IS - M・od   作:阪本葵

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第35話 もう一つの究極

 

 

凱とイヅナが出ていった後の管制室は静まり返っていた。

 

 

 

「……織斑先生、神獣とは一体?何か知っておられるようですが……」

 

セシリアは未だ厳しい表情の千冬に質問する。

しばらく考えるそぶりをし、麻耶をちらりと見遣ると、麻耶は手に携帯電話を持ち小さく頷いた。

 

「……いいだろう。しかし、これは日本政府、そして国際IS委員会の極秘事項だ。他言無用、もし漏洩した場合貴様はIS操縦者資格を剥奪されると思え」

 

「……っ!?」

 

千冬の出す条件に息を飲むセシリアと箒。

千冬が麻耶を見たのは、恐らく日本政府とIS学園最高責任者に許可を得たかの確認だったのだろう。

そして、麻耶は小さく頷いたということは、許可が下りたということだ。

あまりにもリスクが高い。

しかし、聞かずにはいられない。

 

セシリアと箒は静かに頷いた。

 

 

 

意思の強い瞳で千冬を見据えるセシリアと箒に、千冬はやれやれとため息をついた。

 

 

 

「……これはISの根幹……いや、常識を根底から揺るがす事だ。心して聞け」

 

千冬の前置きにごくりと喉を鳴らす。

 

「篠ノ之束の作り出したISのコアは全世界で”467個”とされているが、アレは嘘だ。正確には”471個”ある」

 

「なっ……!?」

 

千冬の衝撃発言に、声も出ないセシリアと箒。

 

「これには理由がある。この467個から外れた4つのコアだが、現在厳重に封印されているため使用が出来ないからだ。そのため、そのコアは”欠番(ロストナンバー)”とされ、残りの467個のコアを世界にばらまいたのだ」

 

「……ちょっと待ってください。その欠番のコアと神獣にどういう関係が……」

 

「そう急くな。……世界でISが浸透しはじめた頃の話しだ。ある考古学者が世界的発見をしたのだ。この日本でな」

 

 

 

―――地球創世から連綿と続く生物の進化とは全く異なる生命体だ―――

 

 

 

地球創世から連綿と続く進化とは別の、独自の進化を遂げた生物、それは世界の常識がひっくり返る事実だが、セシリアは勿論、箒もそんな発見聞いたことがない。

それに、それがISとどう繋がるのかセシリア達にはわからず、ただ聞いているしかなかった。

 

「その生命体の”起源”を発見された地層から計ったところ、なんと恐竜のいた白亜記より前だと判明した。そして、”ソレ”はそんな悠久の時代を廻ったにも関わらず、”ソレ”の細胞はほとんどが損傷なく発見された。氷に閉じ込められて冷凍保存されていたのではなく、無造作に土に埋もれていた存在が、だぞ?しかも、全身を覆う鉄よりも硬い甲殻、地球上の生物の枠を逸脱する筋組織、さすがに心臓などの臓器や脳は停止していたそうだが、いくつかの機能不明な内臓機関、それら尽くが解析不明。しかし、全てが腐敗せず完璧な保存状態のまま見つかったのだ」

 

「…………」

 

「科学者達はソレを研究した。一時は地球外生命体などと言われたが、結局は科学者らしからぬロマンス発想で神の創り出した生命体、『神獣』と呼ばれるようになった。そして……まあ神獣の研究成果などの説明は省くが、その神獣の細胞組織が何故かISコアに反応したのだ」

 

千冬の説明に違和感を感じ、セシリアは挙手して割り込む。

 

「ま、待ってください!神獣は心停止した状態で発見された……つまり死んでいたのですわよね?何故ISに”反応”するんですの!?」

 

「それは現在も不明だ。しかし、現に神獣の死滅していた細胞組織は反応・活性化した。そして事件は起こった。―――神獣の細胞がISコアを取り込んだのだ―――」

 

「取り込む?」

 

「言葉通りの意味だ。神獣の細胞がISをまるごと喰ったんだ。―――操縦者と共にな―――」

 

「―――なっ!?」

 

