IS - M・od   作:阪本葵

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第29話 実は危うい立場だったのです

 

 

放課後、僕達いつものメンバーはいつも通り訓練をする。

 

とはいっても、箒さんとセシリアさんが一夏をしごくだけだが。

箒さんは学園から打鉄の使用許可が下り、それを装着してセシリアと二人で一夏をビシバシしごく。

 

で、僕はというと、イヅナちゃん指導のもと、竹刀を振っている。

 

一夏は僕にイロイロ教えて欲しそうなんだけど、箒さんとセシリアさんが僕に目で訴えてくるんだ。

 

頼む、一夏は任せてくれ!

 

お願いします、一夏さんはわたくしにお任せください!

 

―――てね。

障らぬ神に祟りなし、というわけで僕は二人に一夏を任せた。

 

 

 

 

真正面に構え背筋を伸ばす。

切っ先は体の前にゆったりと置き、顎を引き、腕を絞り込み、脇を絞める。

右足を後ろに重心を乗せ、ゆっくり深呼吸する。

 

正眼の構えである。

 

僕は息を吸い込むと同時に竹刀を上段に構え、吐くと同時に一歩踏み出し竹刀を振り下ろす!

 

ブンッと風を切る音が耳に届き、そしてまた息を吸い込む。

 

僕は延々と竹刀で素振りをしていた。

 

「うむ、なかなかだぞ!」

 

僕の素振りを見てイヅナちゃんは満足げに頷く。

 

 

 

僕は体力に関しては一夏と同等、あるいはそれ以上あるみたいなのだが、腕力はからきしだった。

 

そういえば、あの自称神様が僕の身体能力は”もともとかなりの能力がある”とか言っていたな……どこがかなりの能力なんだか……

まあ、体力があるだけマシだね。

だから、僕はその体力を生かし、イヅナちゃんから剣術の基礎を教えてもらい、体が動かなくなるまで、ただひたすら基礎を繰り返している。

 

基礎を馬鹿にするなかれ。

 

基礎という土壌が緩ければ、その上に成り立つ技術は脆いのだ。

 

僕は剣術、というかこの手の格闘術や武術などはてんで素人だ。

 

だから、基礎を反復練習する。

 

いつも

 

いつも、いつも

 

ずっと基礎を続けているのだ。

 

ま、はじめたのは最近なんだけどね。

 

 

 

 

 

そんな素振りを見た箒さんが、一夏から離れて僕に話しかけてきた。

 

「モモンガーはたしか剣道はしたことがないんだな?」

 

「え?は……はいー」

 

素振りで息切れしてしまう。

汗まみれで土に汗の雫がポタポタと落ちる。

 

「ふむ……なかなか筋がいいぞ。真っ直ぐな、綺麗な剣筋だ」

 

「ありがとー」

 

なんと、箒さんが僕を褒めてくれた!

褒められて伸びるタイプなんです、僕は!

だから僕はニコリと笑うと、気合を入れてまた素振りを繰り返す。

 

「モモンガーは強い心と、正しい判断ができるんだな」

 

箒さんが眩しそうに目を細め呟く。

僕は素振りに集中していたので箒さんが何を言ったのか聞こえず、ひたすら素振りする。

 

「基礎を蔑ろにする愚かさと、基礎の苦しみに耐える強い心が」

 

「うむ、ガイは己の力を冷静に判断できる客観的視点を持っている。それに、終極因使の力に溺れることなく、驕ることもない」

 

イヅナちゃんは嬉しそうにうんうんと頷く。

何を言っているのか聞こえないけど。

 

「だが何故、踵をあんなに地面にべったりとつけているんだ?あれではスムーズに体重移動できないだろう?モモンガーは”後の先”を主体とするのか?」

 

箒さんの扱っている”剣道”とは、軽い竹刀を振るためのスポーツであり、精神修行の意味合いが強い”競技”である。

スポーツである剣道は、相手を殺すものではない。

あくまでルールに則り、決められた部位を狙う。

安全性がある程度確保された競技ならば、命の危険性がないためスピードや体重移動に重視できる。

そのためのスムーズな体重移動をするために、踵を上げるのが通例だ。

 

そして”後の先”とは、相手が動いて 初めて自分が動き勝ちを取る方法だ。

 

「いや、あれは―――」

 

箒さんとイヅナちゃんがさらに込み入った話しをしようとしたとき、いつもの白いジャージを着た織斑先生がやってきた。

 

 

 

「ほう、ひよっこが頑張っているではないか?」

 

 

 

織斑先生はニヤリと笑い僕を見た。

 

「あ、織斑先生ーこんにちはー」

 

僕は織斑先生の登場に、一旦素振りを止め挨拶した。

 

「さて、今日は仕事も早く終わって時間ができた。織斑、百瀬、特別に私が指導してやろう。うれしいだろう、うん?」

 

それを聞いた一夏は顔を真っ青にした。

 

「ま、待ってください織斑先生!今一夏さんにはわたくしが教えて差し上げていますわ!」

 

「わ、私もです!しっかり一夏を鍛えていますから、織斑先生の手を煩わせることもないと思いますが!」

 

セシリアさんと箒さんが織斑先生登場に異を唱える。

 

「ふん、ひよっこがひよっこに物を教えるのが私の指導よりいいのか?」

 

