少年の日常は繰り返しだった。
育ての親を失い、彷徨うようにして辿り着いた街は決して彼に優しくはなかった。
最初の方は子供だからと警戒心も薄かったが、やはりよそ者。近づき過ぎず見守るような形での関係が続いていた。
そしてようやく少年に対して警戒を解いた街の住人が、彼を街の者として受け入れようとしていた矢先。
少年の口走った「ドラゴンを倒した」という言葉を聞いてしまった。
もちろん、伝説に登場する生き物なんている訳が無いと。子供の冗談ととって受け流していた。
しかし少年はその話を"冗談"とすることにたいそう怒ったのだ。あいつをいなかったことにするな、と。
宥めながらも聞こうとしない住民に、まっこから抗議する少年。
次第に鬱陶しくなってきたと住人が思い始めたある日のことだった。
悪党であるギャングがやってきたのは。
そこからは流動的だった。
ギャングによってもたらされるストレスのはけ口として標的になった少年に、罵詈雑言がぶつけられる。
酷い時には石を投げられたこともあったか。
とにかくいえることは。
少年にとって人との繋がりは至極面倒なものとなっていったということだ。
そもそも親元にいた時から人と関わることがなかった少年だ。そこまでされて忌避したくなるのは当然の感情といえるだろう。
だから極力関わるのをやめた。出歩くことをやめた。
それでももしかしたら、という感情は捨てきれなくて住人に絡むギャングたちに喧嘩をふっかけた。
当然ギャングには恨みを買い、住人には余計なことをと疫病神扱いされた。
もう、きっと。
自分を見てくれる人はこの街にはいないのだ。
いるはずがない。
そんな少年の前にひょっこり現れた年上の少年。
歳は十六、七くらいか。オレンジのパーカーに黒い白衣と妙な格好をしていて、変な狸を連れている男。
人からの厚意を久しく受けていなかった少年は動揺していた。
ただの怪我の手当て。
けれど彼にはその些細なことがとても嬉しかったのだ。
懐かしい、彼との思い出が頭を過る。
白い鱗に覆われ、優美な体躯を持つ大きな竜。見た目と裏腹、中々にハンサムな声色だった彼を少年は片時も忘れたことはない。
彼にはいろんなことを教わった。また、その背に乗せてもらい空を飛んだこともあった。
どれもこれも、ついこの間のことのように懐かしい。
おそらく少年は思い出に飢えていたのだろう。今が辛いために過去を思い出し浸りたかった。
だから年上の少年、ミズイの「空を飛ぶのを体感してみたいと思わないか」という提案にすぐにのっていた。
できうることなら、あの頃を明瞭に思い出したいから。
風を切る音が鼓膜へ伝わる。
それは地上にいて流れてくる風や、走り込んで身に吹きつける風とも違う。
空を滑空する時独特の冷たく澄んだものだ。
びゅう、びゅうと身に打ちつけてくる乱暴な風を一身に受ける。
ああ、これは。これはあの時の――――。
「って、コレ単に落ちているだけじゃねーかああああああ!」
少年は落下していた。
文字通りの上から下への物理法則に従った運動である。
優雅に大空を飛ぶことを想像していた少年にとってはまさに青天の霹靂。
しかも周りは白い霧のようなもやに覆われていて何もない。
落ちていることには間違いないが、一体ここはどこなのか。
「どもども少年。居心地はどうだい?」
混乱する少年にかけられた陽気な声。
体を横にし、寝そべるような格好で肘をたて頭の後ろへ手をやるミズイの姿があった。
彼も同じく落ちているというのに、至って平常心にリラックスしている。
その斜め上にはポン太の姿があった。彼も動じていないようで、体を捻って背中をかこうとしている。全然届いてないけど。
「ここはどこだよ! 空を飛ぶってのは嘘だったのか!?」
「嘘じゃないって。現に俺たち飛んでるよ」
「落ちてるの間違いだ!」
「そ、そんな剣幕で睨まないでよ」
恐っ、と零すミズイを無視しなんとか現状を把握しようとする。
やはりこんな得体の知れない奴の提案なんかに乗るんじゃなかった。
嘘つき。
うそつきだ。
目尻にたまるそれを必至に我慢し、少年は何気無しに一人と一匹のいない方向。白いもやしかない方へ視線を向ける。
そして唐突に。
もやが終わり、次いで現れた空の平原。
一面にサファイアブルーの空海が広がっている。
浮き島のようにぽつぽつと巻積雲が並び、カーテン状に巻雲が形をかたどっている。
遥か下降には広大な大陸に、どこまでも続く海原が見て取れた。
まぎれもない、空だ。
なるほど。さっきからあったもやは、もやではなく雲だったのかと納得した。
驚きに体勢を崩した少年の体が半回転する。
すると今度は違う景色が広がった。
足下に空が、頭には大陸が迫る。地上を歩いている時では絶対に体感できないそれは、なんとも幻想的で雄大な光景だった。
相変わらず吹き付ける風は強いを通り越して痛いが、それでも少年は思った。
「すっっっげええ…」
バイスロギアの背に乗せてもらったときはもっと低空を飛んでいた。
幼子だからという理由もあるだろうが、こんな中空で身一つでなど初めての体験だった。
ドラゴンの背に乗るのとはまた違ったスリル。
「びっくりした少年?」
「うおわあっ」
「すごいだろう、驚いたろう! こんなに晴れやかで楽しいことってないよねっ」
「あ、ああ」
興奮するミズイに曖昧ながらも返事を返す少年。
「魔法ってさ、すごいなと思わないかい?」
