シャルル君が転校してきて五日経ち、今日は土曜日。
IS学園では土曜日の午前は理論学習、午後からは完全に自由時間となっている。
とはいえ、土曜日はアリーナが全開放なのでほとんどの生徒が実習に使い、僕達も例に漏れずいつも通りISの特訓に来た。
ただ、僕達が来たこの第3アリーナ、男3人が練習しているということで使用希望者が続出。
かなり過密な状態である。
芋の子を洗うとはこういうことだろうか?
「こう、ずばーっとやってから、がぎんっ!どかんっ!という感じだ」
「なんとなくわかるでしょ?感覚よ感覚。…はあ?なんでわかんないのよバカ!」
「防御の時は右半身を斜め五度傾けて、回避の時は後方へ二十度反転ですわ」
後ろの方で一夏がコーチ役の三人、箒さん、鈴さん、セシリアさんに教えてもらっているが、相変わらずわかりにくい。
…箒さんは『野球が上手い名選手でも、名監督ではない』を体言しているよいうな人だ。
鈴さんは明らかに直感タイプだ。
ようするに野生の勘でISを操縦する天才なんだろう。
セシリアさんは理路整然としているが、とにかく細かい。
一夏にそんな細かい説明は意味無い、ていうか理解できても動けないよ。
で、それを見かねたシャルル君が一夏と手合わせをした。
一夏は実践タイプだから、コレが一番いい練習だろうと思う。
そしてその手合わせだけど、一夏の完敗。
いやはや、シャルル君強い!
一夏が手も足も出なかったよ。
「えっとね、一夏がオルコットさんや凰さんに勝てないのは、単純に射撃武器の特性を把握していないからだよ」
「そ、そうなのか?一応わかっているつもりだったんだが…」
「知識として知っているだけって感じかな?、さっきも間合いを殆ど詰められなかったよね?」
「うっ…、確かに
「一夏のISは近接格闘オンリーだから、より深く射撃武器の特性を把握しないと対戦じゃ勝てないよ。特に一夏の瞬時加速って直線的だから反応できなくても軌道予測で攻撃できちゃうからね」
「直線的か…」
「あ、でも瞬時加速中は無理に軌道を変えたりしないほうがいいよ。空気抵抗とか圧力の関係で機体に負荷がかかると、最悪の場合骨折したいするからね」
「…なるほど」
シャルル君、もといシャルル先生の説明は本当に分かりやすい。
僕もご教授願いたいものだ。
…で、こう他人事のように語っている僕は、いつも通りイヅナちゃん指導の下、素振りしている。
ただ、近頃は融合して
ああ…参加したいなあ…
男の友情で切磋琢磨していきたいなあ…
夕日に向かって走りたいなあ!
仲の良い二人を見てると、なんか僕だけのけ者みたいなんだよ…
『これガイ、雑念が混じってるぞ』
融合しているイヅナちゃんに怒られた。
思考をある程度共有しているから、僕の考えがバレバレだった。
「…ねえ、イヅナちゃん、僕も一夏達と一緒に練習したい」
『素振りの目標数を終えたらな』
…くすん。
イヅナちゃん厳しい。
…シャルル君と一夏が仲良くしてるのを遠くから見ている自称コーチ三人がブツブツ不満を言っている。
それすらうらやましい。
「一夏の白式って
「ああ。何回か調べてもらったけど
「多分、
「ワンオフ・アビリティーっていうと…なんだっけ…?」
「
「へーそうなのか」
こういう事がスラスラと出て来る辺りシャルル君がどれだけ優秀か分かる。
一夏も口をポカーンと開けて感心してるし。
「つまり、白式のワンオフってのが《零落白夜》なのか…」
「
織斑先生と同じ武器で、しかも同じ能力なのは姉弟だからでは説明がつかないらしい。
シャルル君も首を傾げているし。
でも、それが一夏と織斑先生という家族の深い絆を物語っているようだ。
「唯一仕様能力は、文字通り意図的に再現できるものじゃないんだよ」
「そっか。でもまあ今は考えても仕方ないだろうし、そのことは置いておこうぜ」
「あ、うん、それもそうだね。じゃあ射撃練習をしてみようか。はい、これ」
手渡されたのは五五口径アサルトライフル《ヴェント》。
シャルル君のISの武装の一つだ。
ん?他人のISの武装って扱えないんじゃなかったっけ?
「あれ?他の機体の武装って使用出来ないんじゃなかったっけ?」
一夏の同じように疑問に思っていたようだ。
「普通はね。でも所有者が
シャルル君に指導されるように射撃姿勢を取りながら、メニューを開いて射撃武器とのリンクを行わせようとする一夏。
でも、不具合があるのかずっと首を傾げている。
織斑先生が白式を欠陥機と言っていたから、なにか射撃が出来ないような不具合があるんだろうか?
