IS - M・od   作:阪本葵

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第37話 お休みモモンガーと地獄の千冬

 

 

正体不明のISによる襲撃事件は、関係者に箝口令が敷かれた。

 

クラス代表対抗戦は結局中止になったけど、第3アリーナはエメリウスと僕の戦闘によってボロボロ。

復旧は突貫工事をしても一週間はかかるらしい。

 

大変だ。

 

 

一夏と凰さんはすぐさま保健室で医療検査を行った。

まだエメリウスは覚醒していなかったとはいえ、神獣の”感染”の疑いは消し去れない。

勿論、二人のISも精密検査を行った。

 

まあ結果、二人の身体、IS共に異常なしだったわけで、今頃箒さんやセシリアさんを交えて夕食を採っているところだろうなあ。

 

……いいなあ。

 

で、僕はというと、戦いの後シャワーを浴びたら有無も言わせず、この何処だかわからない真っ暗な部屋でイヅナちゃんと、織斑先生、山田先生、そしてそのほか数人の先生達と共に先の正体不明のISの残骸を分析していた。

 

ご飯食べてないのに。

お腹空いた……

 

……そして眠い。

 

「百瀬君がこの全身装甲に与えたダメージが微々たるもので助かるわ。データが取り放題よ!」

 

白衣を着た女性がニコニコしながら全身装甲を眺め、僕の頭を撫でる。

くすぐったいです。

そしてすごくいい匂いがします。

 

「ふむ、神獣だけを完全消滅できる能力、五行魂か……ゼクスファクターだからこそできる所業かな?」

 

ううむ、と顎を撫でながら全身装甲に厳しい視線をおくる別の先生。

この人も女性だ。

 

というか、この場には僕を除いて女性しかいない。

そもそもIS学園には僕と一夏以外に男性を見たことがない。

 

一夏は壮年の男性が用務員さんで何度か話したことがあるといっていたけど、僕は未だ出会えないでいる。

 

 

しかも女性は美女、美少女ばかりだ。

 

この学園は容姿も裁定してるのかな?

だとしたら僕は男でよかった。

僕が女だったら、容姿で落とされてただろうからね!

 

しかし眠い。

大人の女性がつける香水がますます眠気を誘う。

先生だから控え目の香水つけてるんですね。

バラの香が……

 

……もうここで寝てしまいたい。

 

 

 

「……織斑先生、やはりこのISは無人機だったようです」

 

山田先生は厳しい、しかし信じられないという表情をしていた。

それを聞いた織斑先生はいつもの表情を崩さず腕を組んで、そうかと短く答えた。

 

「しかもこのISに積まれていたコアですが、登録されていないコアでした」

 

「……そうか。イヅナ聞きたいことがある」

 

織斑先生はイヅナちゃんを見る。

 

イヅナちゃんは僕の膝の上で足をブラブラさせてつまらなそうに全身装甲を見ていた。

そんなイヅナちゃんは、織斑先生に声をかけられると、何を聞きたいのか理解していたようで短くこう言った。

 

「この正体不明の”あいえす”の事ならわからんぞ。”こあ”も心当たりがない。勿論、ガイも知らないぞ」

 

「……そうか……おい百瀬、起きろ」

 

「……んあ?」

 

……おっと、どうやらうつらうつらと舟を漕いでいたようだ。

 

「そう言ってやるな千冬。ガイも全力を出して疲れているのだ」

 

「む……」

 

イヅナちゃんは僕の頭を撫でながら優しくフォローしてくれる。

 

あふぅ、それがまた眠くなるんですよ……

 

「どうだろうか、ガイだけでも帰してやってくれんか?」

 

イヅナちゃんが織斑先生にお願いしてくれてる。

 

ああ、ありがたい……

 

「ふう、仕方ない。百瀬の聴取は明日とる事にしよう。百瀬、今日はご苦労だったな、部屋で休め」

 

おお、寝てもいいんですね?

 

では……おやすみなさ〜い

 

 

 

「……おい、百瀬?ここで寝るんじゃない、部屋で寝ろ。百瀬?百瀬?……はあ、完全に寝てしまったな……」

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

凱が完全に寝てしまった。

 

体を揺すっても起きないとは……

かなり寝付きもいいようだし、羨ましい限りだ。

 

しかし、まあ無理もない。

先の戦闘はまさしく命のやり取りだった。

 

ISの絶対防御などという保険によって、最悪死にはしないという昨今のぬるま湯に浸かるような考えが通用しないのだ。

 

相当神経を使ったであろう事は、見ていてもわかった。

端からもわかる緊張感は、久しく忘れていた真剣勝負を思い出させてくれた。

 

……しかし……

 

それはともかく・・・

 

 

凱の寝顔はかわいいな……

 

スースーと寝息をたて、壁にもたれ掛かり寝る姿は、まさに子犬の寝姿を彷彿させる。

 

 

……山田君、君は凱の寝顔を見て何をハアハアと息遣い荒くしているのだ?