「なんだよとつぜん」
「突然じゃないよ。俺はいつもそう思ってる。魔法ってのは可能性の塊だからさ。使い方によっては恐いものになってしまうけど、誰かに喜んでもらいたいって願った時。それが連鎖するように広がって楽しさが共有されていく。そうして初めて、それを魔法と呼ぶんだと俺は思うんだ」
「……」
魔法に楽しいも楽しくないもあるのか。魔法とは単に手段ではないか。
そう思い言おうとした金髪少年だったが、紡ぐことはできなかった。
代わりにじんわりと目頭が熱くなってくる。
戯言だ。あんなの、窮地に陥ったことのない奴が言う妄言だ。
少年は必至に自分に言い聞かせる。
そうでなくては、今の自分は一体なんだというのか。
「ん。泣いてるのかい」
「泣いてない。これは風が目に吹きつけるから」
「ふーん。あ、ポン太氏それ俺にもちょうだい」
「何味だ」
「チョコ」
「お前ら……」
今まで真面目な雰囲気だったはずなのに。呆気にとられる少年の側で、暢気におやつタイムへと突入している一人と一匹。
風が容赦なく吹き付ける中で、何故ああも食事が摂れるのか。
少年は疑問に思いながらも、彼らの向こう側に気になる光を見つけた。
それは巨大な円の形をしており、地上から空へいくつも並んでいる。
まるで光の柱のようだ。
「おい、あれはなんだよ」
「ああ。あれは魔法陣。俺たちが昇ってきたやつさ」
「あんたテレポートの魔法使うの?」
「そうだよ、と言いたいけど半分違うかな。まあそこは企業秘密ってことで。さて、そろそろ地上が近くなってきたね」
「なあ。これどうやって着地するんだ? このスピードで地面に突っ込んだら死ぬと思うんだけど」
二人と一匹は尚も落下中だ。それなりに速度も出ている。まず間違いなくこのまま地面へ激突すれば木っ端みじんだ。それも揶揄ではなく、物理的に。
そもそも空海をダイブするなんてこと経験にない少年は、この後の対処法がまったくわからない。
故に目の前のミズイに頼る他ないのだ。
それにしても、こんな大規模な移動魔法なんて聞いたこともなかった。
あの陣の羅列にしたって、相当な技量がないと無理なのではないか。
今更ながら、少年はミズイの底知れぬ技量にごくりと固唾を呑んだ。
「はい少年」
「え。何この浮き輪。っていうかどっから出した」
「いや一応の処置かな。泳げる人でもパニックになると溺れちゃうかもしれないからさ」
「泳ぐ? 溺れる?」
こいつは何を言っているのか。少年は訝しそうにミズイを見て、その上にいるポン太と目が合った。
彼はこちらを睨むような目つきだったが、視線に反してハンドサインを送ってくれた。
「まあ、あいつが言うなら…」
「ちょっと待って。なんで俺は駄目でポン太はいいの!?」
浮き輪の意図はまったくわからなかったけど、あの狸なら信じてもいいかもしれないと少年は考える。
怪我の手当てしてくれたし。
ミズイは自分と狸を指差しながら猛抗議しているけど、少年は一切合切無視することにした。
関わると面倒そうだ。
その内ポン太の尻尾で上げていた指をはたき落とされていたから、なんとなくざまあみろと言っておいた。
そうして落ちることしばらく。
ようやく少年はミズイの言っていたことを理解した。
目の前に迫る巨大な湖。たしか街のはずれにある湖だ。まさか、これに飛び込むとでも言うのか。
「……死んだ」
「だいじょーぶだ少年。これはそういう魔法だからね」
「そんなこと言ったって、う、うわああああああああ!」
「ひゃっほおおおおう!」
「っけ」
そうして二人と一匹は盛大な水飛沫をあげて湖へと突っ込んでいったのだった。
いやあ、久々にデンンジャラスな悪戯魔法を使った。
無事湖へと飛び込んだ俺たちは岸へ上がると、びちゃびちゃになった服を絞る。
金髪少年には浮き輪を渡しておいて正解だった。
案の定パニックで泳げなくなってたから。
俺もこの魔法を作った当初陥ったから予想はしてたけどね。経験者は語るのさ。
今回の悪戯魔法は第七番、ダイビングだ。もうネーミングも何もない、単純なダイビング。二重の意味で。
スカイダイビングを楽しんだ後は海の中へダイブ。今回は海が近くに無かったから湖にしたけど。
これを実現するのも大変だったんだ。
高度での体温維持と、水面衝突時の衝撃緩和計算とかとにかくいろいろ。
そのおかげで中々にエキサイティングな魔法になったと思う。
まあ、湖着地時に水飛沫がすごいことになったけど。凄すぎて水かさが半分になっちゃったけど。
「気にしない」
「気にしろよ!?」
俺の独り言に素早くツッコミを入れてきた金髪少年。
やるな。ポン太も驚きの早さだ。
「あの水飛沫ぜってぇ街まで届いたぞ! どうしてくれんだよ!」
「だ、大丈夫だって。スコール来た、くらいに思ってるさ」
「そんな一瞬のスコールがあってたまるか!」
金髪少年はかなりご立腹の様子だ。
街に余計なことするな、とかなんとか。
彼はあの街の人たちにあまり良い感情を持っていないのかもと思ってたけど、見当違いだったかな。
「そんなわけで。どうだい楽しかったかな少年! 空を飛んだ気分は」
「あんまり。期待してたのと違うし」
「………」
ううっ。咄嗟にポン太の後ろへ隠れて顔を覆う。
冷めてるよ、この子めっちゃ冷めてるよおお。
魔法使えてもあんな体験は滅多にできないはずなのに、夢大き子供があれにときめかないってどゆことなの。
ホワット、イーズ、トキメキ!?