接近戦オンリー使用とは、またなんともピーキーな機体だ。
一夏のぎこちない構えに、シャルル君が手取り足取り教えてる。
…自称コーチ三人のシャルル君と一夏を見る目が厳しくなる。
「…あの二人、仲良すぎと違う?」
「いささか目に余りますわね。男同士は非生産的ですわ…はっ!だから凱さんにも!?」
「…いかんぞ、一夏…!」
言いたい放題だな。
「うーん、なら目測でやるしかないね」
シャルル君が事情を汲み取って丁寧に説明し、一夏はレクチャーを終えると、一度深呼吸をして引き金を引く。
バンッ!!
「うおっ!?」
そして、その物凄い火薬の炸裂音に驚く一夏。
「どうかな?実際撃ってみて」
「ああ、何というかアレだな、”速い”っていうのが感想だな」
「そう、速いんだよ。一夏の瞬時加速も早いけど、弾丸はその面積がISよりも小さく空気抵抗が少ないからその分速い。だから軌道予測さえあっていれば簡単に命中させられるし、外れても牽制になる。一夏は特攻するときに集中しているけど、それでも心のどこかではブレーキがかかるんだよ」
「だから、簡単に間合いが開くし、続けて攻撃されるのか…」
…それ、自称コーチの3人がずっと言ってたよね?
まあ、あの説明では到底わからないと思うけど。
「あ、そのまま続けて。一マガジン分撃っていいから」
これほど有意義な特訓を行えたのは一夏にとっては初めてではないだろうか。
いいなあ、僕もあの輪に混ざりたいなあ。
「あれ程私が言ったのにな」
「あれで分からないあんたがバカなだけじゃないの」
「私の理路整然とした指導の何処がいけないというのでしょう」
「…馬鹿かあやつ等は?」
なんか負け惜しみみたいな文句を照れる三人に、イヅナちゃんは呆れていた。
…今回ばかりは僕もフォローできないなあ…
「それにしてもシャルルのISってラファールとは違うように見えるけど同じ機体なのか?」
《ラファール》とは正式名称《ラファール・リヴァイブ》、《疾風の再誕》の意味を持つデュノア社製フランス第二世代型ISだ。
何がどう再誕なのかは聞かない。
かっこいい名前にそんな突っ込みは無粋だものね!
山田先生が使っていた機体もコレなんだけど第三世代機にも劣らない高い性能と汎用性が売りで世界シェア第三位であり、操縦の簡易性によって装備次第では役割や戦場を選ばないのが特徴である、と、以前シャルル君が実習で説明していた。
本来のラファール・リヴァイブはネイビーカラーに四枚の
色はオレンジで多方向推進翼が背中に一対、中央から二つに分かれるようになっていて、より機動性と加速性が高くなっており、アーマーも山田先生のより大分シェイプアップされている。
何をしても様になるなあ、シャルル君は。
そして四枚付いているはずの物理シールドは全て取り外され、左腕にシールドと一体化した腕部装甲が付けられていて、逆に右腕は射撃の邪魔にならないためにすっきりとしたスキンアーマーのみになっている。
「ああ、僕のは専用機だからかなりいじってあるよ。正式にはこの子の名前は《ラファール・リヴァイブ・カスタムⅡ》。
「倍に!?そりゃすごいな…ちょっと分けて欲しいくらいだ」
「あはは。あげられたらいいんだけどね。そんなカスタム機だから今量子変換してある装備だけでも二十くらいあるよ」
「マジで分けてくれ」
「…あはは、ごめんね」
真剣な表情の一夏にシャルル君は若干引いていた。
ISの知識があまり豊富ではない一夏だからこその常識に囚われない発想だね。
…ふむ、確かにそういう拡張領域を共有できるようにしたら面白いかもな・・・
『…ふむ、よしガイ、もういいぞ。一旦休憩しよう』
「はあ…はあ…うん…ふう…」
イヅナちゃんから素振り終了の言葉をもらい、息切れする僕は腰を休める前に一夏とシャルル君の下へ走って向かった。
だってさびしかったんだもん!
「お、モモンガーも素振り終わったのか?」
「うん!」
僕は一夏とシャルル君の輪に入れるのがうれしくていつも以上にニコニコと笑っていた。
「おうっ!」
「はぅっ!?」
一夏とシャルル君は顔を赤くして変な声を出す。
ん?熱いのかな?
「ね、ねえ一夏…凱のアレが…さっき言ってた…」
「おう、あれが”プラチナイオンスマイル”だぜ!癒されるだろ?」
「う…うん…同部屋だから、毎日癒されてるよ…」
二人がぼそぼそ話してる。
何を話してるんだろうか?
のけ者にしないで欲しいなあ…
「ところで、凱のその姿・・・ゼクスファクターって、
とか
「え?無いよ?」
「ええ!?じゃあ最強のゼクスファクターの武器ってその刀だけ!?」
シャルル君が驚いてる。
ああ、シャルル君は僕の戦いを見たことないんだっけ?
