真っ白
そうとしか言えない場所
右も
左も
上も
下も
すべて真っ白
音もなく
感覚もない
いや、そもそも自分の体が―――あ、手が見えた
白く細い指が見える
俺は感覚を確認するために手を開いたり握ったりする
―――うん、感覚はある
そして今度は体を確認する
残念なのか、当然なのか、服は着ていた
服、というより病院で着るような検査服に似ている
簡素な、味気無いデザインである
体を触る
うむ、ペタンコな胸板だ
というか、ガリガリだな
アバラが浮き出てるぞ
股間を触る
……うむ、ある!
そうだよな
『俺』って言ってるんだから男で当たり前だよな
……なんか、俺って言うより、僕って言った方がしっくりくるな
よし、『僕』にしよう
「そーとは限らへんよー。僕っ娘ゆう萌えポイントもこの世には存在するんやでー」
……なんだこの間延びした関西弁のかわいらしい声は?
僕は見えない真っ白な世界をキョロキョロと見回す
すると―――いた
いかにもノンビリしてそうな顔で、肩で切り揃えた黒髪の、紺のブレザーを着た女子高生風の子が
「風ってなんやねん。どっからどう見てもキャピキャピの女子高生やん」
女子高生風の子は死語を使い、頬を膨らませ抗議をするが、僕はどうでもよかった
―――今僕は声を出したか?
いや、そもそも今まで声を発したのか?
この真っ白な空間ではなにもかもが曖昧に感じてしまい、僕はパニックをおこしそうになる
「ああ、気にしたらあかんよー。ここは神様の空間やからなんでもアリなんやよー」
……神様?
「そうやよー」
……誰が?
「わたしがー」
……何処に?
「だから、ここにいるわたしがー神様なんやでー」
えへんと胸を張って踏ん反り返る女子高生風神様
…あれー?神様って女子高生風だったっけー?
僕の知ってる神様って言ったら……あれ?思い出せないぞ?
まあ、いいか
「せやから風ってなんやねん。それに神様には決まった姿なんかないねんでー。人々の思想や信心が形をきめるんやー。せやったら、若い女の子の姿の方がええやろー?」
……そうかな?
もっと威厳があった方が良くないかな?
「君は加齢臭漂う老人か、ガチムチのアドンとかサムソンがお好みか?」
女子高生でいいです
それと、アドンとサムソンってなんですか?
「兄貴のオプションや」
兄貴ってどこの?
あなたのお兄さんですか?
「そんなことよりや、君、自分の名前わかるか?」
名前?
……
………
…………
…………僕は誰だ?
名前が……わからない
そう思っていると、よほどひどい顔をしていたのだろう、女子高生風神様が申し訳なさそうな表情でポンポンと肩を叩いてきた
「ああ、ええよええよ。無理に思い出さんでも。…いや、思い出す記憶がそもそも無い、か?」
そ、それはどういう……
「よし、ほんなら今ここで新しい名前をつけよう!うんうん、我ながらナイスアイデアやー」
自画自賛しはじめた自称神様
切り替えが早い
「神様の超絶センスでカッコエエ名前にしたるからなー。うーん、なるべく離した方がええよなー……うーん……」
頭の上で指をクリクリ動かし、一休さんのように考え込む神様
……何故か録な名前が浮かばなそうだと、僕は思った
そして、その考えは当たっていた
「んー……よし!君は今日から『辛酸(しんさん)舐太郎(なめたろう)や!』」
嫌ですごめんなさい
僕は間髪入れずに頭を下げた
「やれやれー、やはり天才の思考に凡人はついてこれへんのやなー」
神様は肩を竦め、ふう、やれやれだぜといわんばかりのジェスチャーをしている
はっきりいってむかつく
「ほんならなー、凡人でもわかるカッコエエ名前にしたるわー」
ありがとうございます
でもいちいちムカつきます自称神様
人を指差したらダメなんですよ
ポクポクポクポク……チーン!
「ひらめいたー!ひらめいたでー!その名も『西芳院(さいほういん)零牙(れいが)』や!!」
すいません勘弁してください
なんですかその恥ずかしい名前は!?
