IS - M・od   作:阪本葵

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第25話 主夫モモンガ―

 

 

さて、一夏のクラス代表就任パーティーもお開きとなり、僕は一人ある場所へ向かった。

イヅナちゃんは、いなり寿司を食べて満足したのか、すでに部屋で寝てしまった。

 

 

 

コンコン

 

 

 

「織斑先生ー、百瀬ですー」

 

「ああ、すぐ行く。少し待ってくれ」

 

僕は料理を載せたトレイを片手に織斑先生の部屋の前で待つ。

 

なにやらドタンバタンと中から聞こえてきた。

 

ああ~……

 

わかってしまった。

 

今部屋を片付けてるんだ。

 

「織斑先生ー、料理が冷めますからー。僕はわかってますから気にしないでくださいー」

 

ピタッと雑音が止む。

そしてガチャリと扉が開き、中からなんとも落ち込んだ表情の織斑先生が出て来た。

 

「……百瀬、優しさは時として人を傷つけるぞ」

 

……?

 

よくわからないけど、気をつけよう。

 

 

 

 

 

「……うわぁ」

 

僕は織斑先生の部屋に入って、思わず呟いてしまう。

後ろでは織斑先生がバツが悪そうな顔をしていた。

 

わかっていたけど、やっぱり現物を見ると迫力が違う。

 

部屋がすごく散らかっている……

 

服の脱ぎ散らかし、ゴミがあふれるごみ箱、散乱する何かの書類、キッチンのシンクにはビールの空き缶の山が……

 

ううむ、ここまでくると逆に感心するな!

 

「素晴らしいバランスで積み上げられた空き缶の山ですねー、織斑先生?」

 

「………皆まで言うな。あと今は織斑先生ではなくていいぞ、凱」

 

織斑先生……千冬さんはそう言ってポリポリと頬をかく。

 

 

 

 

織斑家は何かと特殊だった。

 

以前一夏が言っていたけど、なんでも一夏が小さい頃に両親が二人を置いて蒸発し、千冬さんが女手ひとつで一夏を育てたそうだ。

 

生活するにはお金がいる。

親という保護者からの恩恵がない二人にはお金がない。

だから千冬さんは働きに出た。

 

どのような仕事をしていたのかは知らないが、一夏を養うために必死だったのは想像に難くない。

 

で、外に出て養うという好意により、その代償で千冬さんは家事というスキルを蔑ろにしてしまい、さらには生来のズボラが加わり立派な”片付けられない女”が完成してしまったのだ。

 

「まあ片付けは後にしましょう。せっかくの料理が冷めてしまいますしねー」

 

「うむ、すまん」

 

素直に謝る千冬さんはかわいい。

 

 

 

 

 

「さあどうぞ召し上がれー」

 

僕は机にトレイを置く。

上にはごはんと、アルミホイルに包まれたおかず、そしてスープである。

 

「いただきます」

 

手を合わせ、千冬さんはアルミホイルを破いていく。

 

破いた先から立ち込める湯気と香ばしい臭い。

 

「おお、煮込みハンバーグか」

 

「はいー」

 

千冬さんは驚きながらも嬉しそうだった。

 

千冬さんのリクエストはハンバーグだった。

 

でもただのハンバーグでは芸がないかなと思い、少し趣向を変えてみた。

 

破いたアルミホイルの中身には、まだグツグツと煮立つデミグラスソースが。

デミグラスソースに浸り、楕円のハンバーグと、その上には熱で溶けたチーズ。

ポテトとアスパラ、コーンも入れて彩りをよくした。

人参は千冬さんが入れるのを却下したため入れていない。

人参おいしいのになー……

 

千冬さんは箸でハンバーグを切り、口に運ぶ。

目を閉じ、もぐもぐと粗食しじっくり味を確かめる。

 

「ん、うまい」

 

「それはよかったですー」

 

おいしいと言われたらやっぱりうれしい!

