IS - M・od   作:阪本葵

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第52話 みんなで仲良く食べましょう

 

 

昼休み、僕たちは屋上にいた。

 

IS学園の屋上は美しく配置された花壇に季節の花々が咲き誇り、欧州を思わせる石畳が落ち着いている。

 

事の発端は一夏の一言だ。

 

「おーい、モモンガー、シャルル一緒に飯食おうぜー」

 

「…え?」

 

僕は一夏の言葉を聞き間違いかと思った。

 

たしか箒さんが一夏を昼食に誘ったハズだ。

本人からも聞いたし、そういう計画だったし、そのためのお弁当作りも手伝ったし。

計画とは、箒さんが一夏を昼食に誘い、二人きりで箒さんの手作り弁当を食べるという、壮大な計画だ!

 

なのに、そこで何故僕とシャルル君が呼ばれる…?

 

 

………

 

ああ、つまり一夏はこう思ったわけだ。

 

”皆で食べた方が美味いだろ?”

 

…その悪意のない考えは、いつか身を滅ぼすよ一夏…

 

「あやつ、いつか刺されるな」

 

イヅナちゃん、リアル過ぎるよ、その未来予想図。

 

 

 

「…どういう事だ」

 

「何がだ?」

 

「何故皆いるんだ」

 

「こういうのは大勢で食った方が美味いからだよ」

 

箒さんはぐぬぬと一夏を睨むけど、当の一夏はそんな睨み完全スルー。

学園の屋上で僕達は各々昼食を持って座っている。

メンバーは一夏、箒さん、シャルル君、僕、そして何故かセシリアさんと鈴さんもいた。

一夏と僕の会話を聞いていたセシリアさんと鈴さんが、ならわたくしも、私もと付いてきてしまったのだ。

抜け駆けは許さないといった警告だろうか。

 

当初、僕はシャルル君とラウラさんを昼食に誘ってたんだけど、そこに一夏が一緒に昼食を採ろうと言っていた。

で、ラウラさんは一夏と一緒に食事したくないからと言って断られたてしまったのだ。

どんだけ嫌われてるんだ、一夏。

そして箒さん、計画を台なしにしてごめんなさい。

僕は一夏に見えないように箒さんに手を合わせて謝った。

箒さんも、それを見て諦めたのか、はあ、とため息をついた。

鈴さんは、持っていたタッパーを開けた。

一夏はそれを見て喜ぶ。

 

「おお、酢豚だ!」

 

「そ。今朝作ったのよ。アンタ前に食べたいって言ってたでしょ」

 

そこには酢豚が詰められていた。

酢豚、のみ。

酢豚オンリー。

 

…ごはんは?

 

あ、鈴さん自分だけごはん用意してる!

それは一夏に喜んでほしいのか、ただ単に嫌がらせなのか…

 

しかし美味しそうだ。

 

「コホンコホン。――― 凱さん、わたくしも今朝はたまたま偶然何かの因果か早く目が覚めまして、こういうのを用意してみましたの。よろしければおひとつどうぞ」

 

バスケットを開くセシリアさん。

そこにはサンドイッチが綺麗に並んでいる。

すごく見た目きれいで美味しそうなんだけど…実はセシリアさんは料理がからきしだ。

以前セシリアさんの作ったものを食べさせてもらったが、あれは毒殺のレベルだった。

 

「料理の写真通り作ればよろしいのでしょ?」

 

…写真通りじゃなくて、本のレシピ通りにね!!

ていうか味見しようよ!

セシリアさん自分で作った料理一切食べずに購買で自分用を調達してるし。

 

「ちゃんと味見した?セシリアさん?」

 

「え?いいえ?」

 

何即答してるんだセシリアさん。

 

「…いただきます」

 

「あ!ガイ!?」

 

イヅナちゃんが僕を止めようとするけど、構わず渋々ながらサンドイッチを口に放り込む。

そしてゆっくり咀嚼する。

…見た目に反するこの辛さ…サンドイッチになんでこんな大量にタバスコ入れてんだ?

口の中が痛いじゃないか!!

 

「…辛い」

 

「え?そ、そんな筈は…」

 

僕の率直な感想に驚くセシリアさんは、サンドイッチを口に入れ、顔を真っ赤にして咽た。

 

「げほっ!か、辛っ!?な、何故ですの!?…あっ、す、すいません!」

 

セシリアさんは自分の作ったサンドイッチの味に驚きつつも、謝り急いでサンドイッチの入ったバスケットを隠そうとした。

 

「何してるの?」

 

「こ、こんな不快な食べ物を凱さんに差し上げてしまい申し訳ない気持ちでいっぱいです。これは後程処分します」

 

本当に申し訳ありませんと謝るセシリアさん。

そんな泣きそうな顔しないでよ。

 

「セシリアさん、バスケット貸して」

 

「…え?」

 

どうするの?という顔をしてるが、やることは当然一つだ。

 

「食べるから」

 

「そ、そんな!?ダメです!お腹を壊してしまいますわ!!」

 

いや、そこまでひどい料理ではないよ?