「お前なんか子供じゃないやい!」
「……なんなんだよあんた」
「気にするなガキ。いつもの事だ」
「え、いつもの事なの? ……ポン太さんって大変だな」
「まぁな。慣れた」
おいそこの相棒。ため息ついてないでちょっとは慰めてくれてもいいじゃないか。
なんだその呆れ顔。
俺傷ついちゃう。割とガチで傷ついちゃうからなっ。
「ガキ。家はどこだ、送ってやる」
「へ、平気だよ別に」
「また怪我されても迷惑だ。送る」
「……」
黙り込む金髪少年。どこかこそばゆそうに視線を右へ左へ動かしている。
やっぱこういった純粋な厚意に慣れてないのかもしれない。それだけ寂しい人生を送ってきたのだろうか。
それにしてもポン太氏は相も変わらずツンデレですな。心配ならそう言えばいいのに。
「俺、家はないんだ。寝床にしてるとこはあるけど」
「場所は」
「……教会」
「それ噂のギャングの根城じゃないか」
俺の言葉にはっと顔をあげ、そして憎々しげに顔を歪めた。
なるほど。あいつらに喧嘩売ってたのは単に強がりだけではないようだ。
「まあ、とりあえず俺たちが泊まってる宿においで。風呂入らないとみんなで仲良く風邪ひいちまう」
「えっ」
「なんだよ少年。風呂代なんかとらないって」
「いや、そうじゃなくて」
「ガキなら遠慮なんて面倒なことするな、面倒くせぇ」
そんなわけで俺、ポン太、金髪少年は宿を目指してその場を後にするのであった。
宿についてからとりあえずは一番風呂を少年に譲るとこにする。
気がつけば日も落ち、夕食が近くなっていたこともあり宿の女将さんにご飯を三人分お願いした。
金髪少年が一緒にやってきたことに露骨に顔を諫めていた女将さんは、やはり夕飯三人分と聞いて良い顔をしなかった。
こりゃ相当嫌われてんなあの少年。
とりあえずプラス一人分のお金と僅かながらのチップを渡し、なんとか了承してもらえた。
お金って偉大。
部屋に戻ると少年が風呂から上がったらしい。火照った顔を手で仰ぎながら、机の上に置いてあった雑誌を食い入るように読み込んでいる。
鞄から飲み物を取り出しながら、一体何をそんなに夢中になっているのかと覗き見る。
少年が読んでいたのは魔導士情報を特集した週刊ソーサラーだった。
そして開いているのは先日潰れた闇ギルド、アイゼンバルドのニュース。
意外だ。時世に興味でもあるのかな。
「気になるとこでもあったの?」
「うわっ、びっくりした。あんたいつも気配ないよな」
「それ影薄いからとか言わないよね? そんで何見てたのさ」
「……フェアリーテイル」
「おお、あいつらね」
「……の、ナツさん。……憧れてるから」
まじか。
唖然として目の輝きだした少年を見る。
さっきのスカイダイブでは反応薄かったのに、ナツに対してはそんな少年らしくなっちゃうの。
なんだろうこの敗北感。主人公にはどうやっても勝てないということなのかああっ。
「すげええ。闇ギルドのマスターぶっ飛ばすなんてかっこいい! その野望を阻止とか、くぅ~…かっこ良すぎだよ!」
そうだね。その実足止め食らってた駅は半壊してしまったんだけどね。主に風の壁で。
少年は尚も興奮している。
いかにナツが強くて自分の憧れであるのか。初めて知ったのは隣街に行った時に見たからだとか。その際悪者と一緒に建物も破壊してる姿がクールでかっこいいとか。
ナツよ。明らかに子どもに悪影響与えてます。
「うわああ会って話してみたいなぁ。どうやって修行してるんですかとか聞いてみたい。……あれ」
金髪少年は何かに気づいたようで、雑誌を注視している。
丁度その時に、少年と入れ替わりに風呂に入っていたポン太が出てきた。
よしよし次は俺だな。
服を取り替えたとはいえ、湖の水を被って体は冷えきってる。
早く暖まろう。
「それじゃポン太行ってくる」
「無茶はすんなよ」
「了解。少年をよろしく」
風呂からあがり、三人で夕食を済ませた後。ベッドを占領して爆睡している金髪少年に唖然としながらも、起こすのは気の毒とそのまま放置。俺はポン太に見送られ
本当は相棒も一緒に行く予定だったんだけど、目尻に涙を溜めて寝る金髪少年を一人にするのは忍びなかった。
ので、ポン太を残していくことにしたのだ。ポン太氏まじお母さんとか、本人には絶対言えないです。
宿の窓からそっと抜け出し、そのまま屋根つたいに教会を目指す。
街外れにある教会はこじんまりとしていて、はっきり言うとボロかった。
けど少年が寝床にしていたというのだから、なんとかギャングたちから取り戻してあげたいよなぁ。
屋根の上にある動物の装飾に足をひっかけ、ゆっくり上体を伸ばして二階窓から室内を覗く。
ギャングたちは酒盛りをしているみたいで、かなり騒がしい。
「にしても今日のあいつは傑作だったよなァ」
「あー、顔歪めながら『やめろ〜〜』だろ? 俺ァ腹抱えて笑ったね」
「街の奴と違って少し魔法が使えるようだが、ありゃあひでぇ」
「なぁ。明日は鉛玉でも打ち込んでみるかァ?」
数にしておよそ三十人ってとこかな。奥にも部屋があるっぽいから、まだいるかもしれない。
それにしても聞いていて胸くそ悪い内容だ。おそらくあの金髪少年のことを言っているんだろうけど。こういう輩はどこの世界でもいるもんだよな。転生前の世界でもこんな風に他人を貶めたり、害したりする人たちはいたし。
たき火の火を操っている男もいるから、魔導士もいるみたい。せっかく魔法使えるのにこんなしょーもないことに使っていて楽しいんだろうか。
