―――まずい。
一撃で全身装甲を破壊しようとしたのに、失敗した。
まさか、金将刃二振りをギリギリ避けるとは。
そう、”仮面にはギリギリ”当たらなかった。
でも全身装甲自身にはダメージを与えたので、無傷ではない。
仮面は外したけど、両腕は切断した。
これで両腕からあの極太ビームは出せないだろう。
最大の武器を封じた。
それに、ココに来る前にモニタで見た全身装甲の動きなら僕の脅威にならない。
けど……
すごく嫌な予感がする。
煙で見えない全身装甲だけど、何かドクン・ドクンと胎動し、大気が膨れていくように感じる。
徐々に空気が圧迫されていく。
気を抜けば、膝をついてしまいそうな覇気。
そう、ナニカが生まれるような―――
『エメリウスが覚醒するぞ、ガイ』
―――そう、あれが覚醒なんだ
『よいかガイ、心して聞け。まずガイの単一仕様能力を発動させるんだぞ』
―――単一仕様能力(ワンオフ・アビリティー)?でもアレはISにしか……
『いや、そもそもガイの単一仕様能力にそのような制限はない。特に”神”を冠する者には絶大な効果がある』
―――とりあえず、アイツの動きを封じるんだね
『そうだ。そして、今ガイが持てる全力でアヤツを粉微塵にするのだ。いいか、粉微塵だ。塵ひとつ残すな、アヤツはそこから再生する』
―――わかったよ。僕の全力だね。うん、わかる。理解できるよ
『そうだ、今やガイは”木火土金水(もっかどごんすい)”の”五行”を修得したのだぞ!ならば使えるハズだ』
―――五行魂を―――
僕はイヅナちゃんと念話で打ち合わせを行った後、一夏と凰さんを見て言った。
「二人とも、今のうちに避難して」
だけど、これを良しとしないのが熱血一夏だ。
「待てよモモンガー!俺も手伝うぞ!」
「そうよ!あんたみたいなチンチクリン一人じゃ不安だわ!」
凰さんはえらく酷いことを言うけど、ハッキリ言わなきゃダメらしい。
「ゴメン、二人とも”邪魔”なんだ」
「―――なっ!?」
僕のストレートな物言いに絶句する一夏と凰さん。
でも本当のことなんだよ。
そして一夏は何か言いたそうだったけど、うっと声を詰まらせる。
たぶん僕が怖い顔をしているからだろう。
今すごく能面のような、無表情だと思う。
自分でも理解してる。
そういう表情をしているくらい頭がクリアになっているんだ。
―――もう、今はエメリウスを倒すことしか考えられない。
『お前達、あまりガイを困らせてくれるな』
「イ、イヅナちゃん!?」
突如イヅナちゃんがオープンチャネルで一夏と凰さんに話しかけた。
一夏はいきなりで焦るけど、凰さんはじっと僕を見ていた。
『お前達二人とも、”しいるどえねるぎい”の残量も僅かだろう?それに満身創痍だ。酷な言い方だが、今のお前達ではガイの足手まといにしかならんよ』
「う……それは……」
『それに、ココからは絶対防御という保険はない。正真正銘”命のやり取り”だ』
「命のやり取り?絶対防御が無いってどういう……」
『詳しい話しは後でする。とにかく今は退け』
イヅナちゃんが多少強引な説得をして、それに渋々頷いた一夏と凰さん。
よかった。
「勝てよ、モモンガー!」
「ふん、ゼクスファクターの実力ってものをしっかり見せてもらうからね!」
二人は僕に激励を贈ってピットへと避難した。
それを確認して、頭をクリアにする。
僕は倒す
何故倒す?
一夏を護るために
千冬さんを護るために
セシリアさんを護るために
箒さんを護るために
僕の―――『俺の』大切な人を護るために―――
【―――我の眠りを妨げる愚かな人間よ―――】
地を這うような低い、しかし澄み渡るような高い声が全身装甲からした。
あれが、黄金龍エメリウスの声か。
そして、土煙に包まれていた全身装甲は圧倒的覇気を放ち土煙を吹き飛ばす!
現れたのは両腕の無い全身装甲―――
しかし、黄金の仮面は自らが放っていると思う程光り輝き―――
紫の宝石のような瞳がキラリと輝いたと思った瞬間、切り落とされ無くなった両腕から”新たに黄金の腕”がズルンと”生えた”。
黄金の鱗に、無駄な脂肪などない筋肉、黒く長い牙のような爪。
その腕はまるで生きているかのような、恐竜の腕のようだった。
そして、全身装甲―――エメリウスはその生えた腕を天に翳した。
『―――!?いかん!空へ逃げるのだガイ!!』
【―――その愚行、死をもって償え―――】
エメリウスはそう言った途端、景色が一変した。
エメリウスが翳した腕から青白い電撃が放たれたのだ。
アリーナ全体に
バリバリバリバリッ!!と空間を引き裂く悲鳴に似た音と地面を削る爆発音、地響き、そしてフラッシュを焚かれたように視界が眩む。
壮絶な雷の攻撃に、アリーナの壁は傷だらけ、地面はえぐれ、爆散し、綺麗に整地された面影もなく、まるで荒廃した大地のようだった。
……なんつー威力だ……
明らかにISの許容を超えている。
僕はイヅナちゃんに言われてすぐに空に退避したから大丈夫だったけど、一夏達は大丈夫だろうか?
『安心しろ、一夏や千冬達は無事だ』
そう、よかった
『しかし、いきなり”蒼穿雷(あおきそらをうがついかづち)”とはな、大盤振る舞いではないか、エメリウスよ?』
イヅナちゃんは余裕そうにエメリウスに話しかける。
そんなエメリウスは、なんだか驚いているようだった。
イヅナちゃんとエメリウスは知り合いなのかな?
