IS - M・od   作:阪本葵

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第43話 終極因使VS魂獣武装

 

 

「………」

 

凱はカリンを見て唖然としていた。

口をポカーンと開け、目を点にして。

 

「あら、自分以外に因使(ファクター)がいて驚いた?自分だけが特別だと、そう思ってた?」

 

カリンは少し棘のある言い方をして睨むが、凱は首を横に振る。

 

「いえ、因使仲間が増えたのは嬉しいです。イヅナちゃんにも友達が出来るし。それよりも…」

 

「それよりも?」

 

怪訝な顔のカリンに、凱は少し頬を染めて言った。

 

「えっちぃ格好だなー、と思いましてー」

 

「…あ、そう…」

 

 

「…紅炎寺が…終極因使(ゼクスファクター)…だと!?」

 

千冬は驚き、声も途切れ途切れでリアルモニタを食い入るように見ていた。

しかし、そんな千冬に更識は口元に扇子を当て、ふふんと笑う。

 

「織斑先生、紅炎寺先輩は因使(ファクター)ではありますが、終極因使(ゼクスファクター)ではありませんよ」

 

「なに?」

 

「先輩は魂獣武装(スピリットアーム)をした因使、『熾天烈火(してんれっか)』です」

 

「…どういう意味だ?しかも、因使(ファクター)とはなんだ?」

 

千冬は聞き慣れぬ単語に眉をひそめ、更識を睨む。

そんな視線を更識は飄々と受け流す。

 

「因使とは、IS操者がコアを魂獣にまで進化させそれに相当する力を得た者の名称です。そもそも、終極因使というのは百瀬凱君だけの、いわゆる白面金剛九尾イヅナと”融合進化する”ISの名前です」

 

「…つまり、ISの究極とは、操者が因使へとなり、ISを魂獣に進化させる事であり、それぞれに究極に至る名がある。因使と魂獣イコール終極因使という単語は適切ではない、ということか?」

 

「そうですね。あの”終極因使論”を説いた学者は、少し勘違いをしていたということでしょうか?まあ、終極因使が最強だというのは間違いありませんが…」

 

相も変わらずニコニコと笑い扇子をひらひらと動かす更識。

 

「終極因使は最強でも、百瀬凱君自身はどうでしょうね?」

 

「…凱は未熟だ。それこそ、そこらの一年と変わらんレベルのな」

 

千冬は淡々と放った言葉は、しかしその通りだった。

 

 

凱とイヅナも融合し、いつもの終極因使の姿へとなる。

凱は未だ模擬戦に関して納得しかねていたが、それでも心の中ではウキウキしていた。

何故なら、カリンは自分以外の初めての因使なのだ。

正直、凱は今まで終極因使の本気というのを一度しか出したことがない。

その一度というのは、先日の正体不明IS襲撃事件である。

別に驕りがあるわけではないが、やはり寂しさというものがあった。

それにいつもなら戦いになると意識がボーっとなり記憶が曖昧になるのだが、今はそんな兆候もなく意識がはっきりしている。

だから、嫌だと言いながらもどこか期待してしまう。

 

『ガイよ、この戦いでは”単一使用能力(ワンオフ・アビリティー)

”と”風神槍”は使うな。五行でなんとか対処しろ、いいな』

 

「え?う、うん」

 

いきなりイヅナが凱に能力制限を言い渡した。

戸惑う凱だったが、イヅナに何か考えがあるのだろうと思い素直に頷く。

 

『それ以外はガイの自由にして構わんぞ。(リミッター)も解くし、我は一切口出しせん』

 

「わかったよ」

 

凱は力強く頷くと、カリンを見つめ刀を抜き構えた。

 

 

ビーッ!!