 

料理はやっぱり食べてくれる人がいるからこそ作り甲斐があるというものだ!

 

「凱の作るハンバーグは肉汁が溢れるな。家庭ではなかなか再現出来ないのではないか?どうやって作ってるんだ?」

 

そう言ってぱくぱくとハンバーグを口に運ぶ千冬さん。

 

「特別なことはしてませんよー。合挽肉の牛と豚の比率を1:1にするんですよー。そうすれば豚の肉汁が出るんですねー。牛だけだとパサパサになりますからー。あと、玉ねぎをあらかじめ炒めて水気を飛ばすのも忘れずに、牛乳、ケチャップ、マヨネーズ、塩コショウ、パン粉、片栗粉、生卵、ナツメグをひき肉と混ぜて生地を寝かすんですよー。あ、ひき肉をこねるのは粘り気が出るまでしっかりとするのがポイントですねー」

 

「ほう、何か特別な材料を使ってるわけではないのか」

 

ふむふむと感心しながらごはんに手をつける。

 

「デミグラスソースも既製品ですよ。煮込む前に赤ワインを入れますけどー」

 

「赤ワイン?」

 

「まあ香り付けですねー。あと赤ワインは肉のくさみを消すのでー」

 

鍋に赤ワインを入れてひと煮立ちさせアルコールを飛ばし、デミグラスソースとまいたけを入れるという簡単な作りだけど、案外いけるんだよね。

 

「あ、スープはパンプキンスープですよー」

 

「ああ、私はこれが大好きだよ」

 

本当に嬉しそうに食事する千冬さんを見て、僕はすごく幸せな気分だった。

 

 

 

 

ハンバーグをペろりと平らげた千冬さんは、まだお風呂に入っていなかったらしく、じゃあお風呂に入ってる間に僕が部屋を片付けようということになった。

 

その時の千冬さんの、また申し訳なさそうな顔がかわいかった!

 

 

テキパキと部屋を掃除する僕。

部屋では千冬さんがシャワーを浴びている音がするが、黙々と部屋を片す事に専念する。

 

まあ夜だから、やることは簡単なことしか出来ない。

 

脱ぎ散らかした服をまとめて洗濯カゴに入れて、台所に散乱した空き缶をゴミ袋に入れて、散らかってる書類をまとめて、掃除機かけて。

あとはベッドメイキングくらいか?

 

一段落したところで千冬さんがシャワールームから出て来た。

 

Tシャツと短パンという服装に、濡れた髪の千冬さん。

 

ううむ、なんかセクシーだ……

 

 

「すまないな、食事だけでなく掃除まで」

 

「いえいえ、お気になさらずー」

 

千冬さんはそう言うと机のパソコンに向かい、仕事をしようとした。

自室でも仕事とは、恐れ入ります。

 

ああ、ということは僕が部屋に来る前も仕事をしてたんだな?

だから慌てて片付けようとしてたのか。

 

だが、まてまて、ちょっとまて!

 

「千冬さん、髪はいつもドライヤーなんかで乾かさないんですか?」

 

「ん?ああ、いつもそうだが?」

 

自然乾燥ですか……

たしかに、家にいたときもそんな感じだったけど……

 

「……風邪ひきますよ?」

 

「ひいたことないな」

 

身も蓋も無いなー……

それだと髪も痛みやすいのに……

 

 

仕方ない、ここは強引にいこう。

 

「乾かします」

 

僕はドライヤーとブラシを持ち千冬さんに近付く。

 

「いや、そこまでしてもらうのは……」

 

千冬さんはこれ以上僕の手を煩わせたくないのだろう。

けど、ダメ。

 

恨むなら、ズボラな性格の自分を恨んでください。

 

「問答無用!任せてください、イヅナちゃんに毎日ブラッシングしてますから!!」

 

 

ふふふ、僕のブラッシング技術に心地よくなるがいい!!

 

 

 

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