IS - M・od   作:阪本葵

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第39話 イヅナ語る 壱

 

織斑先生が百瀬君を送ってしばらくすると、フラフラとおぼつかないあしどりで帰ってきた。

そんなに疲れることだったのだろうか?

というか、私が一番に願い出たのに、他の先輩教師に横槍を入れられ、ついにイヅナちゃんが怒り、織斑先生がおぶって行くことになったのだ。

トンビに油揚げを掻っ攫われるとはまさにこのことだろう。

でも、その油揚げを獲得したハズの織斑先生は何故か疲労困憊、息も絶え絶えだった。

一体何があったんだろう?

私は織斑先生に聞いてみた。

 

「お、織斑先生、大丈夫ですか?」

 

「ああ……大丈夫だよ、山田君……ハァ……」

 

……そんなため息をつかれたら、大丈夫には見えないですよ、織斑先生。

 

「……ふぅ、さてイヅナよ、お前の知る全てを喋ってもらうぞ」

 

織斑先生は、一息つくといつもの凛々しい顔で背筋をピンと伸ばしイヅナちゃんを見た。

ああ……かっこいいです……

でも、その当のイヅナちゃんは難しい顔で腕を組み、先輩教師達を見て、こう言った。

 

「喋るのは構わん。ただし、千冬と摩耶の二人だけに、だ」

 

これに他の二人の先輩教師は怒りをあらわにした。

 

「私達には教える事ができない、そういうことか?」

 

「IS風情が生意気な……」

 

当然先輩達は怒るし、仕方がないことだと思う。

まあ、IS風情なんて言い方は良くないと思うが……

 

「あいえす風情、な。貴様等はその言葉の意味を理解して吐いているのだろうな?」

 

瞬間、イヅナちゃんの小さな体からとてつもない圧力を感じた。

空気を圧迫するような、息苦しくなる雰囲気。

体がズシリと重くなる。

背中に、何かがのしかかるような、しかも支えきれず足が震えるような。

背中や額からどっと汗が吹き出る。

鼓動が跳ね上がり、心拍数が上がる。

ますますガクガクと膝が震え、まともに立てなくなる。

 

そして、瞳から流れる涙。

 

脳を支配する『死』のイメージ。

 

銃を突き付けられ銃殺

 

包丁による刺殺

 

首をロープで絞められ絞殺

 

ビルからの飛び降り自殺

 

IS武装を生身で受け惨殺

 

どこかのテロ組織に拉致され、拷問され、揚句苦しみぬきながらの殺害

 

様々な死が駆け巡る。

 

―――ああ、そうか

 

私は死ぬんだ

 

私は、駆け巡る死のイメージと、走馬灯に、心の中で母にさよならと別れを告げた。

 

 

「イヅナ、あまり虐めてやるな。お前の殺気は私でさえきついのだからな」

 

「……ふん」

 

織斑先生がやれやれと肩を竦めてイヅナちゃんを諌めると、イヅナちゃんから放たれた圧迫は霧散した。

 

殺気?

 

……あれが、あんな明確な死をイメージできる圧力が『殺気』なのか……

 

二人の先輩達は、ガタガタと震え、ひざまづいていた。

涙を流し、涎を垂らし、普段は凛とした佇まいで、IS学園の生徒の見本であるような姿が、およそIS学園の教師という『エリート』とは思えない醜態を曝して。

 

「さて君達、IS風情などと軽々しく口にしないことだ。私達の今の地位は君達の言うその”IS風情”があってこその地位だと、ISが無ければただの”か細い脆弱な女”でしかないと認識したまえ。それがわからない今の君達に、イヅナの話しを聞く資格はないよ」

 

織斑先生は二人の先輩教師に向かってそう言うと、その二人はひっと短く悲鳴をあげ部屋を出ていった。

さすがブリュンヒルデ、ひと睨みで退去させましたよ。

 

「……さてイヅナよ、邪魔者はいなくなったぞ。洗いざらい喋ってもらおうか」

 

「わかった。だが先に言っておくが、今から話すことはガイは全く知らん。だから、ガイを問い詰めても意味は無いとだけ言っておくぞ」

 

「わかった」

 

百瀬君は今回の件に関して全く関与していないと前置きし、イヅナちゃんはゆっくり語りだす。

そして、とんでもないことを語りだしました。

 

「まず、我はこの世界の住人ではない」

 

「えっ!?」

 

開口一番の言葉に私は驚いたけど、織斑先生は神妙な顔で聞いていた。

 

「……予想はしていた、イヅナは自身をISと言いながらも、あまりにもISのカテゴリーから逸脱しすぎている。それに、イヅナにはコアナンバーもない。まあ、これは当然か?」

 

どうやら織斑先生は薄々気づいていたようだ。

さすがです、織斑先生!

