妖精と狸と悪戯の   作:ねくら

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04 Curse Song (下)

 

 

幽鬼の支配者(ファントム・ロード)、だと……」

 

 

 堂々と名乗りをあげた俺を、驚愕の表情で見つめる妖精の尻尾(フェアリーテイル)の面々。そこには驚きだけではない複雑なものも含まれている。お互いにフィオーレを代表するギルドだけど、仲は良くないために抱くところがあるんだろう。

 俺はあまり気にしない派だけど。

 

 心の中で呟き、気を取り直し目の前のアイゼンバルトを見据える。家族であるギルドを馬鹿にされ、先制をしたはいいがさてこれからどうしよう。

 こうしてしゃしゃり出てしまったからには、もう原作通りの進行は望めないだろう。そもそも進行具合なんて覚えてないから、関係なかったか。

 

 黙り込む俺に、硬直から解けたアイゼンバルトの者たちが構えをとり戦闘態勢に入り始める。

 静かな緊張が場を走り、そして事態は動き出す。

 

 

「時間を無駄にしちまった。俺は行く。後は頼んだぜ、お前ら」

「に、逃げるの!?」

 

 

 軽やかに柵から飛び降りたエリゴールは風の魔法で宙に舞い上がる。そしてそのまま掻き消えてしまったのだ。

 これにルーシィがすかさずつっこむ。完璧なツッコミだ、と暢気なことを考えている間に雄叫びを上げ眼前の敵が襲いかかってくる。

 

 どいつもこいつも恐い顔しちゃって。真正面からやってくる奴らほどやりやすいものはないよね。

 俺が次なる魔法動作へと移行しようとしていると。

 

 もの凄い勢いで俺の右頬を後ろから掠めていく物が。遅れて認識する。それは剣だった。

 

 

「下がれ、ミズイ!」

「ぎゃあああああ!」

「ど、どうした?」

 

 

 周りも気にせず叫ぶ。そりゃそうでしょ、そりゃそうだよね。

 せめて。せめて投げる前に言って欲しかったよエルザさん。微動だにしていたら頭にサクっと逝っていた絶対これ。

 訴えかけるようにエルザさんを振り返るけど、当の本人はまったくといっていいほど察してはいない。心の底からわかっていないよこの人。逆に素晴らしすぎるよ。あ、やべ涙が。

 

 ちなみに。投擲された剣によって最前列にいた敵は吹っ飛んでいた。もしもしどんな威力ですか。

 

 

「ナツ、グレイ。お前たちはエリゴールを追ってくれ!」

「なっ。こいつと!?」

「二人でぇ!?」

 

 

 そうこうしている内にエルザさんは的確な指示を飛ばしている。そう、忘れてはいけないが今の状況は決して芳しいものではない。

 エリゴールは何処へ消え、目の前には気の遠くなるような数の敵。そして魔法史において最厄とされる遺物、呪歌(ララバイ)

 

 俺のパン屑並みの原作知識から見ても、この話は駅だけに留まってはいなかった。最後の方は長閑そうな町が出てきていたし、エリゴールの狙いはきっと他にあるんだろう。

 思い出せ。原作では最終的にどこへと場面が流れていたのかを。

 

 

「ルーシィ。それに、ミズイ。私たちはここにいる敵を食い止めるぞ」

「こ、この数を。あたしたちだけでっ!?」

 

 

 気付けばナツとグレイはがない。エリゴールを探しにいったらしい。それを追うように先ほどのパイナップル頭の男ともう一人が、迫るアイゼンバルドの群れから離脱していた。

 待てよ。呪歌(ララバイ)を手に入れるならエリゴール探しに行ったナツたちにくっついてた方が近道なんじゃないか。そう思い至って、俺もナツたちの応援に行くと提案したところ。

 

 

「駄目だ」

 

 

 光の早さで却下された。

 確かにこの人数を女の子たちにおまかせしてしまうのは忍びないけれど。ぶっちゃけエルザさんいれば平気なのではと思うわけですよ。原作知ってなくても、魔導士やってれば一度は名を聞く程の有名人なのだ。

 俺のとこのマスターもめちゃめちゃ妬んでたもんな。どうして妖精の尻尾(フェアリーテイル)に優秀な魔導士がとかなんとか。

 

 ……あれ。マスター?