 

「せっかくセシリアさんが作ってくれたんだから、全部食べる」

 

「凱さん…」

 

セシリアさんは目をウルウルさせてる。

感激してるのか?

いや、贖罪がもったいないじゃないか。

 

「漢だなモモンガー!」

 

一夏がなんか言ってるけど、これは普通の事だろう?

イヅナちゃんも横でうんうん頷いてる。

 

「でも、次からはちゃんと味見してね?」

 

「は、はい」

 

素直に頷くセシリアさん。

しゅんとして落ち込んでる。

反省もしてるから、これ以上言わない。

…よし、こうしよう。

 

「今度、一緒に料理しようか?」

 

「…え!?ほ、本当ですの!?」

 

打って変わって目をキラキラさせて食い気味に近寄る。

 

「だって心配だもの」

 

これ以上犠牲者を出さないか心配だ。

僕はそう言って黙々とサンドイッチを食べる。

うん、辛い。

 

僕たちのやり取りをしばらく見た後、箒さんは小さい弁当箱を二つ膝の上に置き、セシリアさんや鈴さんの弁当に目移りしている一夏を睨んでいた。

 

「あの、僕お邪魔じゃないかな?」

 

シャルル君が申し訳なさそうな顔をしている。

たしかに、この仲良しグループにいきなり連れて来られたら萎縮してしまうだろうなあ。

しかし、心配御無用!

 

「シャルルは転入したてだし、数少ない男同士だし遠慮するなよ!」

 

一夏はニカッと笑い、シャルル君もありがとうと言って笑った。

 

「でも、僕お弁当持ってないし…今から購買に行こうかな?」

 

シャルル君はそう言って立ち上がろうとした。

僕はそれを止める。

 

「ふふふ、こんなこともあろうかと、僕がシャルル君のお弁当を用意しているんだよー!」

 

バーン!

 

僕は弁当箱を三個取り出した。

 

長方形の二段に積まれた弁当箱は僕用

 

一回り小さい弁当箱はイヅナちゃん

 

そしてブリキで出来た弁当箱がシャルル君のだ。

―――実は、一夏が箒さんのお弁当でお腹一杯にならなかったとき用の予備だったんだけど、そこは内緒にしておこう。

 

「ぼ、僕の?わ、悪いよそんな」

 

「いいからいいから、お近づきの印にどうぞお納めください」

 

シャルル君は手をブンブン振って恐縮するけど、別に気にするような事じゃないから無理矢理手渡す。

 

「あ、ありがとう」

 

シャルル君は少しはにかみながら、でも嬉しそうだった。

 

「おお、モモンガーの弁当か。いいなー、シャルル」

 

「えへへ」

 

一夏はシャルル君が持っている弁当箱を羨ましそうに見て、シャルル君はそれをまた嬉しそうに笑って応えた。

 

箒さんは一夏に弁当箱を渡し、一夏は受け取るとすぐに蓋を開けた。

 

すると中身は色とりどりのおかずと、白いご飯。

卵焼き、タコさんウインナー、唐揚げ、きんぴらゴボウ、サラダ…ううん、美味しそうだ。

 

実は箒さんの弁当は僕が手伝っていたりする。

 

イヅナちゃんが箒さんに助言した中のひとつに、”男は胃袋から攻めろ”というのがあったらしい。

そこで僕が箒さんに一夏の好きな味付けとか教えたり、隠し味のレクチャーしたりとイロイロお節介を焼いた。

その時のついでに、僕は自分達用の弁当を作ったわけである。

 

「おお!うまそうだな!」

 

一夏は弁当の中身を見て絶賛する。

そして箒さんは一夏に褒められて嬉しそうにし、セシリアさんと鈴さんはぐぬぬと悔しそうな顔をする。

 

「言っておくがついでだからな。私が食べるために時間を掛けて作ったものだ」

 

「そうだとしても嬉しいぜ。箒、ありがとう」

 

そう言って一夏は箒の弁当に手を伸ばす。

一夏はいただきますと言って、唐揚げを掴み口にほうり込む。

モグモグと粗食し、味を確かめる。

 

「うん!うまい!これって結構手間がかかってないか?」

 

それを聞いた箒さんはぱあっと顔を笑顔で輝かせる。

 

「まず下ごしらえに、軟骨を抜いて肉の柔らかさ残す。下味に生姜とおろしニンニク、うすくち醤油、みりん、日本酒、塩コショウを馴染ませるんだ。これで肉も柔らかくなる。さらに大根おろし適量が隠し味だな」