「神獣の細胞に取り込まれたISは、操縦者もろとも意識を汚染され、ついには完全侵食された。その結果、暴走……いや、神獣の獰猛なる本能が”覚醒”した」

 

「…………」

 

「神獣に汚染されたISの力は驚異的だった。それこそ、今までの常識を覆す程だったのだが、なんとか停めることが出来た。しかし、汚染されたISコアは初期化することも出来ず封印指定、そして操縦者も―――死んだ」

 

「……そ、そんな……ISには絶対防御が……」

 

「神獣に侵食された時点でISの定義など何の意味もない。つまりイヅナの言っていた”ISでなくなる”というのはそういう意味なのだ。……お前達、ゼクスファクターはISの”究極のひとつ”だと説明した事を覚えているか?」

 

「え、ええ。たしか、ISと操縦者が到達する究極のひとつである、と……っ!?ま、まさか」

 

箒は自分で言った言葉に気付いた。

究極の”ひとつ”であると。

 

 

「そうだ。自己進化と融合の究極が終極因使(ゼクスファクター)ならば、神獣とISが外的融合し、到達する”禁忌の究極”、人間とISが人の領域を超え神となる法、新たなる生命の誕生、世界の構築、その名も―――羅震獄(らしんごく)・創造(そうぞう)―――」

 

 

「羅震獄……」

 

「創造……」

 

セシリアと箒はゴクリと唾を飲み込む。

気付けば、額に玉の汗が吹き出ていた。

 

握りしめていた手の平は汗でじっとりとしていた。

 

「日本はこれを国際IS委員会に報告。その後、発掘された神獣とISを接触させることを禁忌としたのだ」

 

「……」

 

「羅震獄・創造の恐ろしいところは、『ISを犯す』『操縦者の精神汚染』だけではない。一番の脅威は『他のISに感染する』のだ」

 

「感染……つまり、戦った相手も汚染される、ということですか!?で、ではどうやってそんな化け物を倒すのですか!?」

 

「先手必勝、完全に覚醒する前に沈黙させる、もしくは生身で相対する……しかないだろうな、私達には」

 

千冬は眉間に深い皴を刻み、モニタに映される全身装甲と一夏・鈴が戦っている姿を見つめる。

 

「……あの全身装甲はまだ完全には侵食されていないようだ。一夏達のISも神獣に浸食されている気配はない。しかし全身装甲が完全侵食され、さらに覚醒してしまえば、被害はあんなものではないからな。最悪、この学園は跡形もなく消滅するだろう」

 

「そ、そんな……」

 

セシリアは驚愕する。

 

 

だが、先程までの千冬の言葉に”ふたつ”気になる事があった。

 

 

 

「織斑先生は……ずいぶんお詳しいですわね。まるで……”ご自身で相手したことがある”かのように」

 

千冬はセシリアをじろりとひと睨みすると、一呼吸おいてゆっくり語りだした。

 

 

「……ああ、私は神獣に侵食されたISと”戦った事がある”。その時の神獣は『守護獣バルガザル』の一部だった。そして私の時は”完全侵食”されてはいてもまだ完全に”覚醒”していたわけではなかったからな、なんとか5人掛かりで封印することが出来た。その時に共に戦った5体のISのうち、3つのコアが神獣に感染し、計4つのコアが封印指定となり欠番となったんだ。……しかし『黄金龍エメリウス』だと……?まさか別の神獣が発掘されたのか?そんな報告聞いていないぞ……」

 

神獣と戦った事があるという言葉に驚き、さらに神獣が一体ではなく複数いることに驚愕したが、それよりももうひとつ気になる事が。

 

「織斑先生は、あの侵食されたISに対抗しうる策をおっしゃった時に『私達には』と付け加えられました。では、ガイさんは違うということですか?いとも簡単に、あんな危険な相手にガイさんを向かわせましたが」

 

「……確証はない。だが、ゼクスファクターは別名”神の領域を侵す存在”と言われている。神獣も神を冠する存在だからな、私はそこに賭けたのさ」

 

「……そんな憶測で……いえ、何でもありませんわ……」

 

