さて、専用機持ちは他の生徒に対してレクチャーしなければならないわけだけど、僕の場合、少し事情が異なる。
だって、僕普通のISほとんど乗ったことないし。
以前束さんのとこにあった打鉄を一度だけ装着した…はいいけど、それを見たイヅナちゃんが号泣。
「ガイが浮気したー!!」
とか言われて、その後イヅナちゃんをなだめるのが大変だった…
というわけで、知識は豊富だけど普通のISはド素人な僕はサポートにまわした方が良いと織斑先生も思ったんだろう。
そして、なんでラウラ・ボーデヴィッヒさんのサポートにまわしたかというと、それはラウラ・ボーデヴィッヒさん自身に問題がある。
今朝のあの転入の挨拶で、ラウラ・ボーデヴィッヒさんは人とのコミュニケーションが致命的にダメだと判断し、僕を付けることにしたんだと思う。
どうも織斑先生とラウラ・ボーデヴィッヒさんは知り合いのようだし、その辺りの性格も考慮しての事だろう。
これは授業だから、皆IS操縦が上手くならなきゃいけない。
でも、このグレープ別レクチャーで差がひらいてしまうのはいただけない、といったところだろうか。
「…何故凱さんがあんなちんちくりんのサポートに…しかも他の生徒を教えるですって?何故わたくしのサポートではないんですの?ああ、わたくしとだけの秘密の個人授業という甘い響きが…ああ、憎い…あの銀髪ジャガイモちんちくりんが憎い…!憎しみで人が殺せたら…!!」
セシリアさん、怖い。怖いよ。
呪詛がダダ漏れですよ。
ハンカチを歯で食いしばり引きちぎらんばかりのその様、血涙が出んばかりの恨みの目、禍々しい負のオーラで逆立つ髪。
超怖いですよ。
ほら、他の生徒がドン引きしてるし、織斑先生ですら、その殺気に驚いてますよ?
これはあとでフォローしなくちゃダメだな。
…セシリアさんは、どこで道を間違えてあんな残念な性格になったんだろうか?
まあ、何はともあれ僕はラウラ・ボーデヴィッヒさんのところへ赴く。
「よろしくねー、ラウラ・ボーデヴィッヒさん」
僕はにぱーっと笑顔を向けた。
ラウラ・ボーデヴィッヒさんはうっと声を詰まらせて、フンと鼻を鳴らし顔を背ける。
…僕、嫌われたのかな?
「…この餓鬼…!」
イヅナちゃんがこめかみに血管を浮き立たせラウラ・ボーデヴィッヒさんの態度を怒る。
というか、今朝の一夏と間違って僕を殴った事を未だに怒っているようだ。
…僕はもう怒ってないんだけどなー。
人は誰だって間違いはする。
人を殴るという行為はいけないけど、なにか理由があるんだろう。
だから、痛かったけど僕は怒ってない。
「………その、先程はすまなかった」
顔を背けながら、ポソッと小声で謝るラウラ・ボーデヴィッヒさん。
そんなラウラ・ボーデヴィッヒさんの態度に毒気を抜かれたイヅナちゃんは呆れてしまった。
「…素直じゃない奴だのう…」
まあまあ、そう言わず謝ったんだからいいじゃない。
「いいよ、間違いは誰にでもあるしねー」
そう言って僕は右手を差し出した。
「僕は百瀬凱。これからよろしくねーラウラ・ボーデヴィッヒさん」
ラウラ・ボーデヴィッヒさんはチラチラ僕の顔と手を交互に見て、恐る恐るというかゆっくりと僕の手を握った。
「…私のことはラウラでいい。その、よろしく頼む、百瀬凱」
「僕の事はモモンガーでいいよー」
「なんだそれは?」
ラウラさんは眉をひそめる。
そんなにモモンガーって変かな?
「それと…なぜイギリスの代表候補生は、私に殺気を向けてるんだ?…あの殺気、相当の修羅場を潜り抜けた猛者だな。データでは兵役経験は無いとあったが、あれは数多の戦場で人を殺してるな、あの殺気と眼力は。…ふむ、イギリスのデータを見直す必要がある」
うんうんと感心するように頷くラウラさん。
…セシリアさん、あんた、知らないところでとんでもない評価受けてますよ?