 

アリーナに試合開始のブザーが鳴り響く。

 

 

「―――さあ、最初から本気でいくわよ!」

 

カリンは翼を広げ突撃してくる。

ドンッと大きく大気を破裂させるような音がして、一瞬で凱との距離を縮める。

カリンの握る剣<炎王剣ヒノカグツチ>を真っ直ぐ前に、フェンシングのように突き出し、その突進力と合わさり一撃刺殺の威力を秘めた攻撃だ。

 

カリンの突撃は、瞬時加速(イグニッション・ブースト)以上だった。

普通の人間が見れば、瞬間移動したのかと錯覚するほど、一瞬でカリンは凱との距離を詰める。

 

つまり、速い!

しかし凱に避けられない速さではなかった。

とりあえず凱はカリンの初撃を受ける事にした。

それでカリンの力量を量ろうというのだ。

 

『水龍壁!』

 

凱の九尾の一尾が形を変え、水となる。

その水は渦を巻き、円形の盾となり凱を護る。

 

「甘い!」

 

カリンは叫びスピードを落とすことなく、凱の展開した水龍壁へとヒノカグツチを突き刺す。

 

瞬間、凱の背筋がゾクリとした。

 

 

―――避けろっ!―――

 

 

本能が叫ぶと同時に、凱はカリンの攻撃線上を脱した。

そして、その判断は正しかった。

 

なんと、ヒノカグツチが炎に包まれ、水の盾である水龍壁を突き破ったのだ。

水が火に負け、水は熱によって沸騰し、水蒸気を発生させる。

ジュウゥゥゥッと蒸発する音と大量の水蒸気がアリーナを包み込み、凱とカリンの姿は見えなくなった。

しかし、戦いは続いていた。

 

 

「はあああぁぁぁっ!!」

 

ガキンッ!

 

「うわっ!?土公!!」

 

「せいっ!!」

 

ザシュッ!

 

斬撃音と、二人の声しか聞こえないアリーナ。

未だ水蒸気は霧のようにアリーナを包み、グランドをドームのように囲み見えない。

だが、その水蒸気のドームから何かが高速で飛び出し、観客席を保護するバリアに当たった。

 

バチンッ!

 

バリアに当たりスパークを起こし、その物体は跳ね返る。

 

それは、土で出来た巨大な腕だった。

 

「おりやぁぁぁぁっっ!!」

 

「わっ!?樹翁!!」

 

再び声が聞こえ、霧のドームが赤く光った。

 

「せいやあぁぁぁっ!!」

 

「うっ!え、炎姫!!」

 

ゴオオォォォッッ!!

 

アリーナに轟音が響き渡り、その轟音の発生源であるカリンの炎と凱の繰り出す炎が、霧のドームを熱風で一気に吹き飛ばした。

視界が晴れ、カリンと凱の姿があらわになる。

カリンは自身の握る剣<炎王剣ヒノカグツチ>から発する炎で、凱は一尾を炎に変えてぶつけ合っていた。

 

「朱雀の魂獣を持ち、火に特化している私に火をぶつけるなんて、浅はかね」

 

「んぐぐぐ~…」

 

カリンは涼しい顔で凱の炎を受け止め、逆に凱は必死だった。

しかし、カリンの目はその涼しい表情とは逆に凱を睨みつけていた。

 

「二尾解放!」

 

凱は歯を食いしばり苦しそうに叫ぶと、別の一尾が炎に変わり、カリンを襲う。

二尾の炎姫咆だ。

単純に二倍の火力でカリンに攻撃するのだが

 

「それがどうしたああぁぁぁっ!!」

 

カリンは叫ぶと同時に一閃!

