IS - M・od   作:阪本葵

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第40話 イヅナ語る 弐

イヅナちゃんの荒唐無稽とも取れる真実に私こと山田麻耶はすでに思考回路が焼ききれかけていた。

なんとか内容を噛み砕き、信じられない内容を理解、納得しようと努力する。

 

そんな私をチラリと横見した織斑先生は、ふうと小さく息を吐いた。

 

……すいません……ふがいない後輩で……

 

「……話しを変えようか。神獣とはなんだ?」

 

織斑先生が今一番知りたい情報を聞く。

 

思わず、私はゴクリと喉をならしてしまった。

 

「神獣とは読んで字の如く”神の獣”だ。ただし、それは総称だがな」

 

「総称?」

 

「『皇魔族』『神族』『羅震鬼』このいずれか三族に属し、または追放された者だ。大概は羅震鬼だが、『黄金竜エメリウス』等は神族だな」

 

「……イヅナはエメリウスと面識があったようだが?」

 

「ああ、アレは我が太古に封印したからな」

 

「太古に封印、ですか?」

 

太古、つまり大昔だ。

……イヅナちゃんは何歳なのだろうか?

 

「一言でいえば時代だ、時代の流れだな。太古の昔は神族や皇魔族、羅震鬼等が闊歩していたが、やがて人間やその他の種族に時代は移り、神達は世界を離れ新たに世界を創造し人間達の『監視者』になるか、『封印され永劫の眠り』かを選択した。そこで、その二つの選択を拒否する者がいて、まあいざこざがあったのだが、各種族の長がそれらの聞き分けのない餓鬼を強制で封印したのだぞ」

 

永劫の封印なんて選択肢嫌すぎる。

そもそも、今まで普通に暮らしていたのに、後から来た者に土地を明け渡すようなこと、普通なら理不尽と言って反発するだろう。

でもそれを選ぶ人もいるのだから、その考えの違にカルチャーショックが大きい。

 

「ふむ、その各種族の長のうちの一人がイヅナだったのか?」

 

「そうだ。我は魂獣の中の『白面九尾』の長だったからな」

 

なるほど、イヅナちゃんが神獣に詳しい理由は、つまり当事者だったからか。

 

でも、ちょっと待てよ?

イヅナちゃんは別世界の住人だと言っていた。

ということは神獣も別世界の住人ということになる。

では、何故別世界の住人である神獣がこの地球の地中に埋まっていたのだろうか?

 

「我はともかく、エメリウス等がこの世界にいるのは謎だ。封印した神獣達は、キチンと『神獄の箱』に封印し各次元世界に点在する神殿に奉り、神が厳重に管理していたハズだ。だが、おそらく我が住んでいた『七天世界』に奉っていた『神獄の箱』に封印されていた神獣がこの世界の地中に眠っていると推測される。理由はわからん」

 

イヅナちゃんも理由はわからないようだ。

 

そこで、私はふと疑問を口にした。

 

「神獣って一体いくら封印されたんですか?」

 

「たしか……詳しい数字は忘れたが、およそ二十億だったか?」

 

「なっ!?」

 

20億!?

 

多い!

 

地球の人口の3分の1じゃないですか!?

 

「まあ数多の次元世界でかき集めた封印だからな、それくらいにはなるだろう。これでも全次元世界の人口の一割にも満たないくらいだな」

 

「一割か……」

 

織斑先生も厳しい表情で考え込む。

 

イヅナちゃんが言った数字があまりにも桁違いのため、とてもではないが私達人類では対応できない。

もしそれら神獣が全て蘇ったとしたら、単純に世界の人口の三人と神獣一体が戦わなければならない計算になる。

子供、老人関係なくだ。

はっきり言ってそれは不可能なのだ。

そうなれば地球は終わりだろう。

だって、ISは世界に467機しかないし、そもそも神獣とISが戦えば神獣に感染・侵食されてしまう。

でも単純な戦闘力なら神獣は人間を遥かに凌駕するだろう。

 

「ああ、そんな心配することはないぞ。恐らくこの世界で”使える神獣”は十もおらんはずだ」

 

10……

 

それを聞いてホッとした。

とはいえ、その10の神獣に対応できるのは、現在百瀬君一人しかいない。

脅威には変わりないのだ。

 

「待て、”使える神獣”とはどういう意味だ?」

 

織斑先生は、イヅナちゃんの言葉に引っ掛かるところがあったようだ。

それに対し、イヅナちゃんは珍しく顔をしかめた。

 

「……エメリウスが言っていたのだ。『赤き蛇』が自分の封印を解いたとな……」

 

「赤き蛇?」

 

