IS - M・od   作:阪本葵

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第20話 クラス代表決定戦 凱VSセシリア

 

 

アリーナのスタンドには、観客である女生徒が多数いた。

あきらかにクラスの人数以上いるし、リボンの色が違う女子もいる。

リボンの色分けで学年が区別されている。

一年は青

二年は黄色

三年は赤である。

 

全学年の生徒が集まり観戦しに来るのも無理もないだろう。

なにせ、イギリスの代表候補生の専用ISと、男である織斑一夏の専用IS、さらには凱の終極因使を拝めるのだから。

 

あるものは好奇心を

あるものは男が最強であるという情報が信じられず嫉妬などの黒い感情を

あるものは自身の国へデータ報告を

様々である。

 

すでにセシリア・オルコットはアリーナ中央で待機していた。

その表情は真剣そのもの。

もし初戦が一夏ならばもう少しゆるい表情であったかもしれない。

だが、千冬からの対戦順序変更通達により、弛緩した空気は一変。

一気に緊張へと変わったのだ。

 

机上の空論

 

究極の進化

 

その名も終極因使(ゼクス・ファクター)

 

今まで終極因使論は机上の空論どころか、ゴシップにも劣る嘘の論文だと思っていた。

事実、あの論文を真剣に享受した人間など皆無に等しい。

千冬や、束でさえ終極因使論など眼中にすらなく、ただ情報として記憶に留めていた程度だったのだ。

 

その空論が現実にいる。

しかも、それが今から自分の目の前に現れるのだ。

 

あの論文をすべて信じるわけではないが、油断はしない。

油断できない情報はいくつもある。

 

篠ノ之束の助手

入学試験での『無効』という不可解な試験判定

二人の教師、しかも千冬という最強のIS乗りが代表候補性相手にさえ『ハンデ』をつけさせようとする実力

 

だからこそ油断も慢心もしない。

 

最初から全力で倒しにいく。

そして、終極因使論など空想であると、所詮は男なのだと、女こそ最強なのだと証明するのだ。

 

 

そして、ようやく凱がアリーナに姿を現したとき、スタンドから困惑の声が溢れる。

 

ジャリ、ジャリと土を踏む音と共にアリーナの中心へ歩む凱。

 

ISにはPIC(パッシブ・イナーシャル・キャンセラー)があり、ISの基本システムである浮遊・加減速などを行うことができるのだが、凱はしっかりと地面に足をつけて歩いている。

 

対戦相手であるセシリアも、例外なく混乱していた。

 

「な、なんですのその姿は!?」

 

声を張り上げ、凱を指差すセシリアは、ハイパーセンサーによる鮮明な視界で凱の姿を見た。

 

なんだ、あの頭から生えた尖った耳は?

あの金色に輝く九本の尻尾は?

あの白く煌めくジャパニーズキモノは!?

 

ISの特徴がカケラもないではないか!?

 

ていうか、なんだあの可愛さは!

あんなもの反則ではないか!?

ああ、愛でたい!

いいこいいこしたい!

めちゃくちゃ愛でたい!!

抱きまくらにして寝たい!!

セシリアは先ほどまでの決意などどこかに吹き飛んでしまい、さらに動揺し、パニックに陥っていた。

 

「何って、これが僕とイヅナちゃんが融合した姿だよー」

 

相変わらずの、のんびりした口調でその場をクルリと回って見せる。

ふりふりと揺れる九つの金色の尻尾に、ピクピクと動く頭から飛び出たとがった獣耳。

 

そして巻き起こるのは黄色い悲鳴。

 

「きゃあああぁぁぁぁっ!」

 

「かわいい~!」

 

「百瀬君それは極悪犯罪レベルだよ~!!」

 

「お持ち帰りした~い!」

 

最後の方は意味がわからないが、とにかく凱の『終極因使』の姿が女子達にはドストライクだったようだ。

 

あるものはは呼吸困難に陥り、

あるものは鼻から血を流し、

あるものは神に感謝していた。

 

