IS - M・od   作:阪本葵

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第50話 山田先生頑張る

 

 

「とっとと列に並べ」

 

ばしーん!

 

織斑先生からご指導いただき、僕たちは一組整列の一番端に並んだ。

 

「ずいぶんゆっくりでしたわね」

 

セシリアさんが僕に向かって少々棘のある言葉を告げる。

なんかお姉さんみたいだ。

お姉さんならその大きな胸で僕を優しく包んでほしいもんだ!

 

「スーツを着るだけで、どうしてこんな時間がかかるのですか?」

 

それは、セシリアさんたちのISスーツとは少し構造が違うからだよ。

女性のISスーツは、見た目はレオタードや水着に近い。

つまり露出が多い。

部分的に肌の露出があるのは動きやすいようにという考慮だ。

実際防御に関してはISはシールドバリアーがあるから、露出が多くてもなんら問題はない。

でも、僕達男のISスーツは違う。

全身すっぽり、首のところまである。

露出してるのは頭、手、足、ああ、スーツが上下に分かれてるからお腹もか。

これ、お腹冷やさないかなあ。

僕お腹弱いんだよな…

もし、女子と同じコンセプトで水着と同じスーツになったら、上半身裸になってしまう。

そんな常に上半身裸だったら露出狂の変態だ。

そういうところまで考えてくれたのかはわからないけど、まあ何かしら考慮と配慮がなされているのだろう。

 

「着替えに手間取ったんだよ」

 

「ウソおっしゃい。いつも間に合うくせに」

 

セシリアさんの、一夏に投げかける言葉の端々に棘がある。

綺麗なバラには棘があるというのを実践しているのだろうか。

 

仕方ない、僕が助け舟を出そう。

 

「いやいや、実際このスーツは着るのに時間がかかるんだよー。引っかかるし」

 

「ひ、引っかかる!?」

 

セシリアさんは顔を真っ赤にしだした。

 

「うん、しかも一夏は『特盛』だからポジショニングもファウルカップに収めるのも大変なんだよー」

 

「ポ!?ポポポポジショニング!?特盛!?」

 

セシリアさんの顔は一瞬で真っ赤になった。

でも、心なしか体を前のめりにして食いついてくる。

ほほう、興味津々ですか?

むっつりですか、セシリアさん?

 

「おい、モモンガー!あんまりそういうこというなよ!恥ずかしいだろ!?それに凱も『大盛り』だろうが!」

 

「そ、そそそそそうなんですの!?」

 

一夏が恥ずかしそうに顔を赤くしていたが、セシリアさんに誤解を与えたままではダメだろうと思うんだよ、僕は。

こういう話は女の子にドン引きされるけど、変な誤解をされるよりはマシだろう。

セシリアさんはより顔を真っ赤にしている。

 

「ど、どどどどどどうしましょう……わたくし、『大盛り』を受け止められるかしら…!?」

 

セシリアさんが何を言ってるのか意味がわからない。

だから無視。

 

「いやいや、一夏、ココはちゃんとした正当な理由があるんだから言っておかないと。それに、一夏も自信持って!ね、シャルル君」

 

「ふえぇ!?そ、そそそそう…かな?ていうか僕に振らないでよ~!」

 

グッと拳を握り一夏にエールを贈る。

シャルル君はまたわたわた慌てている。

シャルル君はシャイだなあ。

 

気付けば、周囲の女子が皆顔を真っ赤にしてモジモジしてる。

 

「あんた、なんつー話してんのよ!?」

 

後ろの列は二組で、その列の前にいた鈴さんが顔を真っ赤にして怒ってきた。

 

「え、だから、このISスーツは着づらくて、引っかかって、一夏は『特盛』だという…」

 

「いちいち言わなくてもいいわよ!バカ!!」

 

「何を言うんだ、一夏に変な誤解を与えないように真実を語ってるんだよ?何かおかしいかな?」

 

「そんな真実知りたくなかったわよ!!バカ!!」

 

「バカバカって…それは一夏が一生誤解されたままでいいっていうこと?一夏が『小盛り』だと勘違いされてもいいと?」

 

「…百瀬、わかった。わかったから、そういう話は休憩時間にしろ」

 

あっ、いつの間にか織斑先生が立っていた。

織斑先生も顔が赤いぞ。

 

バシーンッ!