 

他の教諭も、和んでないで今は調査が先だろう。

 

 

 

とはいえ、このまま凱をこんな体勢で寝かせるわけにはいかん。

最悪体調を崩してしまう。

 

「仕方ない、とりあえず百瀬を部屋に連れていくか」

 

うむ、仕方ないな、私が連れていくしかあるまいな。

私は一年の寮長であるし、それにこんな小動物のような奴でも、大事な家族、弟なのだから。

まったく仕方ないことだ。

 

 

「お、織斑先生!私がおんぶしていきます!」

 

山田君が勢いよく挙手する。

 

だから、なぜそんなにハアハアと呼吸を荒げる。

 

そしてその発言によって場の空気が変わった。

 

―――これは―――−

 

獲物を狙う肉食獣のソレだ。

 

「山田先生、君のような華奢な体では百瀬君を抱けないでしょう?そうだ、私が彼を背負っていくわ」

 

「えっ!?だ、大丈夫ですよ!?」

 

「いやいや、ここは私が連れていくわよ。最近体が鈍っていてね、彼くらいならちょうどいいトレーニングになるだろうし!」

 

「わ、私が責任を持って百瀬君の部屋に連れていきます!!大丈夫ですから!!」

 

 

……山田君はじめ、他の教諭の目がヤバい。

 

IS学園の教諭はこんなにも男に餓えているのか?

 

 

 

いや、違うな

 

山田君はともかく、あの二人は凱をペットかおもちゃだと思っているのだろう。

 

 

女尊男卑の風潮は根深い。

 

IS学園の教諭とは、その風潮の風上にいる人間だ。

 

『私達が未来を担う、世界を動かす女性を育てる。男など不要』

 

それがIS学園での教師の大多数の思想である。

彼女達はISについて指導できるほど優秀であるが故、無駄にプライドが高く、女尊男卑思想は顕著なのだ。

いくら女尊男卑の思想を持たずに教諭をしていたとしても、この環境に長く入り浸ってしまえば、そんな男という生き物を軽んじる考えに変わってしまってもおかしくない。

 

まあ、中には山田君のような男性に免疫がない人間もいるが。

 

そういう免疫がない人間は異性に過大な期待と妄想をするが―――いや、この話しはいい。

 

とにかく、彼女達は寝ている凱にあわよくばイロイロ(性的な)悪戯でもしようという腹積もりなのだろうな。

 

女が送り狼になるとは、世も末だな。

 

 

……ハア

 

「……千冬よ、近くまで一夏を呼んでくれ。そこまでは千冬がガイを運んでくれ」

 

イヅナも呆れ果てているようで、素早く打開策を打ち立てた。

 

うむ、それが一番安全だな。

凱の操の危険は守られたぞ。

 

 

山田君、そんな悲しそうな顔をするな。

 

他の教諭も、チッとか舌打ちするな。

 

 

私は山田君達からの厳しい視線を浴び、凱を背中に乗せた。

 

 

 

 

 

しかし、私は後悔した。

 

 

 

 

「うぅ……ん……ちふゆ……おねえ……ちゃんおねえちゃん……」

 

寝ぼけているのか、しきりに私の背中でやたらとお姉ちゃんを連呼するのだ。

まさか、寝言ではあるまい。

 

ああっ、そんな髪に頭をグリグリと押し付けるな!

 

匂いを嗅ぐな!!

 

くすぐったい!

 

「おねえ……ちゃん……うぅ……おねえちゃん……」

 

……これは呼びかけか?

もしかして応えるまでずっと連呼するつもりか?

しかも段々ぐずり始めた感じがするぞ。

乳離れ出来ない子供か、お前は?

それはそれでずっと聞いていたい気が……

いや、いかん。

自身を戒めねば!

 

「……なんだ、凱」

 

私は寝言に応えた。

……何を馬鹿なことをしているんだ、私は……

 

しかし、私の声に安心したのか、凱はにへらと笑みをこぼした。

 

そして、衝撃的な言葉を発したのだ!

 

 

 

「おねえ……ちゃん……だいすき……」

 

 

 

「―――っ!?」

 

 

 

なんという不意打ち!

 

いかん、鼻の奥がツーンとしてきた。

鉄の匂いが嗅覚を支配する!

 

鼻から液体が流れ落ちる。

 

 

私はなんとかポケットからティッシュを取り出し鼻を塞ぐ。

 

 

 

このっ……!

 

なんという寝言を言うのだ!?

 

 

 

ときめいてしまったでは……ゲフンゲフン!!

 

 

 

ダメだ、起こそう。

 

そう思い凱の顔を背中越しに見た。

 

 

 

 

……くっ、なんという幸せそうな寝顔だ……

 

 

 

癒される……

 

 

 

こんな顔されたら起こせないではないか!!

 

 

結局、私は凱の寝顔に癒されつつ、また寝言に精神力をごっそり削られつつ一夏との待ち合わせ場所まで運んだのだった。

 

 

 

 

 

 

翌日、凱を問いただした。

何を寝ぼけていたのかと。

しかし、どうやらあれは寝言だったらしい。

 

そして夢を見ていたそうなのだが、その夢が……

 

「千冬お姉ちゃんがお寿司をひたすら食べて止まらないので、止めようとしたら『私はマグロが大好きだ!』って力説して延々とお寿司を食べてる夢を見てましたー」

 

……

 

………

 

………まあ、寿司は好きだが……

 

 

 

このやるせない気持ちをどうしようか……

 

 

 

とりあえず凱の頭にゲンコツを落とした。

 

言っておくぞ。

 

 

 

期待なんぞしてなかったからな!!

 

 

 

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