IS - M・od   作:阪本葵

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第44話 千冬とカリン

 

 

今から三年前

 

紅炎寺カリンは中学三年だった。

12歳からISの訓練を積み重ね、早くも代表候補に名乗りをあげていた。

それは、本人の才能もあり、努力もあった。

しかし、一番は環境だろう。

この当時日本代表だった織斑千冬と出会い、また他のIS操縦者達と切磋琢磨できた。

そんな最高の環境で、紅炎寺カリンはメキメキ頭角を現してきた。

そして彼女は性別関係なく多くの人に好かれていた。

女尊男非の思想を持たないカリンは、明るく、気が利き、サッパリした性格で織斑千冬もカリンを気に入り、妹のように接していた。

だから、周囲のIS操縦者もそんなカリンが好きで、しばらくして正式に代表候補生に選ばれたカリンを皆で祝福した。

 

そんな時、大学で考古学の教授をしている彼女の父親が世紀の大発見をした。

新たな生命の発掘である。

まだ解析不足でマスコミには正式に発表していなかったが、ちゃんと解析されれば父は一躍世界的考古学者になる。

 

その発掘されたモノは誰が名づけたのか”神獣”と呼ばれた。

 

紅炎寺カリンの母親は彼女が幼くして病気で亡くなっており、男手ひとつで自分を育ててくれた父に感謝しているし、愛していた。

まあつまり、カリンはファザコンだったのだ。

父もカリンを溺愛しており、近所でも評判の仲良し親子だった。

そんな父が、普段家で仕事の話しなどしないのに、神獣を発掘した時は興奮覚めやらぬといった感じでカリンに熱く語った。

子供のように目をキラキラ輝かせ、「自分の発見で世界の常識が変わる!」と語る姿に、カリンも揃って喜んだ。

 

だが、その歓喜は絶望に変わる。

 

カリンがISの訓練中に、父の発掘した神獣の話を同じ代表候補生達にすると、そのうちの一人が考古学に興味があったそうで、是非見たいと言い出した。

カリンは自分の父を皆に自慢したいため、その願いを快諾し、数人連れて父のいる大学へ向かった。

その中には千冬もいた。

カリンの父は突然の来訪者達に驚くが、見学を快く引き受けてくれた。

 

そして

悲劇は起こった

 

当時の日本の代表候補生は全員ではないにしろ、多く専用機を渡されていた。

それは主に実験的要素が多くデータ収集が目的なのだが、この時大学に見学に来ていた代表候補生と千冬は、計8人おり、その中で千冬を含め6人が専用機を持っていたのだ。

カリンはまだ専用機を渡されていなかったが、遠くない時期に渡されると専らの噂だった。

ちなみに、この専用機支給の数は他国からすればかなり多い数なのだが、そこはIS発祥の国、日本ということでイロイロ優遇されるよう配慮していた。

というかそうでもしないと平等分配などしてしまってはIS発祥の国として”旨味”がない。

 

―――そして考古学に興味があると言っていた子がカリンの父が発掘した神獣―――守護獣バルガザル―――に近付いたとき、始まったのだ。

 

バルガザルの細胞はISに反応し活性化

その女の子もろともISを飲み込み

バルガザルはISを侵食し

覚醒した

このあまりに急な事態誰も行動など取れず、バルガザルの一番近くにいたカリンの父と研究員達は、バルガザルの一撃によって殺された。

 

カリンや代表候補生は状況が理解できず放心。

非常事態にすぐに動いたのは千冬だった。

まずISを持たない民間人を避難させ、代表候補生にバルガザルの足止めをさせた。

そこで驚愕の事態に陥る。

バルガザルと戦闘をしていたISが、同じく侵食されていくのだ。

千冬は皆をバルガザルから遠ざけ、侵食されたISは破棄させた。

そして戦略を練った千冬が取った行動が―――

 

生身でバルガザルと相対するという無茶苦茶な方法であった。

 

千冬は生身で自身程の大きさはあるIS武装の近接ブレードを握り締め、バルガザルに切り掛かる。

だがバルガザルの装甲は並の硬さではない。

しかも動きが速く決定打を与えられない。

幾度も攻防を繰り返し、お互い消耗し時間だけが過ぎていく。

千冬は攻めあぐねていると、突如バルガザルの動きが不自然に止まった。

千冬はその不自然な行動を見て理解した

飲み込まれた女の子がバルガザルを止めていたのだ。

そして悟った。

 

彼女は助からないと

 

救えないと

 

「――――っ!うおおおぉぉぉぉっっ!!」

 

千冬は刀を上段に構えバルガザルに近寄り、一直線に振り下ろした。

 

 

結果、流石の千冬でもバルガザルは完全に倒せず、一時行動不能になったところを即座に特殊硬化フェノール樹脂にて厳重封印、侵食された他のIS3機も封印した。

 

死者は5名

 

カリンの父を含めた大学の研究員4名と、そして、バルガザルに飲み込まれた代表候補生1名

 

日本は即座に国際IS委員会に報告し、世界で発掘される可能性のある神獣とISを接近させることを禁じた。

 