腹筋に力を入れ、上半身を起こす。
さてさて。敵の人数や教会内の構造など把握できたし、お暇しましょうかね。
「この仕事終ったら。本当に休暇にしよう」
目指せ、一時ニート生活。
そして翌日。
静かに宿に戻ってみると、ポン太はすでに寝てしまっていた。しかもちゃんと少年に寄り添うようにしてるし。
マザーだ。マザーがここにいるとか思ってしまった俺はきっと間違っていない。言うと後が恐いからぜっったい言わないけどね。
そんでもって珍しく早めに起きてみれば。
金髪少年もポン太もいなかった。
これはあれか。新手のいじめか。
かの有名な放置プレイというやつだな。
ちくしょう、あいつらひどいぞ。
少しだけ涙目になっていると、窓の外で組手をするポン太と金髪少年を見つけた。
なんだ、朝の運動してたのか。
良かった放置プレイじゃなくて、と安堵しながら窓を開け一人と一匹の様子を見守る。
こうしてみると、金髪少年は随分と喧嘩慣れしているようだ。
がむしゃらのようでいて、しっかりポン太の動きを目で追っている。相当に動体視力が良い証拠だろう。
あの年齢にしちゃあかなりできるほうと言っていい。
「少年みたいなの人物、いたっけな」
薄れる前世での原作知識。もうほとんど正夢みたく、その時にならないと思い出せないレベルになってきてしまった。
原作には俺が受けるこのような依頼も、あの金髪少年にも覚えがない。
まあ、なんでもかんでも原作通りってわけにもいかないか。
前世の俺はけっこういい加減で、フェアリーテイルもその時その時にしか見ていなかった。
なので抜けてる話があったり、逆にすごく好きなシーンがあったりいろいろ。
そういえばギルド総出でやる大きな大会があったと思う。そこに
なーんかもやもやすんだよな。
こんなことなら、まだ記憶が鮮明なうちにメモに残しておくんだった。
「ミー、起きたのか」
「ポン太」
朝の運動を終えたのだろうポン太と金髪少年が入ってくる。うわ二人とも汗臭いぞ。
「珍しいねポン太が早起きなんて」
「こいつに修行つけてくれって頼まれたんだ」
「えっ。少年が?」
「……なんだよ」
「いや、随分打ち解けてるなと思って」
「強くなりたいから教えてもらっただけだ。打ち解けてねぇ」
「さいですか」
それからみんなで朝食を摂る。やっぱりここの店主は少年の分を作るのに良い顔をしなかったので、お金の力を借りた。まじで偉大だお金様々。
食べながらポン太と軽い打ち合わせ。めちゃめちゃ金髪少年が聞き耳たててるけど、あいつらの仲間って可能性はなさそうだしまあいいか。
「そんなわけで今夜奇襲をかけよう。そんで半年休む」
「かまわねぇが、おれらだけでいけんのか?」
「大したことはなさそうだったから、多分平気」
「お、おい!」
依頼である討伐は今夜奇襲をかけるということで合意した俺たちに、焦ったような声をあげる金髪少年。
っていうか寝癖がすごいぞ君。
「教会にいるあいつら倒しにいくのか?」
「そうだよ。一応そういう依頼でここに来てるからね」
「……その、討伐。俺も…い、一緒に」
「ダメ」
彼の表情や声色から何となくその先を予想できたため、即座に否の回答をする。
そりゃそうだろうに。さすがに子供を危ない場所に連れて行くわけにはいかにでしょ。
そう呟いた俺に、少年はテーブルを叩き猛抗議してくる。
「な、なんでだよ! あの教会はもともと俺が寝床にしてたんだ! それにいっつも殴られてたしやり返したい!」
「少年の気持ちもわからないでもないけどさ。子供には危ないよ」
「子供じゃねぇ!」
がつん、と机に拳を打ちつけ唇を噛み締める少年。どうしてそこまでこだわるのか。
住処を奪われたから?殴られたから?
いいや、どれも違う気がする。
「どぉーしてそこまで来たがる」
「だからそれは、やり返したいだけで」
「嘘だな」
「っ、」
ポン太が腕を組みながら凄みをきかせる。思わず抜け出したくなる空気の重さだけど、我慢だ俺。
少年を連れて行くにしても置いていくにしても、ここで本音とやらを聞き出しておかないといけない気がする。
金髪少年はしばらく膝元においた自分の拳を睨みつけ、そしてゆっくりと顔を上げた。
「……嘘つきに、なりたくないからだ」
吐き出すように少年は語る。自分が街では嘘つき呼ばわりされていることや、厄介者としてつま弾きにされていること。
そんな奴らを見返すためにも、魔法がちゃんと使えること、その魔法で敵をやっつけられること、自分が嘘つきではないことを証明したいのだと。
「どんなに叫んでも喚いても、誰も信じちゃくれねぇ。だったら行動で示すしかないだろ」
年端もゆかぬ一人の少年の吐露に俺とポン太も顔を見合わせた。
普通だったらそんな扱いされれば逃げ出したくなるに違いない。もしくは怒りにまかせて言った相手をぶっ飛ばすとか。
子供ならなおのこと直接的な行動に出ても可笑しくない。
それでも逃げずに、認めさせたいと言うのか。大した子供だよ。
「なんというか。君も大概、変人さんだね」
「あんたほどじゃねぇよ」
「………」
前言撤回。ただのクソガキだこんちくしょうめ。
「そこまで言うなら止めやしないよ。ポン太もそれでいいだろう?」
「けっ。仕方ねぇ」
「ほ、本当かっ! よっしゃああ!」
両腕をあげてガッツポースする少年。
余程嬉しかったのか、ポン太に「ありがとうポン太さん」とか言っちゃって。
ねえねえ。俺には?