もうカオスである。

 

 

「そ、それがあなたのISを展開した姿だというのですね?」

 

「そうですよー」

 

未だドキドキと早鐘のように胸打つ心臓をゆっくり深呼吸し静めながらセシリアは凱に問う。

対して凱はいつも通りのんびりした口調である。

 

「究極といわれるゼクス・ファクター……それがそんな姿だと?」

 

「終極因使をどう考えていたのかわからないけど、これが正真正銘僕とイヅナちゃん『二人で一人』の姿だよー」

 

セシリアは未だ混乱している。

凱の、あまりにも非常識な姿、思考の外の答えに。

 

目の前に展開されたモニタに、凱の情報が流れて来た。

 

終極因使

 

ZX−F

 

あの姿は正真正銘、ゼクスファクターであるらしい。

 

しかし考えをまとめる時間など与えてはくれない。

 

『両者、位置について』

 

アナウンスが流れ、セシリアは空中で臨戦態勢を取る。

対して凱はどうしたらよいのかわからずきょろきょろとしていた。

 

 

ビーッ!

 

アラームが鳴り響く

 

 

 

試合開始だ。

 

セシリアはすぐに思考を切り替え、凱に主力武装であるスターライトmkIIIの銃口を向ける。

 

「どのような姿であれ、究極といわれる存在であれ、わたくしは負けませんわ」

 

セシリアはトリガーを引く。

 

 

銃口からビームを放ち、凱を襲う。

 

凱はそれを、体を右に30センチ移動するだけの僅かな動きで避けた。

 

レーザーは地面にあたり、土煙が巻き起こる。

 

セシリアは内心驚いていたが、すぐに意識を集中させ、さらにスターライトmkIIIで攻撃を仕掛ける。

 

だが、ことごとく凱はそれを避け、さらに徐々にセシリアとの距離を詰めるようにゆっくりと歩を進める。

 

「くっ!」

 

ISの名前にもなっている『ブルーティアーズ』と呼ばれる4枚の羽がセシリアから離れ、様々な動きと共に凱めがけて攻撃する。

 

四方八方からのビーム攻撃に凱は飛び上がり、避ける。

 

「さあ、踊りなさい。このわたくしセシリア・オルコットとブルーティアーズの奏でる円舞曲(ワルツ)で!」

 

「……」

 

セシリアの言葉に、凱は無言だった。

 

 

 

 

ピット内のモニタで観戦していた一夏と箒は、そのセシリアの攻撃に驚嘆していた。

 

早く、正確な射撃、しかも的確に死角をつく攻撃

 

「モモンガー!」

 

「百瀬……!」

 

一夏と箒は凄まじい攻撃を繰り出すセシリアと、それを避けている凱にくぎ付けだった。

 

しかし、二人ともある違和感に気付かなかった。

 

 

凱は、一撃も攻撃を喰らっていないということに。

 

 

 

 

試合開始から15分経過した。

 

セシリアはだんだん焦りはじめる。

 

セシリアの攻撃が、凱に一撃も当たらないのだ。

 

全く防御せず、全て回避している。

しかも時間が経つにつれ、その回避行動に無駄な動きがなくなってきているのだ。

 

「くっ、何故当たりませんのっ!?」

 

おもわず口に出すセシリア。

 

それに対して凱の答えは、淡々としたものだった。

 

「そのパターンはもう『見て』『覚えた』よ。若き戦乙女よ」

 

 

 

 

 

管制室では、千冬と山田摩耶も同じく試合を見ていた。

 

「……すごいですね、百瀬君」

 

摩耶や呟く。

摩耶自身、凱の入学試験として模擬戦の相手を務めたからこそわかる。

 

”全く歯がたたなかった自分”だからこそわかる。

 

「そうだな。百瀬はオルコットの攻撃パターンを全て一瞥で記憶し、対処している」

 

千冬が摩耶の呟きを肯定し、さらに摩耶の言葉に続く。

 