だからその殺気さっさと仕舞いましょうよ。
「おまえ達、親睦を深めるのはいいが、やることをやれ」
パシン!
僕とラウラさんは織斑先生の出席簿アタックを喰らった。
さて、そうして僕とラウラさんは打鉄を使ってグループの子達に教えるわけなんだけど、なんとラウラさんは教えるのが上手かった。
「うむ、いいぞ。もっと自分の体の一部として意識しろ。そうだ、意識を強く持つとISも応えてくれる。ああ、慌てるな、ゆっくりとだな…」
「なんだ、あやつ意外と面倒見が良いではないか?」
イヅナちゃんも感心している。
これは、僕がでしゃばる事ないなー。
しかし、あれだね
「ラウラさんの指導方法は織斑先生の指導に似てるねー」
理路整然としたわかりやすい教え方は、織斑先生と共通するところがある。
まあ、織斑先生よりはマイルドではあるかな?
あの人すぐ体罰に走るし。
僕がそう呟くとラウラさんは目をキラキラさせ僕に詰め寄る。
顔、顔近い!
「当然だ!私は教官を尊敬しているからな!」
鼻息荒くラウラさんは織斑先生を賛辞する。
「教官はな!それはすばらしい人で…っと、ああ、もういいぞ。次の者と交代だ」
話の途中でISを操縦していた子の歩行練習が終わったようで、テキパキと次の指示を出すラウラさん。
ううむ、真面目な子だ…
「あ、おい、しゃがんで下りないか。…仕方ないな、初歩的なミスをしおって…」
ラウラさんが眉をひそめてなにやらぼやく。
ああ、操縦していた子がISを屈ませず降りたらしい。
こうなると、次に操縦する人が乗り込むのに苦労するんだけど―――
うん?
なんで皆僕をそんな期待の眼差しで見てるの。
なんか一夏のグループをチラチラ見ながら…
…
………
一夏…女の子をお姫様抱っこしてISに乗っけてるよ…
つまり、僕にもそれをしろと、言いたいんだね?
コクリ
アイコンタクトで通じる思惑。
…仕方ない。
「はあ…イヅナちゃん、やろうか?」
「ふう、仕方ないな。まったく、このませ餓鬼共は…」
イヅナちゃんはぶつぶつ言いながら、僕と融合した。
そして、終極因使の姿になり、歓声と黄色い声があがる。
「きゃー!あいかわらずかわいいー!」
「狐っ子は反則よー!」
「モコモコの尻尾がラブリー!」
きゃいきゃい騒ぐ女子達とは反対に、ラウラさんは僕の姿を見て息を飲み無言だった。
「…それが、ゼクスファクター…唯一無二の力か…」
なんかラウラさん嬉しそうだね。
その目、明らかに”戦いたい!”って目だよね。
そうか、ラウラさんも専用機持ちで実力はあるのか。
まあ、僕も強くなりたいし、いいかな?
「よかったら今度模擬戦でもする?」
「いいのか!?」
僕の提案に目をギラギラさせるラウラさん。
あー、戦闘狂でしたかー。
「まあその話はまた今度ね。今は授業に専念しようねー。また織斑先生に叩かれたくないしー」
「うむ、そうだな」
織斑先生を尊敬するラウラさんも、流石に殴られるのは嫌らしい。
そりゃ殴られるのが好きなら、それはドMだからなあ…
結局、その後は僕がひとりひとりお姫様抱っこしてISに乗せ、指導をラウラさんがするという形におさまった。
…僕はタクシーか?
ちなみに、僕がタクシー代行を行っている間、ずっとセシリアさんは濃密な殺気と視線をこちらに向けていた。
お姫様抱っこされてた娘たちも、セシリアさんの殺気にガタガタ震えていた。
あとでセシリアさんに何されるかわかったもんじゃない。
震えるくらいなら辞めりゃいいのに、皆「今生の思い出に」とか言って、死を覚悟しての行動だった。