そんな和気藹々な雰囲気を破る一つの大きな音。
どうやらそれは街の中心、市場の方角からなるものだった。断続的に鳴り響く音はおそらく爆ぜた音だ。
何があったのかと窓へへばりつく俺。そこへ宿の店主が青ざめた顔で駆け込んできた。
「お客さん! あんた早くこの街を出た方がいい」
「何があったんだい店主さん。すごい音が聞こえたけど」
「ギャングだよ! この街で好き勝手やってる奴らなんだが、そいつらが徒党組んで市場を襲撃してるんだ! 急いで逃げないと時期この辺りにも来る。とっとと逃げた方がいいぞ」
「ギャング。もう動いたのか」
俺の呟きに首を傾げた店主だが、すぐに店の奥に引っ込んでいってしまった。大方逃げる準備でもしているんだろう。
こいつは夜まで待つ訳にはいかんよな。
そこではたと気付く。ばばっ顔を向けた先には金髪少年がおり、彼は突如振り返った俺に顔を引きつらせ後ずさっていた。
これって絶好のチャンスなのでは。
「少年。これは汚名を返上するチャンスだぜ」
「は? 何言ってんだよ」
夜の奇襲作戦だったら、当然俺たちと敵さん以外目撃者はいない。
しかしこの往来で大立ち回りし、見事ギャングを討ち取れば嫌でも街の人たちは目撃するだろう。
少年の本当を。
俺はぽんっ、と少年の肩に手をおく。
「ヒーローは遅れて登場ってのがセオリーだろ。少年の魔法で街の人たちを大救出だ」
少年の前に突然現れた一人と一匹は、彼にとって嵐のような奴らだった。
同じことを繰り返していた日常を覆し、忘れかけていた厚意に触れ、魔法の可能性を体感し、そして今。
少年はギャングたちの前に立っていた。
店を次々と破壊していたギャングたちは立ちふさがった二人と一匹に容赦のない罵声を浴びせている。
遠巻きにしている街の住民も声は出さないが、ギャングと少年両方に鋭い視線を向けている。
「誰かと思えばいつものクソガキじゃねぇーか」
「なんだ、またいじめられに来たのか?」
「はははっ、酔狂なこった!」
こちらを嘲笑うかのような物言いに、自然と拳を握りしめる金髪少年。
そんな彼の肩に手を置く人物がいた。この場に一緒に来ているミズイである。
そうだ、いつもはやられっぱなしだが今日はこの二人がいると心内に息をつく。ポン太にもたった一回だが朝稽古をつけてもらい、即席ではあるがアドバイスをもらうこともできた。
そしてなにより。
この二人はかなり実力者だということを、昨日の雑誌を見て確信した。
(これなら勝てる。今日は一人じゃない……!)
「さて。ちゃっちゃと依頼を果たせちゃいましょう」
「けっ」
「いくよポン太!」
まるで少年の意気込みが伝わったかのように、走り出すミズイとポン太。二人の背を見ながら自分もと駆け出す。
今日こそは。今日こそ目に物見せてやる。
さっそく魔法を使ってきたギャングの一人に応戦しようと、構える。
その時だった。
「ちょっと待ったあ! 君。その珍しい色合いの炎、一体どんな魔法なんだい!?」
「おいミズイ」
「少しでいいからあ! ほんと、ちびっとでいいから陣の構成を見せろ下さい!」
「ひ、ひぃっ。なんだよお前ぇ」
「待て待て待って! 逃げるな」
「おい。ミズイ!」
今までの飄々とした雰囲気はどこへやら。ギャングの魔導士の一人である男を追いかけて離脱していくミズイ。それを止めるために追いかけ去ってゆくポン太。
誰もが動けないでいた。
とっちらかしたまま収集のつかない状況の中、唯一言えたことといえば。
「は……?」
ミズイと長く時間を共にすれば誰もが気付く彼の悪い癖。それは、魔法の探求について異常なほどの熱意を持っているということだ。
たとえそれが食事をしているときでも、床につく寸前であっても、戦闘中であっても。
知りたいと思ったらすぐに行動している。それがミズイという人物である。
それを知らない金髪少年からしてみれば、まさに字の如く茫然自失である。
なんとなく魔法に対して並々ならぬ情熱を感じてはいたが。
まさかここまでとは。
(結局、俺一人かよ)
ギャングたちは突然いなくなったミズイたちを臆病者だと腹を抱えて笑い、野次馬と化している街の者たちも困惑の表情だ。いや、呆れているといった方が正しいか。
とにかく。実力者とふんでいた二人がいなくなったのは大誤算だったが、自分がやることは変わらない。
この街の者たちに、自分は嘘つきではないことを証明しなくては。
少年は走り出す。
武器である剣を地面に突き刺したまま、腹を抱えて大声を上げている男の顔に勢いつけた膝を打ち込んだ。
鼻血を散らして崩れる男。それを見たギャングたちの表情が一瞬にして変わる。
「てめぇ、クソガキがあああ!」
目算でざっと十人。他はまだ手を出すつもりはないようだった。ならば好都合。
少年は朝の稽古を頭に浮かべながら体勢を構える。気をつけることは、一辺倒にならないこと。
ポン太からは再三視野を広めることを教えられていた。
折角筋は良いのに、向かう相手のことしか見ておらずフェイントや横槍に対応できていないと。
「去ねやああ!」
「遅いっつー……の!」
振り下ろされる剣をひらりと交わし、懐へ侵入。下から顎を打ちつけてやる。
完全に意識を持っていかれた男はそのまま少年へと覆い被さるように倒れてきた。それを見越した少年が素早く股下から脱出すると、両側からやってきた男たちに砂を投げつけ目つぶし。
悶絶している間に前方の男の頭上へ飛び込み、首に踵落としをお見舞いしてやった。
まだまだ小さな少年の体では、大人に対して有効な打撃は難しい。
故に人体で弱い所を積極的についていくしかない。
砂で目つぶしされている男は伸してから、少年は次々と相手を倒していく。