 

 

「一気に叩く」

「あああ!」

「ちょ、何よミズイ」

「わかったんだよ! エリゴールの目的!」

 

 

 思い出した。マスター定例会だ。

 呪歌(ララバイ)でマスターたちを亡き者にする。それがアイゼンバルトの目的だったはず。

 そして同時に見えてくる。

 

 この駅を封鎖して交通網を遮断。そしてこの先の町に行くには、深い谷を越えるためここから列車に乗るしかない。

 つまり。

 

 

「あいつの真の目的は」

「君。邪魔だなあ」

 

 

 耳もとで囁かれた言葉。次いで脇腹に入る鋭い一撃。何かを言う間もなく、俺の体はあっけなく飛んでいく。

 

 ぶれる視界に見えたのは無表情でこちらを睨む、トサカ頭。

 

 ーーー油断した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ミズイ大丈夫かしら。派手に蹴られていたけど」

「おそらく平気だろう。立ち振る舞いから、体術もある程度できるはずだ」

 

 

 駅の壁に大穴を開けて消えたミズイを心配するルーシィに、努めて冷静に返すエルザ。しかし内心は穏やかではなかった。

 

 ミズイが幽鬼の支配者(ファントムロード)だということも驚きではあったが、何より先の魔法だ。あれ程の腕を見せられ、同じ魔導士として気持ちを昂らせずにはいられない。

 

 おそらくは造形魔法なのだろう。エルザもよく知るグレイも、その魔法の使い手の中ではかなりの練度と正確さを誇るが、ミズイはおそらく同等かそれ以上。

 

 

「緑の魔導士。なるほど、彼が」

「それにしもてミズイはいなくなっちゃうし。本当に私たちだけでやれるのかしら」

「あいっ! いつになく弱気だねルーシィ」

「し、仕方ないでしょ!」

「うわあ逆ギレ。ルーシィ大人げない」

「黙らっしゃい」

「それより。さっきミズイは何言おうとしてたのかな?」

 

 

 ハッピーの呟きは、向かい来る敵の雄叫びに雲散するのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 もの凄い威力の蹴りを受けてしまったもんだ。

 さっき俺が立ち寄ったトイレのドアを破壊し、便器と共に廊下を突き破り、何やら揉めていたナツとグレイさんの間をアディオスし、二度程壁を突き破ってようやく勢いが止まる。

 前世と比べて体は丈夫になっているが、この衝撃はかなり辛い。痛む体に顔を歪めながら、なんとか立ち上がった。

 

 

「痛つつ。どんなパワーだよあのトサカ」

「トサカは心外だなあ」

 

 

 おどけたように言いながら、現れるトサカ。俺とは違いしっかりドアから部屋へと入ってくる。当てつけか。俺への当てつけなのか。

 

 トサカを抜けば口調や仕草は優男風だ。紳士的ともいえる。

 なんなのだろうこれ。彼には少し違和感を感じる。

 

 

「随分とキツイのをどうもね」

「けっこう飛んだよね。力は抜いたんだけど」

 

 

 こ、この野郎。

 俺は今にも殴り掛かりたくなる衝動を必死に抑えながら、口を開く。

 今必要なのは怒ることではないから。

 

 

「そこどけよ。俺、やることあるんだ」 

 

 

 待たせてる奴もいるし。

 あいつ時間には厳しいし、怒ると恐いからなあ。

 

 

「嫌だよ。だって君、エリゴール(・ ・ ・ ・ ・)のやること気付いているみたいだし」

「そいつはどうかな。ーーってエリゴール?」

 

 

 疑問をそのままに言えば、相手はさもしまったといった風に口を抑える。

 とはいえどその表情には一切詫びる気持ちはない。

 

 アイゼンバルトは闇ギルドだけあって、ある程度恐怖で下をまとめているイメージがあったけど。こいつは違うのだろうか。というかそもそも。

 

 こんな奴原作にいたっけ。

 

 

「お前……」

「魔法はどうして存在していると思う?」

 

 

 唐突な質問。俯いたトサカの表情はよく見えない。

 ただ不気味に口が弧を描いているのだけは伺えた。

 

 

「僕はね。魔法は恩恵であって。……天罰でもあると思うんだ」

 

 

 言われて光る床。目下には巨大な魔法陣。

 あまりに一瞬で唐突な出来事でも、思い出せたのは奇跡かもしれない。

 

 それは以前。大魔法図書館にて閲覧したことのある、大魔法。その一部の文字を羅列した、いわば既成の縮小魔法だった。

 

