IS - M・od   作:阪本葵

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第45話 結末とこれから

 

 

凱はカリンから衝撃の事実を聞かされ、驚いていた。

 

そして、何故彼女はたまに厳しい視線をおくるのかわかった。

 

あれは、”恨み”だ。

 

「牙炎に言われたわ。私にはまだ神獣を倒せる程の力はないってね」

 

カリンはキッと凱を睨む。

 

「未熟な君が、神獣を浄化できる力があるのに、私にはない」

 

―――何故?

 

カリンは今にも泣きそうだった。

 

カリンは”あの事件”以降千冬に諭され、それこそ自分が強くなって”神獣”を倒すんだと息巻いていた。

毎日倒れるまで訓練を繰り返した。

その度に千冬にやり過ぎるなと注意を受けたが、カリンは聞き入れなかった。

千冬に内緒で、命を危険に晒すような無茶もやった。

なるべく人を近付けないように、注目を浴びないようにしていた。

だって、もう大切な人がいなくなるのは嫌だから。

そうして努力が実り密かに第二次形態移行を済ませ、単一使用能力を発現させ、さらに研鑽を積んだ。

そしてついに、第三次形態移行をクリア、さらにISを魂獣に進化させることが出来た!

ついに究極のISとなったのだ!

カリンは因使の規格外の力に驚愕し、酔いしれた!

手始めに学園最強といわれる更識楯無と模擬戦を行い、圧勝した!

カリンは確信した。

これで神獣を倒せる!!

 

しかし牙炎は言った。

 

『カリンにはまだ神獣を浄化できる力はない』

 

神獣を浄化させるには、とても重要な事を知らなければならないらしい。

でも牙炎は教えてくれない。

自分で気付くのが重要だと言って、一切何も言わない。

でも、いつかは浄化できる力を手にする事が出来る。

私は死に物狂いで特訓した。

そんな時、現れたのだ。

 

―――終極因使・百瀬凱が。

 

何故血ヘドを吐き努力した私には力がない?

何故のうのうとしている君にはある?

何故今頃終極因使として現れた?

何故―――

 

あの時来てくれなかった!?

 

カリンは叫びそうになり、ぐっと堪えた。

ダメだ、これは言ってはならない。

これは私の嫉妬、醜い欲望、八つ当たり。

彼には関係ない。

 

でも

 

納得できない

カリンは知っている。

凱が記憶喪失で、自分の名前さえも曖昧であると。

自分が何者で、どこから来て、どうして行方不明の篠ノ之博士のところにいたのか、全てが謎、不明なのだ。

そんな異邦人じみた凱に恨みを持つなどお門違いだ。

 

しかし

 

納得―――できない。

 

ゆるせない

 

こんな

 

理不尽

 

―――納得

 

―――できない―――!

 

「カリン先輩」

 

凱に声をかけられ、カリンはハッとした。

どうやら思考に埋没していたようだ。

カリンは凱を見た。

 

すると、その表情は先程までの慌てふためいたものではなく、精悍な凛々しい表情だった。

 

―――きゅん♡

 

(やだ、真面目な顔もいいじゃない…って、ダメよダメ!!癒されちゃダメ!!)

 

…カリンはもうイロイロとダメになっていた。

ゴホンと咳ばらいし、気持ちを変えようとしたカリン。

そして、凱は言った。

 

「僕は、ごめんなさいとは言いません」

 

「!?」

 

カリンは驚いた。

凱には、自分の気持ちなど一言も話していないのに、凱はカリンの心情を理解したように言うのだ。

まるで心を見透かされたような気持ちになり、ゾクリと震えた。

 

「僕には、カリン先輩の苦しみがどれ程大きいのか、悲しみがどれ程深いのか、軽々しくわかるなんて無責任なことは言いません。僕が弱くて、ふがいなくて怒っているのもわかっています」

 

「…」

 

「だから―――」

 

凱は一呼吸おき、ハッキリと力強く宣言する。

 

「だから、僕は強くなります。カリン先輩を支えられるくらい、心が少しでも晴れて軽くなるくらい、強くなります」

 

―――そして、

 

作り笑いじゃない、本当の笑顔を見せてください―――

 

「―――っ!?」

 

衝撃が走る。

 

―――私がお前を支えてやる

 

だから―――

 

また、お前の笑顔を見せてくれ―――

 