その勢いはまさに怒濤と言わざる得ないものだった。
ギャングたちは今までとは意気込みも動きも違う少年にたじろいでいた。こんなに強かったか、と。
そして今まさに。彼らでも驚いているこの光景を、息をするのも忘れて見守る街の住人たちの姿があった。
ただの嘘つき。ただの頑固な子供。
それだけなのに。何をそこまで必至に戦っているのか。
「とっととこの街から、出て行けええええ!」
小さな少年の咆哮は、覇気となってギャングたちの足下を震わせる。
こんな小さな子供に果たして自分たちは何をやっているのか。そう思うことすら一瞬忘れてしまうほどの迫力だった。
「あの子、どうしてあそこまで……」
「敵うはずがなかろうて」
野次馬から漏れる呟き。
少年は尚も戦い続けている。剣を振り下ろしてくる相手に足払いをかけ、上体が落ちてきたところを狙い打つ。
意識を失った男の背を蹴り付け、地面に叩き付けると同時宙へと跳躍。
そのまま後方にいる男へ殴り掛かろうとした時、視界の端で魔法を発動させている者に気がつく。
刹那、少年の脳裏に失敗の二文字が浮かぶ。
親元を離れてから上手く使いこなせていない自分の魔法。
このギャングたちにいいようにやられていたのも、半分は魔法が使えないがためにやられていたようなものだ。
自分は嘘つきではない。
それを、証明する。
「白竜の―――」
「喰らいやがれクソガキ。
「咆哮ッ!」
白い閃光が
「なっ、なんで」
「隙ありだぜクソガキ!」
失速し掻き消えてしまった自分の魔法に唖然とする中、雷を手の中に発生させた男が少年へと投擲。いくつもの雷の矢が雨となって襲いかかってきた。
我に返った少年は咄嗟に回避行動に移るも、避けきることはできず被矢してしまう。
「うぐあっ」
「このガキちょーし乗りやがって」
「なめんじゃねぇぞ、オラァ!」
必至に腕で防御するも、多勢に無勢。徐々に傷が増えていく。
それでも少年は根を上げたりはしない。もう嘘つきとは呼ばせたくないから。もう、彼をいなかったことにはしたくないから。
「お、おい。あの小僧死んじまうじゃないか」
「いくらなんでもあそこまで……」
「いや、だって。あいつは疫病神だし」
「でも多分。あそこまで頑張るのは街のためなんじゃ……」
街の住民は思考する。
今まで自分たちが持っていた少年への像と、今現在を。言うことはいつだって信じられない話ばかり。子供の虚言ととっていた者たちは多い。彼は厄介者。街に住み着いたギャングたちにも、無謀に挑み刺激する疫病神だ。
しかし比べて自分たちはどうか。
自分たちの街であるのに、ギャングに怯え縮こまり、言うことを聞くしかない有様。
ギャングに立ち向かっているのは一人の少年。
自分たち街の者は、ただそれを見ているだけ。
これで少年を悪く言うのは、果たして正しいことだろうかと。
「ちき……っしょおおおお!」
「うげあっ」
馬乗りになって殴ってきていた男へ少年の頭突きが炸裂する。白目を向いて倒れた男の下から這いずり、足下をふらつかせながらギャングたちとの間合いをとる。
じくじくとおでこの痛みが広がり意識も朦朧としているが、こんなところで倒れるわけにはいかない。
まだ、足りないのだ。
街の人たちに自分が嘘つきではないと証明するために、ギャングたちはここでぶっ飛ばす。
この、皆の目の前で。少年は改めて決意を固め、眼前を見据える。
しかし、ずる賢くしぶといという意味ではギャングたちの方が一枚も二枚も上手だった。
いかに子供であろうと数で圧し、攻防に集中させ後方から魔法を撃ち放つ。
どうせ周りにいる住民たちは手を出しやしない。
「くそっ」
「そらそら、いつもの勢いはどーしたよガキ!」
「次いくぜ。雷鉄!」
雷の矢が再び少年へと迫る。今度こそ、当たれば戦闘不能の痛手を負うだろう。何としてでも避けなければ。しかし長い攻防により体力はほとんど残ってはいない。
痛みやしびれなど、やろうにも体に力が入らなかった。
(や、やばい……)
「そうはさせるかい!」
「男衆気合いこめろよぉお!」
眼前へと飛来する雷の雨。視界を埋め尽くすそれに思わず目を瞑ろうとするが、突如目の前に遮るものが。
何人もの男たちが、少年を守るように覆い被さっていたのだ。
なんで。
少年がいの一番に思ったことだった。
そして直後、魔法が男たちへと降り注ぐ。
「うああああ!」
「いぐっ」
「いてええええ!」
体を貫く電流にうめき声やら悲鳴をあげる街の男たち。
少年を庇うために、自分たちを盾としたのだ。その中の一人に、少年は昨日の店主がいることに気がつく。
「おっさん、昨日の」
「ああ。悪かったよ、昨日、あんなこと……言っち、まっ」
「おっさん!」
倒れる店主を、焦燥にかられながら呼びかける。戸惑いと、困惑と、暖かな気持ち。じんわりとそれらの複雑な感情を抱きながら、少年は小さく一言だけありがとうと述べた。
そして立ち上がる。
今度こそは、決める。奴らを追い払い、嘘つきのレッテルを返上するのだ。
「ちっ、邪魔が入ったか。おい、もう一発見舞ってやれ!」
「あいよー!」
後方の魔道士が
必ず決めなければ。
そう決意する傍ら少年の心に疑問が過る。
本当にできるのか、と。
あの日。育ての親と別れてから不調の一途を辿る自分の魔法。
威力は弱く、発動させるのもやっとな状態が続いている。
果たしてこんな自分で、後方を含めたこの場を制圧するだけの魔法が放てるのか。
また体力的にも余裕はない。せいぜい一発が限度だから、ギャングを倒すためにかなり広範囲に及ぼす必要がある。
できるのか。
少年の額を冷たい汗が落ちる。
(やるんだ、やるんだやるんだ。嘘つきなんてもう言わせねぇ。あいつがいなかったことになんか、絶対に……!)