 

ふふんと得意げにレシピを言う箒さん。

 

実はこのレシピ、箒さんのレシピに僕が改良を加えたものだ。

軟骨の取り除きは食感に大事な作業だし、みりんと日本酒も肉に味を馴染ませ、柔らかくするのに大事な調味料なのだ。

 

「いや、ほんと美味いぜ箒!」

 

一夏の評価は上々だ。

さて、僕たちも食べよう。

 

「さ、僕達も食べようか」

 

「うむ!」

 

「うん」

 

僕とイヅナちゃん、シャルル君も弁当のフタを開けた。

 

「うわあ…すごい…」

 

「おお!相変わらずガイのご飯は美味しそうだぞ!」

 

「本当にすばらしいですわね…」

 

セシリアさんも感心しきりだ。

さて、三人の弁当の中身は同じだ。

 

ごはんに、だし巻き玉子、ほうれん草のお浸し、ミートボール、唐揚げ、ウインナー、ポテトサラダである。

 

「あれ、この唐揚げ篠ノ之さんのと同じ?」

 

おやシャルル君、鋭いね。

でも残念だけど、味付けが違うのだ。

 

「僕の唐揚げはポン酢と生姜、おろしニンニクだけだよー」

 

「ポン酢?」

 

シャルル君は首を傾げる。

なんだシャルル君、あの万能調味料を知らないのか?

まあいいや。

 

「ポン酢は肉を柔らかくするし、しっかり味が染み込む万能調味料だよー。お手軽だね!」

 

「へー」

 

「ほんと、主婦みたいな思考の調理方法ね…」

 

鈴さんが呆れてる。

料理は時間が勝負なんだよ!

料理は手を抜かず、しかし効率よく!!

 

そう思いながら、僕は唐揚げを箸で掴みシャルル君の前に差し出す。

 

「?なに?」

 

シャルル君はわかっていないようだ。

この体勢でやることといったら、あれしかないでしょう?

 

「シャルル君、あーん」

 

「ええっ!?が、凱!?」

 

シャルル君は顔を真っ赤にしてわたわたする。

何を焦る必要があるのだろうか?

 

「こ、これって…こ、ここ恋人同士がするやつでしょう!?」

 

「!!」

 

箒さんとセシリアさん、鈴さんの目がキュピーンと光った!

 

「別に恋人同士じゃなくてもやるよー。僕、IS学園に入学する前は一夏と毎日やってたもん。ねー、一夏?」

 

「おう、そうだな」

 

「な、なんですってー!?」

 

「ま、毎日だと!?な、なんと羨ましい…」

 

「やっぱり最大の敵は凱なのね…!」

 

言いたい事を言う驚愕の三人。

でも最後の鈴さんの言葉は意味がわからない。

 

「ガイー、我も我も!あーん」

 

「じゃあイヅナちゃんからねー、あーん」

 

「モグモグ、むふふーガイのあーんで食べるご飯は格別だぞ!」

 

「………」

 

箒さん達三人は羨ましそうな目で僕とイヅナちゃんを交互に見て、そしてじーっと一夏を見た。

 

「はーいシャルルくーん、あーん」

 

「…あ、あーん…」

 

恥ずかしそうに唐揚げを口に入れるシャルル君。

そしてモグモグとゆっくり粗食する。

 

「…おいしいね、唐揚げ」

 

シャルル君は頬を染めながら微笑む。

おおう、その笑顔は同性の僕でもときめいてしまうよー!

 

「ほら、一夏も箒さん達にしてあげなよー」

 

「え?ああ、そうだな。じゃあ箒、あーん」

 

「あ…あーん…」

 

箒さんは一夏から唐揚げをあーんされてすごく嬉しそうだ。

 

「いいものだな…」

 

「ああ、美味いだろ?」

 

「そういう意味ではないのだが…うん、いいものだ」

 

的外れな解答をする一夏に、呆れる箒さん。

 

「凱さん!」

 

「一夏!」

 

鈴さんは我慢出来ずにズイッと体を乗り出し一夏に酢豚を差し出す。

うーん、負けず嫌いというか、引き離されないように必死というか。

セシリアさんも、体を乗り出し僕に近付く。

…ああ、セシリアさんは購買のパンだけでお腹空いてるのか。

よし、いい機会だ、セシリアさんに、料理とはこういうもんだということを体でわからせよう。

 

「じゃあセシリアさん、これが卵焼きです。ちゃんと味わってねー」

 

「は…はいっ」

 

めっちゃ嬉しそうなセシリアさん。

そんなにハアハア言わなくてもちゃんとあげるから!

 

「わたくし…幸せでいろいろ沸騰しそうですぅ…」

 

なんのこっちゃ?

 

 

この後弁当はみんなであーんの応酬で美味しくいただきました。

 

 

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