わたくし、セシリア・オルコットは男性が嫌いだ。
こう言うと語弊があるから付け足すが、別にレズビアンではない。
ただ、男性が嫌いなのだ。
わたくしの父は婿養子だったからか、母にいつもへこへこと頭を下げていた。
それは、世界でISが発表されて、女尊男卑に傾きかけるとさらに酷くなった。
あんな母の顔色をうかがい、びくびくしているのが父だと思うだけで虫ずが走る。
わたくしの理想像は母。
凛として、強く、美しく、優しく、そんな女性像がわたくしの母であり、目標。
しかしその母も、父ももういない。
列車事故に遭遇し、二人とも死んでしまった。
暗殺説などが流れたが、状況証拠でそれは無いと証明された。
偶発的な事故。
何故いつも一緒にいない二人が、よりにもよってその時は一緒だったのか、それは当人にしかわからない。
それからわたくしはオルコット家を一人で守った。
必死に勉強し、虫のいい話を持ち掛ける輩を追い払い、繁栄させた。
わたくしに近寄る男性は皆父に似たような情けない者か、野心丸出しで近付くハイエナのような輩ばかりだった。
これが決定的になり、わたくしは完全に男性不信に陥ったのである。
そんな時、わたくしにIS適性があると診断された。
それもA+
最高クラスの適性だ。
わたくしは母のようになるために、オルコット家のためにIS操縦者の道を選択した。
しかしそれは決して平坦な道のりではなかった。
周囲から笑われ、蔑まれ、罵られることもあった。
だからわたくしは努力した。
寝る間も惜しんで、ひたすら訓練した。
必ず目指す先に、努力の果てに光明があると信じて。
そしてわたくしはイギリスの代表候補生となり、さらに専用機を持つまでになったのだ。
だからわたくしは、男というだけで、ただISを動かせるというだけでこの学園に入学した織斑一夏と百瀬凱が最初から気に入らなかった。
昼休み、わたくしは二人を品定めしようと近付いた。
だが、織斑一夏は他の女生徒に連れられて教室を出ていってしまった。
まあいい。
もうひとりの百瀬凱がいる。
何故かうなだれているが、わたくしには関係ない。
威圧するような態度で、わたくしは百瀬凱に声を発した。
「ちょっと、よろしくて?」
そう言うや、百瀬凱は大きな瞳をキラキラさせながらガバッと顔を上げてきた。
「はい!なんでしょうか!」
ああっ!?
大きな声!
うるさいですわね!
―――でもそれより気になったのは、その顔だった。
はっきり言って同年代とは思えない童顔に、くせっ毛の黒髪、キラキラ輝く黒く大きな瞳、美少年と呼ぶに相応しい顔で、頬を紅潮させ、ものすごくうれしそうな表情である。
しっぽがあれば、きっとものすごい速度でブンブン振っていることだろう。
……かわいいじゃありませんの。
………はっ!?
わたくしは何を思っていたの!?
平常心よ、平常心。
「うっ!?……そ、そんな大声を出さないでくれますかしら?」
しまった、少し声が上ずってる。
もっと気を鎮めないと…
「ああっ!?すいません!」
ううっ!?
今度は目をウルウルさせながらペコペコ謝りだした!
やめて!?
わたくしが悪いことをしているような罪悪感が!
「はぅっ!?そ、そそそんなに謝らなくてもよろしいですわ!」
悲鳴が出てしまった。
ああ、なんなんだこれは?
わたくしはこんなことをするために百瀬凱に近付いたわけではないのに!
「それで、僕に何かご用ですか、セシリア・オルコットさん?ああ、ミスオルコットと言った方がいいのかな?」
屈託のない笑顔で首を傾げる百瀬凱だったが、それでわたくしはハッとした。
世間知らずでのほほんとした雰囲気だが、最低限のマナーは備えているようだ。
そういえば、百瀬凱はニュースなどで篠ノ之束の助手をしていたと言っていた。
……ふむ、それなりに優秀のようだ。
まあ、役に立つようならISの整備等をまかせてもいいかもしれない。
なにせ、あの篠ノ之束の助手だったのだから。
「それなりの受け答えはできるようですわね、ミスタ百瀬」
礼には礼を
紳士淑女の嗜みである。
わたくしは優雅に一礼する。
「ああ、僕のことはモモンガーでいいですよー」
そんな事を言って、目の前の小動物はひまわりのような笑顔をわたくしに向けた。
にぱーっと音が聞こえるようだ。
にぱーっ
はっ!?
本当に聞こえた!?
…疲れているのかしら?
しかし……あううっ!?
な、なんですの、この癒しは!?
わたくしが百瀬凱にぶつけていた敵意がみるみる薄れていく!?
だ、だめですわ!?
このままでは、百瀬凱の癒しパワーに精神が汚染されてしまう!!
「はぅっ!?わ、わたくしは貴方をあだ名で呼ぶほど親しくありませんわよ!」
なんとか抗う気力を振り絞り声を出す。
ああっ!
ま、また悲しそうな目を!?
やめて!
やめてくださいまし!!
「ああもう!話が進みませんわ!」
なんとかまだ残っていた気力を振り絞る。
本当に話が進まない。
そしてそうこうしているうちに授業の予鈴が鳴ってしまった。
………ほっ
わたくしは思わず安堵してしまった。
「…あ…もう!次の休み時間また来ますわ!」
苦し紛れに聞こえるだろうが、話が全く進まなかったのだから、キチンと言っておかないといけない。
どこぞへいかれては敵わないからだ。
…ふふ
また、ミスタ百瀬とお話ができるのですわ。
自然と上がる口角を隠そうとせず、しかしいつものあしどりでわたくしは自分の席に戻った。