 しかし縮小とはいえどこんなものをここで放てばどうなるか。まさかわかっていないわけじゃないだろう。

 この大魔法は軽くこの駅を吹き飛ばす代物だ。

 

 さっきのエリゴール呼ばわりに、仲間もろとも吹っ飛ばそうとする思考。

 こいつアイゼンバルトの構成員じゃない。

 

 

常闇の槍(ラ・ドルエール)

 

 

 俺の視界が、黒に染まる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 駅のエントランスでは。換装魔法を騎手(ザ・ナイト)駆使するエルザと、星霊魔法を操るルーシィによって制圧されていた。

 

 もう足止めの必要はないだろうということで、ルーシィは取りこぼした敵一人を追撃。

 エルザは拡声器を持ち、駅の外に避難していた人たちに退散を促す。

 

 ただの事故だと思っていた退避客たちは、驚きと混乱の声をあげながら右往左往と逃げ惑う。

 そんな彼らに早く逃げろと、もどかしそうにエルザが叫んだところへ。

 

 手をかけていた柵に飛びついた何か。

 その動作にただ者ではない、と警戒するエルザ。だが次の瞬間にはそんなことも忘れ、目を見開いてしまう。

 

 

「どぉなってやがる。詳しく話せ」

 

 

 現れたのは茶色のぽっちゃりとした体躯に、大きな尻尾。愛らしいと思うは一瞬、やくざ顔負けの強面にそこらの赤ちゃんも泣き止んでしまいそうだ。

 

 

「狸がしゃべった」

「聞いてんのか」

「ああ。いや、すまない」

 

 

 凄まれ思わず謝罪をしてしまうエルザ。どうして狸が、と思いはしたが簡潔に説明をしていく。

 話を聞いていた狸は、途中から苦虫を噛み砕いたような顔になり「あの野郎ぉまた面倒に」など呻いている。

 

 

「なるほど。理解した礼を言うぜ」

「待て。聞いていただろう、即刻避難しろと」

「必要ねぇ。どうやら相棒が巻き込まれに行ってるらしいんだ。お灸をすえねぇと」

「相棒? まさか」

「ああ。ミズイと同じ幽鬼の支配者だ」

「そうか。ならば止めはしない」

「そうしてくれ」

 

 

 それだけ言うと、ポン太は実に身軽に駅へと疾走していくのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まさか……、ね」

 

 

 トサカ頭は驚きの声をもってこちらを見てくる。驚きたいのはこっちの方なのだけど。

 

 何があったのかといえば。

 世にも珍しい魔法を相手が繰り出し。それを俺が無力化したということ。

 

 相手からしたら絶対必中の自信があったのだろう。それほどあの常闇の槍(ラ・ドルエール)の威力は凄まじい。

 魔法界を束ねる評議員。その切り札の一つとされる超絶時空破壊魔法(エーテリオン)の基礎に、この魔法が応用されているくらいなのだから。

 その分相当に扱いづらいはずなんだけども。

 

 

「イカれてるね、あんた」

 

 

 破り捨てた葉っぱを隠すように踏みつける。どっちかというと無力化は賭けだったが、乗り切ることができた。さすが悪戯魔法。意外性は半端じゃないんたぜ。

 

 ただし、これで次の防衛手段が無くなってしまった。まだ試作段階であった無力化の葉は、一枚しか持ち合わせていないからだ。

 

 大規模魔法をばかすか打てる筈はないが、仮に同じのがまた来たら。

 今度は防げない。

 

 

「まあ、あんたの魔法は効かないけどね」

 

 

 だからこその、ハッタリ。とにかくこちらの打つ手なしを相手に悟らせてはいけない。

 

 

 トサカ頭は少しだけ考えるような素振りをみせる。甘い、甘々だぞトサカ頭よ。

 あんだけのことができる奴相手に、悠長に構える阿呆はいない。先手必勝だ。

 

 鞄の外ポケットから数枚の葉を取りだし、破る。狭い室内を駆け回って撹乱しながら、トサカ頭の死角へ魔法を打ち込んだ。

 

 

「炎の玉っ……?」

 

 

 ばちばちと小規模な爆発を目にし、トサカ頭が呟く。ただの花火だけど。

 

 

「今度は、光りの魔法」

 

 

 こちらは中途半端に発動させ、鈴の音と共に光が拡散する。実際はただの妖精カーナビだけど。

 