「いわゆる厨二ちゅーやつやなー」
神様の言っている言葉の意味が全くわかりません
「ん?なんや、君は一般ピープルな思考をしとるんかー?」
少なくとも、先程の名前が恥ずかしいくらいの一般的感性はあると思いますが
「よっしゃー、ほなら一般ピープルが納得かつカッコエエ名前にしたるでー!」
本当にお願いします神様
ポクポクポクポクチーン!
「キタ━━━(゜∀゜)━━━!!」
……絵文字を台詞で言わないでくださいよ……
聞いただけじゃ意味わからないですから
で?
どんな名前がひらめいたんですか?
「ふっふっふー!聞いて驚け泣きわめけー!」
泣きわめくほど酷いの?
「君の名前はー……『百瀬(ももせ)凱(がい)やー!』」
……微妙だなー
「あるぇー!?反応薄!ええやん、百瀬!カッコエエやん、凱!!」
……まあ、否定はしませんけど……
「それは肯定と受け取るでー。よし、君は今から百瀬凱や!もう登録したからなー変更不可やでー」
いろいろツッコミたい単語が出てきましたけど、まあいいです
僕は百瀬凱……
……うん、がんばろう
「ちなみにあだ名は『モモンガー』やでー」
神様!?
あんたモモンガーありきで百瀬凱って名前考えたな!!
「さてー?なんのことやらー?」
口笛吹けてない!
ふひゅーって息が漏れてる!
「さーて、じゃあ次はモモンガーにチート能力を付けたげよーかー」
そのスルーっぷりパネェな!
……ところで、チートってなんですか?
「簡単に言うたら、RPGゲームで最初からレベル99とかやなー」
それ反則じゃないの?
え?
僕今レベル99なの?
「ちゃうでー。今からレベル99にするんやでー。でや、どんな力が欲しい?」
……何でもいいの?
プルルルルル
プルルルルル
ピッ
「はーい、もしもしー。…え、アカンの?…ああ、元が反則で、それ引き継いでんの?ああ、そう。わかったー。ほなねー」
ピッ
「ごめん、さっきの話無し。君はそのままで降りてもらうわ―」
さっきの電話の相手って神様?
「うん、飲み友達やねんけど、君に付加能力つけるのアカン言われてん。ああ、その神様いろんなバランスを管理する担当なんやけど、君、すでに相当すごい力持っとるんやって。だからこれ以上付けたら爆発するからアカン言われたんや」
爆発って、僕の体がですか?こわいよ!!
ていうか、さっき聞き捨てならない単語が……降りる?
ちょっと待って神様?
この話しの流れからするに、もしかして僕はどこかの世界に介入するってこと?
そのための能力?
「おおー!頭の回転速いなーモモンガー!その通りやでー。ほんで、行ってもらう世界はなー『ISが存在する』世界や!」
……IS?
車?
「そうそう、レクサスのISやでー。でも神様としては、同じシャシー使ってるクラウンの方がええかなーってなんでやねん!」
おおっ
ノリツッコミ!
初めて見た
「ISは車ちゃう!『インフィニット・ストラトス』や!」
インフィニット・ストラトス?
なんですかそれ?
「まあ簡単に言うとやね、ISいう機械が存在する世界なんやけど、その機械は何故か女の子しか使えん使用になっとるんや。そんで、なんでかわからんけど女尊男卑の世界になっとるんや。ほんま、本質をとらえてヘン人間の思考は浅慮で救いようがないわ。アホやわ」
……そこに僕も行けと?
「そうやー」
神様、女の子ばかりの世界に飛び込める程僕の心は強くないです
「大丈夫やてー。基本エエ人多いしなー。まあ、救いようのないアホも多いけど、モモンガ―やったら大丈夫やろ」
……なんで僕がそのISの世界に行かなきゃならないんですか?
「今その世界に『歪み』が生じる可能性があるねん。それをモモンガ―に正してほしいねん」
歪み?
もっとわかりやすく説明してください。
「大丈夫、モモンガ―は好きなように生活しとったらええから。あんま歪みを正すとか難しいこと考えんでエエから」
……それ、僕が行く理由あります?
