IS - M・od   作:阪本葵

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第42話 熾天使

 

 

凱は赤髪の上級生、紅炎寺カリンを見て一層ガタガタ震えだした。

 

変な汗をダラダラ流し、顔を真っ青にし、目線をキョロキョロと動かし忙しない。

 

「ど、どうしたの?気分でも悪い?」

 

カリンは凱の異常事態に怪訝な顔をする。

そして、肩をポンと触った途端、凱は過剰に反応し、ひっと悲鳴をあげ後ろに飛びのきイヅナの後ろに隠れる。

当然丸見えだが。

 

「…その反応、傷つくんだけど」

 

あまりの拒否反応に、カリンはムッと眉をひそめる。

 

「だ、だって…ぼ、僕を…いじめるんでしょう?」

 

「はぁ?」

 

か細く震える声で振り絞る凱に、イヅナは自分の背中で震えるさまに「…小鹿のように震えるガイも良いな!!」と萌えつつも呆れた。

 

「すまんなカリンとやら。ガイは上級生に呼び出しされていじめられると思ってるんだぞ」

 

「…なんでそうなるの」

 

カリンは予想外の理由に呆れた。

というか、上級生が下級生を呼び出していびるなど、いつの時代の話だ?

まあ、女ばかりのこの学園では、そういうことは無いにしても自分が知らないだけで陰湿ないじめくらいはありそうだ。

しかしカリンは心外だと思った。

私のこの朗らかな笑顔を見て、何故いじめられると思うのだろうか?

 

「ねえ百瀬君、私ってそんな怖そうに見える?」

 

なるべく朗らかに笑うよう気を付け、カリンはニコリと笑い、また髪をフワリとかきあげる。

 

「…綺麗でそういうことを連想させない感じだから、余計怖いんです」

 

ガタガタ震える凱には逆効果だったようで、チラチラカリンを見て言うが、カリンはそれを聞いてニンマリと笑った。

 

「あら、嬉しいこと言ってくれるわね。大丈夫、私はあなたをいじめるために呼び出したんじゃないわ」

 

 

「…ほんとう…ですか?」

 

 

凱はウルウルと潤んだ瞳にイヅナから顔をひょこっと出し上目遣いでカリンを見た。

まあ言わなくてもわかるだろうが、このウルウル+上目遣いは凶悪コンボである。

そして凱の外見は、いわゆる癒し系、小動物、愛玩動物系だ。

そんな外見に凶悪コンボを合わせればどうなるか?

 

 

ズキューーーン!

 

 

カリンの心臓が『萌え』という見えない弾丸で撃ち抜かれた。

 

 

「やだ!かわいい!持って帰りたい!!」

 

カリンは凱にやられてしまい、ギューッと抱きしめる。

そして、鼻を凱の頭に押し付け大きく息を吸い込む。

匂いを堪能すると、凱の髪にスリスリとほお擦りする。

 

「ああ、くせっ毛のモコモコがいい!抱きまくらにジャストサイズ!スベスベぷにぷにの肌が!ほっぺが!!」

 

カリンが壊れた。

 

先程までの凛々しく、妖艶な雰囲気は吹き飛び、お花畑が現れる始末。

 

「こらー!ガイに触るなー!!」

 

突然のカリンの奇行に、イヅナはプリプリ怒りカリンの頭をポカポカ叩く。

そして当の凱はというと、箒より大きい胸に埋まり、幸せ絶頂だった。

 

当然、思うことはひとつ

 

 

ビバ、おっぱい!!

 

 

 

カリンのハグ天国が終わり、凱とカリンはアリーナへと入り、グラウンド中央に行った。

 

「あのー紅炎寺先輩?」

 

「あ、カリンでいいわよ凱君」

 

ニコリと笑うカリンだったが、どうもほんわかした空気ではない。

 

「じゃあカリン先輩で。いじめじゃないんだったら、なんで僕をこんなところに呼んだんですか?」

 

「まあ、単純に君に興味があったからかな?あとは…」

 

「あとは?」

 

凱がそう聞き直すと、カリンはニヤリと笑い言った。

 

「私が”本気”を出せる相手、だからかな」

 

 

 

「おい更識、私をこんなところに呼んで何の用だ。というか、生徒が教師を呼び出すなど…」

 

「まあまあ、織斑先生落ち着いて下さい」

 

千冬は仕事が残っているのに、急に理由を告げることなく第5アリーナの管制室に呼び出され、不機嫌だった。

しかもその呼び出した人間が生徒会長の更識楯無だから余計イライラする。

そんな不機嫌を隠さず顔をしかめている千冬に、更識は相変わらず扇子で口元を隠しニコニコしていた。

 

「これは私ではなく、紅炎寺先輩が織斑先生を呼び出してくれと頼んできたんです」

 

更識の口にした名前を聞き、千冬はピクリと眉を動かした。

 

「紅炎寺か…」

 

千冬がそう呟くと、口をへの字に曲げ、アリーナの映る管制室のリアルモニタに目をやる。

そこには、紅炎寺カリンと凱が映っていた。

 

「『神獣』に、『羅震獄・創造』、そして『終極因使』…紅炎寺先輩にとって無関係ではないですよね?」

 

