俺は今、箒やセシリア、鈴達と夕食を採っている。
あの正体不明の全身装甲ISが乱入してきた事でクラス代表決定戦は中止になった。
あの時のモモンガーはすごかった。
攻撃がまったく見えなかったし、あの正体不明のISもとんでもない攻撃力だった。
アリーナ全体に広範囲電撃なんて、どう回避しろってんだよ!
まあ空に逃げればいいんだけど、俺には無理だ。
それでも、さらにその強さの上を行くモモンガー。
ゼクスファクターってのは本当に最強なんだということをつくづく痛感した。
そしてその正体不明のISについてだが、アレに関わった俺達に箝口令が敷かれた。
更に誓約書まで書かされた。
まあそうとうヤバい奴だってのは肌身に感じたが……
俺と鈴はあの後精密検査を受けさせられた。
なんでも、あのISは毒みたいのを撒き散らすらしく『感染』してないかの検査だとか。
まあ異常なしだったわけで、俺達はこうしていつも通り晩飯にありつけるわけだ。
そういえばモモンガーは何処に行ったんだろうか?
なんかモモンガーはあのISについて知ってるみたいだったから、出来れば教えてもらいたがったんだが……
ああ、言い忘れたが俺と鈴は仲直りした。
俺が鈴との約束を間違えて覚えていたんだ。
”毎日酢豚をおごってくれる”
じゃなくて
”毎日酢豚を食べさせてくれる”
だった。
いまいちどう違うのかわからん。
でも、もしかしたら”みそ汁を毎日作ってくれる”的な重要な内容だったらこれは一大事だ。
で、俺は鈴に聞いてみたんだが、鈴から「そんなわけない」と否定された。
うーむ、自意識過剰だったか?
そこで俺達は改めて仲直りし、ついでに鈴とも仲良くなった箒やセシリア達と晩飯を採ってるというわけだ。
うむ、きょうも白い飯が美味いな。
晩飯を食べ終わり、俺と箒は部屋に帰り、今日はもう早く寝るかなとか考えてると、俺の携帯が鳴った。
誰だ?
着信は千冬姉からだった。
めずらしいな。
「もしもし?千冬姉か?」
『一夏、すぐに職員室まで来てくれ』
電話口の千冬姉はなんか疲れた感じを受けた。
「いや、行くのはいいけど何の用だ?」
『事情聴取を受けていた凱が寝てしまってな。引き取りに来てくれんか』
なるほど、そういうわけでモモンガーはいなかったのか。
「わかったよ、すぐ行く」
俺は通話を切り、モモンガーを迎えに行くことにした。
「……なんでお前達もついて来るんだよ?」
俺は職員室の前でモモンガーを待っていた。
何故か箒、セシリア、鈴達と一緒に。
つーかなんでこいつら付いて来てるんだ?
皆今日は疲れてるだろうに。
「凱さんからイロイロお聞きしたいことがあるので」
「そうだな、私達は当事者で箝口令が敷かれたが、真実を知る権利はあると思うぞ」
セシリアと箒は腕を組んでそんなことを言うが、そんなことを聞くためにここまで付いてきたのか。
部屋で待っていれば呼ぶのに。
あ、ダメだった。
たしかモモンガーは今……
「いや、モモンガーは寝てるらしいぞ?千冬姉が連れて来るとか言ってたし」
「もう寝てるの?早過ぎじゃない?見た目通りお子ちゃまね」
鈴はやれやれと肩を竦める。
「そう言ってやらないでくれ鈴、モモンガーも相当疲れてるんだ」
つーか、あんな化け物と戦ったんだから疲れて当然だろ。
「ふん、ゼクス・ファクター・Mもふがいないわね」
ゼクスファクターエム?