 どれも直接的なダメージはない。ただ意表をつければいい。

 水に風に、土嵐。これまで時間をかけて作った傑作を数秒で消費していく切なさを我慢しながら、タイミングを図る。

 そしてその時は来た。

 

 奴に隙ができる。それを見逃さずにステップを踏んで勢いをつけると、躊躇無く足を振り切った。

 狙ったのは脇腹。さっきやられた仕返しとか、そんな小さなことは考えていない。いないともさ。

 

 見事に決まった一撃でトサカ頭は床に叩き付けられた。

 僅かに陥没した床の上で完全に動かなくなったのを確認し、ほっと息をつく。

 

 

「だいぶ手こずった。さて。エリゴールとやらを捜さないと」

 

 

 踏み出そうとして、建物全体が振動していることに気がつく。おそらく戦闘の音だろう。エルザさんたちはもっと早くに一掃しているだろうから、ナツとグレイさんかな。

 彼らがどんだけ強くてすごいのかは見聞きしているからわかるけど、頼むから。駅壊しちゃいました、なんて事にならないようにしてほしい。切実に。

 

 そんな不毛なことを考えていた時だった。

 

 

「っっ!」

 

 

 意思に反して流れる身体。いや、正確には引っ張られるという表現が正しいか。

 とにかく身体が後ろへ飛ぶと共に激しく壁に打ちつけられる。

 

 痛い。まじで痛い。肺から空気が強制的に出され、嘔吐感を生む。

 次いで気付いた。

 

 身体の半身が、動かない。

 

 

「あれれ。失敗したかな。ああ、代わりの入れ物だと思い通りにいかないね」

 

 

 おいおい。なんで起き上がるんだよ。お前さっき完全に気を失っていたじゃないか。

 俺の無言の訴えを気にすることなく、トサカ頭……否。トサカ頭の中のなにかは言った。

 

 目の前のトサカ頭はとても自分で立っているようには見えなかった。四肢はだらんと投げ出され、首も座っていない。辛うじて目は開いているがそこに生者の光はなかった。

 

 

「お前、誰だよ」

()のことは気にしなくていいよ。それよりも君だよ、君」

 

 

 男の声で話す、女。そんな印象を受けたトサカ頭の中にいる誰か。

 そいつはたどたどしくこちらへと歩んでくると、動けないでいる俺の目の前にやってきた。

 しゃがみ込み、視線を合わせてくる。

 

 

「いろんな魔法を使うんだね。どれも同じ構成ではないのが興味深い。オリジナル?」

「その前にお前。目が死んでるぞ。大丈夫かよ」

 

 

 至近距離で白目向かれた奴と話すのは、中々にホラーだ。

 

 

「解析の腕が相当あると見たけど、どこでその技術を?」

「人の話を聞きなさいって」

「葉を破いていたね。何か因果関係が?」

「おーい」

「直接ダメージを与えるものがなかったけど、そういうものなのかい?」

「ぶっとばすぞトサカめ」

「それは無理だろう」

 

 

 ぱっと離れたトサカ頭。もとい、中の人物が肩を竦ませながら得意げに人差し指をたてる。

 その役者めいた動作がいちいち腹立つな。

 

 

「いろんな種類の魔法を扱うようだけど、君の自慢の火力は造形魔法。エントランスで魅せた、あれだろう? 半身が動かない君に何ができるんだい。造形には両手を使う。片手では形成時点でひどく不安定になるからね」

 

 

 存外にお前に魔法は使えない。そう言いたいようだ。

 今も造形魔法がいかにアンバランスかの持論を云々と続けるが、こいつは一つ大きな勘違いをしている。

 決めつけはその先の創造を妨げるって知らんのか。

 

 俺は耳を澄ます。あちこちで聞こえる戦闘音に混じって、水流の音が聞こえる。

 まったくどこまでも白馬の王子やってるよなあいつ。

 でも、今は大助かりだけど。

 

 

「トサカくん」

「……私はトサカじゃないのだけどね」

「魔法はどうして存在していると思うのか、だっけ? そんなの決まってる。ーーーー楽しむためだろ」

 

 

 動く右腕で軽く床を叩く。柏手とはいかないものの、渇いた音が響いた。

 そして盛り上がる床板。みしみしと音をあげ、勢いつかせた木々が姿を現した。

 

 片手造形魔法。やろうと思えば、人間なんだかんだやり抜く生き物さ。

 

 