 

「はああぁぁぁっ!紅蓮焔鬼!!」

 

凱の二尾解放・炎姫咆を<炎王剣ヒノカグツチ>から放たれる爆炎で飲み込んだ。

 

 

「…すごいですね」

 

更識はポツリと呟く。

 

「…ああ、紅炎寺があそこまで強く、力を使いこなしているとはな」

 

千冬も更識に同意する言葉を紡ぐが、しかし、と続ける。

 

「凱は、経験不足の初心者特有の状況に陥り、もはやまともな思考が出来ていないな」

 

経験不足特有の状況、つまり、これが千冬の言っていた”そこらの一年と変わらないレベル”と言っていた理由だ。

凱は今までの戦いで圧倒的な勝利、もしくは先手必勝で勝っていた。

つまり、同等もしくはそれ以上の力と均衡した戦いや、窮地に陥ったりしたことがないのだ。

凱が最初から強いと思われているが、それはそういう戦いをしてきたからで、実際の実戦経験は一夏と変わらない、ズブの素人なのだ。

言い換えれば強者たるが故の弱点と言えるだろうが、それに加え凱の思考が絡んでくる。

 

凱は、何故か自分の事になるとネガティブになる。

普段周囲の人間に対しては堂々と…とは言えないにしても、それなりに毅然とした態度を取る。

凱は自分に自信がないのだろう。

だから、いつも自分を卑下するような発言をする。

そして戦いでは計算、計画を数多く考える。

記憶力はいいので、この戦法は凱にとってそんなに苦ではない。

事前に完璧に自分の思考内で戦いを想定し、それによって対策を立てるのだ。

これも、自分に自信が持てないからこそ”万全を期す”ということなのだろうが、こういう人間は一度予想外の事が起こると脆い。

 

いきなり水龍壁を破られるという誤算

これで凱はパニックに陥る

 

次の一手に迷いが出る。

 

混乱する。

 

その場しのぎの攻防しかできなくなる。

土公拳で迎え撃ったが、<炎王剣ヒノカグツチ>によってバターのように斬られる

樹翁鞭を放ちカリンを押えようとして、カリンの炎によって燃やされる

炎姫咆で迎え撃ったが、それ以上の炎で跳ね返された

そして、手詰まりになり、さらにパニックになるのだ。

だが、と千冬は現状の凱を見て考える。

 

(…以前まで見せた戦いとは程遠い素人戦闘だ。あの歴戦の勇士のような気迫や動きが皆無とは…凱の身に何かあったのか?)

 

千冬は現在カリンと戦っている凱に今までのような押しつぶされそうな覇気を感じないことに疑問を覚えた。

それは、模擬戦だから手を抜いているのかという可能性も考えたが、凱にそんな器用なことはできないことは知っている。

現在の凱の戦う姿は、一夏と同等の素人丸出しの姿だった。

凱はカリンに対してまともな攻防ができず、ただ慌てふためくだけだ。

 

「でも、集中を乱してもなお、あれ程の攻撃を繰り出す百瀬凱君は流石ですね」

 

更識は目を細めモニタ内でオロオロする凱を見て言った。

更識は千冬が感じている違和感に気付いていないのか、素直に凱を褒めている。

千冬は、自身の感じている違和感を口にすることなく、更識の言葉に同意するように無言でモニタを見た。

 

「…だが、この勝負、紅炎寺に全ての流れが来ている」

 

凱の素人のような戦闘

 

混乱による集中散漫

 

そして

 

「凱は焦るあまり、本来の半分も力を出せていない」

 

「そして、紅炎寺先輩は遺憾無く”全力”で戦っている」

 

そう、カリンは涼しい顔で凱の攻撃を捌いているのではない。

凱にはそう見えるだけなのだ。

実際、カリンは一撃一撃を全力で放ち、凱の攻撃を捌いている。

捌くので精一杯なのだ。

一旦つばぜり合いの状態から凱と離れ、体制を整えるカリン。

 

体力の消耗であがる息

 

噴き出す汗

 

震える足

 

剣を持つ手の握力が弱まり、剣を落としそうになるが、グッと握り直す。

 

「…終極因使がこの程度とは、ね。よくそれで大切な人を守りたいなんて言えたわね」

 

乱れる息をなんとか落ち着かせながらカリンは凱に話し掛ける。

いわゆる時間稼ぎだが、カリンは実際終極因使の力に落胆していた。

もっと絶対的な力だと、無敵なのだと思っていたのに、いざ手合せしてみると、自分の攻撃に焦り、力も想像より弱い。

 