なんか前もそんな単語言ってたな鈴の奴。
「鈴さん、以前も凱さんにそのような事をおっしゃってましたが、なんですのそれは?」
「簡単よ、終極因使・(ゼクスファクター)百瀬凱(ももせがい)だから、頭文字のMを取っただけ。私がIS学園に転入する前あたりから世界中で言われてたのよ、『世界で唯一の究極に至った者、ZXーF・M』ってね」
「へー、そうなのか、知らなかったぜ」
世間ではそんなに有名なんだなモモンガー。
でもIS学園ではそんなに世界が騒ぐ程大事にはなってないよな?
「IS学園はいい意味でも悪い意味でも外界と隔絶されてるからな、あまり外の情報は入ってこないんだ。しかし、学園の何処かの生徒がモモンガーの力を”外”に漏らした事で、一夏より注目を受ける羽目になった。それでその呼び名か……」
「これから凱さんはさらに辛い立場になりますわね……」
辛そうな顔をする箒とセシリア。
ん?
なんでモモンガーが辛い立場になるんだ?
「簡単よ、ゼクスファクターは”机上の空論”と言われていたけど”最強”であるという認識は世界の共通であり、周知されているわ。で、そのゼクスファクターが実在した、つまり世界最強が存在するということね。となると、これから世界中で、最強の存在であるあいつを自国もしくは自社に引き込もうとしに来るわ。もしかしたら学園内でもそういう動きが起こるかもしれない。あいつ一人で世界のバランスは崩れる。あいつを引き込んだ国、企業がイコール『世界最強』になるんだから」
……そうか
……実は、俺はモモンガーが羨ましかった。
あの絶対的な強さは、俺が求めた大切な人を”護る為の絶対的な力”だったから。
俺にも白式という力がある。
でも未熟だし、モモンガーのゼクスファクターは俺より遥か高みの力だから。
だから、羨ましかったし、心のどこかで嫉妬していたと思う。
”大いなる強さには大いなる責任が伴う”
昔見たヒーロー映画でそんなことを言っていた。
モモンガーは絶大な力を持つことで、世界からから注目され、狙われる存在になってしまった。
それは、俺が世界で初めてISを動かせる男だとわかった時の比じゃない。
あんな小さな体のモモンガーを、世界が狙うなんて……
なんか言い方がエロいけど、事実だし仕方ないよな!
でも、そんなことさせない。
千冬姉に言ったら呆れた顔で殴られるだろう。
イヅナちゃんが聞いたらやれやれと呆れるだろう。
モモンガーが聞いたら……多分いつも通り笑ってるな。
俺がモモンガーを護る。
モモンガーはもう俺達の仲間、家族だ。
だから……
「そんなことさせねー」
「一夏?」
「モモンガーの嫌がることなんてさせねー。世界中が敵になっても、俺はモモンガーを護る」
「一夏さん……」
「モモンガーは俺の、俺と千冬姉の家族だ。大切な家族だ!だから、俺は絶対モモンガーを護る!」
「……」
俺は決意を口にした。
思わず力が入り、グッと拳を握ってしまった。
どんだけ熱血なんだか。
そう恥ずかしがっていると、箒と鈴は俺を見てポーッとし、セシリアは微笑んでいた。
なんだ?
セシリアは普通だけど、二人とも顔が赤いぞ?
やっぱり皆疲れてるんじゃないか?
「……待たせた」
そうこうしていると、千冬姉がモモンガーを背中におぶって現れた。
……普段は俺にも滅多に見せないような疲れた顔で。
「だ、大丈夫か千冬姉!?なんでそんなにフラフラなんだよ!?」
俺が急いで千冬姉に駆け寄ると、千冬姉は無言で俺にモモンガーを託した。
モモンガーを背負うと、モモンガーの小ささを改めて認識する。
俺の背中に隠れるし、なにより軽い。
スースー寝息を立てて、熟睡している。
相当疲れているんだな。
そして寝ているからか、体温が高く暖かい。
本当に子供みたいだ。
「……後は頼んだ」
そう言って、千冬姉はまたフラフラしながら何処かへ行ってしまった。
本当に大丈夫か?
千冬姉に限って無いとは思うが、まさか過労か?