「片手でこれ程の」

「まだ終ってないよ」

 

 

 生えてきた植物はある一点の壁に突き刺さり大穴をあける。そしてやってくる激流の水。

 意思を持つかのように俺を避け、弾丸のようにトサカ頭に迫る。

 礫をぶつけるような猛攻にあうトサカを横目に、颯爽と現れた彼になんだか苦笑してしまった。

 

 

「遅いぞ相棒」

「けっ。偉そうになぁに言ってやがる」

「なっ、ル、ほ、ど」

 

 

 反射的に声のした方へと振り向く。ちょっと信じられない気持ちでいっぱいだ。

 水を弾丸のように押し出すポン太十八番の魔法を受けて、話せるとか普通じゃない。

 ポン太も嫌な予感を感じたのか、次の魔法の予備動作に入る。

 

 

「ゼ、レフ、もたまに、ハ、いい仕事ヲ、する」

 

 

 ぜレフ……?

 

 

「消えろ。水太鼓(ドラム・タクト)

 

 

 ポン太が魔法を発動する。それは周りを一掃するときに使う広範囲の魔法だ。

 トサカはもう抗う気力がないのかなすがまま。水に押し流されている。

 今度こそ本当に気を失ったようだ。

 それはいいんだけどさ。

 

 

「ポン太さんポン太さん。これ、水がこっちまで迫ってがばごぶぶぶぶぶ」

 

 

 やりやがった!狸め、俺も巻き添えにしやがっった。

 右へ左へ、最早どの方角が上なのか下なのかわからないほどの激流。

 洗濯機の中に入ったらこんな感じなのだろうか、なんて考えた日には意識とんでそのまま昇天してしまいそうだ。

 

 訳がわからなくなっている内に、どうやら壁を突き破って移動していたみたい。

 

 

 勢いよく流され行き着いたのは、最初にいたエントランスだった。

 背中から着地し苦悶の声をあげていると、遅れてポン太がやってくる。

 清々しい顔しやがって。ポン太め覚えてろよおおお。

 

 

 それにしてもさっきのは一体なんだったのだろうか。まるでトサカ頭を操り人形の如く動かしていたように見えた。

 やたらこっちの魔法に興味を持っていたっぽいし、俺の動きを止めた魔法もよくかわらないものだった。

 

 いつもならこう、陣を見て大体予想がつくんだけど。あれには陣どころか詠唱すらなかった。

 

 そんで最後のぜレフという言葉。呪歌といい、なんだかきな臭い。

 

 

 

 と。そこで周りを見渡す。さっきからやけにすきま風が抜けるような音がする。それも大音量で。

 

 気になり外の様子を見ようとして、そこに人がいるのを発見した。そこにはナツ、ルーシィ、ハッピー、グレイさん、エルザさんが集結しており深刻な顔をしている。

 

 

 

「どうもみなさん。ご無事なようで」

「ミズイ! それに……ポン太?なんでここに? それはそうと、あんたたちも勝ったのね」

「楽勝だよ」

「辛勝だっつーの」

 

 

 うっさいわポン太。権利はいつだって勝者にあるんですぅー。別に女の子の前だから見栄張るとかじゃないもん。

 

 いの一番に気付いてくれたルーシーは今の状況を軽く説明してくれた。

 エリゴールによって風の結界を張られ駅から出られないこと。そしてそいつの目的はギルドマスターが集う定例会に、呪歌で急襲することだということ。

 

 そこには妖精の尻尾(フェアリーテイル)のマスターもいるらしく、あのエルザさんまでもが焦っているようだ。

 ナツとグレイさんは言わずもがな。特にナツは無駄とわかっていながら、風の壁に突撃しては跳ね返されている。

 

 

「クソっ。急がねぇとじーさんたちが……!」

「頼む、カゲ。お前の力が必要なんだ!」

 

 

 グレイさんは拳を柱に叩きつけ、エルザさんはぐったりと倒れているパイナップル頭もといカゲヤマへ必死に呼びかけている。解除がうんたらかんたらとか。

 

 これは相当参ってるみたい。途中であいつの目的を察していたこちらとしては、なんだかばつが悪い。

 もうちょっと早く伝えられればよかったな。

 

 それでも。なってしまったからには、ぐずぐずしている暇はない。落ち込んでいる間もエリゴールは先へと進んでいるのだから。

 