 

「―――これが顛末だ」

 

千冬はモニタを見ながら言う。

更識も、千冬を見ることなく同じくモニタを見ていた。

 

「それから紅炎寺は変わった。昔のように笑わなくなり、皆と距離を置くようになった」

 

「…紅炎寺先輩は、一年の時に日本政府から専用機を渡され、そのとき専用機所持を拒否したそうですね」

 

更識が千冬に聞くと、千冬はまたギラリと睨んだ。

こいつ、どれだけ好き勝手に機密事項を覗いているんだと言いたげの目だ。

 

「…ふん、そうだ、当時紅炎寺は専用機を拒否した。というより、あの事件後すぐに代表候補生も辞退しようとしていた。だが、私が止めた」

 

―――お前の悲しみが如何程か、私にはわからん

 

罪も、憎しみもお前の抱える闇が私にはわからん

 

だがな、力は捨てるな

 

お前の父君と彼女は、自らの命で世界の脅威を知らせてくれたのだ

 

お前には、それを背負い受け止める義務がある

何事にも力は必要だ

お前は”力の意味”を知っている

だからこそ、お前は強くなれ

 

今よりも、私よりも強くなれ

 

安心しろ

 

 

他の代表候補生もお前を支えてくれる

 

それに

 

私がお前を支えてやる

 

 

だから―――

 

 

千冬は懐かしむように思い出していると、横で更識がニヤニヤいやらしい笑みを浮かべているので、コホンとひとつ咳ばらいをした。

 

「ところで、お前はいつから紅炎寺が…あー、熾天烈火になっていると知った?」

 

「そうですね、私が知ったのは三学期の…二月くらいですかね?紅炎寺先輩が私に勝負を挑んできた時に知りました」

 

更識は空中を見て思い出しながら言う。

 

「紅炎寺先輩の存在は私も知っていました。他の生徒に人気があるし、下級生からも『お姉さま』なんて呼ばれているし。でも先輩は学園では極力目立たないようにしてましたよね?実際公式のISの成績でも代表候補生として平均的な、当たり障りのない成果しか残してませんし。まあ、それは目立たないためにワザと実力を隠していたらしいですけど。そんな紅炎寺先輩から直々に勝負を挑まれたんです。で、その時に初めて紅炎寺先輩の”本当の力”を知ったんですよ」

 

「結果は?」

 

千冬が簡潔に結果を聞くと、更識はため息をつき肩を竦めた。

 

「私の惨敗です。因使や魂獣武装なんかを差し引いても、先輩のあの火力は私のISとは”相性”が悪すぎます」

 

「…そうか」

 

学園最強たる生徒会長が”惨敗”と言ったので、千冬は少なからず驚いた。

だが、凱との現在の戦いを見ているとそれも納得である。

あれは、強い

千冬は陰ながら紅炎寺を見守ってきた。

紅炎寺カリンは常に己を律し、日々自己研鑽に費やしてきていた。

ただ、やりすぎるところがあり注意した、が、聞き入れず我武者羅にただ訓練を続けていた。

目立つことを嫌っているカリンは、ISに関わる実技テストではわざと平均的な成績しか残さないようにしていたのも知っていた。

第二次形態移行(セカンドシフト)を行ったのは知っている。

その時発現した 単一使用能力(ワンオフ・アビリティー)が”炎熱系統”の”発火能力”だったのも知っている。

しかし、第三次形態移行(サードシフト)していたとは知らなかったし、因使にまで昇華していたとは気付かなかった。

カリンは積み重ねという自信の裏付け、そして己の器を知る観点を持つ。

そこに因使と魂獣が加わる。

魂獣武装(スピリットアーム)恐ろしい能力だ。

 

そして、カリンは凱に対し油断もしないし、手加減もしない。

 

油断大敵

見敵必殺

 

千冬が教えた言葉を忠実に守っているのだ。

 

「紅炎寺先輩は熾天烈火の力を誰にも教えるなと言っていました。私との勝負も、ただ自分の実力が知りたかっただけで別段生徒会長になりたいわけじゃない、と」

 

「だろうな、あいつはあまり権力だとかそういうのに興味がないからな」

 

「まあ、なんだかんだと小間使いはさせられますけどね」

 

ハハハと渇いた笑いをする更識。

 

「紅炎寺先輩はイロイロ織斑先生と似ている部分はありますよね?」

 

「そうか?」

 

千冬はカリンと自分が似ていると思えないのか首を傾げる。

本人はわかっていないようなので、更識は苦笑する。

カリンも千冬も、お互い孤高で高潔なところとか、自分にも他人にも厳しいところとか、でも人を惹きつけるカリスマとか。

つまり、女が惚れる”デキル女”なのだ。

 

「けど、ズボラなところまで似なくても…」

 

「…ズボラが、なんだって?」

 

「あははー、なんでもありませーん」

 

千冬の狼のような鋭い視線を向けられ、更識はあははーと笑いながら目を逸らし再びリアルモニターを見た。

 

 

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