「落ち着け少年」
「っ!?」
いつの間に立っていたのか。少年の傍らには、地面に膝をつけ少年の肩に手を置くミズイの姿があった。
その反対側にはポン太が仁王立ちしている。
「あんた、どこに行ってたんだ!」
「今は目の前に集中。少年、俺が言ったこと覚えてる?」
「……何を」
「魔法は楽しい。その心を忘れちゃ駄目だ」
楽しい。こんな殺伐とした状況でそんな感情が持てるとしたら、そいつはよっぽどの能天気かネジの外れたクレイジー野郎だ。
「魔法には希望を込めて。君が心から望めば、魔法は自ずと答えてくれる」
そんな馬鹿な話があるのか。まるで魔法が心一つで左右されるような。
いやしかし。確かに自分が習った魔法も感情の起伏が大きく影響するといったものだった。
「本当に、できるか」
「もちろん。さあ、来るぞ」
「こいつでシメぇーだ! 雷てぇっ!?」
吠える声が驚愕のそれに変わる。突然地面から放出され水流に顔面を強打され、魔導士の男はひっくり返ってしまう。
横にいるミズイが「ナイスタイミングだよポン太!」と賞賛を送るのを聞き流しながら、少年は己の中の魔力に心を集中させる。
魔法は楽しいもの。
確かに、考えてみれば育ての親といた時は楽しかった思い出しかない。怒られたりと厳しいところもあったけど、それらを含めて充実したとても穏やかな日々だった。
その時は魔法も自由に使えていた。
そういう、ことなのだろうか。
彼はもういない。
だけれど、ミズイとポン太と出会った。
どうしてかわからないが、忌み嫌われていた街の大人たちが庇ってくれた。
「白竜の―――」
今なら、少しだけわかるような気がする。
「咆哮おおおおおッ!」
鋭く早い閃光が走る。真っ直ぐ伸びた白い線は、前方のギャングたちを吹き飛ばし、後方にいた魔導士たちを次々と叩きのめす。そしてそのまま首を捻れば、合わせるようにカーブする閃光。
逃げ惑うギャングたちに追い打ちをかけた。
その光々しいまでの輝きに、街の者たちも釘付けだった。
こんなに綺麗な魔法があるのかと。
次いでわき上がるのは高らかな歓声だった。ギャングが倒れたぞ、やっと自由だ。
皆口々に少年に感謝の意を述べている。
ギャングたちを昏倒させ、終息する少年の魔法。
「できた……」
呟いた言葉を反芻しながら、ゆっくりと拳を握りしめる。
そして住民たちの方へと向き直った。
「俺は! この魔法で、ドラゴンを倒した! あいつはいたんだ! いなかったことになんて絶対にさせない! 俺は、嘘つきなんかじゃないんだ!」
そう吠える少年の背格好は小さく。けれどその堂々とした立ち住まいは、正真正銘誇らしいものだった。
「もう行くのか」
「ん。依頼も達成したしね」
「クソガキ。お前のおかげで悪党を捕まえることができた。ありがとよ」
「ポン太さん……」
ギャング壊滅から翌日。実にお早いお着きだった警備隊へと捕縛したギャングたちを引き渡し、依頼完了の印と報酬をもらった俺たちはギルドへ帰還する。
その見送りに来たらしい金髪少年。少し不機嫌そうだった。
「いやあ、それにしても少年の魔法すごかったよね。見たことなかったんだけど、何て魔法なの?」
「滅竜魔法だよ。竜迎撃用の」
「ああ、どうりで構成が見えないと思った」
どの魔法にも必ず組まれた方式があり、それらを構成と呼ぶ。けれど
滅竜魔法もしかり。
なるほど。ナツと同じく竜に育てられ魔法を教わった者の一人だったってわけね。
納得だ。
「竜ってぇーと、あいつと同じか」
「そうだね。ナツも
「やっぱりナツさんと知り合いなのか!?」
うおう、少年食いつき半端ないね。ナツって出しただけで目が輝き出した。
もの凄い迫力で白衣を掴まれゆっさゆっさと揺らされる。
ちょ、ヤメテ服破れるわ。
「そうだと思ったんだよ。だってあの闇ギルドの特集のとこ、ナツさんの後ろにちょこんと写ってたし!」
「えっ。俺いたのか」
「っていうことはあんたも
「いいや、違うよ。俺とポン太は
「そう、なのか……」
あからさまにがっくりと項垂れる金髪少年。こういうとこを見るとやっぱり子供なんだなって安心しちゃうな。まあ、言える程歳が離れてるわけじゃないけど。
俺の転生前の精神年齢も足すと、やっぱどうしても達観してしまうところはある。
「会いたいなら今度連れて来ようか。憧れてる子がいるって言ったら喜ぶと思うし」
「いい。もっと力をつけて、自分で会いに行くから」
そう力強く言い放った少年を見据え、そっかと相づちを打った。彼なら本当にやりそうだ。もしかしたら数年後、妖精の尻尾とか入って俺たちギルドの
それはそれで楽しみだ。
「それよりあんた。昨日は大事な時にどこ行ってたんだ。あんたがいれば街の人が無理することもなかった」
「もちろんあれも作戦さ。だって一人で相手を伸さなきゃ、街の人たちも君を認めないだろう。ただがむしゃらに力押しでは、変わらない意見もある」
「……ほんとか? なんかギャングの魔導士追いかけてなかったか?」
「そんなこと、ナイヨ」
ふふん。俺ってば本当、策士でしょ。