 年齢的にはこの場では下の方だけど、前世の記憶もあるせいか精神はちょびっと図太い。

 ここはリーダーシップを発揮してみようかしらね。

 

 

 気を惹くようにぱん、と手を叩いた。

 

 

「落ち着く! まずは状況を打破することを考えよう」

 

 

 俺の言葉にハッとしたような彼らだが、それも一瞬のこと。すぐに難しい顔に戻っていく。

 

 

「んなこと言ったって、どうすりゃいいんだよ。魔法は弾くし、剣も通さねぇ」

「もっと柔軟に考えてみよう。魔法と一緒さ。創造は自由と広い視野から生まれるんだから」

 

 

 訳が分からないといった風な彼らに、具体案を提示する。それは、俺の緑の造形魔法(プラント・メイク)で地面の下を掘るというものだった。見た感じあの風壁は地上だけに作用しているようだし、地下なら干渉を受けないはずだ。

 気づけば単純なことだが、盲点だったのだろう。彼らの顔が少し明るくなった。

 

 

「なるほどそいつは気付かなかったぜ」

「どうやら、視野が狭くなるほど焦っていたようだな」

「でかしたぞミズイ!」

 

「でも。問題が一つだけ」

 

 

 俺の言葉にグレイさん、エルザさん、ナツの三人が怪訝そうに振り向く。

 向かいに立っていたルーシィは、俺の考えていた事がわかったらしい。

 思案顔で呟いた。

 

 

「強度ね」

「そう、強度だ」

「つまりどーいうことだよ?」

「トンネル掘った後に天井を支えるものがないから、崩れる危険性があるってことだよ」

 

 

 みんな仲良く生き埋めは嫌でしょと問えば、ナツは苦い顔をする。

 だからこそ。

 

 

「グレイさん。確か氷の造形魔導士だよね」

「ああ。言いたいことはわかるぜ。氷で固めろってことだろ」

 

 

 まかせろ、との言葉をもらい俺は頷くとさっそく柏手を打った。

 そうして両手に現れた魔法陣を床へと叩き付ける。刹那、大理石の床が波打ち直径数メートルの穴を穿(うが)った。両手に微弱な振動が伝わる。順調に掘り進められているようだ。

 

 そして段々と揺れが収まるその瞬間を待って。

 

 

「グレイさん!」

「おう!」

 

 

 素早くバトンタッチ。

 スタンバイしていたグレイさんが穴の始線に手をつくと、瞬く間に氷が張っていく。

 

 っていうか、グレイさん魔法の緻密度半端ないんですけど。瞬時に展開し消えて行く陣。これは密度が高いほど余韻(よいん)を残しやすいのだが、逆に密度があって消滅の早い陣はそれだけ練度が高い証拠だ。微細なコントロールなんなくやってのける確かな技術。

 俺の騙し(・ ・)速攻の造形とはワケが違う。この歳でこれだけの事やりこなすなんて。これが天才ってやつなのかな。

 

 

「そういやお前」

「はい?」

「どうして俺たちに協力してくれんだ」

 

 

 グレイさんに言われたことがイマイチぴんとこず、首を傾げてしまう。

 

 

幽鬼の支配者(ファントムロード)は俺たちを毛嫌いしてんだろ。だから不思議に思っちまってな」

「はぁ、」

 

 

 なるほど。思わずほうけた返答になってしまったが、彼らにはそう思われていたのか。

 気付けば彼らの視線が俺へと集中している。

 ポン太さえも、腕を組みながら俺がどんな言葉を返すか待っているようだ。

 その顔「俺は不本意」って顔だよね。分かりやすいよな君は。

 

 

「まあ。ギルドという括りは大切だけど。それ以前にさ」

 

 

 グレイさんが穴から手を話す。どうやらトンネルが完成したらしい。

 彼が立ち上がり、こちらに視線を合わせてくる。

 だからしっかりと見返して、俺は言ったのだ。

 

 

「まずは人として。助け合いは当然でしょ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それから俺たちは無事にトンネルを抜け、駅の外へと脱出した。外に出た瞬間ナツとハッピーが電光石火の如くエリゴールを追いかけて行き、残された俺たちはエルザさんの運転する魔道四輪にて後を追うことに。

 

 その際ナツが連れてきて置いていったパイナップルことカゲヤマの面倒を見ることになってしまう。

 解せぬ。

 