「最強の力も、君では宝の持ち腐れよ」

 

カリンは冷たい視線で凱を見て、凱もそんな視線にたじろぐ。

 

「今まで自分と同等、或いは自分より強い人と戦った事がないのね」

 

「そ、そんなことは!?セシリアさんだって強かったです!あのエメリウスだって…」

 

凱はカリンに今まで戦った人が馬鹿にされていると思い反論する。

実際は記憶が曖昧でよく覚えていないのだが、やはり知っている人をけなされると気分がいいものではない。

しかし、カリンはそれに対しニヤリと笑い返した。

 

「そう、エメリウスとの戦いはギリギリだった。当たった者勝ちのような、不樣な戦いだったね」

 

「うっ!?」

 

「君は大切な人を守りたいと言っておきながら、下手すればエメリウスとの戦いで死んでしまうところだった」

 

カリンに指摘されも言い返せない凱。

事実、先のエメリウスとの戦闘はアッサリ勝ったように見えたが、その実ヒヤヒヤものだったのだ。

凱の単一使用能力が先に発動するか、エメリウスの電撃が発せられるか。

当たった者勝ちの戦闘で、凱はそれに勝ち、エメリウスに五行魂を叩き込んだ。

もし、凱の単一使用能力よりエメリウスの電撃が先に発動していたか、今ここに凱はいない。

だんだん顔を青くしだした凱を見て、カリンはフンと息を吐き、厳しく言い放つ。

 

「凱君、君は自分がどれ程重要な立場にいるかわかっていないわ」

 

「た、立場?」

 

「君は、終極因使、IS操縦者の頂点なの。いわば君は467のISを束ねる”王”なのよ」

 

「ぼ、僕が王様!?あわわわっ」

 

カリンの言葉に突然あわてふためく凱。

その姿に、カリンは胸がきゅんきゅん鳴ったが、なんとか押さえ込んだ。

 

「…だから、王がそんな博打みたいな戦いをしてはダメなのよ。わかる?」

 

「は…はい…」

 

カリンに怒られ、しゅんとする凱。

狐の耳がペタンと垂れ下がり、尻尾もしょんぼりとする。

それを見てまた胸がきゅんきゅんしだすカリン。

 

(この子…まさかこれワザとやってないでしょうね!?)

 

もちろん、素だ。

しかしそれを疑ってしまうほど、凱は人の心の隙間に癒しを付け込むのが上手かった。

カリンは大きく深呼吸し、気持ちを落ち着かせる。

そして、まだ落ち込んでいる凱を見て言った。

 

「…少し、昔話をしましょうか」

 

「…え?」

 

突然の方向転換に凱は素っ頓狂な声をだした。

 

「私は12歳からISを動かしてるの。きっかけは、織斑先生の第一回モンド・グロッソ世界大会優勝を見てから」

 

昔の千冬の勇姿を思い出したのか、クスリと笑う。

 

「幸い、私はIS適性が高くて、すぐに政府の支援を受けて訓練したわ、織斑先生みたいになりたくてね。そのときに日本代表だった織斑先生に出会って、結構仲良くもなった」

 

うれしそうに昔話を語るカリンだったが、途端笑顔が曇った。

 

「そんな時、大学で考古学の教授をしていた私の父が世界的発見をしたの」

 

「…え?」

 

凱とて、馬鹿ではない。

今までの一連の流れで、そんな話しが出てくる意味を汲み取れる程は空気が読める。

 

「父が発見したのは、生命の進化とは全く別の進化をした生物」

 

苦々しく語るカリン。

それを見て凱は確信した。

 

カリン先輩は何故僕に興味を持ったのか―――

 

何故こんなに僕に「自分を大事にしろ」と言ってくるのか―――

 

何故、たまに僕を憎むような目で見ていたのか―――

 

 

「その名は―――守護獣(ガーディアン)バルガザル―――父が世界で初めて神獣を発見したのよ」

 

 

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