自分が尊敬する、姉と慕う人と同じ言葉。

自分が立ち直れた言葉。

自分に生きる糧を与えてくれた言葉。

 

希望の言葉

 

「…卑怯よ」

 

カリンの瞳から流れる涙

 

「そんな言葉を聞いたら…」

 

涙がアリーナのグランドに斑点を描く。

 

「信じたくなるじゃない…!」

 

涙は、ダムが決壊したようにとめどなく流れ、うずくまる。

信じていいかもしれない

身勝手な恨みを持っていた自分を許してくれる広い心

ああ、彼はなんて強いんだろう

私は、心の在り方で彼に負けていたのだ

なんて無様。

 

「カリン先輩、これが僕の全力です」

 

凱は、右手に光の珠を作り出していた。

 

木火土金水・五行を合わせた生命の光

 

浄化の力

 

【五行魂】

 

カリンの額にブワッと汗が吹き出る。

間近で感じるこの圧力。

大気が渦巻き、凱の右手を中心として螺旋を描く。

その圧倒的存在感にカリンは痛感する。

そうか、私はまだまだだったんだな、と。

だが、そんな事で諦めるほど潔い性格はしていない。

負けるなら真正面から!

倒れるなら前のめりで!!

一筋の爪痕だけでも残してやる!!

 

「私も、私の最高の力で応える!!」

 

カリンはヒノカグツチを両手で握り、八双の構えを取る。

そして、ヒノカグツチから溢れ出る業火

それはもう火柱のようで、美しかった。

 

「来いっ!百瀬凱!!」

 

「―――やあああぁぁぁっっ!!」

 

凱の五行魂と

 

カリンの業火がぶつかり

 

アリーナは光に包まれた

 

 

模擬戦が終わり、カリンと凱は武装を解除してアリーナ中央にいた。

お互い制服姿で対面しあい、凱がイヅナに「まあ、あんなもんじゃないか」とか、「気に病まず、これから力を付ければいいんだぞ!」と励まされているさまを見て、クスリと笑う。

 

「あーあ、負けちゃった」

 

カリンはサッパリした顔だった。

先程までの何か思い詰めていた影がなくなり、気さくな感じが出ている。

なんとも人懐っこい、でも頼れる感じがする。

これが、本来のカリンなのだろう。

 

「…カリン、やっと到達できたな」

 

「え?」

 

カリンの横にいた牙炎が言う。

到達という言葉の意味がわからずカリンは首を傾げる。

 

「最後に終極因使の放った五行魂を迎え撃った技こそ、神獣を浄化させる唯一の技『業火焔浄(ごうかえんじょう)』だ」

 

「!!」

 

神獣を浄化できる?

 

私が?

 

「カリンに足りなかったものは『信頼』だ。それが、終極因使のおかげで芽生えたのだ」

 

「…そっか」

 

カリンは目を閉じ、スーッと息を吸い込み、ゆっくりと吐いた。

見上げる空は晴天。

ああ、こんな気持ちで空を見上げるなんて何年ぶりだろうか…

 

「…ありがとう、凱君」

 

カリンは右手を差し出し礼を言う。

私の目を覚まさせてくれてありがとう。

私の新たな力を目覚めさせてくれてありがとう。

また、人を信じる気持ちを思い出させてくれて…ありがとう。

ありがとうという一言には、様々な言葉が含まれていた。

それに慌てて凱が握手しようとして、ハッとして制服で手をゴシゴシと拭き、改めて握手した。

そんな何気ない仕草に、クスリとしてしまうカリン。

 

「君は、これから計り知れない重責を負うことになる」

 

真面目な顔で凱を見るカリン。

凱も、その言葉に頷く。

 

「覚悟してます。僕はもっと強くなって、一夏や箒さん達を護ります」

 

「あら、私は守ってくれないの?」

 

悪戯っぽい笑みで凱をからかうカリン。

だが、凱は真面目にとり、慌てふためく。

 

「えっ!?い、いやもちろん護ります!」

 

「そ、ありがと」

 

「あ…いえ…」

 

テレテレと頭をかき恥ずかしげにする凱を見て、カリンはまたクスリと笑った。

 

「…なにデレデレしとるか、ガイ」

 

凱の横でぷくーっと頬を膨らませ怒るイヅナ。

 

「やあやあ、万事解決かなー?」

 

ピットから聞きなれぬ声がした。

凱は声の方を見ると、そのには更識と千冬がいた。

 