千冬がまさかこんな博打めいた対策をとるとは、それほど選択肢のない状況なのだろう。

だから、セシリアはこれ以上何も言わなかった。

 

「そういえば、凱はまだアリーナに着かないのか?ココを出てから随分時間が経っているが……」

 

千冬はモニタを見ながら、未だ現れない凱が心配になってきた。

もしかしたら、別の敵が侵入し足止めでも食らっているのか、と。

 

 

 

「迷子……なんてことは……ないですよね?」

 

 

 

摩耶がはははと笑いながら、軽い冗談のつもりで言ったのだが、それを聞いた千冬はしまったと指で眉間を押さえた。

 

「忘れていた……凱は超方向音痴だった……」

 

「えっ!?た、たしか以前そんなこと言ってましたが……ですがココからアリーナまではそんな迷うような道程はありませんわよ!?」

 

セシリアは信じられないと声を荒げるが、千冬はため息をついた。

 

「それを迷うのが凱なんだ」

 

千冬は思い出していた。

 

 

あの理解不能の方向音痴加減に。

 

 

 

それは、凱がIS学園に来てからあれこれと入学手続きのために関係書類を記入させ、イヅナを調べている間に制服の採寸をしようとした時のことだ。

 

―――何故、となりの部屋に移動して採寸しろと指示しただけで、一キロ以上離れた海に出るのだ―――

 

そして思い知ったのだ。

凱から目を離してはいけないと。

離すにしても、何度か通った道じゃないとダメなんだと。

 

 

 

 

ああ、そうか……アリーナ内部は今までは一夏に頼りっきりで道順を覚えることがなかったのだな?

 

 

 

 

……?

 

今はイヅナがいるのに迷子になるのか?

まさか、ゼクスファクターになることでイヅナも方向音痴が感染するなんてことは……

 

……ありえるな……

 

 

「オルコット、篠ノ之、すぐに凱を捕まえてアリーナへ誘導してくれ」

 

「わかりましたわ!行きますわよ箒さん……箒さん?」

 

千冬がセシリアと箒に凱を捕まえるように言い、それに頷いたセシリアは、箒のいる場所を見て驚く。

 

先程まで居たハズの箒がいないのだ。

 

「箒さん?どこに……」

 

 

 

『一夏あっ!!』

 

 

 

戸惑うセシリアを余所に、突然響き渡るマイクのハウリング。

 

探し人である箒はモニタのひとつに映し出されていた。

それは、アリーナの中継室で大声を出していた姿だっだ。

 

『男なら……男なら、そのくらいの敵に勝てなくてなんとする!!』

 

 

 

 

「……あの馬鹿が……」

 

忌ま忌ましげに呟く千冬。

 

「…………」

 

ポカーンと口を開けて見ている摩耶。

 

「……箒さん……」

 

箒の気持ちが痛いほどわかるセシリアは苦しげに映し出される箒を見る。

一夏のために何かをしてやりたい!

という乙女の気持ちが―――

 

 

そしてアリーナを映していたモニタに異変が起こる。

 

今まで一夏と鈴と相対していた全身装甲が方向転換したのだ。

 

それは、箒のいる中継室だった。

 

「―――いかん!?」

 

千冬は焦る。

 

今まで見ていてわかったことだが、全身装甲の攻撃は規格外ではあっても、まだ常識の範疇だ。

しかしそれは、全身装甲の攻撃を受けたからといって、ISを装着していれば絶対防御により命の危険性は低く最悪の事態は免れるということだ。

そういう打算があればこそ、千冬は一夏のわがままを容認したのだ。

 

しかし、箒は生身だ。

 

最悪だ。

 

あんな攻撃、当たれば確実に

 

 

―――死ぬ―――

 

 

 

全身装甲が砲身を箒に向けた

 

 

 

そして

 

 

 

 

ドギュンッ!!

 

 

 

空気が破裂するような音と共に、全身装甲のいた場所は突然爆発した。

 

爆発の轟音と、爆風、そして立ち込める土煙。

 

 

その爆心地からひとつの影が飛び出た。

 

 

 

 

 

それは、終極因使の凱だった。

 

 

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