 何が悲しくて男が男の看病をしなければならんのか。

 まあ、でも。ナツに助けられてからは妙に塩らしくなったのでそっとしておく。

 グレイさんにも前向いて生きろよ、と諭されていて彼なりに思う所があったのだろう。

 ってかグレイさんまじ男前すぎる。どうしたらそんなか格好良いセリフ出てくるんですか。

 

 

 そんなこんなでようやくナツたちに追いついた俺たち。途中でルーシィとカゲヤマが一悶着あったりで大変だったけど。着いてみれば既に決着がついていた。

 

 さすが主人公だ。

 黒こげで倒れ臥しているエリゴールを横目に、側に落ちていたそれを眺める。

 

 黒い髑髏(どくろ)をあしらった木材の笛。

 

 

呪歌(ララバイ)か」

「ポン太」

 

 

 俺の横に並び同じく見下ろすポン太。彼は魔力に敏感なところがあるから、呪歌から感じる嫌な気が不快なのだろう。いつもの倍以上に眉間にしわが寄っている。

 

 

「んでぇ。何かわかったのか」

「うーん」

 

 

 しゃがみ込み、鞄から虫眼鏡を取り出す。これは物に込められた魔法を透視するアイテムである。

 条件とかあるけどけっこう便利で重宝してる。

 

 

「予想通りノイズが酷いね。邪悪と呼ばれるだけある。それから」

 

 

 俺は虫眼鏡から目を話し、ポン太を見据える。

 表情を一切消した俺に驚いたのか、彼も「どうした」と真剣な面持ちで尋ねてくる。

 

 呪歌の存在を知ってから一番気になっていて、尚かつ楽しみにしていたことがあった。

 のだけど。

 

 

「この魔法……、吸魂系じゃないぞ」

「……」

「……」

「そぉーかよ」

「それだけ!?」

 

 

 確認しておくけど。念のために確認しておくけども。

 俺はこれが吸魂系統だと思ってあの七面倒な出来事を乗り切ったわけで。

 マスターの依頼をすっぽかしてまでやり通そうとしていたわけで。

 つまりこの情報をもたらしてくれたポン太を全面的に信頼していたわけで。

 

 

 そんな俺にこのオチって一体。

 

 

「解せぬ!」

「かもしれねぇと言っただろぉーが。期待しすぎなんだよ」

 

 

 現実を見ろ、と吐き捨てられてしまった。

 わかってるけどさ。

 それっぽい情報が目の前におりてくると、どうしても期待の一つや二つしたくなるでしょ。それが人間ってもんでしょう。

 

 失意に打ち拉がれる俺に、影がさす。

 後ろに誰かが立ったのだ。

 

 

「なっ」

 

 

 そして右手で拾い上げていた呪歌へと手を伸ばしてきた。

 

 

「ぱ、パイナップル!」

「違ぇっつーの、カゲヤマだ! それより笛を離せよ」

「やだ。俺はこれに八つ当たりするって決めたから。ぜっったいやだ」

「子供かてめぇは! いいからよこせよ!」

「やだったらヤダ」

 

 

 押して引いて、背負い投げてワルツして。しっちゃかめっちゃかに揉み合う。

 すると騒ぎに気付いたらしい他の人たちがこちらへと駆けてくる。

 

 よし、もう少し耐え凌げば俺の勝ちだ。

 そんなことを思っていた次の瞬間だった。

 

 俺とパイナップル頭が同時にこける。何故このタイミングで、とか。何故ここに岩が、とか。

 そんなありきたりなことを考える間もなく、俺の目は谷底へと消えて行く笛を見続けている。

 

 嘘だ、そんな。だって、このまま消えられたら俺は何のためにここまで来たのかわからなーーー。

 

 

「「ああああああ!!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ミズイ、はいこれ水」

「……ありがとうルーシィ」

 

 

 呪歌は谷底へと消えた。ここら辺の峡谷は底抜けと言われる程の傾斜が続く。人は滅多に寄り付かないことから、ひとまずは放置ということになった。いや、取りに行きたくても行けないってのが正しいけども。

 

 とにかくいろんな事に憔悴しきった俺は、手渡されたボトルに口をつけ喉へと水を押し込む。

 ああ。こんなとこまで来ちゃって、マスターの依頼どうしよう。

 前にマスターの怒りを買って幽鬼に追いかけられた時は、冗談抜きで死ぬかと思った。

 

 もうあんな思いはしたくないなあ。

 

 

「落ち着けよ、ミー」

「うう。うむむ……」

 

