僕とイヅナちゃんが束さんのところに転がり込んで一ヶ月程経ったとき、束さんが僕に言った。
「がーくんさー、学校行きたくない?」
束さんはいつも話が唐突だからその思考の回転速度についていくのが大変だ。
それよりも僕にはわからない単語が出てきたので、はいっと挙手する。
「束先生、ガッコ―とはなんぞや?」
「え!?そこから!?」
束さんが珍しく驚いていた。
僕、そんな変なこと聞いた?
で、束さんから学校というもののレクチャーを受けた。
簡単に言うと勉強して立派な社会人になろうね!というところらしい。
…束さんは立派な社会人なのだろうか?
「それで?なんですか急に」
束さんはニコーッと笑うと、テレビの画面を僕に向けた。
なんだ?と僕は画面を見た。
なにやら緊急特番のようだが?
ふむふむ、世界で初めて男性がISを起動させた?
名前は織斑一夏?
へー、すごいすごい。
ゴイスーですね。
……?
織斑一夏?
はて、どこかで聞いた名前だが……
『ガイ、ガイ』
僕が首を捻って考えていると、イヅナちゃんが呆れた顔で念話で言った。
念話とは、テレパシーのようなものだ。
便利なものだ。
イヅナちゃんは念話について「我とガイの愛の深さが成せる奇跡だ!」とか言っていた。
まあ僕とイヅナちゃんは家族同然だから、当然だろう。
『ガイよ、お前まさか神の言っていた事を忘れたのか?』
『神様何か言ってたっけ?』
僕がポケーッとしながら答えると、イヅナちゃんはため息をついた。
あれ、もしかして重要な事だったのかな?
「ISは女性しか扱えないんだよ」
束さんが僕に言う。
「はー、そうですねー」
それはわかっています。
これは束さんから聞いたから知っている。
「そのISをいっくんは起動させたんだよね」
「はー、すごいですねー」
いっくんというのは恐らく織斑一夏のことだろう。
もうあだ名をつけたのか。
「がーくんボーッとしてるけど、意味理解してるかな?」
おや、束さんが呆れている。
「わかってますよー。織斑一夏君が世界で”ただ一人”、”男でISを扱える”んですよねー。いやー、すごいですねー」
うんうん、すごいよ。
僕が感心して頷いていたら、束さんとイヅナちゃんがため息をついた。
なんだ、悩み事か?
「ガイよ、お前今自分で言っておいて違和感ないのか?というか自分の立場わかってるか?」
うむ、イヅナちゃんの呆れ顔もかわいいですね。
「わかってるよー。記憶喪失の住所不定、怪しい人間、百瀬凱。あだ名はモモンガー」
「わかってないねー、がーくんってば」
「……ガイよ、お前は自分が全くわかってないぞ」
束さんとイヅナちゃんに怒られた。
「ガイよ、我はなんだ?」
ん?
イヅナちゃんは僕の大切なパートナーでしょ?
「そ、それはそうだが、そういう意味で聞いたのではない!我はどんな存在かと聞いているのだ!」
イヅナちゃんの存在……
たしか紲晶石っていう秘宝に宿る精霊みたいなものだよな?
魂獣だっけ?
「そうだ。では、紲晶石はこの世界ではどんなカテゴリーに当て嵌まる?」
カテゴリー?
………あ
「そうだ。我はこの世界では『ISに分類される』。ということは、だ。我と『契約』しているガイはなんだ?」
「なるほど……僕”も”ISを扱える男っていうことか」
「非公開、非公式だけど、がーくんはいっくんよりも早い、真の『世界で初めてISを扱える男性』なんだよねー。いやーすごいねがーくん!」
のほほんとそんなことを言う束さんだが、僕は「それが何か?」と首を捻るしかなかった。
なにか含みのある言い方をする束さん。
おそらく何か考えがあるのだろう。
マスコミに公表するとか?
いや、仮に僕がISを扱えると公表したとして、それが何になるというのだろう?
あまり頭が良くない僕には、束さんが何が言いたいのかよくわからない。
そんな僕の混乱ぷりがわかったのだろう、束さんはクスリと笑った。
「まあいろいろあるんだよ。国の思惑とか、大人の都合とか、利権とか、ね。でもね、そんなことはどうでもいいんだよ」
束さんはそう言って僕の手をギュッと握る。
「いっくんを助けて欲しいんだよ」
相も変わらずニコニコ笑みを崩さないが、どことなく真面目な顔の束さん。
この人こんな顔もできるのか……
「いっくんはね、私の大切な幼なじみさんなんだよ。がーくんにはいっくんを手助けしてほしいんだ」
なるほど、幼なじみか。
だからたやすくいっくんなんて言っていたのか。
「いっくんはステキな男の子だけど、これからいっくんに待ち受ける試練は一人で背負うには重すぎると思うんだー」
待ち受ける試練
この軽口のような言葉はどれだけの思い、想いが含まれているのかはわからない。
きっとイロイロな意味が含まれているであろうことは想像に難くない。
束さんははっきり言って考えが飛び抜け過ぎて凡人の僕ではその思考についていけないが。
しかし束さんが織斑一夏を心配しているのは確かだろう。
それくらいはわかるつもりだ。
誤解されそうな変態寄りの天才ではあるが、優しい人なのは間違いない。
だから、僕の答えは決まっているのだ。
「わかりました」
あっさりと承諾した僕の顔を、目を点にして見る束さんとイヅナちゃん。
「……ガイよ……いつも言ってるだろう?少しは物事を考えろと。あっさりと答えすぎだぞ……」
イヅナちゃん少し怒ってる?
いや、これでも考えたんですよ?
「考えたよ。束さんの幼なじみが困ってるんでしょ?そして僕には織斑一夏君を助ける力があるから、束さんが僕に頼んだんでしょ?じゃあ僕はそれに応えたいし、断る理由もないんじゃないかな」
「………」
おや、イヅナちゃん今度は呆れた顔をしてますよ。
僕何か変なこと言ったかな?
「……ふっ、我はお前をまだまだ過小評価していたようだな」
イヅナちゃんが笑った。
コロコロ表情を変えるイヅナちゃんはかわいいです。
「なんと器の大きいことか。我はガイを誇りに思うぞ」
なんか勘違いされてるっぽいが、納得してくれたようなのでいいか。
おや、なにやら静かだと思ったら束さんが黙っていた。
俯き、プルプル震えている。
風邪かな?
「やーん!がーくん、カッコイー!だいすきー!!」
いきなり満面の笑みで僕に抱き着く束さん。
僕は束さんより背が低いので、必然束さんの胸に顔を押し付けられる形になる。
相変わらずの乳圧ですね!
僕は窒息しそうです!
どさくさに舐めてもいいですか!?
「こらー!獣人族ー!さっさとガイから離れんかー!!ガイもデレデレするなー!!」
イヅナちゃんがプンプン怒って僕と束さんを引きはがそうとする。
イヅナちゃん
もう少しこの天国を味わわせてください。
ビバ、おっぱい!!