軽く言う更識に、千冬は厳しい視線をおくる。

 

「貴様、侵入したな」

 

侵入とは、学園のコンピュータにハッキングをかけたということである。

IS学園のコンピュータは機密に満ちているのでセキュリティが半端ではない。

しかし、それを掻い潜りハッキングをやってのけるのが、対暗部用暗部の更識たる所以か。

 

「いえいえ、少し覗いただけですよ?」

 

千冬の射殺さんばかりの視線にも、飄々とする更識。

 

「…ふん、まあいい」

 

「いいんだ…」

 

あっさりした千冬に更識は苦笑した。

 

「しかし、紅炎寺が凱と会って一体どうするつもりだ?」

 

千冬は腕を組んで考え込む。

しかし、更識はキョトンとした顔で言った。

 

「どうするって、決まってるじゃないですか」

 

当然だろう?的な口調で淡々と言う。

 

「ここはIS学園ですよ?相対してアリーナにいるなら、やることはひとつじゃないですか」

 

―――IS戦闘ですよ―――

 

 

「あのー、僕はカリン先輩と戦う理由がないんですけど…」

 

凱はおずおずと挙手する。

 

それを見たカリンはフッと微笑んだ。

 

「君は戦うのが嫌い?最強の力を持っているのに?」

 

「…暴力で解決するというのは嫌いです」

 

俯き加減でボソボソしゃべる凱だが、カリンはそれを見て言い放つ。

 

「君は先の正体不明ISに対して、圧倒的暴力を行使し、神獣もろとも沈黙させたのに?」

 

「あ、あれは…!?一夏とか、箒さんとか鈴さんとかが危なかったし…」

 

そもそも戦いになると記憶が曖昧になるから自分の行動が良くわからない凱なのだが、現在はカリンの鋭いツッコミによりそこまで思考がたどり着かない。

そのため、人差し指つつき、もじもじゴニョゴニョしゃべる凱。

なんとも意気地のない姿である。

こんなうじうじした姿を千冬が見ていたら、脳天にゲンコツが飛んでくるだろう。

 

…まあ、別の場所で見ているのだが。

 

「質問を変えましょうか。君はその力を使って何をしたいの?」

 

カリンはいつの間にか笑みを消し、真剣な眼差しで凱を見ていた。

それを見た凱も、オドオドとした態度を止め、背筋を伸ばし言った。

 

「僕は、僕の大切な人を守りたいです」

 

それを聞いたカリンは満足そうに笑った。

 

「そう、じゃあ力試しとして模擬戦しましょう。ここはIS学園、ISの技量を研鑽し切磋琢磨する学び舎よ。模擬戦なら問題無いでしょう?」

 

「え、ええ、まあ…」

 

凱は曖昧な返事をしたが、カリンはそれを了承と取り、二人は模擬戦を始めることになった。

 

 

 

「カリンとやら、試合を始める前に答えてほしい」

 

イヅナが真面目な顔でカリンに聞く。

カリンは、どうぞと言い、イヅナの質問を待った。

 

「『熾天烈火(してんれっか)』という言葉に嘘偽りはないな?」

 

「してんれっか?あれ熾天烈火って言うんだ」

 

イヅナの言葉にへえと頷く凱。

凱はあの手紙の差出人の漢字が読めなかったので、イヅナが解答を出してくれて助かったと喜ぶ。

そして、目を細め笑うカリン。

 

「ふふ、白面九尾の姫はご執心かしら?いいわ、見せてあげる。―――『牙炎』!」

 

カリンが名前を呼ぶと空中に炎の珠が現れた。

その炎の珠はやがて内側から卵の殻を破る雛鳥のように炎を破る。

現れたのは小さな鷲。

しかし、その鷲は体のバランスがおかしかった。

そう、まるで、人間の体に鷲の頭が付いているような、そんな体格だった。

これに凱は驚いた。

 

「…魂獣(スピリッツ)?」

 

凱の言うとおり、その鷲は魂獣だった。

それは、つまり…

 

「ほう、やはり『朱雀』か。烈火を冠するから、もしやと思ったが…牙炎か、良い名前だな」

 

「白面九尾の姫にお褒めいただき光栄だ」

 

鷲の魂獣―――牙炎はそう言うとニヤリと笑う。

 

「私はこう見えても日本の代表候補生なの。当然、専用機を持っている」

 

 

―――この『炎王剣ヒノカグツチ』をね―――

 

 

カリンは剣の形をしたネックレスを取り出し、そして叫ぶ。

 

 

「牙炎!『魂獣武装(スピリットアーム)発動』!!『武装変換(アームドチェンジ)』!!」

 

「応!!」

 

カリンと牙炎が重なり合い、光に包まれる

 

そして、現れたのは

 

およそISとはかけ離れた姿

 

無機質なモノなどなく

 

腰から伸びた対の白い羽

 

太陽のようなオレンジのマフラー

 

洗練されたスーツ

 

その姿は、まさしく天使―――

 

 

「私は最強の炎!『魂獣武装(スピリットアーム)』に身を包みし『因使(ファクター)』、熾天烈火カリン!」

 

 

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