 

……あ、そうか、だからイヅナちゃんがいても世界のコアは467個なのか。

今気付いた!

 

「それで、我等がいた世界だが、数多の次元世界が干渉しあい、また多くの種族がいたのだ。

 

まずは神である『神族』

 

悪魔である『皇魔族』

 

そして……ん?どうした、千冬、摩耶?」

 

 

「……いや、なんでもない……」

 

イヅナちゃんは話しを中断した。

なぜなら私と織斑先生が頭を抱えていたから。

いきなり神とか悪魔とか、そんなお伽話のような、斜め上をマッハで突き抜けるような事を言われて処理できないのだ。

ISは科学の塊だ。

そこに神とか悪魔とか神話めいたものが介入するなんて、誰が予想できただろうか?

少なくとも私は予想だにしていなかった。

 

「まあいい、話しを続けるぞ。

他の種族は『人間』『翼人』『獣人』『竜人』『魔人』『機人』、

そして『羅震鬼』と我等『魂獣』だ。

羅震鬼には『王我血族(オーガけつぞく)』『鋼牙属』『氷麟属』『炎翼属』『雷角属』が存在し、

魂獣も『青龍』『朱雀』『白虎』『玄武』『麒麟』『隠神形部(いぬがみぎょうぶ)』、そして我の種族『白面九尾(はくめんきゅうび)』と分けられる。

 

今現在発見され、交友がある世界はこれだけだが、未だ見つかっていない世界もあるからな。とりあえず、というところだ。つまり、多種の種族が数多の世界に存在、干渉し合い、まあ小さないざこざはあったが概ね平和な世界だったのだ」

私は、すでにイヅナちゃんが何を言っているのか理解出来なかった。

そこへ、織斑先生が質問を投げかける。

 

「……質問だ。イヅナ、お前はこの全身装甲』見て凱にこう言ったな?『機人族の出来損ない』だと。それはつまり、お前のいた世界では全身装甲のような存在は当たり前だった、ということか?」

 

織斑先生の質問に、イヅナちゃんは横たわる全身装甲を見て、ふんと鼻を鳴らした。

 

「こんな人形とは違う。キチンと意思を持つ一つの種族として存在していたぞ。機人族は、展開によって各部品を換装して対応するから、敵にまわせば厄介な奴だな。それに、部品交換が可能な体だから、基本寿命などというものは存在しないから、長き年月を生きているために面倒臭い捻くれた性格の奴が多かったな」

 

「なんというか、想像できない世界ですね……」

 

私はポツリと呟き、その意見に同意する織斑先生が、そうだなと小さく頷いた。

 

 

「まあそれはいい。そんな世界で我は静かに暮らしていたが、神によっていつの間にか我はガイの側にいたのだぞ」

 

「……待て、いきなり話しが軽くなってないか」

 

織斑先生がイヅナちゃんに待ったをかける。

私も思った。

イヅナちゃんがこの世界にいる理由が”いつの間にか”って、なんてアバウト!

 

「仕方なかろう、いきなり見たこともない神に勝手にこの世界に連れて来られたのだ。理由など知らんわ」

 

ぷいと首を横に振り口を尖らせるイヅナちゃん。

かわいいです。

ていうか、見たこともない神様がいるということは、見たことがある神様もいるという事?

神様を見れるなんて、なんて世界なんだろうか。

 

「我が見たことがある神は、五光神である『光龍神リュウガ』とその息子、超星神である『超煌神(ちょうこうしん)マキシウス』だけだな。マキシウスなど頻繁に地上に降りてきて人間の女を口説いていたぞ。あとは最高神である『調和神バランシール』か。まあ最高神だから滅多に公の場に現れないから、我も見たことはないな」

 

「……それは本当に神なのか?」

 

織斑先生は疲れたような表情でイヅナちゃんを見てため息と共に漏らした。

 

その気持ちわかります、織斑先生。

 

イヅナちゃんの語る真実は、まだ続く―――

 

 

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