「人間の身でありながら、神を凌駕する力を手にし、羅震獄の神と成った者だ。通称『赤い蛇』、名を『魔導神メビウス』という」

 

「人間が神に成り上がるだと……!?」

 

「魔導神メビウスは魔導を極めた男であり、魔導の始祖だ。あやつ自身は真理の解明、知的欲求を満たす事が究極目的だ。そのためには手段など選ばんし、凶行に走るのも躊躇しない」

 

「そんな男が、何故神獣を発掘しISに禁忌の法『羅震獄・創造』を施したのか……」

 

「千冬のいう羅震獄・創造というのは”あいえすこあ”に侵食する過程の名称か?我はその名前の出所が気になるな。そもそも『羅震獄』という名称は赤い蛇が創り出した世界の事だぞ。そして知の探求が赤い蛇の原動力だ。つまり、今あやつはあいえすに興味を持ったか、或いはこの世界構造に興味を持ったのか、それはわからん」

 

「厄介だな……その手の『自分の欲望に忠実な者』は一度興味を持ち出したら、自分が飽きるまで止まらんぞ」

 

織斑先生の言葉には何か重みがあった。

知り合いにそういう人がいるのかな?

 

「……まあ、それで使える神獣が十もいない理由だが、先ほども言ったが、おそらく『七天世界の祠』の神獄の箱に封印された神獣”のみ”がこちらの世界に来ていると推測される」

 

「何故そう言える?」

 

「我等のいた魂獣が住んでいた七天世界は他の次元世界とは異なり少々特殊でな、魔法世界でありながら神の管轄が甘い世界だったのだ。つまり、神の監視が緩いからこのような不測の事態になったのだろう。現に『守護獣バルガザル』も『黄金竜エメリウス』も七天世界の祠に封印されていたからな。他の世界の神獄の箱は神が厳重に管理しているはずだ」

 

「……そうか」

 

「そして七天世界の神獄の箱に封印された神獣だが、ほとんどが下級の雑魚ばかりだ。赤い蛇の研究(じっけん)に耐えうる肉体は持ち合わせていないし、その”あいえす”と融合する”羅震獄・創造”とやらも出来ないだろう」

 

え!?

そ、それはどういう意味!?

神獣って全部がISに感染・侵食すものじゃないの!?

 

「羅震獄・創造が出来ない理由を聞こうか?」

 

織斑先生の目がきらりと光った。

少し怖いです……

 

「”あいえすこあ”はなんだかんだで個としての意志が強い。”あいえすこあ”は我等魂獣に近い存在だな。あれに感染し侵食するにはそれなりに強い意志が必要だ。下級の神獣にそれほど強靭な精神はないな」

 

「では守護獣バルガザルは……」

 

「バルガザルは強いぞ。もともとあやつはエメリウスを守護するのが役目だったからな」

 

「ふむ……神獣にも格差があるのか……そういう意味では、私たちがバルガザルと早い時期に接触したことで早期対処出来たのは、不幸中の幸いと言えるか?」

 

「千冬よ、後でバルガザルが封印されている場所を教えろ。我とガイが赴き成仏させてやる」

 

「それは有り難いが……成仏……なあ……」

 

なんともいえない微妙な表情の織斑先生。

たしかにあの五行魂という技は神獣に対しての”封印”ではなく、”消滅”に近い手段だと思う。

だからといって、成仏とは……

 

……

 

……うーん……

 

もう付いていくのがしんどくなってきた。

 

ここで整理してみよう。

 

○イヅナちゃんは異世界の住人

 

○神獣はイヅナちゃんと同じ世界の生き物で、百瀬君が戦った『黄金竜エメリウス』はイヅナちゃんの知り合い

 

○イヅナちゃんの世界で大昔に大量の神獣を封印した。黄金竜エメリウスもその一人。封印された神獣はその数20億!

 

○でもこの世界で脅威となる神獣は10いるかいないかくらい……そのほかの神獣は弱くてISを脅かすような存在ではない?……この辺アバウト

 

○『黄金竜エメリウス』は『赤い蛇』(エメリウスは『赤き蛇』と言っていた)という人が蘇らせた。

 

○赤い蛇こと魔導神メビウスという人は、知的探求のためには手段をいとわない困った人、というか、神様らしい。

 

「我とガイの存在は赤い蛇に知られたと思っていいだろう。これから先、赤い蛇は我とガイにどう接してくるかはわからん」

 

「”どこぞの秘密結社”なんぞに加担していなければいいのだがな……」

 

織斑先生が呟く。

それに私は体を硬直させた。

織斑先生の言う秘密結社―――

 

おそらく『亡国機業(ファントム・タスク)』だろう。

 