千冬もわかる。

間近で凱の戦いを見ていたからわかる。

あの”異常”な戦いを目の当たりにしていたからこそ、わかる。

 

 

人には必ずクセがある。

 

 

 

例えば嘘をつくと目が泳ぐ

 

自惚れると手を開いたり閉じたりする

 

覚悟を決め、大技を繰り出そうとしたとき舌を出し唇をなめる

 

等の無意識なクセである。

 

 

そしてそれは攻撃パターンにも現れる。

 

簡単にいえば思考パターンループだ。

 

練習して身につけたコンビネーション

 

自ら考えた効率的な戦略

 

必勝パターン

 

 

 

凱は以前こう言っていた。

 

「ISの事なら、束さんにレクチャーしてもらったから、教科書に載ってる程度ならバッチリですよー!」

 

千冬はここに違和感を覚えた。

 

いや、それ以前から違和感はあったのだ。

 

織斑家に居候する前の凱は言っていた。

 

束のところには一ヶ月ほど居たと。

 

凱は束に拾われる前からの記憶がない。

そして束にISに教えてもらった。

 

たった一ヶ月で。

 

 

 

つまり、凱は一般的に数年掛かりで教育を受ける内容を、一ヶ月で覚えたのだ。

 

その覚えた知識が確かなのは、入学前に凱が一夏にISについて教えていた事でわかっている。

 

束のことだから、教科書に記載されている以上、もしかしたら『ISの裏技』なども凱に教えている可能性がある。

 

 

 

「百瀬の最大の武器はゼクスファクターでも、それを御せしめるセンスでもない」

 

千冬は猛禽類のように目を細める。

 

「百瀬の武器は『動態視力』と『記憶力』、そしてすぐに行動に移しかつそれを可能とする『反射神経』『胆力』だ」

 

(……いや、そもそもあいつは戦いになると性格が変わっているように見える。口調もそうだが、態度が歴戦の勇士を彷彿させる……)

 

ハイパーセンサーという高性能なツールがあったとしても、それを見て避けるというのは生半可なことではない。

 

 

事実、セシリアがビットとライフルの複合攻撃をおこなったとすれば(実際は未熟ゆえに出来ないが)”初見ならば”千冬とて数発は防御、もしくは喰らってしまうかもしれない。

 

戦い、戦争とは情報をより多く取得した方が勝る。

 

だからこそ情報というのは大事なのだが、今回の事に関しては、セシリアのISの情報は凱や一夏達には一切開示していない。

逆も然り、凱のISの能力と一夏のIS情報はセシリアに開示していない。

まあ、一夏の場合はISが到着していないため情報開示もくそもないのだが。

 

あくまで公平に、という事だ。

 

だが、それも凱の前では意味をなさなかった。

 

 

 

初見で記憶し、見切る凱は代表候補生程度苦もなく倒すだろう。

 

だからハンデを付加した。

 

それでもハンデにはならなかった。

 

百瀬凱

 

あいつは異常だ。

 

 

イヅナは言っていた。

 

「ガイはまだ終極因使の力を使いこなせていないし、使えない術のたくさんある」

 

土公拳(どこうけん)

 

焔姫咆(えんきほう)

 

樹翁鞭(じゅおうべん)

 

水龍壁(すいりゅうへき)

 

そして、さらに厄介なモノもある。

 

 

 

今現在でさえこれだ

 

 

……もし、終極因使の力を使いこなせるようになったら、誰が凱に勝てるだろうか?

 

 

もし

 

世界が、男と女で戦争を起こしたとして

 

 

百瀬凱が

 

 

敵になってしまったら

 

 

誰が奴を止めることができるだろう?

 

 

467機のISで百瀬を止めることが出来るだろうか?

 

 

 

 

「『最強』……いや『無敵』か……」

 

 

 

そう呟く千冬は、組んだ腕をきつく握り締め呟く。

 

 

「百瀬凱………貴様はいったい何者なんだ……?」

 

 

 

 

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