 

 変だ。ポン太にいつものトゲトゲしさがない。しかも滅多に呼ばない愛称だし。

 彼なりに慰めてくれてるんだな、きっと。

 でもねポン太氏。そのミーってのあんまり好きくないや。

 

 と、彼ら妖精の尻尾(フェアリーテイル)で話しがまとまったらしい。

 お縄となったカゲヤマを引きずってこちらへとやってくる。

 

 

「ミズイ。今回はいろいろと助かった。感謝する」

「いえいえ。俺が勝手に出てきてでしゃばっただけですから」

 

 謙遜ではなく事実なのが痛い。

 

「……」

「エルザさん?」

 

 黙りこくるエルザさんに俺は問いかける。

 何かふっきれたような表情をしているみたいだけど、なんだろうか。

 

 

「こうして、幽鬼の支配者(ファントムロード)の者と力を合わせられるなど思ってもみなかった」

「ああー……確かにそうですね」

 

 

 妖精の尻尾(フェアリーテイル)幽鬼の支配者(ファントムロード)。二つが犬猿の仲なのは周知の事実。当然、ギルドの者たちも良い印象を持っていないのが確かだ。特に幽鬼の支配者(ファントムロード)はマスターの影響もあるから余計に。

 彼女の言わんとしていることを察して、俺は(かぶり)を振る。

 

 

「こういう奴も、いるってことです。まだまだ捨てたもんじゃないでしょう?」

「ふっ。そうだな」

「おぉーいミズイ!」

「ナツ。傷はもういいのかい?」

「おうよ! つか今回はあんがとな。幽鬼の支配者(ファントムロード)は気に食わねぇけど、お前がいい奴だってことはわかったからよ」

「お、おお……」

 

 

 主人公にほめられた。そして肩をばしばしやられた。

 俺って案外ミーハーだったのかもなあ。でも次は俺だけじゃなくて、ギルドもいい奴らって思ってもらいたいかな。

 いつかそうなるといいな。そう思考しながらにかりと笑った。

 

 

「そりゃよかったよ」

「狸、お前もさんきゅな」

「オレは何もしてねぇ」

「あい! オイラよりなんにもしてないようわあっ!?」

「何か言ったか青猫ぉ」

「な、ナツー! 助けてー!」

 

 

 ポン太とハッピーを見ながら二人で爆笑し、そこへグレイさんとルーシィがやって来た。

 グレイさんには今度造形魔法について語ろうと固い約束を交わし、拳を出された。なんか男の友情って感じでかっこいい。ついノリノリで拳を付き合わせてしまった。

 

 ルーシィは魔道四輪での出来事を根に持っているようだ。詳しくは割愛するけど。めちゃめちゃカゲヤマに文句を言っている。

 意外に恐かった。

 

 

 

 こうして呪歌は原作より早い段階で幕引きとなる。

 幽鬼の支配者(ファントムロード)の評判の悪さはショックだったけど、こうして彼らと仲良くなれたんだから、ギルドだってそうなれるはずさ。

 

 魔法は人と人を繫ぐ架け橋、とどっかの詩人が言っていた。その時はクサいなあとか思っちゃったけど。案外そうでもないかもしれないなーなんて、思ってみたりして。

 

 なんともいえない歓喜に、俺は浮かれすぎていた。

 だからこそ。隣で表情を落としているポン太に気がつくことができなかったんだと、後で悔やむことになるのだけど。

 

 それはもう少し先のようで、しかし確実にその時は近づいていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 誰も立ち寄らない、深い深い渓谷。

 そこに一人の者が佇んでいた。

 手には不気味な髑髏があしらわれた、一つの笛。

 

 

「魔法は、恩恵。魔法は、天罰」

 

 

 微笑を浮かべたその者は果たして男か女か。

 そのまま霧の奥へと姿を消していった。

 




ポン太はミズイのことをミーと呼ぶ。ただし機嫌が良いときとか特別な時だけ。その辺もいつか書いていきたい


今回はオリジナル展開多めしかも長かったですね。ご勘弁

そしてこのお話のキーマンもさらりと登場。なにはともあれ、呪歌はこれでおしまい!次回は作者の絶対書きたいよメモに名を連ねるネタでいきます。超楽しみ

そして性懲りもなく挿絵をのせる
いつも通りスルーの方はスルーでお願いします


【挿絵表示】



ありがとうございましたー
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