顔半分振り向きながらにっこりと笑う。そして再び前へ向き直るとパーカーとインナーを捲し上げた。ほどよく引き締まった体の左脇腹に、黒い紋章。
精悍な顔つきとなった少年は眼前の敵を見据え静かに口を開いた。
「
毎回短くなっていく文章。
執筆が進まない。
またイラスト載せようかなと思ったら、運営さんにダメって。Twitterに載せたのがまずったかな。残念
次回は何かしらのせよーっと
ありがとうございました!