【―――貴様、”白面九尾”の姫か―――】
『そうだエメリウス、久しいな!久しいが、昔話などしている暇はないぞ!!』
【―――なんと、その姿……終極因使か。ふむ、我に再び眠りを与えるか―――】
『そうだエメリウス!我とガイの”らぶ”の力で貴様を虚無へと誘おうぞ!!』
ラブってめっちゃ恥ずかしいんですけど!?
【―――それもよかろう。しかし人間よ、貴様の力、終極因使を持つに相応しいか試させてもらう!】
そう言ってエメリウスは両腕を天に翳した。
『ガイ!先手必勝!単一仕様能力発動だぞ!』
―――了解!!
僕は風神槍を使って急降下した!
そして、地面に着地と同時に手の平を地面に付ける!
「能力(アビリティー)発動!!」
―――ドクンッ
僕の手の平を中心に空気が小さな波を打つ。
異変はすぐに現れた。
エメリウスの両腕に集まっていた青白い雷が霧散したのだ。
【―――これは、能力無効化……そうか、そうか!人間よ、貴様は―――】
エメリウスは何か驚き納得しているけど、僕はその隙を見逃さない!
『行けガイ!ガイの持てる全ての力をぶつけるのだぞ!!足止めは任せろ!』
サポートはイヅナちゃんに任せて、僕は力を集めるために集中する。
『樹翁鞭(じゅおうべん)!』
イヅナちゃんは”木”の力を使い、尻尾を樹木に変え、枝がエメリウスを拘束する。
これでエメリウスは身動き出来ない!
僕は右腕を腰に固定し、前傾姿勢をとる。
集中
集中
集中
右手に五行の力を溜める!
集められた力は力強いうねりとなり、また回転し、それぞれの力が融合していく。
そして、右手に現れるのは、光り輝く自然界の息吹、生命の球。
『行け!ガイ!!』
「やああぁぁぁぁっ!!」
風神槍によって一瞬でエメリウスの懐に飛び込み、僕は右手に集めた力を
僕の全力を
エメリウスの仮面にたたき付けた!
『五行魂っ!!』
僕と、エメリウスは光に包まれた―――
【―――心地好い……なんと心地好い魂か、しかしなんという巡り会わせか……流石は無頼の―――】
砂のように消えゆくエメリウスは、どこか嬉しそうに何かを呟いている。
【―――いや、言うまい。……人間よ、名前は何と言う?】
「百瀬凱」
【百瀬凱―――ふっ、そうか……”数多の世界で勝利する者”か、言い得て妙だな】
エメリウスは僕の名前を聞いてどこか納得したようだ。
でもこの名前は自称神様がモモンガーありきで考えた適当な名前なんだけど……
『エメリウスよ、消えゆく前に答えろ』
イヅナちゃんがオープンチャネルでエメリウスに質問しだした。
『貴様をこの世に甦らせたのは誰だ?』
イヅナちゃんは真剣に聞いている。
そして、エメリウスも先程までの嬉しそう雰囲気を消し、重苦しい空気に変わった。
【―――赤き蛇よ―――】
『……なっ!?』
エメリウスの言葉に驚愕するイヅナちゃん。
【用心しろ白面九尾の姫、百瀬凱。赤き蛇は貴様等でも倒すのは難しい相手だ。特に百瀬凱、貴様は赤き蛇との因縁が深い―――しかし……ふむ、だが、貴様等ならば―――】
―――我は信じているぞ、無頼の新生、百瀬凱よ―――
そう言ってエメリウスは消えてしまった。
残っているのは、残骸となった物言わぬ全身装甲のみ。
僕は最期のエメリウスのあの嬉しそうな声が心に残った。
「……エメリウスは、被害者なんだね」
『ああ、アヤツは温和な性格でな、太古の時代の封印の際も他の神獣と違い、特に抗うことはせなんだ。……まあ、寝起きが悪いのが玉に瑕だがな』
イヅナちゃんは少し淋しそうな声だった。
僕は改めて知った。
僕は自分に記憶がないから、人の記憶や過去にも特に執着しなかった。
だからイヅナちゃんの過去も別に知りたいとは思わなかった。
今、幸せならそれでいいじゃないか
そう思っていた。
でもそれじゃあダメなんだ。
イヅナちゃんは過去にエメリウス達神獣となんらかの関係があったんだろう。
そのために今イヅナちゃんは悲しい想いをしている。
だから―――
「……僕は、いろんなことを知らなきゃいけないんだね。そして、強くならなきゃいけない」
『そうだぞガイ。ガイは九尾を覚醒し、神獣を悪用している”赤き蛇”を倒すのだぞ!』
僕は護るんだ。
僕の大切な人達を。
でも僕はひとつ引っ掛かっていた。
エメリウスは、僕の事を『無頼の新生』と言った。
僕の名前を聞いて納得していた。
もしかしてエメリウスは、僕の『前世』を知っていたんじゃないか?
そして何かきっかけがあってその人物が僕の前世あると気づいたのではないだろうか?
エメリウスはイヅナちゃんと面識があった。
つまり、エメリウスが知りうる情報は、イヅナちゃんも知っている可能性があるんじゃないだろうか?
「……ねえ、イヅナちゃん。無頼の新生ってどういう意味?」
『――――――っ』
僕がイヅナちゃんに質問すると、息を呑む感覚があった。
「……さあな、我には見当もつかん」
イヅナちゃんは否定する。
……なんか怪しいけど、まあイヅナちゃんがそう言うなら、本当に知らないんだろう。
そう、僕の前世なんて、そんな些末なことは、今はいい。
今は、先の事を―――