「いやいや、僕の技はこの尻尾をイロイロ変換して攻撃するんだよー」
「おお、風とか、岩とか、木とかな!」
「木?岩?―――うわっ!?」
僕と一夏の説明にいまいちピンとこないシャルル君のために、僕は一尾を土公拳に変えた。
そして目を白黒させて驚くシャルル君。
「量子変換とかじゃない?…なにこれ…」
岩の拳を恐る恐るツンツン突くシャルル君。
「これは五行説を使って、自然の力を借りてるんだよ」
「外部エネルギーの収束、吸収…そんな無限エネルギーを…」
またなにやらブツブツ呟き考え込みだしたシャルル君。
真面目な子だ。
そして、なんだかんだで一夏がマガジン一つ分撃ち続けた時、アリーナに変化が訪れた。
「ねぇ、あれ…」
「うそ…。ドイツの第三世代型」
「まだ本国でトライアル段階だと聞いているけど…」
急にアリーナ内がざわつきだし、周囲の注目の的になっている存在に僕達は視線を移す。
「………」
そこにはもう一人の転校生であるドイツ代表候補生のラウラさんが漆黒のISを展開してこっちを睨んでいた。
ラウラさんは、転校初日以来誰ともつるもうとしない、どころか会話さえしない孤高の女子。
それでは寂しいだろうと僕が近付き話そうとすると、何故かラウラさんはモジモジしはじめ、会話が成立しない。
で、そういうときに限ってお人好しモードの一夏が僕に近付き、それに対してあからさまに嫌悪するラウラさんはどこかにいってしまう。
こんな感じで僕はラウラさんとは転入初日からまともに会話をしていない。
…さびしい。
「織斑一夏」
「…なんだよ」
ISの
間違いなく転入初日に聞いたラウラさん本人の声だ。
一夏は気乗りしなさそうに応える。
「貴様も専用機持ちだそうだな。ならば話が早い。私と戦え」
「嫌だ。理由がねえよ」
「貴様には無くても私にはある」
うーん…どうしてそこまで一夏を敵視するんだろうか?
一夏には心当たりがあるようで、なんか暗い顔だけど。
「貴様がいなければ教官が大会二連覇の偉業をなしえただろうことは容易に想像できる。だから、私は貴様を―――貴様の存在を認めない」
…大会、ねえ…
あとで差し支えなければ一夏に聞いてみよう。
しかし今はこの険悪な空気を何とかしなければならない。
下手すれば、このすし詰めのようなアリーナで戦闘が始まるかもしれない。
「おーい、ラウラさーん」
僕はラウラさんに手を振ってアピールする!
すると、ビクッと体を硬直させるラウラさん。
「も、百瀬、凱…」
…なんであんなに目が泳ぐのかなあ?
傷つくなあ。
とりあえず離れた場所にいるラウラさんのところに行こう。
僕は一尾で風を解放し風神槍を発動
―――ドキュンッ!!
空気を裂き、弾丸のような音と共に一瞬でラウラさんの横に移動した。
「―――なっ!?」
ラウラさんはびっくりしてる。
ああ、そういえばラウラさんも終極因使の力を知らないんだっけ?
「こんにちはーラウラさん」
「…あ、ああ…こ、こんにちは…」
驚きのあまりまともに声が出ていないラウラさん。
驚かせすぎたかな?
まあ、とにかく、ラウラさんに注意しないと。
「ねえラウラさん。今ここで一夏と戦うのは良くないよ」
そう言うと、ラウラさんはピクッと繭を動かし僕を睨む。
何故だ、貴様も私の邪魔をするのか、とでも言いたそうだ。
「いまこのアリーナは他の生徒でいっぱいだよ。そんな中じゃあ、まともな戦闘にならないし、なにより織斑先生に迷惑がかかるよ」
「そ、それはダメだ」
織斑先生という名前を出した途端あせり始めるラウラさん。
「じゃあ次の機会に、お互い全力が出せる場所でしようねー」
「…そうだな」
ラウラさんは不承不承といった感じだ。
ううん、ここは一つ、褒めて気分をよくさせようかな?
「あー、それにしてもラウラさんのISはかっこいいねー」
「そ、そうか?」
ISを褒められて少し気を良くしたようだ。
よし、畳み掛けるぞ!
「うん、すごく”大きくて”、”雄々しくて”、”黒くて”、”硬そう”だよねー」
ラウラさんのISは黒を基調としていて、漆黒に銀髪のラウラさんにはすごく似合ってる。
それに、左肩に装備された実弾砲がすごく大きいく雄々しい。
さらに、黒というだけで硬そうだ!
「そ、そうか、私のレーゲンは”大きくて”、”雄々しくて”、”黒くて”、”硬そう”か!」
声高らかに胸を張り、僕の言ったことを復唱するラウラさん。
「………」
「………」
ん?
なぜかアリーナにいる生徒達の顔が赤くなっているぞ?
シャルル君も顔が赤い。
一夏は微妙な顔をしていた。
「じゃあ、一夏との戦いは次回ちゃんとした形でっていうことで、ね?」
「…ふ、ふん、よかろう。今日は引いてやる」
気を良くしたラウラさんは、あっさりとゲートへ去っていった。
「………」
ただ、アリーナの空気はずっと微妙な空気だった。