「まったく、なんとも無様な戦いだったな、百瀬」

 

千冬は呆れているのか、怒っているのか、とにかく喜んでいるようには聞こえなかった。

 

「すいません…精進します…」

 

しゅんとへこむ凱。

 

「まあまあ、いいじゃないですか織斑先生。紅炎寺先輩もなんかすっきりした顔してるし、百瀬君も収穫はあったでしょうしね」

 

更識が千冬と凱の間に入り仲裁し、千冬はフンと鼻を鳴らした。

そして千冬はすっきりした顔のカリンを見た。

その表情を見て、苦笑する千冬。

 

「…ここまで来るのに大分時間がかかったな、紅炎寺」

 

「ご迷惑をおかけしました、千冬さん」

 

「憑き物がおちたようにすっきりした顔しおって。学校では織斑先生と言え、馬鹿者」

 

「すいません、千冬さん」

 

悪びれた風もなく、下をペロッと出して謝るカリン。

 

「…ふっ、まったく、お前は一夏以上に手のかかる”妹分”だよ」

 

「ふふふっ」

 

千冬とカリンはお互いの顔を見合わせ、笑っていた。

 

「はじめましてだね、百瀬凱君。私はIS学園生徒会長の更識楯無だよ、よろしくね」

 

「あ、はい。よろしくお願いしますー」

 

更識は口元に扇子を当てながら右手を出し握手を求める。

凱は、生徒会長ときいて驚くが、すぐに更識の手を握る。

そして、更識は握られた凱の手をまじまじと見て、にんまりと笑った。

 

「ふーん…君、面白いね」

 

「え?」

 

「ねえ百瀬君、生徒会に入らない?」

 

「え?え?」

 

「ああ、君のクラスの布仏本音も生徒会に入っているから寂しいことはないよー」

 

「え?ええ?」

 

「あ、君私より強いし、生徒会長やる?大丈夫、副会長として私がちゃんと手取り足取り補佐するから♪」

 

「えええっ!?わあっ!?」

 

「おい小娘、ガイに気安く触るな!」

 

イヅナの抗議を無視して凱の腕を取り、体を密着させる更識。

凱の腕に更識のやわらかな二つのふくらみの感触が…

 

「…おい百瀬、鼻の下が伸びてるぞ」

 

「あぅっ!?そ、そんなことないですよ!?」

 

千冬から指摘され顔をごしごし擦る凱。

もうバレバレだ。

 

「更識…お前、最初からこのつもりだったな?」

 

千冬が更識を睨む。

 

「さて、なんのことでしょー?」

 

ソレを扇子で口元を隠しとぼけるが、実際その通りである。

そもそも更識はカリンに言われる前から凱との接触を思案していた。

そのために更識家の従者の家の生まれであり、凱のクラスメイトでもある布仏本音・通称のほほんさんに書類ではわからない身辺調査をさせていたのだ。

今回のことに関してはイレギュラーだとしても、いい情報を得ることができた。

凱の実力は本物であり、早急に保護しなければならないということが。

だが、ここで思わぬ敵が現れる。

 

「だめよ、更識。凱君は私と新しいクラブを立ち上げるんだから!」

 

目をキラキラさせて凱を抱きしめるカリン。

それをみた更識は、目を見開きカリンに猛抗議する。

 

「話がちがいますよ紅炎寺先輩!?百瀬凱君は生徒会に入会させるって最初に言ったでしょう?」

 

「ごめんね更識。私、凱君のこと気に入っちゃった♪」

 

「…先輩の素って性質悪いんですね…まさか、ここまでフリーダムだったとは…」

 

「そうかなー?」

 

なにやらお互い思惑があるのかギャーギャー騒ぐカリンと更識。

その隙に凱はイヅナに連れられ二人から離れた場所で成り行きを見守っていた。

 

「モテモテだな、百瀬。うれしいだろう、うん?」

 

「どうでしょうか?なんか保護とかの名目をすり替えてるだけな気がするんで、素直に喜べないですねー」

 

凱の横に立つ千冬の皮肉に、なんとも冷静な返答をする凱。

しかもなまじその分析が当たっているから始末におえない。

千冬は呆れるしかなかった。

 

 

なにはともあれ、この日、凱に心強い仲間が出来た。

 

その名は『紅炎寺カリン』

 

もう一人の因使である。

 

 

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