「ポン太さん」
「ああ、良い作戦だったと思うぜ。珍しい色の発火魔法に見事に興味を惹かれ、街の外れまで追いかけ回した挙げ句、縛り上げて魔法の構成を吐かせ、その場で即筆してうはうはとテンションを上げ踊り狂っている間に、お前が敵を追い込んでくれたからな」
ちょ、ポン太氏ポン太氏。それはすごく偏見というか、ひどい偏りが入っているぞポン太様。
俺は決して自分の趣味になんて走っちゃいないぜ。
ちゃんと少年と街の人たちと依頼について真摯に向き合っていたんだぜ。
「……で。その珍しい色の魔法ってなんだったの」
「それがね、何が驚いたって一部の集落にしか流通していなかったらしいんだよ。もともとは北の地域で寒さを凌ぐために使っていたらしい魔法なんだけど、より暖かい火を求め、温度と持続力をあげるために濃縮率をあげることでクリアしたみたい。だから普通の火より温度が高く、魔力密度も濃いために色が青白かったんだ」
もしかしたらこれ、もっと濃度をあげれば完全な白い火を再現できるかもしれないよね。
そうしたら演目にも花が出るなぁ。
「……」
「これが現実だガキ。諦めろ」
「ポン太さん。俺、本当あんたのこと尊敬するよ」
少年とポン太が何やらコソコソと話している。なんだろう。こう、目の前で内緒話されると気になっちゃうもんだよね。
さて。そろそろ街を出ないと列車に間に合わないかな。
ギルドに帰って依頼達成報告をしたら一度家に帰ろうか。しばらく振りだからいろんな意味で不安だけど。
「少年。昨日、何やら街の人に宣言していたけどなんとかなりそうかい?」
俺の言葉に少年は少し眉をよせた。
「ドラゴンを倒したって話は、正直、半々ってとこ。でもいいさ。これから認めさせればいいんだ」
「そっか」
吹っ切れたように澄んだ目でこちらを見返す金髪少年。出会った時は心配になる雰囲気だったけど、今じゃ見違えるほど生き生きとしてる。人って、変わるときは本当に化けるもんだ。
「じゃあ少年。また会う日まで、元気でね」
「風邪は引くなよガキ」
「ああ。……世話に、なった」
口をもごもごとさせながら絞り出した最期は、随分と震えていた。なんだかこちらまで照れくさくなってしまう。
ポン太と共に数歩歩いた後、もう一度だけ少年に振り返る。
「そうだ少年。名前を聞いてなかった。今なら、教えてくれるかな」
「あっ。そっか、言ってなかったっけな」
「うん。君の名前は?」
そう問うと、金髪は少年少しだけ逡巡するように視線を泳がせそして。
「やっぱ教えねぇ。また会ったら、そん時名乗ってやるよ!」
実に小憎たらしい笑顔でそう言ったのだった。
「行っちまったな……」
少年は今は遠く見えなくなった一人と一匹の面影を追う。長い間苦しかった日々がたったの二日で劇的に変わった。
ギャングと対峙したときは多少の手違いはあったにせよ、やはり彼らミズイとポン太との出会いは大きかった。
彼らと会わずして、今の自分はないだろう。
「ミズイとポン太さん、か」
実際に彼らの戦う姿は見ていない。しかし、空高くへの移動魔法と、魔法に対する深い知識。そして大勢のギャングを前にして物怖じしない堂々とした姿勢は彼らが相応の実力者だということを少年は直感的に感じていた。
加えて先日の闇ギルド壊滅の一件でも雑誌に姿がある。後ろ姿ではあったが。
「決めた。俺はあいつを越える。そんでもって、憧れのナツさんも越えてやるんだ!」
必ず追いつく。
今はまだ力が足りないけれど。
大きな決意と共に、未来に心踊らせる少年。そんな彼の背後に影がさした。
「あの……、あのっ!」
「あ?」
「僕を弟子にしてください!」
「……」
少年が振り向いた先には一匹の猫がいた。赤茶色の毛色をした猫は、頬を涙で濡らしながらすがるような目つきで少年を見ていた。
「き、昨日の喧嘩を見ました。ぼくを、弟子にしてください!ぼくも……強くなりたいんです!」
「お前。俺が恐くねぇーのか?」
「恐くないです。お願いします!ぼくは、強くなりたいんです!」
涙をこぼしながら叫ぶ赤茶色の猫。その真剣な様子に、思案顔になる少年。しかしそれもほんの一瞬。
困ったような笑みを浮かべると「まあいっか」と呟いた。
「ついてきな」
「あ、ありがとうございます!」
嫌われ者の自分が師匠になる。苦笑しながらもどこか心燻られる言葉に、少年の顔は自然と上を向いていた。
「そうだ」
「へ?」
「名前。お前の名前何て言うんだ?」
「れ、レクターです!」
「レクターか」
少年は一つ頷く。
そして振り返り、右手を差し出した。
「俺はスティング。よろしくな、レクター」
スティングもっと出てくれ大好きです。そして何度も言うがユキノと結婚してくれぇぇ
久々の投稿になってしまいました。多分これからもこんなスローペース続くと思います。ご勘弁です
急ぎであげたのでちょっと修正をするかもしれないです。今回も読んで頂いてありがとうございました!
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