裏の世界で暗躍する秘密結社であり、第二次世界大戦中に生まれた比較的若い組織ではあるが、50年以上前から活動しているそうだけど、秘密結社だけに謎が多い。

ISが普及しはじめた最近になって、活動が頻繁になっているという噂もある。

 

「?何の話だ?」

 

「いや、独り言だ、気にするな」

 

イヅナちゃんは亡国機業の存在を知らないらしい。

 

「最後の質問だ。『赤き蛇』と凱の因縁について話してもらおうか」

 

織斑先生は、より目を鋭くさせイヅナちゃんを見る。

そう、私たちは百瀬君と全身装甲の戦闘を見ていた。

聞いていた。

だから、百瀬君たちの会話も聞いていたのだ。

全身装甲―――エメリウス―――は、気になることを言っていた。

百瀬君は赤き蛇、魔導神メビウスと因縁があると。

これは、今までの内容から聞いておかなければならないことだ。

もし、これから先魔導神メビウスが百瀬君を標的としてくるとわかれば、しかるべき措置を

取らなければならないのだから。

最悪、百瀬君を監禁しなければならない。

安全のためには倫理や情など捨てなければならない。

それで平和になるならば、安いものだから。

たとえ、私たちが百瀬君に非難されようが……

しかし、それはイヅナちゃんの返答で決まる。

イヅナちゃんは果たして、どう答えるだろうか……

すると、イヅナちゃんは苦虫を噛み潰すような表情で言い淀んでいた。

 

「……すまないが、まだ確証がない。だから答えられない」

 

確証がない。

つまり、心当たりがあるということだ。

 

「悠長な時間を与えて世界が危機に窮するなど笑えないのだがな」

 

織斑先生はイヅナちゃんに皮肉を言う。

本当ならそんなことを言いたくないだろう。

だって、織斑先生は百瀬君のことを『家族』だと言っていたから。

どこの世界に進んで家族を不幸にしようとするだろう。

様々な矛盾が生じる。

神獣は現状、百瀬君しか倒せない。

しかし、超危険人物である魔導神メビウスが百瀬君を明確に標的にしているならば、厳重に管理しなければならない。

そんな重要人物を無慈悲に扱う。

それが、たとえ家族だとしても、だ。

 

「世界の危機、か。それならば問題ないだろう」

 

なんとイヅナちゃんはあっさりと言う。

私は驚き、織斑先生は眉を寄せる。

 

「もし、エメリウスの言うとおりであり、我の推測通りだったとすれば、『この世界』で凱に勝てるものは存在しない。たとえ、メビウスだろうとな」

 

イヅナちゃんの言葉に驚く私たち。

イヅナちゃんがそう言うならその通りなんだろう。

でも私たちも馬鹿ではない。

イヅナちゃんが言葉にしないこともわかってしまう。

 

―――ガイが完全に力を使いこなせれば、な―――

 

「……そうか。ならばイヅナの言葉を信じよう」

 

あえて何も言わず首肯する織斑先生。

それを聞いてホッと肩をなでおろすイヅナちゃん。

 

「ありがとう、二人とも」

 

お礼を言うイヅナちゃんも、私たちが気づいていることをわかっているのだろう。

でも、それは口にしない。

イヅナちゃんも、私たちも。

疑わしきは罰せず……たとえはおかしいが、つまりそういうことだ。

だから私も何も言わない。

 

「……とにかく、これからはガイの警護をより厳重なものにする。もちろんガイに気付かれることなく、だ」

 

「そうだな。凱には出来るだけ普通に生活を送ってもらいたい。……とはいえ、いつもぽわぽわとしているようで、凱は機微に聡いからな……」

 

イヅナちゃんも織斑先生も真剣だ。

百瀬君は愛されているなあ……

でも二人の言うこともわかる。

あのひまわりみたいな笑顔は、護らなければならない。

決して二人は口に出さないが、今、世界の命運は百瀬君に懸かっている。

あんな小さな体の、か細い肩に全世界60億人の命がのしかかるのだ。

それは、どれほどの圧力なのか……

もし私がそんな立場になったら、耐えられない。

私は逃げるだろう。

私は弱いから。

でも百瀬君は強い

終極因使だからというわけではない。

心が強い。

私にはない、心の強さが百瀬君にはある。

彼なら逃げないだろう。

ボロボロになっても決して逃げない。

皆を守りきるまで、決して逃げないし、諦めない。

でも人の心と体は簡単に壊れてしまう。

私たちはそんな彼を護らなければならない。

それが私たち大人の仕事だ。

私は決意を新たに胸に秘め、百瀬君を護ることを誓った。

 

「ついでにガイに近寄る阿婆擦れ共も排除できて一石二鳥だぞ!」

 

「うむ、そうだな」

 

……台無しだ……

 

 

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