 

あー、蒼天の下で今日もまた出席簿アタックが響くなー。

 

 

 

「では、本日から格闘及び射撃を含む実戦訓練を開始する」

 

「はい!」

 

一組と二組の合同実習なので人数はいつもの倍。

出てくる返事も妙に気合いが入っていた。

 

「くうっ…何かというとすぐに人の頭をポンポンと…」

 

「…凱のせい凱のせい凱のせい…」

 

出席簿アタックを食らったセシリアさんと鈴さんがちょっと涙目になりながら頭を押さえ、呪詛のようにブツブツ呟く。

 

「今日は戦闘実演をしてもらおう。ちょうど活力が溢れんばかりの十代女子もいることだしな。―――凰!オルコット!手本を見せてやれ」

 

「な、なぜわたくしまで!?」

 

おお、セシリアさんは完全なとばっちりだ。

ごめんなさい。

 

「専用機持ちはすぐに始められるからだ。いいから前に出ろ」

 

「だからってどうしてわたくしが…」

 

「凱のせいなのになんであたしが・・・」

 

やめて、その呪詛で僕は死んじゃうよ!

 

「お前ら少しはやる気を出せ。―――アイツらにいいところを見せられるぞ?」

 

おや、織斑先生が何か二人に呟いてますよ?

 

「やはりここはイギリス代表候補生である、このセシリア・オルコットの出番ですわね!」

 

「まあ、実力の違いを見せるいい機会よね!専用機持ちの!」

 

なぜか二人ともいきなりやる気ゲージがマックスになる。

一夏にいいところを見せられるとでもいったのか、ご飯でも奢ってやるとでも言われたのか…

 

「それで、相手はどちらに? わたくしは鈴さんとの勝負でも構いませんが」

 

「ふふん。こっちの台詞。返り討ちよ」

 

「慌てるなバカども。対戦相手は―――」

 

 

キィィィン…。

 

 

ん?これは空気を裂く音?まさか―――

 

「ああああ!ど、どいてください~っ!」

 

うわ!危ない!!

 

一夏が!!

 

 

 

ドカーン!

 

一夏は声の方を向いたが、ときすでに遅し。

謎の飛行物体の突進を受け、数メートル吹き飛ばされた後ゴロゴロ転がった。

 

…ほっ、咄嗟に白式の展開が間に合って大事無いようだ。

 

…でも…あれは…

 

むにゅ。

 

一緒に転がっている山田先生の巨乳を一夏はおもいっきり掴んで揉んだ。

 

…このっ…ラッキースケベめ!!

 

「あ、あのう、織斑君…ひゃんっ!」

 

一夏は山田先生の胸を鷲掴みし、さらに餅をこねるように揉んでいる。

事態が飲み込めていないようだ。

 

「どさくさに、何してますの?…この、女の敵!!」

 

そうこうしていると、セシリアさんが一夏の頭目掛けてレーザーを放った。

おおう、あれは『大逆鱗モード』のセシリア・オルコットさんではないですか…!

 

「いちっ…かあぁぁぁっ!!」

 

鈴さんが怒りに満ちた叫びをあげながら《双天牙月》をガシーンと組み合わせて投擲。

 

「うおおおっ!?」

 

ためらいなく首を狙ってる!

鈴さん怖い!!

 

間一髪一夏は山田先生から離れのけぞった。

しかし、仰向けに避け、絶望的な光景を見る。

ブーメランのように返ってきた《双天牙月》は完全に一夏を捉えていた。

これはかわせないな。

 

 

さて、何故僕が一夏を助けないのかというと…

 

簡単な話、『もげちまえ!』と思っているからだ。

いい薬だ!!

どうせ主人公、ギャグのダブル補正で死なないだろうしな!

次のページに映れば怪我も無くなってるさ!!

 

「はっ!」

 

 

ドンッドンッ!

 

短く二発、火薬銃の音が響く。

弾丸は的確に《双天牙月》の両端を叩き、その軌道を変える。

 

キンッキンッと地面に薬莢が跳ねる音を聞きながら一夏はそのピンチを救ってくれた射手に視線を向ける。

それはなんと山田先生だった。

両手でしっかりとマウントしてるのは五十一口径アサルトライフル《レッドバレット》。

アメリカのクラウス社製実弾銃器で、その実用性と信頼性の高さから多くの国で正式採用されているメジャー・モデルだ。

 

しかし驚いたのは何より山田先生の姿で、倒れたままの体勢から上体だけをわずかに起こして射撃を行ってあの命中精度なのだ。

雰囲気も、いつもバタバタした子犬のようなものとは違い、落ち着き払っている。

 

とてもじゃないけど、僕と入学試験で模擬戦をしたときのあの慌てっぷりの人とは同一人物とは思えない。

 

 

「………」

 

 