まあいい、とにかくモモンガーを連れて帰ろう。
つんつん
「……」
つんつん
「……ん~」
つんつんつん
「んぅ~……ゃぁん……」
ズキューン!
「はうっぅ!?」
「ほ、箒さん!次はわたくしですわよ!!」
「お前らなあ……モモンガーで遊ぶなよ……」
俺がモモンガーを背負って帰路を歩いていると、箒達は寝ているモモンガーにちょっかいをかけはじめた。
はじめは見ているだけだった。
「寝顔も……いいもんだな……」
うっとりしながら呟く箒。
激しく同意だ。
「天使の寝顔ですわ……」
頬に手を当てはふうとため息をつくセシリア。
うん、言いたいことはわかるぞ。
「……こいつ本当にあたしらと同い年なの?その寝顔もう赤ちゃんじゃん」
ふんと鼻を鳴らして興味なさそうにしながらも、チラチラと安らかなモモンガーの寝顔を見る鈴。
そして、見ているだけでは我慢出来なくなった箒達は、寝ているモモンガーにちょっかいをかけはじめたのだ。
まあ、頬をつんつんつついて反応を楽しんでいるだけだけどな。
でもあまりやり過ぎるとモモンガー起きるぞ?
「はぅぁ……このきめ細やかな肌に、弾力と柔らかさを合わせ持つ感触……なんて羨ましい」
セシリアがモモンガーの頬をつんつんつつきながら呟く。
セシリアの肌も綺麗だと思うがな?
というか、最近分かったんだが、セシリアはモモンガーの事になると知的キャラが崩壊するな。
今の顔はクラスメイトに見せられないぞ。
鏡見ろ、鏡。
鈴はセシリアの次にモモンガーを触ろうとしているのか、セシリアの横でモジモジ順番待ちしている。
なんだかんだでお前もモモンガーにやられてるんじゃないか。
「……はあ」
モモンガーも大変だな。
まあ、箒達の反応もわからなくはない。
何故なら、背負ってる俺もモモンガーの体温と息遣いを感じでドキドキしているからだ。
おふうっ!
首筋に鼻息が、フワフワの髪がかかる!
背中にプニプニの頬の感触が!
小さい体の危うさが!!
俺が一人身悶えていると、箒が何か思いついたように言った。
「んんっ!おほん!一夏、疲れただろう?どれ、私がおぶるのを変わってやろう」
変わってくれるのはありがたいが、今のお前のアブナイ目つきを見たら、モモンガーを預けたくないぜ。
「箒さん!?今度はわたくしが先ですわよ!」
セシリアよ、いつ順番を決めた?
本当にセシリアは変わったな。
変な方向に。
「……なに喧嘩してんのよ……ほら一夏、変わりなさいよ」
そしてごく自然な動作で横から掠め取ろうとする鈴。
こいつは策士だな。
「鈴さん!?あなた何勝手に割り込んでますの!?」
「あ、あたしはただ一夏が大変だろうなーって思っただけなんだけど」
「貴様はモモンガーに興味はないのだろう?無理しなくていいぞ。それに、その小さな体では大変だろう?」
「……いい度胸してるじゃない。」
……
………あーっ!!
「お前らいい加減にしろよ。モモンガーが起きるだろ!あんまりうるさくするならもうついて来るな!」
まったく!
こいつらはモモンガーを何だと思ってるんだ!
モモンガーは俺の家族だぞ!?
つまり、俺のものなんだ!
誰にも渡さないからな!!
「―――っ!!」
ギンッ!!
そう考えていたら、セシリアにすごい殺気を向けられて睨まれた。
ひぃっ!?
な、なんだ!?
なんでそんなに怒るんだ!?
「……凱さんはそんな危ない道に歩ませませんし、あなたには渡しませんわよ……」
地を這うような低い声に、俺は少しちびりそうになった。
箒や鈴も顔を青くしてドン引きしてる。
ひとりモモンガーだけがすやすやと寝息を立てていた。