「勿論や。モモンガ―という『イレギュラーが存在する』という事象が大事なんや」
……なんか怖いな
「ああ、大丈夫大丈夫。そんな命の危険ないし。モモンガ―やったらテキトーにやってもなんとかするよろうしなー」
目茶苦茶不安、そしてアバウトですね神様
「まあ、世界の理なんてこんなもんや。…おっといかんいかん、そろそろタイムリミットか。さて、最後にモモンガー専用ISやなー」
しつもーん
ISってロボットなんですか?
「ロボットいうよりパワードスーツやね。そもそも宇宙空間での作業目的の機械やからね。ほんでや、モモンガーのISはこっちでもう用意してますー」
え!?
マジっすか!?
「そんな怯えんでもええよー。ISに関しては別次元世界から拝借してきたから。へい、かもーん!」
ぱんぱんと手を叩く神様
すると、僕の前に光の玉が現れてカッと一層輝いた
眩しさに目が眩んだけど、徐々に回復してきたのでうっすらと目を開けた
そして前には、
金髪に頭の上に狐のような尖った獣の耳を立て、
巫女さんのような衣装に身を包み、
首から水晶玉のようなものをぶら下げ、
金色の毛並みの尻尾を九本生やした人形のような女の子が浮いていた
「我は『白面金剛九尾イヅナ』だ。よろしく頼むぞガイ!」
……
………
…………はい?
神様?
ISってロボットなんですよね?
この子ロボットなんですか!?
「いや、ちゃうよー。白面金剛九尾イヅナは紲晶石の魂獣や。」
すいません神様、一般ピープルにわかるように説明してください
「この子、白面金剛九尾イヅナは『神羅万象』の世界から呼んだんや。まあ、神様が勝手にアーティファクトとISコアは同じいう設定にしたんやけどもな」
神羅万象?
あー、なんかもうどーでもよくなったなー
「ガイ、気持ちはわかるがそう悲観するな。これからは我がずっと一緒にいるからな!」
うう……ありがとうイヅナちゃん
君かわいいのにすごくいい子だね
「なっ!?か、かわいいなど……わ、我をおだてても、その、何もでんぞ?」
顔を真っ赤にしてモジモジしだすイヅナちゃん
九本の尻尾をブンブン振っている
うーむ、癒される
「おーい、ストロベリっとらんと。そろそろ行ってもらうでモモンガー」
え!?
もう!?
えっと、心の準備が!
「はいはーい、モモンガーはだんだんねむくなーるー。ほんで目が覚めたら新世界やー」
ちょっと!?
だから待って!?
「安心しろガイ!我がついてるぞ!」
イヅナちゃん肝が据わってるね!?
「さよーならー」
あーれー
◆◆◆◆◆◆
神は百瀬が旅立つのを見届けると、小さく息を吐いた。
「……さて、無事に行ったな。で、あれでよかったんか?」
首を少し斜め後ろに向け、何もない白い世界に話しかける。
すると、その何もない白い世界に一人の女性が現れた。
「……ええ、彼は今まであまりにも過酷に生き過ぎた。だから……」
「だから『リセット』させて新しい生を与えた?傲慢やね」
辛辣な言葉を向けられ、その女性はつらそうに顔を歪める。
自分がどれだけ愚かで傲慢なことをしているか重々承知なのだ。
それでも、彼には幸せになってほしかったのだ。
たとえ、自分の事を忘れたとしても…
「ま、ええよ。アンタの気持ちもわかるから。『あの子』は確かになんでもかんでも抱え込んで、自分で背負って。で、結局『潰れた』。不器用な子やったからね」
神様はそう言って女性の肩にポンと手を乗せてニヤリと笑い、さらに言葉を続ける。
「『恋する乙女』やねえ。バラやん?」
言われて、ボッと顔を真っ赤にする女性は、口をパクパクしながら抗議の声を上げようとするが、神様はケケケケと変な笑い声をあげてぴゅーっと逃げて行った。
「あの子に会いたくなったらいつでも言うてやー。私の権限で会わせたるからー。恋する乙女のバラやん!」
「~~~~~!!」
女性は顔を真っ赤にして白い世界で神様を追いかけ、神様はニヤニヤと笑いながら逃げていた。