僕だけじゃなく、そばにいる一夏と鈴さんはもちろん、セシリアさんや他の女子も唖然としたままだった。

 

「山田先生はああ見えて元代表候補生だからな。今くらいの射撃は造作もない」

 

「む、昔のことですよ。それに候補生止まりでしたし…」

 

ぱっと雰囲気がいつもの山田先生に戻り、起き上がると肩部武装コンテナに銃を預ける。

それからずれた眼鏡を両手で直す。

ああ、やっぱりこういう仕草は山田先生だなあ…

織斑先生が言った言葉にちょっと照れているらしく、頬が赤かった。

 

「さて小娘どもいつまで惚けている。さっさとはじめるぞ」

 

「え?あの、二対一で…?」

 

「いや、さすがにそれは…」

 

「安心しろ。今のお前たちならすぐに負ける」

 

負ける、と言われたのが気に障ったのか、セシリアさんと鈴さんはその瞳に闘志をたぎらせる。

特にセシリアさんに至っては一度教師に勝っているというのがポイントなのか、さっきより闘志がみなぎっている。

 

「では、はじめ!」

 

号令と同時にセシリアさんと鈴さんが飛翔する。

それを目で一度確認してから、山田先生も空中へと躍り出た。

 

「手加減はしませんわ!」

 

「さっきのは本気じゃなかったしね!」

 

「い、行きます!」

 

言葉こそいつもの山田先生だったが、その目はさっきと同じく鋭く冷静なものへと変わっている。

先制攻撃したのはセシリア鈴組だったが、それは簡単に回避された。

 

「さて、今の間に…そうだな。ちょうどいい。デュノア、山田先生が使っているISの解説をしてみせろ」

 

「あ、はい」

 

空中での戦闘をみながら、シャルル君がしっかりとした声で説明をはじめた。

 

「山田先生の使用されてるいSはデュノア社製『ラファール・リヴァイヴ』です。第二世代開発最後期の機体ですが、そのスペックは初期第三世代型にも劣らないもので、安定した性能と高い汎用性、豊富な後付武装が特徴の機体です。現在配備されている量産型ISの中では最後発でありながら世界第三位のシェアを持ち、七ヶ国でライセンス生産、十二ヵ国で正式採用されています。特筆すべきはその操縦の簡易性で、それによって操縦者を選ばないことと多様性役割(マルチロール・チェンジ)切り替えを両立しています。装備によって格闘・射撃・防御といった全タイプに切り替えが可能で、参加サードパーティーが多いことでも知られています」

 

「ああ、いったんそこまででいい。…終わるぞ」

 

シャルル君の説明に感心していた僕は、戦闘がどうなっているのか完全に忘れていた。

その説明が終わる頃には戦闘が終わりを迎えていた。

 

山田先生の射撃がセシリアさんを誘導、鈴さんとぶつかって動きが止まったところにグレネードを投擲。

爆発が起こって、煙の中からふたつの影が地面に落下した。

 

「くっ、うう…。まさかこのわたくしが…」

 

「あ、アンタねぇ…面白いように回避先読まれてんのよ…」

 

「り、鈴さんこそ! 無駄にばかすかと衝撃砲を撃つからいけないのですわ!」

 

「こっちの台詞

せりふ

よ! なんですぐにビットを出すのよ! しかもエネルギー切れるの早いし!」

 

「ぐぐぐぐっ…!」

 

「ぎぎぎぎっ…!」

 

竜虎相見える―――というか相変わらず仲悪いなぁ。

どっちの主張もそこそこあっているので余計みっともない感じだ。

けど今回はチームワーク皆無だったのが敗因で、むしろ互いに足を引っ張っていたともいえる。

鈴さんはともかく、セシリアさん一人なら、普段の僕との訓練で出してる実力ならいい勝負行くと思ったんだけどなー。

専用機持ちと代表候補生のブランド株価がぎゅんぎゅん落ちている音が聞こえた気がする。

しかも無常にもストップ安はないらしい。

 

「さて、これで諸君にもIS学園教員の実力は理解できただろう。以後は敬意を持って接するように」

 

ぱんぱんと手を叩いて織斑先生がみんなの意識を切り替える。

 

「専用機持ちは織斑、百瀬、オルコット、デュノア、ボーデヴィッヒ、凰だな。そうだな、百瀬はボーデヴィッヒをサポートしろ。では八人グループになって実習を行う。各グループリーダーは専用機持ちがやること。いいな? では分かれろ」

 

「はいっ!」

 

皆がわらわらと分かれる。

 

さて、じゃあラウラ・ボーデヴィッヒさんのところに行こうかな。

 

 

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