ギラリと光る目でセシリアさん達を睨む織斑先生。

それに萎縮してしまい、うっとうめき声をあげ縮こまる二人。

 

「いいだろう、貴様等二人も指導してやる。有り難く思えよ」

 

織斑先生がそう言った途端、二人の顔色も一夏と同じく真っ青になった。

 

 

 

 

 

そして織斑先生直々の指導が始まり、一夏達は悲鳴をあげながら訓練をこなす。

 

意外にも織斑先生の指導は理路整然とした説明から始まるものだった。

しかもわかりやすい。

一夏、セシリアさん、箒さんもこれには驚いていたけど、その後が地獄だった。

 

「教えた通りの動きができなければ、アリーナを生身で10周だ」

 

なんともスパルタであった。

しかも織斑先生が教えていたのは瞬時加速

イグニッション・ブースト

という近接戦闘における高等技術だった。

瞬時加速

イグニッション・ブースト

とは、ISを装備した状態で使用する格闘特化技能の1つである。

スラスターから本体に向けてエネルギー放出させて、空間にエネルギーの流れを溜めてからそれを一気に点火させ、急加速をおこなうものだ。

外部から推進力を取り込むことで更に加速することも可能という応用の利く、しかし扱いがデリケートな技術だ。

 

 

当然、皆すんなり一発でできるハズがないので、三人はアリーナを10周する。

 

そして戻ってきたら再びISを装着し瞬時加速の練習。

 

で、できなければアリーナ10周。

 

その無限ループである。

 

三人共汗だくになりアリーナを走る。

 

「ちんたら走るな!もう10周追加されたいか!」

 

織斑先生の怒号が飛び、三人はペースアップする。

 

そして、僕を恨めしげに睨む。

 

 

 

何故なら、僕は走っていないから。

 

だって瞬時加速一発で出来たんだもの!

 

「百瀬は『風神槍』でコツを掴んでいたのだろうな。なかなかいい瞬時加速だったぞ」

 

織斑先生が褒めてくれた!

わしゃわしゃと頭を撫でてくれて、気持ちいいやら、くすぐったいやら、恥ずかしいやら。

 

「だが、あいつらばかり虐めるのもつまらんな。百瀬はさっきやっていた素振りをしていろ」

 

「はいわかりましたー」

 

僕は織斑先生に言われるとすぐに竹刀を握り、素振りを行う。

 

ひとつひとつ、丁寧に、確かめるように、大事に。

 

「ガイ、正眼はもういいぞ。次は八双

はっそう

だ」

 

イヅナちゃんから指示が飛び、僕は構えを変える。

 

竹刀を右側に引き寄せ、切っ先を上に向ける。

脇を絞め、腰を少し落とす。

 

そして、そのまま斜めに竹刀を振り下ろす!

 

それを見た織斑先生が驚いた表情をしたかと思ったら、途端厳しい視線を送ってきた。

僕はそんな視線を気にせず、八双の構えから素振りを無心で繰り返した。

 

 

 

 

 

「……イヅナ、どういうことだ?」

 

「どういうこととは、何だ千冬よ」

 

千冬さんとイヅナちゃんは僕の素振りを見ながら話しをしているようだ。

例によって僕には聞こえていないが。

 

 

 

「八双に、重心、そしてあの足運び……お前は百瀬に何を教えている」

 

「ガイには”人を殺す術”を教えているのだ」

 

「…………理由を聞こうか」

 

「ガイは特殊だ、一夏以上にな。この”あいえす学園”にいる間は保護されているからある程度は安心だが、この地を離れたとき、世界から狙われるのは確実だ。現在世界でただ一人の終極因使……はっきり言えば、ガイ一人で世界中のあいえすを全て相手しても……まあ、今の未熟なガイでは難しいが、”全尾覚醒”したガイならば”簡単に勝てる”。それ程の次元が違う存在、世界中が喉から手が出るほど欲しいだろうさ。」

 

「そうだな、現にこの学園内でも凱になんとか接触して自国へ引き込もうとする動きがあるくらいだからな。まあ、私が目を光らせているから最近は目立った動きはないようだが……。まったく、IS学園は在学中あらゆる国家・組織・団体に帰属せず、外的介入は原則認められないという特記事項を忘れているのではないか、ばか者共が……」

 

「うむ、我も影でこそこそガイに近付こうとする邪な考えを持つものを追い払うのに一苦労している。あくまでガイには内密でだぞ。……それでだ、今後、最悪我が物にできなければガイを抹消しようとする輩が現れないとも限らないしな。ならば、今からでもそれに対して対策をとるのは当然ではないか?」

 

「……身を守るための殺人術か……しかし……」

 

「勘違いするなよ千冬。我は考えもなしにガイに人を殺す方法を教え、それを実行させたいわけではないからな」

 

「……!なるほど、人を殺す術を知るということは、即ち人を殺さない術を身につけることができる、ということか」

 

「そうだ、我とてガイを人殺しにはしたくない。……あの笑顔を曇らせたくないのだ」

 

「……そうか……そうだな」

 

 

 

 

二人がそんなシリアスな話しをしていたなどとは僕は全く知らず、そして一夏達も知る余裕なくアリーナを必死に走っていたのだった。

 

 

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